CLOSE

井本陽久「ダメでいい、ダメがいい。」(全6記事)

カリスマ教師・井本陽久氏が語る、子育てが楽しくなる着眼点

大人からは“ダメ“に見えることでも、子どもには、まるで宝石のようにキラキラと輝いて見えるーーそれが子どもの世界の日常であり、実はそこにこそ学びの本質が隠されています。本講演には、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演し、“叱らない・教えない”教育で注目を集めるカリスマ教師の井本陽久氏が登壇。本パートでは、子どもが生き生きとする瞬間や、子育てを楽しめる考え方について紹介しました。

春は学校の先生もわくわくする季節

井本陽久氏:どうも、こんにちは。今日は3回連続講演の最後です。この会場でみなさんとお話しできればよかったんですけれども、昨今のこの状況を鑑みて、オンラインにさせていただきました。

今日は講演の最後に質疑応答の時間を取ります。みなさんは、おそらくメールで送られているフォームでコメント・質問を入れられると思うんですが、もし聞きながら「こんな質問をしたい」ということがあれば、ぜひ追加で質疑を入れてください。

あるいはみなさんに書いていただいた中で、「この質問をぜひ聞いてみたい」というのがあれば、「いいね!」を押していただければと思います。よろしくお願いします。

私は今、花まる学習会主催で「いもいも」という教室をやっています。栄光学園は僕の母校でもあって、昨年の春まで専任として働いていました。去年の春から非常勤になって、もうちょっといろんな活動をしていこうと思って今に至っています。

学校の先生はみんなそうだと思うんですけれども、ちょうど春休みにあたるこの時期はけっこうわくわくするんですよね。

なぜかというと、新入生に会えるのがすごくうれしくて。小学校のころは転校生が入ってくるとうれしかったんですけど、そのときみたいな感じで、もう、わくわくなんです。

この時期にいつも思い出す子がいるので、そのお話からしようと思います。僕は栄光学園の広報をずっとやっていたんですよ。広報はもちろん校内でもやりますけれども、学校説明会など、外に行ってお母さんや子どもたちに直接栄光学園を説明する会があるんですね。

そこで小学生の子どもたちと出会う機会があるんですね。僕はそれが大好きで、新しい子たちと会えるので、もうわくわくしながらやっているんですよ。会えば「今度、栄光に遊びに来てね!」「遊びに来たら僕のところを訪ねてね!」と言っているので、本当に僕に会いに来てくれる子がけっこういるんです。

その中にある男の子がいました。せっかく彼が僕に会いに来てくれたのに、ちょうど僕がいないということがずっと続いて、あるときは「井本先生に会いに来ました」と、栄光の文化祭にまで来てくれて。

でも、そのときに僕はちょうどまた出張で外に出ていて、ぜんぜんタイミングが合わなかったんですよ。(何度も来てくれるうちに)彼は先生の間ですっかり有名になっていたので、僕が出張で外に出ているときに、先生の一人が気を利かして「彼が来たよ」と僕に電話をくれたんです。

そこで「じゃあ、僕のメールアドレスを教えちゃって、今度来るときには僕のところに連絡をするように言って」と伝えたんですね。

大人の想像の斜め上をいくおもしろさ

すると、しばらくして、夏休みの終わりにメールが入ったんですよ。「先生、塾が終わったんですけど、今から学校に行ってもいいですか?」「いいよ。待ってるよ」と。

それで待っていたら、彼が汗だくになって現れました。栄光学園はものすごい坂を上がって到達するんですけれども、その坂を走ってきたみたいで。「まあ、まあ」とジュースをあげて、「ハァ、ハァ、こんにちは」と、もう目がキラキラしていて。そこで「せっかくだから、ちょっと案内するよ」と言ったんです。

そのとき栄光学園はちょうど校舎の建て替え中で、プレハブの校舎だったんですけれども、校舎はもちろん、グラウンドも見せました。グラウンドは広いんですけれどもね。彼が「サッカーをやっている」と言うから、サッカー場に行って「ボールを蹴ってごらん」と言って。

