2024.10.10
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――これからは、オンラインで初対面の人とコミュニケーションを取る機会も増えてくると思いますが、ネットの学校でどう友達を作っているのか、コミュニティが生まれているのかを教えてください。
上木原:実はN高は設立当初から、友達づくりにすごく力を入れているんです。余談なんですが、今回コロナの騒動でも、全国の子どもたちは「学ぶ」ことについては、無償のツールもいろいろ出たので、自分でそうしたものを使って「やれるな」という感触を持ったと思うんですよ。
でも、「がんばる」ということについては、生徒たちは「相当難しいな」と感じたと思うんです。自分の家で孤独に勉強するときに、どうやったらがんばれるのかというと、先生からの励ましや、友達と一緒にがんばっているというコミュニティも大切な要素だと思います。
やっぱり「学校はコミュニティをつくるためにある」というのは、今回のコロナによってさらに明らかになったと思っています。もともとコミュニティが大事だなとは思っていましたけど、今回の状況を見て、オンラインでもそこにコミュニティがあることで、生徒たちの生活の張りはぜんぜん違ってくると感じています。
オンラインの友達づくりでは、まずはSlackを中心にやっている感じです。例えば部活もたくさんありまして、今は美術部が一番多いんですけど、6月1日現在で部員数が750人なんですよ(笑)。
それぐらいになってくるとやっぱり、分科会みたいなものが自然発生的にできるんですね。750人のコミュニティって、なかなか成立しないので。
美術部では、プロの先生が顧問として2週間に1回、添削指導をしてくれるんです。生徒が描いたイラストを「この部分をこうしたほうがいいよ」とか。
教員は部活の中での定例会のファシリテートをしたり、悩んでる生徒たちのアドバイザーをしたり、教えるというよりは、寄り添う存在としている感じですね。
上木原:友達づくりでいうと、……これはSlackの画面なんですけど、見えますか(チャンネル上にたくさんのイラストが投稿されている画面)。ちょうどこういうかたちで、イラストを描いてくれたりしてるんです。みんなで「すごい」のボタンを押したりするんですよね。
――ビジネスのSlackと違って、にぎやかですね(笑)。
上木原:そうなんです。それで「いいね」がつけると、BOTが「すごーい! 100回目のいいねだよ! おめでとー!」とコメントをくれたりするという。
そういうものを仕込んだりして、イラストやコメントを上げるのがうれしくなるようにしてるんですね。それで、例えば「ツイステのジャミルくん(ゲームアプリ『ツイステッドワンダーランド』の登場人物)を描いてみました」とコメントしたときに、思い切って返信を書いてくれる子がいるんですよね。
「●●さん初めまして! コメント失礼いたします。色遣いと絵柄、光の入り方がとても感動しました!」とか。そうすると「はじめまして!」と返信が来て、「こういうところもかわいいです」という感じで会話が始まって、おそらくこの子たちは友達になるんですよ。
だから、N高のSlackの中で、趣味を通じて集まったり、たくさんの出会いが生まれているんです。そうやって、まずオンライン上で友達ができるんですけど、N高はリアルの活動もたくさんあるんですね。
上木原:今はコロナの影響でちょっと止めていますけど、オフラインでの新入生オリエンテーションや進路ガイダンス、ニコニコ超会議の文化祭とか。そういうリアルの場で、オンラインでできた友達と出会うんです。
高校2年生になると、みんな沖縄本校にスクーリングに行ってもらうんですけど、那覇空港での様子を見ていると、「やっと会えた!」みたいな感じで、抱き合ってる子がいるんですよ(笑)。
あとは自分の趣味をつぶやいたり、発信するチャンネルを「times」と呼んでいます。「times宣伝チャンネル」というのがあるんですね。Slack内のTwitterみたいなものだと思ってもらえたらいいんですけど。
「写真が好きです。よかったらのぞきに来てね」と書いておいて、timesを見に行くと、ここにもう20人ぐらい集まってるわけですね。フォロワーがいるんです。そこで絵を描けば、みんな「絵うまい」「かわいい」と書いてくれて、そこでコミュニティが生まれて、「じゃあちょっと通話でもしよう」という感じで、通話が始まったり。
こういうコミュニティをつくることについては、教職員が「times宣伝チャンネルをつくりました!」という感じで、ホストとして推進していきます。ネットとリアルをうまく融合させながら、友達づくりを活性化させることに取り組んでいます。
――普通の学校では、先生がすごくいろんな業務をされていますけれども、N高の場合はファシリテートに徹することで、ここまでフォローできるんですね。生徒たちは、オンラインでも青春を満喫できているんでしょうか?
