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コロナ後の社会と教育の可能性 苫野一徳 (教育哲学者)X 尾原 和啓(フューチャリスト)(全5記事)

誰もが「知の高速道路」に乗れる時代 尾原和啓氏が語る、学びと自由を拡張する方法

世界的なコロナ危機によってもたらされる新たな日常 (New Normal) を生きるうえで、一人ひとりが当事者意識を持ち、多面的な視点を得ながらアイデア・作品・ソリューションを生み出していくことを目指し、一般社団法人 Learn by Creationがオンラインイベントを開催しました。本イベントは、「ポストコロナ時代の社会と教育の可能性」と題して、教育哲学者の苫野一徳氏と、テクノロジーの造詣が深いフューチャリストの尾原和啓氏が登壇。本パートでは、尾原氏がテクノロジーを駆使して働き方や学び方を変え、自由を手に入れる方法について語りました。

10~20年分の変化が起きているタイミング

尾原和啓氏:どうもよろしくお願いいたします。尾原でございます。僕は苫野先生と話したいことがいっぱいあって、メモを取りまくっているんで、時間は短く10分ぐらいでお話しさせていただけたらなと思います。

僕は尾原と申しまして、自分のことはリゾートワーカーとかプロフェッショナルコネクターと呼んで話をしています。これがなぜ今日コロナの時代における教育につながるのかは後半に入ってくるので、ちょっとお話を聞いていただけたらなと思いますけれども。

インターネットって、先ほど言われた自由ですね。僕にとっての自由って何かと言うと、自らを所以とするという意味で。自らを所以とした、人間らしさというものを引き出してより自分らしくなるものだと信じて、ずっとインターネットの良さを言語化したり引き出したりしてきました。

特にこのリモート生活が強制されていく中で、本当は10年ぐらいかけてやる変化、20年ぐらいかけてやる変化が、ぎゅっと凝縮していっている。そういうふうに、僕はあえてポジティブに捉え直して考えています。

じゃあ、僕がどういうことをやっていて、それが教育に関して、今のコロナは何を加速させているのかという話を簡単にまとめていきますと。

もともと僕は13職目で今回42プロジェクトをしているというプロジェクトワーカーで、(今まではドコモの)iモードの立ち上げをさせていただいたり。みなさん絵文字を使っていただいている方、好きな絵文字を書いていただけたら。

リクルートで、まさに人生の選択肢を増やすというプラットフォームに携わらせていただいたり、Googleで日本のスマホ黎明期にモバイルをやらせていただいだりしました。今やスマホの普及で誰もが世界で、今30億人の方が、気軽にスマホでYouTubeの教育動画を見ることができる。

気軽にチャットで先生や遠く離れた人と会話できるプラットフォームをずっと作ってきた人間です。そういった関係があって、いろんなプロジェクトに個人的に参加していて。

今日のLearn by Creationに関しても立ち上げスタッフとして参加させていただいたり。(竹村)詠美さんとは、社会起業家を支援するアンリーズナブル・ラボというところでご一緒させていただいたりしています。

コロナ以前からバーチャルな働き方を実践

主に今は、5年前に楽天の執行役員を離れてから、バリ島とシンガポールにベースを移しながら、IT系に関するわかりやすい本を書いたり、今の若者の心理がどうなっているかということを書かせていただいています。

アフターコロナという言葉が流行る1年ぐらい前に、アフターデジタルという、もはやオフラインなんか存在しないで、全体がオンラインに包まれている社会が、実際に中国やエストニアなどのいろんな国で起こっていて。

そういったもので起きた変化を日本でどう捉え直せばいいかということを書いた本をサブ著者として出版させていただいて。いろんなオンラインコミュニティでそうしたお話をさせていただいたりしています。

今日の本論に入る教育と僕はなんの関係があるのか。このコロナ時代となんの関係があるのかというと、僕自身はここ5年ぐらいバーチャルな働き方をしているんですね。

さっき写真に出たんですけど、この奇妙なロボットは、5年前にベースをバリとシンガポールに移した後も、僕はこの六本木ヒルズで執行役員として、このロボットで働いていました。メンバーをロボごしに(見ながら)仕事をしていて。

