2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):作家の人と僕が深いコミュニケーションを取れるのって、作家の人が「作品」というかたちで考えていることをアウトプットしてくれるからであって。そういうものがなくても、相手と深いコミュニケーションが取れるようになりたい。子育ては、コミュニケーションの難しさを感じるねぇ。
安部敏樹氏(以下、安部):そうですね。
佐渡島:子どもとは、言葉でコミュニケーションすることなく「愛おしい」と思うこともある。相手の言葉以外の発信も含めて理解して、「嫌い」って言葉の裏に潜むメッセージも理解しながらコミュニケーションを取っていったりもしますよね。
あと僕の場合、コルクラボというオンラインサロンをやっていて。みんながTwitterやオンラインサロンの掲示板に書き込むものを見て、総合的なコミュニケーションをしている。作家は断片じゃなくて、作品というまとまりでコミュニケーションしてくるんです。だから、こちらが理解しやすい。
サロンのみんなの断片的なコミュニケーションから「この人はこんなことを考えているのかな?」と感じたり、考えたりするようになっていって。例えば、子どもが僕の考えていることをわからなくても「孤独だ」とは別に思わないよね。
安部:うん、なるほどね。
佐渡島:「子どもが僕の気持ちをまったくわかってくれないから、家にいると孤独だ」みたいなことってない。ある種、歳を取るとともに人のことをよく観察する余裕が出てきて。そうなると、「相手と理解し合えることが、孤独を癒すことじゃないな」と思うようになってきたわけ。
安部:これ、すごく同感です。「相手に理解してほしいな」と思うのは、要はエゴじゃないですか。でも、自分に足りないものがあって孤独な時って、やっぱりそれ(理解)を求めるんですよね。
12年とかずっと社会問題の仕事をしている中で、たくさんの人とコミュニケーションしてきたんですが、例えばずっと薬物に依存しちゃっている人とか摂食障害を抱えながら万引きしちゃう人とかって、何か欠けているものを埋めようとして別のものに走ってしまっていると思うんです。
最近だと、陰謀論に陥ってしまう人とかもそうですよね。そういう人たちを見ていると、人間って常に「欠けたものを埋めたい人」と「少し余裕があるから、その人たちに何かを与えられるかもしれない人」に分かれるんじゃないかという気がしていて。
余裕がある人たちが、優しい眼差しで欠けたものを埋めたい人のサポートに入ってあげれば、社会全体が豊かになるんじゃないかなと思っているんです。
しかも、余裕のある人たちも今はそういう状態にあるだけで、どこかで自分も欠けている側に回る可能性があるじゃないですか。
佐渡島さんだって、離婚直後とかは何かがすごく欠けていたと思うんですね。「何かを埋めたい」って思っていたはずで。その時って、今の佐渡島さんほど安定した状態ではなかったと思うんです。勝手な推測ですけど。
佐渡島:そうだと思う。
安部:欠けたものを埋めたい人に対して、スッと手が差し伸べられるような社会をつくりたい。あるいは「手を差し伸べていいんだよ」「そういうふうにしたほうが素敵だよね」っていう価値観が当たり前な社会にしていきたい。それが、リディラバの目指している社会のあり方なんですよね。
佐渡島:今、うちの息子も不登校でさ……。
安部:そうなんですか。
佐渡島:それで、高濱(正伸)さんがやっている花まる学習会グループのプログラムの1つに、自然の中で学べる「森の教室」があって息子が週1で通ってるんだけど、そこの井本(陽久)先生がおもしろいことを言っていて。
安部:高濱さんは花まる学習会の代表の方ですね。リディラバも支援してもらっています。
佐渡島:そこの井本さんが、「不登校の子やうまく社会に接続できていない子に丁寧に接すると、失敗する」って言ってるの。
安部:うわぁ、深ぇ。それ深いな。
佐渡島:丁寧に接すると、「自分は丁寧に接さないとダメな人間なんだ。やっぱり相手に負担をかけるんだ」って思って来なくなるんだって。
安部:おもしろい!
佐渡島:森の教室では不登校の子が来ると、雑というか、誰とも変わらない感じで接するんだって。特別な感じではまったく接さなくて。その代わり、その子に解釈を入れない事実だけをいっぱい言うんだって。
安部:「私がそう思ってるんじゃなくて、事実こうだよね」と。
佐渡島:その事実もね、別に相手を成長させるようなことを言うんじゃなくて、「鉛筆の筆圧強いね」とか。
安部:ははは(笑)。なるほどね。ある種、どうでもいいことですね。
佐渡島:そう。どうでもいいことの事実だけを言うと、「見てもらっている」と思って来られるようになるんだって。
安部:なるほどね。それめっちゃ参考になるな。
佐渡島:「ここにいると見てくれる人がいるんだ」って思うと、今度は見てもらって事実を指摘をしてもらった時に、本人にとって心地いい行動を取るように、ゆるやかに変わっていくって。
安部:今、社会包摂を進めていけるような教育機関を作りたいんですよね。
佐渡島:そうなの! どこで?