上木原:当然、全員が全員できているわけじゃないので、大見得切って「できます!」と言うには、まだまだ我々も努力がいるなと思っているんですけれど。
1期生の卒業式で、答辞を読んでくれたある女の子がいたんですね。その子は入学式でも新入生代表として挨拶をしてくれたんですけど、卒業式では、1年生からの自分の想いを語ってくれたんです。その一節で「入学したときには、青春なんてくそくらえ、友情なんて馬鹿げてると思ってました」と、はっきり言ってたんですよね(笑)。
上木原:私もドキッとしたんですけど。彼女は音楽がすごく得意で、N高でオンラインでバンドを組んで、キーボードをやっていたんです。そこで出会った仲間が宝物のような存在になって、リアルで会ったり、オンラインでも通話したりしながら……といろいろ話した上で、最終的には「青春も友情も案外悪くないじゃん、と恥ずかしながら思っております」と言っていて(笑)。この「恥ずかしながら思っております」って言葉、すごくかわいいなと思って(笑)。
――そうですね(笑)。
上木原:「世界でも地元でもネットでも、生きている人の数だけ輝く世界があっていい」というのが彼女の最後の言葉で、私はその答辞にものすごく感動したんです。開校初年度は、N高に対してどちらかというと批判的な面もあった中で、1期生としてすごくがんばってくれた彼女たちが、自ら世界を広げてくれたこと。
そして、青春も自分たちでつくり上げたということがあって。それを設計していく努力は私たち側もまだまだ足りないと思っていますけれども、自分たちでつかみ取ろうとしてくれているな、ということはありますね。
もう1つエピソードがありまして。コカ・コーラさんがスポンサードしている「STAGE:0」という全国の高校生対象のeスポーツ大会があるんですよ。
この大会のLoL(League of Legends)というゲームで、N高から優勝チームが出たんです。メンバーはオンラインで初めて出会って、オンラインで練習をしてきたんです。その前の冬の全国高校eスポーツ選手権は3位で、負けちゃったんですよね。それで「今度は勝ちたい」というので、半年後の大会で見事優勝したんですよ。
そのときにリーダーの生徒が「ふだんは通信制なので、みんなで青春する機会があまりなかった。こういう経験ができて本当によかった」ということを言っていて。勝ったときに「青春できた」という言葉が最初に出てきたんですよね。
「どんな気持ちですか?」と訊かれたときに、最初に「青春できた」という言葉が出てくることって、あんまりないと思うんですよね。取り上げられた記事の見出しにも「青春できた」と書かれていました。
上木原:こういうふうにオンラインで青春をつかんで、自分たちでコミュニティをつくりだした子どもたちがいるのも事実ということですね。
――友達をつくるときに、うまくいくかどうかをわけるものはなんでしょうか? リアルでもそうですけど、自分から発信していくことでしょうか。
上木原:それは本当にそうだと思うんですが、何もないところで発信するのは難しいと思うんですよ。だから、趣味の合うところに自分から飛び込んでいく勇気とか。
timesはそこのフォローがうまくできているなと思っているんですけど、もともとエンジニアなどは、timesでつぶやくと誰かが助けてくれるような文化があるらしいんですね。
「助けて!」って大きなチャンネルに書くほどでもないけど、独り言のようにつぶやくのは、わりとハードルが低いと思うんですよ。自分のチャンネルで、自分の思っていることを言うだけなので。だから、そういうところで「趣味が合います」と飛び込んでもらえるように、今なんとか設計をしている感じですね。
あとは、オフラインイベントどううまく組み合わせるかということかなと思います。やっぱりオフラインの関係が変わると、オンラインでの関係も変わるし、当然その反対もあると思うので。
上木原:残念ながら今回はコロナで飛んでしまったんですが、本当は今年の春から、入学式に全国各地でオフラインイベントをやろうと企画していたんですよ。みんなでネットで入学式を見るんですけど、そのあとにみんなでオフラインでちょっと交流したり。
子どもたちは、本当に友達やコミュニティを求めているなと思います。ゴールデンウィーク前に全校の通学コース生に向けて、Zoomで私が「コロナの自粛が明けて外に行けるとしたらどこに行きたいですか」というメッセージを出したとき、みんなが「カラオケ」とか書くかなと思ったら、「学校に行きたい」と書いた子がほとんどで。
通学コースは「ネットの学校にリアルに通いたい」というものなので、やっぱり、友達などのリアルコミュニティを求める子たちが多いと思うんですけど「学校に行きたい」という声が圧倒的に多かったのを見ると、久しぶりに友達と会いたいということなんじゃないかなと。
――全体で通学コースを選んでいる生徒さんはどのくらいいらっしゃるんですか?
