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まずは「知る」ことから。(全1記事)

“ググればわかる正解”を公教育で教える悪循環 最短3年で公立学校を改革するNPO法人の挑戦

2017年から定期的に開催されている、飲めば飲むだけ寄付になるスタンディングバー「KIFUBAR」。みんなで一緒に飲みながら「より良い社会、より良い未来」を語りあうイベントです。今回はそのスペシャルバージョンとして、さまざまな社会課題の解決に取り組む5名の登壇者によるトークイベントが開催されました。本パートでは、「教育の再定義」をミッションに掲げ、最短3年で全国の公立学校の学校改革に取り組む、NPO法人青春基地代表の石黒和己氏が登壇。一人ひとりの「想定外の未来をつくる」ために必要なことについて語りました。

教育を再定義して「想定外の未来をつくる」

石黒和己氏(以下、石黒):では、いきますよ。乾杯!

(会場乾杯)

石黒NPO法人青春基地の代表をしています、石黒和己と申します。さっそくなんですが、私自身が「教育」と関わり始めたきっかけからお話をさせてください。

NPO法人青春基地は、私が大学3年生のときに学生団体として立ち上げ、今年で5年目になります。私たちが掲げているのは、「生まれ育った環境をこえて、一人ひとりが想定外の未来をつくる」というビジョンです。「想定外の未来をつくる」というのは、すごく大事な言葉だと思っています。

なぜかと言うと、「学び」や「学校」は本質的に、一人ひとりの持っている生まれ育った環境、それは家庭環境や、その文化や関係性、あるいは地域など人が生まれてきた条件があると思うんですけれども、そういうものをこえていける新しい可能性、新しい契機と出会えるものだと思うんです。そういうものが、学びの本質的な価値なのかなと思っています。

司会者:なるほど。

石黒:そう、新しい自分自身や社会の可能性と出会える場所ではないかと思うんです。

冒頭のD&P代表の今井紀明さんのお話とも、すごく繋がるのかなと思うんですが、残念ながら、現場の高校は「一人ひとり想定外の未来をつくる」というよりも、どちらかと言うと過小評価して「自分はダメな人間だ」と思ってしまったり、本音が言えない空気があります。データで見ても、日本の中高生たちは、他国にくらべても自己肯定感が顕著に低いという現実があります。

そこで、「教育の再定義」というのをミッションに、全国の公立の学校のなかで、最短3年間というスパンで学校改革をするということをやっています。

ゆるやかで潜在的な孤立状態に陥っている公教育

石黒:実際に関わりはじめて、私自身が驚いたことがいくつもあるんですが……。たとえば、「商業高校」といわれる専門種の高校では、これまで社会の即戦力として「検定試験」の資格取得が重視されてきており、今も多くの高校で取り組まれています。それで、実際に設問をみせてもらったんですが……。

司会者:検定というのが、授業の中に入っている?

石黒:そうですね。毎日勉強している中身になります。それで例えばこんな設問です。「ショートカットキー『Ctrl』+『U』によって実行される内容はどれか」、「メールの冒頭に書くための5月の時候の語句はどれが正しいか」。

司会者:おお……。

石黒:みなさんからしたら、これはGoogleで検索すれば一瞬でわかることですよね。こういうかたちで、学校の中で教えている学びが、今の社会とものすごく乖離してしまっている。そもそも「正解」を教えるという関係性に限界があるなと感じています。

もちろん、この例は、すべての高校に当てはまるものではないですけれど、この状態だったら子どもたちは「意味あるかなあ」と学ぶのを諦めたり、おもしろくないなあとか、真面目についてこなくなるのも普通のことかなと思います。それで先生が怒っても、状況は変わりにくい。そういう悪循環が学校の中でけっこう起こっているなと感じています。

正解ばかりを学んでいて、自分自身や他者との対話が薄いこと。まだまだ社会に開かれておらず、実は先生たちも困っていること。つまり子どももそうですし、先生方もそうですし、公教育そのものが「ゆるやかで潜在的に孤立」していると考えています。

誰かが悪いわけではなく、先生も子どもたち自身も、なかなか本音が言えなかったり、新しい挑戦ができない。あるいは誰かに必要とされている実感を持ちにくい。それゆえに、子どもに対して強くあたってしまうかもしれないし、「正解を教える」ことをなかなか手放せない。子どももまた自信を喪失しながら日々生きています。そういう課題が起きているということです。

司会者:ゆるやかで潜在的な孤立、ですか。

会話を通じて子どもたちの個性ややりたいことを引き出していく

石黒:教育の再定義として、私たちが今届けているのは「PBL(Project Based Learning)」というものです。公立の必修の授業の中に入って、ずっと検定を受けていたような授業を、年間延べ400人くらいの学生や社会人のメンターにかかわってもらい、対話をしたり、街を歩いたりする新しい学びを届けています。

そういう中では、「WILL」と呼んでいるんですけれども、子どもたちの「個性」とか「やりたいこと」を一つひとつ、会話を通じて引き出していくことをとても大切にしています。

司会者:どれくらいの頻度で行っているんですか?

石黒:1つの学年でだいたい50〜120時間ほどの授業をつくっています。私自身も、現場に答えがあると思っているので、週に2回は学校の現場に入って、私自身も子どもと一緒にやったりとかしています。ちょうど今日は、日本橋のお店屋さんにご協力いただき、初めて1日限定のおでん屋さんをやるという企画を作っていました。

司会者:おでん屋さんを急に? それはすごい!

石黒:レシピを練ったり、ずっと準備してきました。今日も午前中からずっと仕込みをしていたようです。

司会者:何校くらいでやっているんですか?

石黒:今は公立の学校2校に入っています。

司会者:2校に、けっこうみっちり入るみたいな感じですか?

石黒:そうですね。年間だいたい1人の生徒に対して120時間分の授業を提供しています。

司会者:それは、教室には何人くらいいますか?

石黒:そうですね。だいたい1学年200人くらいの学校の規模でやっているので、2年生と1年生の2学年に対して各校400人ずつ、120時間分くらいです。

司会者:相当みっちりじゃないですか。すごいな。

閉鎖的な環境は学校現場だけでなく、さまざまな組織や社会の課題

石黒:さてさて、最後に今日みなさんにこの取り組みを共有することで、最後のメッセージとしてお伝えしたいことがあります。

石黒:公立高校が抱えている課題は、なかなかセンセーショナルですし、学校現場というのは他の社会に比べても閉鎖的な状況になっていると言うこともできます。だけれども、よくよくみなさんも周りの人のことを考えてみてほしいんですよね。

実は、「人が挑戦しにくいこと」とか、「心理的な安心安全を感じられないこと」「本音が言えないこと」は、学校現場だけじゃなくて、私たちが過ごしている一般企業の中にも、いろんな組織の中にも共通して起きていませんか。

司会者:学校だけじゃないんだ。確かにね。学校が大変だなということじゃないんだ。

石黒:そうなんです。学校というのはすごく特別な場所として見えますけど、そこから見えてくるのは、学校の現場だけではなく私たちの「社会」そのものが浮き彫りになっているんじゃないかと。

司会者:「みんなそれぞれ孤立しているんだ」みたいなことですかね?

石黒:そうだと思います。なのでこの問題を「教育の問題」として捉えるのではなくて、みなさんがご自身のフィールドにもう1回立ち返ったときに、同じように問題が起きている人たちが周りにいないか、ということを考えながら、このテーマについてそれぞれの場所で考え続けることができたら、本当にうれしいなと思っています。

これで私の時間は終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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