2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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ケリー・コリガン氏(以下、ケリー):こんにちは。ケリー・コリガンといいます。作家をしています。現在ポッドキャストにて『Kelly Colligan Wonders』を配信していまして、PBSでは『Tell Me More with Kelly Corrigan』という番組が放送中です。
今日は、対談のゲストにメリンダ・ゲイツをお迎えしています。こんにちは!
メリンダ・ゲイツ氏(以下、メリンダ):こんにちは。お会いできてうれしいです。
ケリー:こちらこそ。
さて、メリンダさんは膨大な時間を旅に費やして、世界中を飛び回っていらっしゃいますよね。でも航空会社のマイレージサービスには入っていないんでしょ?
メリンダ:(笑)。
ケリー:さらに、数多くの支援プログラムに何十億ドルも出資し支援していらっしゃいます。そうして実際に苦労して身につけた専門知識の結実が、著書『ザ・モーメント・オブ・リフト(The Moment of Lift)』なのではないかと私は思っています。
この本は、「ジェンダー平等 (gender equality) がすべてを解決する」が主題となっています。これまでメリンダさんが目にしてきた事柄の証言であり、現状をより速やかに改善したい人のためのガイドでもあると捉えています。
ではまずデータから見ていきましょう。メリンダさん、あなたかなりの数字オタクですよね?
メリンダ:(笑)。
ケリー:ジェンダー平等を実現すると、どうして世界を取り巻く主要な諸問題を解決できるのか、解説していただけますでしょうか。
メリンダ:女性はまず、家族の中心ですよね。どんなコミュニティでも、世界中どこでも同じです。ちゃんとしたデータがあるんですけど、女性に1ドルを持たせると、夫(男性)とは使い道が全然違うんです。家族のため、つまり家族の健康のためとか非常事態時とか、学費にお金を使います。
さらに、女の子が教育を受けると、成人してから自分自身のための多様な決断ができるようになります。社会規範の圧力に流されずに済みますし、経済力も得られます。さらに最近わかってきたのは、女性が労働市場に参加すれば、経済が堅調で活発になり、成長も加速するのです。
こうしたことも含め、女性や女の子に投資するべき理由はたくさんあるんです。
ケリー:女性の豊さと健康状態と、社会のそれは完全な相関関係にあるということですか?
メリンダ:まったくそのとおりです。
ケリー:なるほど。女の子が学校に通えなくなる世界的な理由の一つが、児童婚です。さらに、避妊具の入手手段が無いことが挙げられます。
つい先頃、メリンダさんとはポッドキャストで丸々1時間を使ってたいへん有意義な議論をしたばかりなのですが、今日はわずか25分間しかありません。そこで、今回はメリンダさんの著作をざっとおさらいし、いくつか言葉を引用して、それぞれについてお話をうかがっていこうと思います。
メリンダ:すてき。おもしろそうですね。
ケリー:話の途中でもどんどん入って来てくださいね。
ケリー:では、「人道状況の改善に必要なものは、まず第一に相手の立場に立つことである」という一節からお願いします。
メリンダ:支援する相手、もしくはその人の国の行政やコミュニティと力を併せて、その人とその家族の環境を向上させる(lift up)ために、投資をどこでどのようにやるべきか。それを把握するには、相手の置かれている状況を真に理解して、その立場に立つことが不可欠なのです。
「介入して助けてあげさえすればよい」と考えてしまうことがとても多いのですが、実際は違うんです。相手がどのような人生を送っているかとか、どうしてそういう人生になるのかを、相手の身になって考える必要があるんです。彼女らには彼女らなりの理由がちゃんとあるのです。
もし自分が同じ立場だったら、もし隣に座っているような立場だったらと考えてみるといいんです。実際、女性たちと話す時に私はござに座っていたんですが、その席なりござなりがぐるっと入れ替わって、自分が相手の位置になったとしたらどうだろう。西洋から来た人に、家族の現状を改善する支援をしてもらうには、何を伝えればよいだろうと考えるのです。
ケリー:相手の懐に入って、同じござに座って時間を過ごして初めてわかったことですね。
メリンダ:そうです。だんだんわかってくるんです。まず、そういう小屋で赤ちゃんを産むと義理の母が面倒を見るわけです。義母たちなりの知識があって、胎盤をしっかり出すのが大事だとか、だから赤ちゃんを取り上げたらすぐ別のござに寝かせて、母親から早く引き離さなくてはいけないとか、彼女らなりの考え方があるんですね。でもそうなると、赤ちゃんに初乳をあげることができないんです。
