2024.10.10
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植松努氏(以下、植松):みなさん、改めましてこんにちは。今日はこんな素晴らしいエキスポができたことを、本当にすごくうれしく思います。
僕は去年「わくわくエンジン」と出会うことができて、心から大切なものだと思っています。僕自身が今までやってきたことと、とても近いところにあるなと思っていて、わくわくエンジンのことも応援していきたいと思っています。
一人ひとりの力はちっちゃいけれど、集まると大きな力になります。今日のエキスポをきっかけにして、みんながもっともっと力を合わせられるようになっていけばいいなと思います。そのために、僕が今まで考えてきたこと・やってきたことなどを、今からみなさんの時間をちょっといただいて、話を聞いてもらおうと思います。
恐らく、大半の人にとってはもう聞き慣れた話だと思いますけども、後半はちょっと違いますので、楽しみにしていてください(笑)。では今から、お話を始めたいと思います。
「思うは招く」と書いてありますが、タイトルどおりです。これは中学生の時に母さんが教えてくれた言葉で、「思ったらそうなるよ」という意味な気がします。学校の成績がすごく悪かった僕が、「飛行機やロケットの仕事をしたい」と言ったら、母さんは「あんたには無理だわ」とも「がんばればできる」とも言いませんでした。
「“思うは招く”だよ」という、すごく気休め的な言葉を教えてくれました。でもその言葉のおかげで、いろんなことができるようになった気がするので、僕はこの言葉が大好きなんです。
スライドには「ロケット開発を実現させた植松努の原動力とは」と書いてありますが……僕が使わない字面だと思いますけれども(笑)。僕が考えた言葉ではありませんが、きっと「原動力」がすごく大事なんだろうと思っているんです。その「原動力」の話もしていきたいなと思います。
植松:ではまず最初に、自己紹介です。僕は植松努と言います。1966年の8月17日に生まれました。今、北海道の真ん中らへんにある赤平という町で会社を経営していまして、株式会社の社長という立場です。でも、今は社長の僕も、昔はこんな感じです。
みんなが明らかにラジオ体操をしている中、1人だけグラウンドに絵を描いているのが僕です。そばで母さんが寂しそうに見つめています。こんな僕の通知表には、「集団行動ができない」「落ち着きが足りません」「忘れ物が多い」「服がいつも後ろ前」と、いつも書かれました。
でも、そんな残念な僕を大事にしてくれた人がいました。それは大きくて優しい、大好きなじいちゃんです。3歳の時にじいちゃんと一緒に、アポロ宇宙船が月に着陸して、人類が初めて月に行ったテレビを見たんです。でも僕は、テレビの画面なんか覚えちゃいないです。覚えているのは、大好きなじいちゃんが見たことないほど喜んでる笑顔なんです。
「ほら見れ、ほら見れ」「人が月へ行ったぞ、お前も月に行けるようになるぞ」と、大好きなじいちゃんがものすごく喜んでるので、それが僕はうれしかったんです。だから僕は、本屋さんに行ったら飛行機やロケットの本を手に取り、名前を覚えました。そしたらじいちゃんが喜んで、大きい手でなでてくれるんです。それが僕の幸せだったから、それを繰り返したんです。
そしたら知らぬ間に、飛行機やロケットや宇宙が大好きな子どもになってしまいました。でも大好きなじいちゃんは、僕が6歳の時に突然家で倒れてしまったんです。そしてそれっきり、目を覚ましてくれませんでした。
あまりにも突然のお別れだったので、ものすごく悲しかったです。思い出しては泣いていました。でもやっぱり、心のどこかでじいちゃんの笑顔が見たかったんです。だから僕はそのあとも、飛行機・ロケットを好きでいることをやめられなかったんです。
そしたら僕は、ロケットを作れるようになってしまいました。ロケットは(お店では)売っていませんから、なんぼお金があっても、宝くじに当たっても買えません。でも、自分で作るのはありなんです。今では僕たちは、ロケットを丸ごと全部作って打ち上げることができます。
そして僕たちは、ロケットに乗っかる人工衛星も丸ごと作ることができるんです。もう宇宙で動いてしまいました。今年のうちに月に行く新しい探査機の研究なんかも、うちの会社でお手伝いしてるんですよ。あとは、火星探査機の研究もしています。
植松:もう1個、うちの会社には大きなタワーが立っています。このタワーは、宇宙と同じ無重力状態を地上で作り出せる実験装置です。けっこう珍しい実験装置で、ドイツのブレーメン大学とアメリカのNASAと、日本の僕の会社にしかないです。売ってなかったから自分たちで作ったんですが、大変でした。なぜならば、僕たちがやっていたことは、ほかの会社がやらないことだったからです。
残念なことに日本では、(周りと)違うといろんなことを言われるので、いやなことをたくさん言われました。悲しかったです。でもね、考えてみてください。見分けのつかない同じものがいっぱいあったら、比べられて一番安いのが選ばれるだけなんです。でも(他のものと)違うと、「必要だよ」と言われるんです。
だから今では、実験装置が僕の会社にしかないから、日本の宇宙航空研究開発機構・JAXAの人たちが毎月実験に来てくれるんです。おかげで僕は、憧れだった毛利(衛)宇宙飛行士とも、イプシロンロケットの森田(泰弘)先生とも、はやぶさ2の吉川(真)先生とも仲良くなれて、今では日本の宇宙開発のお手伝いができるようになってしまったんです。夢みたいです。奇跡です。
