2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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山口裕之氏(以下、山口):金がないから、結局ポストを減らすというかたちでしか対応できない。産学連携とか特許権とかで儲けろと言うんだけれども、儲からないですね。しかも毎年激しい変動がある。
だいたいうちの大学で特許権収入って平均すると300万円程度なんですよ。あるとき何か当たったらしくて、3,000万円のときがバーンとあったけれど、やっぱりこう(下がる)。
常見陽平氏(以下、常見):それでも、3,000万円って、なかなか稼ぎのうちに入らないですよね。
山口:入らないですよ。だって徳島大学の年間予算額って400億円ですよ。国からのお金が100億円ちょいで、病院収入が170、180億あるのかな。それと学生の授業料が40億くらい。なんだかんだ全部合わせて数百億っていう世界ですよ。それで年間300万って雀の涙どころか、何と言ったらええのか。ねぇ!
常見:これはやっぱり政策の矛盾で、今、僕が働き方改革を批判し続けているのと同じで、「こうやりなさい、あとは考えろよ」という話になっているんですよね。
僕、昔リクルートにいたんだけれど、リクルートは20年前に産学連携ビジネスをやったんですよ。要は大学の研究成果を特許にするとか、あるいはどこかの企業に売り込むというビジネスをやっていたんですが、撤退しましたね。要はなかなか儲からないんですよ。
山口:アメリカでは儲かってるというイメージがあるんですが、データを見るとアメリカの大学もけっこう赤字を出しているんですよね。儲からないことをやれって言っといて、儲からなかったらお前らの責任だっていうような。
常見:だって、ごく一部でしか当たらないものを前提として、これが普通だっていうのは逆におかしな話なわけですよね。
山口:そう、地方国立大学とスタンフォード、ハーバードが同じわけないじゃないですか。アメリカだって大学はピンキリだから、地方の小規模大学は儲かっていないんですよね。
常見:しかもよくFランク大学批判みたいなものがあるけれど、アメリカのコミュニティカレッジをちゃんと見てから言えよ、と思いますね。
山口:というわけで、金を絞ることで大学が追い詰められているという話ですね。じゃあ日本の大学にはなんの問題もないのかということなんですけれど。なんの問題もないって開き直ったらやっぱりさすがにアカンだろうと思う(笑)。
今まで言ってきたように、官僚の文書もひどい、財界の提言もひどい、首相の言ってることもめちゃくちゃ、という。みんな大学出とるんちゃうん!? あれ、首相どこの大学出てましたっけ?
常見:成蹊大学ですよ。成蹊大学って三菱大学ですよ、あれ。
山口:どこにあるんですか?
常見:吉祥寺にありますわ。成蹊大学は成城大学と間違えられますけれども。あ、成蹊・成城はある意味すごいのはね、2校とも日本国首相を出してるんですよ。
山口:もう1人は誰ですか?
常見:成蹊が安倍晋三でしょ。成城は羽田孜なんですよ。最近亡くなった。羽田って成城なんですよ。
山口:羽田って首相やってましたっけ?
常見:戦後2番目に短い首相だったんですってば。いろいろあって。
山口:あ~そうでしたっけ……みたいな。あ、今ボケてるだけですからね!(笑)。
(会場笑)
常見:さすがにね!