じゃあ、僕のリアルの体はどこにいるんだというと、六本木ヒルズから離れること6時間半、飛行機でビューンと南に飛びまして、赤道、やや越えたあたりのバリ。こちらにおりまして。

ここから教育に近い話になっていくんですけど。うちの娘はバリ島にあるグリーンスクールという学校に通わせていただいておりました。今やモバイルの4Gが世界中のどこでも安く使えるようになってきているので、学校でボランティアをしながら、校庭からテレビのコメンテーターをさせていただいたりして。

それが終わればバリの森林に向けて空中ブランコで遊んだり、自分のバリのヴィラにあるプールでこうリラックスしながら仕事をする。こういう生活をさせていただいているんですね。

テクノロジーを活用すればもっと自由に生きられる

じゃあ、こういうことが教育や我々の生活にどう関係するのかというと、これはぜひチャットに書いていただければなんですけど、先ほど(スライドの写真に)出た、プライベートプールが付いて2ベッドルームで5部屋ぐらいの週3回掃除してくれるバリ島の家賃って、いくらだと思いますか? 

ちょっと時間がないので巻きで行くと、月10万円なんですね。「こんな自由な暮らしをしやがって」と言われるかもしれないんですけど、実は10万円あればプライベートプールのある暮らしができるし、ましてや今LCCが、今コロナで大変つらい思いをしてはいますけれども、平常時であれば往復3万円あれば東京とバリは往復できます。

そうすれば月1回東京に行ったりしても、15万ぐらいあれば十分な暮らしができるということになっています。つまり何かと言うと、実はコロナの前から自由な学びや働き方は、やはり働く場所に住む場所が縛られ、住む場所に学ぶ場所が縛られ、というふうに、働く・住む・学ぶが密接に関わり合っていた。

そして、学ぶ場所が小学校で固定されると、お父さんお母さんが子どもに引っ越しをさせたくないから、働く場所が変えられないという相互依存関係にあったんですね。

でも、僕がやっている暮らしのように、テクノロジーがあれば、バリ島にいながら六本木ヒルズで働くこともできるし、うちの子はバリ島で自由に暮らしながらも、東京の友達とコミュニケーションを取り続けることができる。つまり、テクノロジーというものがもともと離れたものをつなぐから、やっぱり自由に生きられるようになるということが、すごく大事なんですよね。

尾原氏がバリ島への居住を選んだ理由

じゃあなぜバリ島を選んだかというと、僕は子どもをこのグリーンスクールという学校で学ばせたくて、バリ島とシンガポールをベースにした生活へ切り替えました。このグリーンスクールは、TEDに創業者であるジョン・ハーディーのビジョンを描いた動画があるので、ぜひ見ていただきたいと思うんですけれども。

これはドローンで撮った写真ですけれども、ウブドから車で30分ぐらい行った場所で、真ん中にある太陽光パネルと、右側の川の水力発電で電力がまかなわれる完全なサーキュレーション・エコノミーな場所になっていて。

壁のない教室の中で、全世界約40カ国から約400名の生徒が、幼稚園から高校生まで集まって、さっき(苫野さんが)言った自由の相互承認ですよね。まったく違う立場の人たちが学びあっている。

「これって、バリ島みたいなリゾートアイランドだからできる環境なんでしょ」って言われるかもしれないけど、実はそうではないんですね。リゾートアイランド以外でもこういった教育ができるかと言うと、10年前に起こったインターネットの教育革命なんですね。

今日見ている方には釈迦に説法になるかもしれないんですけれども、カーン・アカデミーというものがあって、このTEDが本当に素晴らしいので、ぜひ見ていただきたいんですけれども。

結局彼は、「今の学校でやっている教育ほど非人間的なものはない。僕はテクノロジーの力によって教育を人間っぽくしたいんだ、ヒューマライズしたいんだ」と言ったんですね。