実はね、奇跡を起こすキーワードというのがあるんです。これさえ使えば、みなさんの周りでも奇跡やすごいことがバンバン起きますからね。そのキーワードは、「違うはすてき」です。「違う」に出会った時に、「おかしい」「変」「ダメ」とか言ってる場合じゃないんです。「違う」に出会ったら、とりあえず「すてき!」と言っときゃいいんです。そうしたら奇跡がバンバン起きます。
だから、お願いだからほかの人とちょっと違う自分に向かっても、「すてき!」と言ってほしいんです。それは、必要だから生まれてきた“奇跡のパラメータ”なんです。どこかで誰かが待っているから、自分に向かっても「すてき!」と言ってほしいと思います。
植松:今では僕たちは、ロケットを作れます。僕たちのロケットはとても安全なロケットということで、いろんな大学の研究にも使われています。修学旅行でうちまで来てくれると、とても安全だから目の前でロケットエンジンが燃えるところを見ることができるんです。でも、今でこそ安全な僕らのロケットエンジンも、始めたころはひどかったです。やっと作ったロケットエンジンを試しに動かしてみたら、こんな感じでした。
爆発しかしませんでした。爆発はしてほしくなかったのに、この時だけで27回も爆発をしたんです。なんでこんなに爆発するのか(笑)。それはね、生まれて初めてロケットエンジンを作っちゃったからです。実は、やったことがないことをやると失敗する……ということは、だいたいみなさんご存知ですね。
「実は」ということが、もう1個ありました。人間は1回しか生きることができないから、実は「やったことがないこと」としか出会わないんです。つまり「人間は必ず失敗する」ということですね。
みなさんは今、生まれて初めての1回しかない人生を、ぶっつけ本番で生きてるんですよ。毎日毎日新しい朝や見たことがない季節がやってきて、毎日毎日やったことがないことに出会うんです。だから僕たちは失敗し続けてきたし、これからも失敗し続けるんです。僕も失敗します。なぜならば、失敗はダメじゃないからです。
飛行機の歴史を調べたら、みんな苦労していました。
(映像再生)
今から飛行機が飛びます。落ちてるだけですね。(2つ目の映像)これは飛びたい気持ちがすごく伝わってきますが、飛ばないですね。(3つ目の映像)これはさすがに考えが甘い感じがしますね。
(4つ目の映像)今までのがひどかったぶん、これはすごくまともに見えるけど、ちょっと羽が多い気がします。よっぽど飛びたかったんでしょうね。離陸滑走を始めていったら、折れちゃいました。残念。
これ、コントじゃないからね。昔の人たちが真剣に考えて、真剣に挑んで、真剣に失敗したんです。たくさん笑われて、たくさん馬鹿にされてるんですよ。でもね、こういった人たちが諦めずに投げ出さなかったからこそ、飛行機はとっても便利な道具になりました。誰かが諦めていたら、こいつは生まれてこなかったってことなんです。
植松:失敗は貴重なデータなので、それを乗り越えたら力になるんです。みなさんを強く・優しくして、人類を進化させます。だから、失敗を恐れる必要はありません。乗り越えればいいんです。……と言ってもやっぱり、「失敗したくない」という人がいっぱいいると思います。それはね、「失敗はダメなことだ」と教えられたからです。でも言っとくけど、失敗しなかったら人生台無しだからね。
というか、失敗しないことはすごく簡単なんですよ。失敗しないために一番いいのは、なにもしないことです。次にいいのは、できることだけをやること。同じことを繰り返して、やったことがないことをやらなければ、失敗しないんです。でもね、成長しなくなります。最後の切り札として、言われたとおりにすれば、失敗しても誰かのせいにできます。でもその時は、考える力を失ってしまうんです。
実は失敗を避けると、なにもできなくなって、成長できなくなるし、考えられなくなるんです。これでは、何のために人として生まれてきたかわからないですね。でもね、こうなっちゃってる大人がすごくたくさんいるんですよ。
なにもしないことを「我慢だ、努力だ」と思ってる人が、いっぱいいるんです。でもこんなふうになったら、本当に前に進まなくなってしまってもったいない。だからこそ、こうならないためにも、みんなには失敗を避けないでほしいです。
植松:失敗を避けないためには、失敗に罰を与えてはいけません。罰なんて意味ないからね。
僕は小学校に上がってから、よく忘れ物をして怒られるようになりました。だから(先生から)叩かれるようになりましたが、それでも僕はやっぱり忘れ物をするので、本当にいろんな罰を受けてきたんです。でも、僕の忘れ物は3年間ずっと直らなかったんです。
でも、4年目に先生が替わりました。新しい先生は僕のことをよく見てくれて、「よし、忘れちゃいけないものを表にしてあげるから、朝それをチェックしておいで」と言ってくれました。その紙切れ1枚で、僕は忘れ物をしなくなったんです。3年間怒られて叩かれたことは意味がなくてまったくムダだったので、紙切れ1枚でよかったんです。
大事なことは「罰」ではなく、「どうやったら失敗しなくなるか」「どうやったらできるようになるか」を考えることなので、ぜひ考えてほしいと思います。
一番気をつけてほしいのは、失敗を自分のせいにしてはいけません。優しい人や真面目な人ほど自分に罰を与えます。でも、自分を責めてもなにもなりません。「なんでだろう?」「だったらこうしてみたら?」、たったこれだけで失敗はデータになるんです。せっかくしちゃった失敗なので、ぜひこの二言を使ってみてほしいと思います。
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