その場に一緒にいて、相手の立場に立ちつつ、観察スキルを使っていくだけで、解決策は5つ出てくるんです。そのやり方も見えてきます。なぜならやり方を取り仕切っているのは義母ですから。
ケリー:なるほど。そういう時は、どうやって味方を作るのか教えてもらえますか。決定的な解決策なり、解決策のヒントなりが見えてきた時に、それを定着させるにはどんな人を引き入れる必要があるのでしょうか。
メリンダ:鋭い質問ですね。女性や女の子は、声を上げたり、正しい選択肢を取ることが許されない権力構造に取り囲まれています。教育を受けていたとしても、正確な情報ではなかったりします。ですから、どのような社会でも、彼女たちを取り囲む権力構造を見極める必要があります。インドではその権力は義母で、義理の娘は義母の「所有物」であることが多いのです。
義母は多くの死を、つまり大勢の赤ちゃんが死ぬのを見てきたわけです。だから、その地域に古くから伝わる「赤ちゃんを死なせないために役立つ」とされる知識を持っている。そういった知識には、実際に役立つものもありますが、間違っているものもあるんです。
だから、私たちが介入して、若い母親に赤ちゃんの健康を維持できるよう教育をするには、同時に義母も教育する必要があるんです。
義母に、育児のやり方を変えても大丈夫だと納得してもらわなければなりません。例えば、ヤギの乳を赤ちゃんにあげる習慣は、止めても問題はない。仮に赤ちゃんが脱水症状を起こしているように見えたとしても、母乳から充分な栄養を摂れるんだとわかってもらう必要があるんです。母乳育児などの新しい授乳方法を許可してもらうために、義母を説得しなくてはなりません。
こういった権力構造は、世界の地域ごとに異なりますから、ちゃんと見極めなくてはいけないんです。さもなければ、女性や女の子のための改善は決して望めません。
ケリー:なるほど。では次の引用に移ります。「能力が同じであれば、与えられる機会も等しくなければならない」。
メリンダ:いつも思うのですが、この問題はいつも逆から考えられていたように思います。
例えば、アメリカの教育システムを例に挙げましょう。どこの郵便番号の地域の子どもであっても、すべての子どもには学ぶ能力はあるし、本人の希望と能力があれば、大学に行くことができますよね。
ただ、そこに違いがあるとすれば、進学のチャンスが均等ではない点です。例えば、理解ある先生に恵まれないかもしれない。「もちろん、あなたは算数を勉強してもよいんですよ。分数だって学べますよ。隣の席の子と同じようにね」って、教壇に立って言ってくれる先生です。
もしくは、家庭の親やおじ、おばが、こんな風には言ってくれないかもしれない。「私たちは誰も大学に行っていないけど、あなたは行くべきだよ。出願をサポートしてくれる人や資料が手に入る場所を探してあげよう」って。
とにもかくにも、チャンスが均等ではないのです。特に低所得層の子どもは、高所得層の子どもにあるこういった機会を得られない場合が多いです。そのため、学習環境や成績に大きな格差が出てしまいます。しかし、低所得層の子どもにも必要なサポートをして、中高所得層の子どもと同じように教育を受ける均等な機会をあげさえすれば、なんら劣ることなく勉強できるんです。
ケリー:でも相関関係にはあるけど因果関係は無い、間違った結論を出してしまうのが私たちの悪い点ですよね。すぐに決めつけてしまいます。
メリンダ:しかも個人ではなくて、コミュニティ全体について決めつけてしまうんですよね。これは架空の話ですが、「ラテン○○民族の人は他に比べて算数ができない」などと言うことがあります。でも彼らはもしかしたら、税制度がうまく機能しないコミュニティから来たのかもしれない。ちゃんとした学校や先生がいなかったからかもしれない。だとしても、実際に学ぶ能力には不足はないのです。
私たちはあるグループの人たちを見て、全体を決めつけてしまいます。でも実際に問題があるのは、税制や政策なんです。その人たちの学校を、私たちが支援したりしなかったりするからなんです。
ケリー:これは、あなたの文章で私がとても興味深いと感じた一節に繋がりますね。謙虚さを深く感じる一節として、印象に残っています。
著作の中盤で、こんな言葉を書かれてますよね。「もし私たちが『内』にいたとしたら」。今のお話の流れでいえば、「理解ある学校で学んでいたら」ということになりますね。
「内側から見ると、外側にいる人に対しては、こんな風に考えがちだ。『私はあのような状況にはない。私は彼らとは“違う”からだ』。それは、『システム全体の深部に組み込まれた不平等があるからだ』と考えるよりも楽だからだ」。
この観点についても話してもらえますか。
メリンダ:私たちは、他者を「他人」とか「アウトサイダー」と呼びます。認めたくないことについては特にそうです。