それから図書館にも行って、フルコースで説明をしたんです。「いや、すごいなあ」「すごいなあ」と目をキラキラさせていて。「惚れるというのはこういうことかな」と思いました。

実はちょうどそのとき、建築中の新校舎の一部を2学期から使い始めるというタイミングだったんですよ。まだ誰もそこに入っていなかったんだけれども、もうできあがっているから「まだ誰も入ったことないけど、この校舎、入ってみる?」と言って。

「え、いいんですか? 本当にいいんですか?」「いいよ、いいよ」と言って、カギを開けて入って。彼はもう感動しっぱなしでした。

教室に入ると、誰も使っていないから黒板もきれいなんですよ。チョークを渡して、「ほら、黒板になにか書いてごらん」と言って。「いいんですか!? なににしようかな」と迷ってやっと書いたのが、「栄光」という漢字だったんです。

「本当に栄光がこんなにも好きなんだなあ。入れるといいなあ」と思いましたね。それで、案内も終わってそろそろ帰ろうとして駐車場に行ったら、ちょうど英語の先生が帰るところだったので「一緒に乗る? 駅まで送るよ」と言って、2人を駅まで乗せていったんです。

その間に、「見学に来てくれたんだよ」と説明したら、その英語の先生が「そうなんだ。君、栄光が第1志望?」と聞いたら、「いや、開成です」と言われて。

(会場笑)

「いやー、そうくるか!」みたいな。子どもっておもしろいなと思いました。「あの目のキラキラはなんだったんだろう」と。あれから彼に会っていないので……彼はどうなったんだろうと思ってね、ぜんぜん、どうでもいい話でした(笑)。

サッカーの試合よりも遊びに熱中

僕は講演ではいつも、大好きな栄光学園の自慢から入っているんですよ。今日も栄光学園の生徒がいかにかわいいかという自慢を話そうと思います。

(動画を流す)

見えますか? 大丈夫ですか? 僕は27年間ずっとサッカー部の顧問をやってきたんですけれども、サッカー部の様子をちょっと見ていただきます。

ペットボトルを立てていますね、それを連続で立てたがっています。これは、いつ、どんな状況かわかりますか? 

これは、市内大会の決勝の直前です。向こうで今3位決定戦をやっているんですけれども、まあ、自由なので。これはなにをやっているかというと、草笛を吹いています。(ペットボトルを立てている選手たちを指して)まだ、やっているんですね。試合をやる前から盛り上がるという。

部活を一生懸命やっている先生がこれを見たら、もう怒り心頭だと思うんですけれども、顧問がゆるいとこうなっちゃうんですね。ちなみにこの後、決勝をやりましたけれども、0対3で負けました。

(会場笑)

ただ、僕はサッカー部の子たちがサッカーをやっていないところを見るのが大好きで。本当に(ペットボトル立てをしているところを)何回でも見ていられる感じなんです。

役に立つかどうかよりも、やりたいどうか

これはサッカー部の専用グラウンドです。これとは別に小さなグラウンドもあって、けっこう贅沢なんですね。

これは中学1年生です。まず中学1年生が入部すると、ユニフォーム以外に色のついたベストを配るんです。なぜかというと、彼らがミニゲームや自主練をやると、チームを分けるのに「はだか」対「はだかじゃない」みたいな話になるんですよ。

でも、個々にベストを渡せば「ベスト」対「ベストなし」でできるじゃないですか。なので、入部してすぐに昼休みにみんなを集めて「はいこれ」とベストを渡すんですよ。ただのベストなんだけど、彼らは本当に「やったー!」みたいな感じで喜んでくれます。

それでどうなるかというと、もらったらすぐにサッカー場に行って、みんなベストを着ている(ベスト対ベストの状態)。

男の子は「こういうことに役立つ」とか、そんなのはどうでもいい。ぜんぜん関係なくて、自分がベストを着たいだけなんです。

これはサッカーの部活中です。僕は足下に四つ葉のクローバーを見つけちゃったんですよ。しかも2個。「おー、すげー」と思って、「みんな、四つ葉のクローバーがあったよ」と言ったら、みんなが集まってきて「うわ、すげー!」と言って、部活そっちのけで探しはじめちゃった。