上木原:今15,000の生徒数のうち、2,800人ぐらいが通学して学びたいという子たちです。スクールが物理的に通える場所にあるかどうかも大きいとは思うので。
――オンラインとオフラインのどちらがいいのかも、自分に合ったかたちで選べるのはおもしろいですよね。
上木原:そうなんです。「オンラインがいい」とか「オフラインがいい」、「オンラインのほうが先進的な学習だ」ということではないと思います。
基本的に、オフラインの中で培ってきた今の日本の教育はすごくよくできています。それゆえに、なかなか踏み込めない領域があったりすると思うんですけど、二元論ではなく、「オンラインが向いている」という子と、「オフラインが好きだ」という子と、それを半々いいところ取りしたいという子と、やっぱりいろいろいると思うんですよ。
学習者である生徒自身が、どういう環境が自分に向いているか、どういうふうに学びたいかは、高校生ぐらいになるとたぶん性格なども自覚してはっきりしてくると思うんですね。なので、本人に合った学習方法を選択できる状況にあることがいいのかな、と思っています。
今回のコロナのように、次にどうなるかわからないようなことが起こったときは、選択肢が多いほうがいいに決まっていると思うんですよね。だから、N高は本当に旧来の学び方を否定するものではまったくなくて。
「こういう学び方もありますよね」と新しい選択肢を提示して、「自分に合っているな」と思ってくれる子がいたら、すごくうれしいなという感じですね。一つは、そういうふうに学習者の状況によって使い分けられることがいいと思っています。
もう一つは、オフラインの授業の中でもオンラインのエッセンスを取り入れることで、深い学びができること。だからオンライン・オフラインの選択肢と、その融合によって新しい学び方ができるという、この二つがまず大前提としてあるかなと思います。
――N高で生き生きと過ごしている生徒さんは、例えばどんな方なんでしょうか?
上木原:N高が通信制高校の仕組みを使って学習を効率化することで、自分がやりたいことに打ち込める時間をたくさん作ろうとしていますね。N高は、その部分をプロに学ぶためのフォローをいろいろとしていきますよ、というコンセプトなので。自分のやりたいことを見つけて、それを極めようとしている子は、やっぱり生き生きとしています。
新入生ガイダンスで、(元文部科学大臣補佐官の)鈴木寛先生が言ってくださった言葉がすごくおもしろかったんです。「高校時代って本当になんでも吸収できる時代だから、ぜひ沼にはまってください」と。ずっと「沼る」と言っていたんですけど、「沼ることができれば、それはなんでもいいんです」と。一番吸収力が高い時代だから。
周りにつまらないことだと思われるかもしれないけれども、高校時代に何か夢中になる経験があること。それで、「こういう好きなものだったら、自分は誰にも負けない」というものを持つこと自体が、今後の社会で生き抜くにはとても重要ですよ、というお話をされていて。そのとおりだなと思いますね。
上木原:N高生が素晴らしいなと思うのは、他人が好きなものを否定する子がいないことなんですよ。通学コースもすごく個性的な子が多いですけれど、それを批判する子もほとんどいないというのは、本当にそう思っています。
私も長く教育現場にいた中で、人って自分と一緒だとうれしいけど、自分と違ったらちょっと敬遠する、批判するという場面を見たことが多くありました。でも、彼らは「人と違うところこそがおもしろい」と思っている子がすごく多いなと思います。
そのへんの発想はやっぱり、今後の社会での強みになるんじゃないかなと。色んなメンバーとやっていけることが、チームワークでも絶対に重要だなと思うので。
――それはN高で磨かれたのか、もしくはもともと多様性に理解のある人が多いんでしょうか。
上木原:見ていると、もともとけっこう多い感じがしますね。それに、周りが批判的なことを言わない空気なので、人と違うことに違和感がなくなっていくんじゃないですかね。個性的な子が多いがゆえに、いちいちツッコんでたらキリがないというのもあるんですけどね(笑)。
どちらかというと、一斉授業も含めて「いい意味でみんな一緒」ということが日本の教育の良さというか。「みんな一緒、だからがんばる」という文化があると思うんですけど。