安部:いろいろな可能性を見ているのでまだ詳細は出せないんですが、学校を作るのってすごくいいなぁ、やりたいなぁと思ったのは、社会問題を見ていると「これってラベルを貼ってるんだな」と思う瞬間がたくさんあって。
ラベリングって有意義だと思うんですよ。例えば「障害者」というラベルを貼るから障害年金をもらえるし、誰かが手を差し伸べるためには、その人がどういう状態なのか分かるようにラベリングが必要なんです。だけど、例えば80歳で福祉のラベルを貼られた人と15歳で福祉のラベルを貼られた人って、ぜんぜん違うじゃないですか。
佐渡島:そうだね。ぜんぜん違う。
安部:ラベルを貼られる瞬間に、支援の対象になっちゃうんですよね。若い世代はそれにショックを受けることが少なくないんだけど、福祉や支援の対象として扱うんじゃなくて「こういう機会があるけど、がんばってみない?」ってある種普通に扱ったほうが、彼・彼女らにとって価値があるんじゃないかなと思うんです。
体に障害を負ってしまった子どもや、ちょっと刑務所に入っちゃった子どもにラベリングするよりも、普通に扱ってあげられる学校があったほうが、かえってその子たちは社会復帰しやすいんじゃないかなと思っていて。
アンラベリングというか、ラベルを外してフラットに扱ってあげる学校を10代向けに作りたいと思っています。その話にすごく似ているなと思ったんです。さっきの事実の伝え方とか、すごく参考になりそうです。
佐渡島:不登校の子たちやどれだけ問題がある子たちでも、森の教室の説明会に来た瞬間に「私、ここに行く」ってなって。
安部:本能的にわかるんですね。
佐渡島:そう。それで実際に行くと、再生していくらしくて。
安部:すごい。
佐渡島:すごい仕組みだなと思ったのが、まずイベントや会って普通はスタート時間があるでしょ?
安部:確かに。
佐渡島:「今からみんなで遊んでいいよ」とか言うのが一般的。(森の教室は)何も言わないんだって。ダラダラ始まる。
安部:なるほどね。みんなが揃っているか揃っていないかも、あんまり重要じゃないと。
佐渡島:遊びたい人は遊ぶ。だから、欲望が湧いてない限りはやらないんだよね。例えば薪割りをその場でやる人がいた時に、その人が「子どもたちに薪割りを教えたい」って言ったんだって。そしたら普通さ、「ぜひぜひ。ありがとうございます」ってなるよね? でも、薪割りを教える人がいたら、子どもたちも気を遣って“教えられに行く”んだよね。
安部:子どもは空気読むのがうまいですからね。僕、地元で小学生のソフトボールチームの監督をしているんですけど、僕がバット持ったら、みんなバット持って素振りしようとしますよ。「空気読みすぎ」と思って。
佐渡島:そうそう。だから、大人に教えることを禁止するわけ。子どもがやりたくなるように、楽しく薪を割ることはやっていいですよ、って。
安部:「お前に教えてやるよ」じゃなくて、「僕は楽しく薪割りしてるけど、乗っかってきたいならいいぜ?」というスタンスでいるってことですね。
佐渡島:そう。子どもが「教えてください」って言うまで、教えちゃいけない。そういうスタンスで子どもと接することができるかどうかがすごく重要だっていう話をしていて。学校教育って、教えようとしちゃう。今はいろんな人が学校を作ろうと挑戦しているけど、教える場所を作ろうとしていて、教えない場所を作ろうとしている人はほとんどいない。
安部:いろんなタイプの学校がありますよね。
佐渡島:すごくケアして、かまって、そして最高の教材がある状態を作ろうとするところが多い。
安部:まぁそうなりますよね。
佐渡島:でも(森の教室は)全部、欲望が湧く状態を作る。子どもたちの欲望がどんどんどんどん湧くようにして、その欲望を邪魔しないことを徹底している。
安部:それってある意味、主体性をどう喚起させるのかという話だなと思っていて。主体性の喚起って、たぶん次の100年くらいで最も大事な話だと思うんですね。今の世の中の一番の格差って、所得の格差とかそういうものじゃなくて、僕は意欲の格差だと思っているんです。
教育のなかで主体性を大事にされてきたとか、「自分が主体的であれば何かを変えられるかもしれない」という実感を持ってきた人たちは、大人になってもずっと楽しそうにしていられる。
そうじゃない人は、ひたすら楽しくもない人生を、言われた通りに生きてる状態になっちゃうことが少なくない。
そういった時に、森の教室の取り組みは「どうやって多くの人がずっと主体的でいられるのか」という問いにも切り替えられるかなと思っていて。
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