今、実は僕もみなさんにすごく非人間的なことをしています。それはなぜかと言うと、僕がしゃべっているのを7分近くみなさんは聞いているだけなんですよね。

もしサルマン・カーンの話を知っている人で、YouTubeのライブじゃなくて録画だったら、今みんな10秒のスキップをパンパンパンパンと繰り返せば自分の貴重な時間をとられなくて済むし。

「え、ちょっと待って。サルマン・カーンって何? もっと詳しく聞きたい」という人は一時停止してサルマン・カーンのTEDを見てから、また僕のところに戻ってくればいいわけですね。

先生や教材のあり方も変わっていくべき

つまり学校での教育ではスキップボタンもバックボタンもないわけですよ。そうすると、やっぱり「他の生徒の邪魔をしちゃいけないから、私はわからないけれども手を挙げちゃダメかな」と思ったり。

何しろわかりきっていることだけど、他のことをすると怒られるからなんとなくぼーっとしなきゃいけなかったりというふうに、人間を非人間的にしてしまっている。昔のオールドテクノロジーの教育なんですよね。

それに対してサルマン・カーンは、だったらもう学ぶだけ、覚えるだけのものであれば、家でYouTubeでやって、それはわかっている人間がバンバン先に進めるし、わからない人は何度でも何度でも聞き返すことで、まず学ぶという基礎を作る。

じゃあ学校はなんのためにあるのかと言うと、そのYouTubeで見た授業のわからないところを先生が順番に回って教えてあげるのもいいし、もっと大事なことはインターネットによって「この授業で誰がめちゃめちゃ学びが速くて誰が遅いか」というものが、スコアで可視化できるので。

先生の役割は、わからない人に「○○ちゃん、ここの部分はてこずってるね。でも、ここはあっちのリッキーが得意だから、ちょっと聞いてみるといいよ」と背中を押すことだったり。

ないしはリッキーがこの部分がすごく得意だったら、「あっちのジェニファーが、この部分でちょっとてこずってるみたいだから、教えてあげるといいよ」というふうに背中を押すことが先生の役割に変わるようになっているんですね。

そういうかたちであれば、一番いい教育ビデオはすでにYouTubeの中に山のように転がっているし、人工知能を使ってわからないところまでステップバックしてくれる教育のラーニングシステムも、これまたインターネットの中に山のように転がっている。じゃあその中で育めばいいと。

なんの問題を解決したいのか?

でも「教育の中で一番育まなきゃいけないことは何か?」という話なんですよね。実は僕も最近『Deep Tech』という本を共著させていただいたんですけど、一番僕が大事にしていることは、「なんの問題を解決したいのか」ということです。

ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」

自分の自由を縛っているものを解決するため、自分の自由を広げるために、みんなと手を取り合って解決したいことはなんなのかを考えていくことが大事で。

今、東南アジアがすごいんですよ。今みたいなカーン・アカデミーができて、もう7年です。スタンフォードやハーバードがオンライン大学を始めてもう10年です。

GitHubと呼ばれるプログラマーの人たちが自分の作ったコードをアップロードして世界中の人たちから指摘がもらえるというものができてから10年です。

実際にコロナの情報サイトで、東京都で今日の感染者が何人かというものも、実は GitHubにソースコードが出ているおかげで、全都道府県にいろんなかたちで有志の方がコロナの情報を提供している。

学びが無料ででき、自分が思った社会課題について、ほんの少し解決の提案をすれば、他の人たちが一緒になって解決を進めてくれるオープンイノベーションができてから10年なんですよね。

これができてから、日本は残念ながら英語の壁や自発的な壁みたいなところで2周遅れになっていたのが、コロナでものすごく加速しているんです。

東南アジアでは20代の学生起業家が次々に誕生

実際に東南アジアの中ではこういったことが起こってもう10年経っているので、もう今20歳とかの学生の起業家・社会起業家がすごいことになってきているんです。

例えば22歳の女性の社会実業家の社長がいます。マレーシアでは今でもパームオイルにGDPを依存しているんですね。このパームオイルはヤシ殻を絞って出すオイルなので、この搾りかすがすごく海を汚すという問題があって。