山口:64日で辞めたんですよね。
要は審議会のレベルにせよ、政治家のレベルにせよ、国会の議論を見ていても、ひどいじゃないか、と思うわけですよね。さっき「もう1回大学入れよ」と言いましたけれど、今の大学に入ったらやっぱり同じようなやつが生産されるんじゃないかという(笑)。
常見:それはそうですが、わかんないです。そのへん、難しいですね。よく学生に、昔の大学がいかに牧歌的だったかという話をすると、みんな驚くわけですね。
山口:結局大学で何を教えるべきなのかっていうことがやっぱり重要。僕らの学生時代を考えるとけっこう野放し。自由放任というのは聞こえがいいですけれど、「あの先生自由放任だよね」と思ったら、単に野生動物のなかに先生がいるだけだったみたいな。放牧でさえない、みたいな先生もいましたね。
常見:あ~なるほど。
山口:そういう感じですね。でも一応、放牧だなって思うのは、レポート書いていくとけちょんけちょんにけなす。また書いていくとけちょんけちょんにけなす。また書いていくとけちょんけちょんにけなす。「あぁ、一応飼われてるんや~」みたいな。でも、普段は餌くれない。「自分で草食ってこい」みたいな。
そういうことをやってると、僕、今でこそこうやって偉そうに本なんか書いてますけれど。まともな文章を自分で書けるようになったなと思うまでに10年かかりました。
常見:それはまじめに学問やってるからですよ。もっと言うと指導教官がいいからですよ。思い出した、昔、これまた今だったらパワハラ話なんだけれどすごく面倒くさい社会学者がいて。彼の答案というかレポートに対する採点、フィードバックがすごくて、「君の考え方は飼いならされたブロイラーだ」って言うんですね。
(会場笑)
今なら完全に「パワハラだって」言われるぞって感じ。
山口:なるほど。パワハラはよくないですが、やっぱり大学として「物を考える力」というのをきっちり付けなくてはいけない。コピペしない。孫引きはしない。ちゃんとデータに基づいて比較検討したうえで、しかもちゃんと反対意見を考慮する。これ、非常に重要ですね。
常見:大事、大事。
山口:自分に都合のいいデータばかり集めてると、自分の世界になっちゃうんですね。
常見:それは今の政策と同じだし、印象操作をウエルカムする首相と同じなんですよね。それが今、すごく大事で。「考える」と先生おっしゃったじゃないですか。今の大学って実は、「思う」にすごくシフトしてるんですよ。
山口:まったくですよね。
常見:「思う」と「考える」。よく「思考」と言うけれど、漢字の思うと考えるってまったく違うじゃないですか。実は今の私学、千葉商科大学のレポートは、かなり「思う」にシフトしている。
常見:さらに言うと、アクティブ・ラーニングと呼ばれるものって、アクティブ・ラーニングじゃないものがアクティブ・ラーニングと呼ばれている。
アクティブ・ラーニングが極めて誤解されているのは、今の大学はアウトプット重視、コミュニケーション重視に過度に振れてるんですよね。つまり、インプットがないと考えられないという、当たり前のことをやっていなくて。それなのに「我々はこう思う」ということを言った人が偉いという風潮は、すごくよくないなって思うんですね。
山口:日本の学生って、授業中にあまり自分から積極的に手をあげないので、結局マイクを回すでしょ。その場で調べてしゃべるわけじゃないので、「僕はこう思います」としか言わない。それでこっちが「いや、それじゃここが不十分だろ!」って言うと、アカハラ、パワハラみたいに言われる。だから「そうか、そうか、それは君の考えだね」みたいな感じでほめてやらなしゃあない。
それに対して、またほかの学生がぜんぜん関係ないことを発言する。それも必ず「思う」がつく。「僕はこう思います」、根拠なくても「思う」って付けたら言えちゃうんですね。自分の思いに根拠いらないでしょ? だって思っちゃったんだから。根拠ないですよね。
常見:THE 虎舞竜の『ロード』みたいに、「なんでもないようなことが幸せだったと思う」っていうことで、それで貧困とか格差とかをすべて関係なものにされているという話だと思うんですね。
山口:しかも最近ね、「心の持ち方論」というのがすごく流行ってて。
常見:出た!
山口:心の持ち方でなんでもできるようになるみたいな、浜崎あゆみが2000年ごろに歌いまくってたような。
常見:浜崎あゆみが全部携帯小説の元ネタなんですよね。
山口:あ、そうなんですか?
常見:浜崎あゆみは、両親が離婚して親が出て行ったっていう体験が原点にあって。携帯小説は、速水健朗という友人のライターが書いてたんだけれど、みんな同じパターンで。
劇的に出会う、恋愛に落ちる、だけれどなんらかのDVをくらうとか、妊娠して堕ろすとかそういう劇的なことがあって、でもまた仲直りしようとしたら彼氏がバイクで死ぬ。それで空を見ながら幸せだったときのことを思って歌ってるみたいな感じ。
(会場笑)
また余談だけれど、携帯小説ってS出版の本と一緒で、小説を読まないやつ、小説を書かないやつが書いてるっていう、すごい世界なんですよ(笑)。
山口:それがけっこう売れている?
常見:売れてる。絶対、最後は彼氏が死ぬんですよ。彼氏が出てきたらどうせ死ぬんです。一時、ギャル雑誌の投稿コーナーで、ダンボール3箱分の投書が届いてて。その内容のほとんどが「彼氏が死んだ」という話なんだけれど、全部妄想少女たちが浜崎あゆみの携帯小説から影響受けてる。実際、世の中でそんなに10代の彼氏死んでねぇって。
(会場笑)
常見:いい時間になったので、一旦ここで前篇終わります。後半は、最初に僕から質問したいこと、議論したいことを投げつつ、最後の20分間は会場からのご意見や質問をもとに議論したいと思います。
(会場拍手)
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