今はむしろ「みんな一緒」ではなくても、「新しい学び方で自分の好きなものを極めていくのもアリなんじゃないの」と思って飛び込んできてくれる子がいるので、そういう文化が生まれているのかなと思います。
――学校の勉強以外でも、いろいろな自分の個性を出す場があって、それが認められてどんどん沼にはまれる環境があるということですね。
上木原:そうですね。timesなどで沼ってることを発表するほかに、その最高峰として「NED」というイベントがあるんですよ。なんでもいいから、とにかく自分のハマっていることをプレゼンするというイベントなんですよ。それは別にすごくなくてもいいんです。
――すごくなくてもいい(笑)。
上木原:すごくなくてもいいけど、自分が今夢中になっていることを大舞台で発表する経験をしてほしい。それはちっとも恥ずべきことじゃないというか、むしろ誇りに思うべきなんだという場です。それも学校が発しているメッセージの1つなのかなと思いますね。テーマも本当に何も決まっていないので。
――N高で育った方が社会人になるときに、今ビジネスの場でも必要とされているスキルやマインドが養われていくような気がしました。
上木原:そうですね。今後社会がどんどん変わっていくんだろうなというのは、今回のコロナでとくに感じました。テレワークが取りざたされるほど、いわゆる「時間で仕事をする」という概念がなくなっていくなと思っています。
「この時間の中でどんな成果を上げたんですか」というアウトプットを出せないと、仕事とは認められなくなっていく。そういうことで言うと、教育側も時間主義ではなくて、「どういう成長を遂げられたか」ということがクローズアップされる時代になるんだろうなと思います。
上木原:今回のコロナで突きつけられたことが2つあると思っています。1つは、新学習指導要領にも出てくる、いわゆる「主体的な学び」を、我々がちゃんと提供できてきたかどうかを、すごく試されたなと思っているんです。
つまり「自分でスイッチを入れて学習を始めること」を余儀なくされたんですよね。それはテレワークの大人も一緒なんですけど。「横にベッドがあってもがんばれる」というか(笑)。
本当に主体的に好きなことだったら、がんばるというよりも、やりたくなってやるんですよね。仕事もやっぱりそういうことを選んでいく時代になるんだろうなと。みんなが嫌がる仕事は、機械やAIがやってくれるようになるだろうし。
そういう意味でいうと、自分でスイッチを入れて好きなものを学び続ける気持ちも含めて、主体的な学びができるかどうかが、1つ試されたなということ。
もう1つは、生徒たちがちょっと気持ちが萎えたり、「がんばらなきゃな」と思ったときに、「あのとき先生がああ言ってくれたから、がんばろうと思えた」という存在に、教員がなれたかどうか。
教えるという仕事は、どんどんネットに置き換えられていくので、むしろそういう生徒の琴線に触れる、モチベーションを高めるような存在になれたかどうか。そういう意味で、教員側も試された期間だったとすごく感じています。きっと、今後はそれが社会における上長の役割のようになっていくんでしょうね。
――テレワークでマイクロマネジメントをする中間管理職がいらなくなり、マネージャーはメンバーのコーチングをするようになるという話も聞きます。N高の先生方は、まさにそのコーチングをやられている感じですね。
上木原:そうですね。私たちがN高で育った子たちを見ていて「すごいな」と思うのは、学校に行って授業を聞くより、自分の部屋で一人でスイッチを入れてレポートを書くのは、むしろしんどいことだと思うんですよ。
それをN高生ががんばってやってくれていることは、すごく感謝すべきだし、彼らはすごいと思うんです。自分で自分にスイッチを入れる力は、実際に社会に出てから、今後より求められるので。我々も、生徒がそういう力をつけられるような仕組みをどんどん作っていかないといけないなとは思っていますね。
――なるほど、よく分かりました。お話ありがとうございました。
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