インドネシアは世界でも有数の海を汚す国になっちゃってるんですけど、彼女は化学を利用して、この搾りかすを溶かしてしまう、ある発酵体を発明したんですね。

ただ彼女はこの搾りかすを溶かすだけじゃなくて、これは栄養素が中に入っていますから、タンパク質を取り出すことによって鳥の餌にすると。そうすると、インドネシアとかマレーシアってイスラムの方が多くて、鶏の一大消費国なので、あと10年で鶏肉の消費が2倍になると言われているんです。

そうすることによって、このパームオイルの絞りカスという海洋廃棄物を減らしながら、健全なオーガニックな鳥の餌が作れる。わずか21~22歳くらいの子たちで、二重の課題を解決できるものが作れるようになってきている。

それはなぜかと言うと、インターネットのおかげで世界最高の授業を学べて、自分たちの疑問があったら論文をサブミットすればいろんな人からインプットがもらえるという、知の高速道路ができあがっているからですよね。

子どもたちのために塩と水で電灯を作った女性教師

それはある程度進んだ国だけではなくて、例えば新興国ではガスランタンの価格が高いので、子どもたちが夜は勉強できない。そういう問題に対して、小学校で習うような電解質を応用して、小さじ2杯の塩とコップ1杯の水で電灯を作る社会企業を作った女性教師の方がいて。

これはものすごいねということで、バラク・オバマと元アリババのジャック・マーとの中のパネリストとして、「彼女みたいな人がどんどん出てくるべきだね」という話が広がったりしているんですね。

それはインクルーシブにしていくこともできて、例えばこれは実際に目の見えない方が増えているんです。この目の見えない方は、教育においてどうしてもディスアドバンテージを負ってしまう。

今も点字読み取り機というものがあるんですけれども、やっぱり高いし重いから、万人は使えないんです。でも今さっき僕がGoogleでやったように、もう世界で46万人の方がスマホを使えています。

だったら、スマホのカメラにアタッチメントを着けることで、スマホのカメラから文字を読み取って、その文字に合わせた点字を指に着ける。ちょっとしたパーツで点字を表示させるようにすると、わずか5000円から1万円ぐらいのアタッチメントで、誰もがすべての本を点字として読める世界が作れると。

これは実際に盲人の方がチーフマーケティングオフィサーをやられていて。CEOの方はお父さんが盲人学校の校長先生ということもあって。

探求と協働は、バーチャルの中でも自然発生する

やはり自分が解決したい社会課題があれば、今は知識はインターネットの中で無料で山のように転がっていて、しかもそれで何か解決したいと思えば、周りが「解決したい」と言う人にいろいろ協力するよというコラボレーションが生まれてきていて。

「解決したい社会課題はなんなんだ」「増やしたい自由はなんなんだ」という欲望をどれだけ育てていくかということと、それに合わせて無料教育革命への橋渡しをしてあげること。オープンイノベーションに橋渡しをしてあげることが、やはり今起こっているすごくおもしろいことだったりするんですよね。

これは別に、深刻な社会課題じゃなくてもいいんです。今や探求と協働がインターネットの中にあふれています。コロナの時代じゃなくてもバーチャルの中であふれています。

実際に3歳児の方が家族ではない他人に最初に出会う場所って、もはや近所の砂場ではなくてMinecraftなんですよね。Minecraftの中で、自分が作りたい山が作れる、自分が作りたい家が作れる、自分の作りたい城が作れる。負を解決することではなくて、自分のありたい姿、自分のありたい自由を、もうバーチャルの中で自己表現できていて。

その中にオンラインで初めて出会った人がいて、その中で鬼ごっこをやったり一緒にディズニーランドを作ってみようとか。

もはや3歳児が社会に出会うのは近所の砂場ではなくて、Minecraftなんですよね。だから探求と協働は、バーチャルの中で自然発生していけるところまで構築できることが起こっていて。

バーチャルワールドの中や東南アジアでは、もうすでに探求と協働による自由の拡張、自由の協働が行われていて。この後ぜひ苫野先生と、コロナによって強制リモート時代、強制バーチャル時代になった我々はどうやって学びと自由の協働を再構築していくのかを一緒にお話しできたらなというふうに思います。

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