私は4年前、ケンタッキー州の学校を見に行ったのですが、自分は幸運だったと思いました。一校はあまりよろしくない学校だったのですが、もう一校の公立校では、校長から先生たちがみんなそろって、子どもたちに向かって、大学に行ってもいいんだよというメッセージを伝えていたのです。
そこで自問自答したのです。もし私がこの(よろしくないほうの)学校で学生時代を過ごしていたら、大学に進学しただろうか? 誰かが私に大学に行くべきだと言ってくれただろうか? 運が良ければ親がそう言ってくれたかもしれない。でも、数学や国語、読解での学習を支援して、実力試験(placement test)で大学への進学を考えるほどの好成績を出す手助けをしてくれる先生はいただろうか。
相手の立場に立って考え、「私の身にはぜったい起こらない」などと突き放してはいけません。問題を我が身に振り替えて考え、もしこれが私だったら、私の身に起こったことだったらどのような行動を取るだろうか、どのような状況に陥るだろうかと考えるべきなのです。
相手の身になって考えること、アウトサイダーを創出しないことで初めて、その社会の価値観や規範を見極めることができます。社会全体としてこれまでちゃんと捉えられてこなかった問題で、きちんと認識するべき社会の大きな断絶だったり社会的不平等だったりします。
ケリー:アメリカの私たちが、途上国の人々と大きく異なるのは、6人とか7人とか8人ものきょうだいがあまりいない点です。ほとんどのアメリカ人の親は1人ないし2人で、少人数の子どもに愛とお金を平等に注ぎます。これはつまり、避妊の問題につながります。
メリンダさんはこう書いていますね。「女性を貶めることで、子どもを産むか否かの選択肢とタイミングに関する発言権を奪うのは、よくある手段だ」。さらに「実に腹立たしいのは、避妊に金を出し惜しむ者がその言い訳に倫理を持ち出すことだ」とも書いています。
メリンダ:個人を信頼して、男の子や女の子に自分たちの体について教えること。ここではあえて女の子に自分の体について教えたり、子どもを産む選択肢とタイミングの決定に役立つ道具の知識を教えることとしますが、そうすることで倫理観を一歩前進させ、女の子が自分自身と自分の未来の子どもたちのために、よりよい選択ができるようになると考えられますよね。
権力者によくあるのですが、彼らは相手をばかにして「彼女らにそんな判断ができるわけない」と言います。でも、果たしてそんなことを言う者に正しい判断ができるというのでしょうか。これまでさんざん見てきたのですが、そういった権力者自身が、実は避妊具を使っていて、子どもは2人しかいなかったりします。
だから、私たちは問題を自分たちの身に振り替えて考えなくてはいけません。でも、本題ではない議論がなされがちです。女性や女の子に自分の体について教えれば、理にかなった選択をできるようになるという本質的な議論から逸れて、倫理などをはじめとする脇道の議論ばかりしています。
メリンダ:私は、ある女性からは「私の子どもを引き取ってください。避妊具をもらえなければ、生まれてくる子どもたちには盗みを教えざるを得なくなります」と言われました。
また、ほんの3日前には、避妊具が手に入らないベネズエラの現状が『ニューヨークタイムス』で大きく取り上げられました。
これらの事態が伝えるメッセージは明白です。計画的に家族を作る手段は絶対に必要であり、そうでなければあまりにも危険なのです。負担が大きすぎます。
(注:ベネズエラでは避妊具が高騰し、違法中絶で命を落とす妊婦が増加しているという記事。ニューヨークタイムズ『Venezuelan Women Lose Access to Contraception, and Control of Their Lives』)
ケリー:そのとおりです。低所得国で会った大勢の女性たちはみんな、これは生きるか死ぬかの非常事態だと言っていました。彼女らについては何冊かの著作にも書きました。
5人の子どもを持つ女性は、「このどん底の貧しさを見てください。夫と私は、この土地では生計を立てられません。今いる5人の子どもたちを食べさせるのもやっとです。私にも5人の子どもたちにとっても、もう1人生まれてくるなんて理不尽です。その1人を食べさせるために、今いる5人に負担がのしかかるのですから」と言いました。
さらに彼女はこうも言っていました。「どうして避妊具が手に入らなくなってしまったのだろう。以前は家の窓から見えるすぐ近くの診療所で簡単に買えたのに」。
自分の生活や状況に基づく合理的な選択は、すべての人ができます。だから、誰もが避妊できるようにするべきなのです。
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