あまりにも一生懸命探しているから、「わかった、四つ葉のクローバーを見つけた人にはみんなジュースをやる」と言ったら、こんなに見つけちゃった。子どもの執念はすごいです。

「ジュースをあげる」と言って、普通にあげてもあれなので、(ビーチフラッグのように)お預けをして、「狙いを定めてこれを取ろう」と。

「3・2・1、ダーン」とやると、結局押しつぶれて横から来たやつがパッとゲットする。男の子なので、頭を回していないんですね。

一度は反省するけど、後は全部忘れてしまう

これは僕が朝、学校に行ったときです。教室に行ったら、みんなが窓から身を乗り出して、なにかやっているんですよ。

「これはなにをやっているんだ?」と聞いたら、「5円玉を糸でつるして、下で遊んでいる1年生を釣っているんだ」と。

バカだなあと思うんですけど、これ、本当に釣れるという。どっちもバカということですね。

これは手帳です。最近はどうなのかな、この時期には学生に手帳をつけさせて、ちゃんとスケジュールを管理させましょうというのがあったんですよ。まあ、どうせうまくいかないなと思いながら、まずはやってみようかということで学年全員に手帳を買わせたんです。

でも、こんなにきちんと書く子がいるんですよ。いるんだけど、(みんなに)これを期待したらだめなんです。当然まれなんです。こんな子はほとんどいない。

ほかのある子は「起きる・登校・授業・帰る」「自習・自由・ご飯・勉強・寝る」みたいな。超いい加減です。「今週の目標・身長を3ミリ伸ばす」「振り返り・伸びた」「うまくいかなかったこと・なし」。こういう子がいるんですよ。

さすがに担任の先生が怒って。これ、学校で一番おっかない先生なんですけれど。提出した手帳に「きちんと書くこと。君はとくに手抜きをしてはいけない人です。明日から毎日!」と書かれていました。

それでどうなるかというと、まったく変わらない。前と同じ。ここらへんも、なんにも考えていない。男の子は、そのときは反省するけれど、あとは全部忘れちゃうんですね。

面倒よりもルーティンが嫌い

放課後の教室です。なにか違いますよね。これ、椅子の置き方が普通じゃないんですよ。こういうふう(椅子が机の上に絶妙なバランスで乗っている)になっているんです。

これ、相当大変でしょう。掃除はみんな面倒くさがるんだけど、こういうふうに置くためなら、いくら時間をかけてでも難しい置き方を選ぶんですよ。

そうなんです。男の子は、つまり面倒が嫌ではないんですよ。ルーティンが嫌なんです。だからちょっとでもおもしろくなるんだったら、いくらでも時間をかける。それでこういうのをやっちゃうんですね。

次はこんな感じになります。すごくないですか、これ。本当に種も仕掛けもないんです。バランスだけでやっているんですよ。これも相当時間がかかったと思うんですけれども、なんか、もうここまで来るとなにかわからないという。とにかく男の子はなんでもやりたがるんですね。

男子校ですね。まず落書き。しかもうんち。引きますね。でもこれは男子校の日常です。

「本日はいい夫婦(11/22)の日。しかし井本先生には無縁な話です」と。余計なお世話だと(笑)。こんなことも書いています。

ただ、かわいいところもあって。僕が誕生日に授業をしに校舎に行ったら、こうやっていろんなことを書いてくれていて。(黒板に貼られた)安倍総理(の写真)が「日本を、取り戻す」みたいな感じで「井本先生、お誕生日おめでとうございます」と言っていて。

「僕たちはたぶん先生のことを忘れません」「お嫁さんをプレゼントできなくてごめんなさい」とか。余計なお世話だという話ですね。こんな感じのことを書いてくれるんです。だから、サプライズとかは僕は大好きですね。

やっちゃいけないときに、やっちゃいけないことをしたい

これ、すごくないですか? サインがなかったらわからないですよね。これは、美術の先生が描いた黒板アートなんですよ。そりゃそうですね、生徒は描けないです。

授業でこれを描いたら、みんな大盛り上がりで。そうなると、男の子は授業が終わった後の休み時間にみんなやります。

しかも、(完成した絵の)目が完全に死んでいる。死んだ魚のような目ですね、比較するとバッチリわかるという。

(スライドを指して)これは、授業を待っている光景です。栄光学園は授業の始まりと終わりが瞑目で始まって瞑目で終わるので、こうやっています。

ただ、男の子たちがこんなにみんな揃ってきちんとやるわけがないじゃないですか。教室の真ん中のほうをよく見ると……(1人の生徒が眼鏡を大量に重ねてかけている)眼鏡をこんなに雑にかけているという。

とにかく男の子は、「やっちゃいけないときにやっちゃいけないことをしたい」、その1点で燃えるということですね。しかも、眼鏡の数だけ協力した人がいるということですね。

とくにこの子は、とにかく周りの子を笑わせるのが大好きなんですよ。いつも生き生き元気。冬の朝になると、こうやってテーブルテニスをしているんですけれども、これじゃ飽き足らなくなるじゃないですか。

(スライドを指して)どうなるかというと、やっぱり裸になる。なんにも意味がない。ただ寒いから脱いでみよう、みたいな感じですね。いつもこんな感じです。

でも、期末試験の朝になるとどうなるかというと、頭のいいやつに聞くんですよ。間に合わせでなんとかする。そして補習になるんですよ。

でも、この子はとにかくどんなときでも生き生きはつらつという感じ。(スライドを指して)これはダブルダッチです。今栄光学園はダブルダッチの世界チャンピオンを出していますけど、ダブルダッチでがんばっていますね。

“ダメダメな魅力”を認めると、子育ては楽しくなる

(スライドを指して)彼も明るい。「勉強と遊び、どっちがいいですか?」「遊び!」「じゃあ、遊びと友達とどっちがいいですか?」「友達!」と、まったく迷わず楽しいほうに行ける子です。

ただ、この子はちょっとふっくらしているから、冷房が嫌なんですよ。それで、この子は休み時間毎に(冷房のスイッチの前で構えて)友達が冷房を入れようとするのを阻止するんですよ。だけど必死に阻止した裏で、パッと誰か別のやつがスイッチを入れちゃうという。

男の子は、こんなダメダメな感じがとにかく学校だと満載なんですね。ダメダメな感じなんですけど、みんなプッと笑っちゃいますよね。なんだか魅力的なんです。

そうなんです。人と違うところというのは本当は魅力的なんですけど、ただ、これが自分の子どもだとすると嫌でしょう? 自分の子どもが人と違っているのは嫌なんですよ。

だから、結局子育てを楽しくやれるかどうかはこの壁だと思うんですね。このダメダメな感じ。ほかの子で見る“ダメダメな魅力”を自分の息子に感じられるかどうか、その1点だと思うんです。

こんな彼らですけれど、彼らは授業をやると、どんな感じかというのを見てください。

(動画が流れる)

これは「前後左右どこから見ても田んぼの『田』に見える立体はどんなものかを考えなさい」という問題です。問題を出して、あとはもう自由です。

これは練り消し。自分たちで材料を見つけていろいろ作っていますね。黒板を使う子もいれば、グループで作る子もいれば、1人でやる子もいます。

この子は絶対に答えがわかっていないんですけど、でもいいんです。「やったー!」みたいなものがあるかないか。それだけでいいんです。

(会場笑)

これはいたずら描きをしています。本当に夢中になってやっているでしょう。最後になにか4色に塗るような、とんちみたいなのを出してみんなで盛り上がっていました。

今の彼らの感じも、すごく生き生きしているじゃないですか。さっきのダメダメな感じの生き生きと似ていますよね。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 「1日休んだら授業についていけなくなる」という思い込み 糸井重里氏が考える、後から学べる時代における「学ぶ足腰」の大切さ

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!