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大学教育への幻想〜大学を変えたら社会も変わるか?(全9記事)

世界大学ランキングで「東大が低いだからダメだ」は本当か? 順位が決まるからくりを読み解く

2017年9月2日、下北沢B&Bにて「大学教育への幻想〜大学を変えたら社会も変わるか?」『「大学改革」という病』刊行記念のトークイベントが開催されました。イベントには、著者で徳島大学総合科学部、准教授の山口裕之氏と、千葉商科大学国際教養学部、専任講師の常見陽平氏が登場し、日本の大学が抱えるさまざまな問題について語り尽くします。改革の旗印のもとで多様な取り組みが行われる日本の大学。社会から“要請”と向き合う大学教員の苦悩と、あるべき大学の姿について語ります。

世界の大学ランキングをつくっているメジャーどころ

常見陽平氏(以下、常見):気をつけないといけないのが、メディアっていろんなものを監視する立場であるべきなんだけれど、そのメディアですらも、こんないい加減な引用をしてたり、いい加減な世論調査をしていたりするわけですよね。そこは注意しないといけないな、ということですね。

山口裕之氏(以下、山口):やっぱり孫引きをしてはいけない。レポート書くときに、最初に教えますよね。2020年から入試改革でしょ。あれを決めた答申、そこが思いっきり孫引き。注がついてて、「さる調査によると、大学に満足していないが64パーセントである」というようなことが書かれている。出典を書くというのも基本ですよ!

常見:すごいですね。官庁の資料が「さる調査……」なんですか?

山口:それで「日本の大学の入試を全部変えろ」って言ってる。

常見:それブログ以下じゃないですか!

次は、この本の秀逸な突っ込みで、僕ももともと問題視していたんですけれど、「日本の大学は世界ランキング下位だ」問題。

山口:東大が39位(注:イベント開催時)、下位だって言うんですけれど。さっき刈谷先生の本のことを言いましたが、大学ランキングって、だいたいメジャーなものが3つあるんですね。アメリカのなんだっけ、雑誌の名前忘れた、要するにサンデー毎日みたいなやつが(US News and World Report誌)。

(会場笑)

常見:それおもしろいね、アメリカのサンデー毎日(笑)。そうするとアメリカ人に対する高尚なイメージが全部消える。いいですよ、それ。

山口:それが大学進学ガイドとして大学ランキングというものをはじめたというのが1つ目。2つ目は、上海交通大学という大学が「自分たちの大学は世界でどれくらいなんだ?」ってはじめたのが、上海交通ランキング。それを見て、イギリスのタイムズというメディアが『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』という雑誌を出してるんですけれど、それがはじめたのが3つ目。

ランキング作成側の我田引水

山口:主に、日本のメディアや政府が参照するのは『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』社のランキングなんですけれど。さっきの中国人留学生マーケットの取り合いの話、刈谷先生が奇しくも言っているように、英語圏の大学のなかで中国人がどこに行くかというと、近いからオーストラリアとかニュージーランドに行く。それをなんとかしてイギリスの大学に来させたい、という底意があったに違いないと。

だから見てると、アメリカの大学だったらハーバード、プリンストン、スタンフォードとかそのへんが上位なんだけれど、必ずオックスフォードとケンブリッジは入っている。去年は、オックスフォードを1位にしていましたが、我田引水じゃないのかと疑いますよ。

常見:それ、まずマーケティング的側面について触れると、ランキングのマーケティング機能という話だと思うんです。よくベストセラーの法則というものがあって、「売れてるものとは何か。それは売れてるものである」ということなんです。「売れるものが売れる」という法則があって。

ビルボードの人にも取材に行って話を聞いたんだけれど、ヒットチャートをつくることによって、そこで何が売れてるのかがわかるから何を買えばいいのかがわかる、と。購買促進という意味はあるわけですよね。ということと、正直、ランキングの我田引水感というのはあるわけなんですね。

余談ですけれど、リクルートが人気企業ランキングをつくった理由というのは、求人広告のお金を引き出すためなんですよ。世の中の知名度、世の中の企業に対する支持、株価といったものと、就職活動する学生の人気企業ランキングって、違うんですね。

例えば、「あれ? おたく、シェアが圧倒的にこの会社に勝ってるはずなのに、人気企業ランキングでは三菱自動車の下ですよ」みたいなことを言われたら、もっと求人広告にお金かけなければいけない、というので成り立っているわけです(笑)。

大学ランキングや偏差値は、どのように決まるのか

常見:本でも書かれているんですけれど、大学ランキングはいろんな評判に左右されるところがある。もっと言うと、論文の被引用件数というものがあって、そりゃ英語圏が多くなるでしょう。研究の成果という側面ももちろんあるんですけれど、それ以外にもバイアスは正直あるわけです。

これに派生して、一応、私学の教員という立場で言うと、偏差値って偏差値を出してる会社によって違いますからね。しかも私学においては、AO入試・推薦入試が50パーセントという世界で、偏差値ってどういう意味を持つのかという。

どれだけ模試で丸付けてるんだという世界もあるし。一部ひどいのは、例えば「〇〇がこれくらいで、〇〇はこれくらいだから、〇〇はこれくらいだよね」みたいなことで偏差値が決まったりするんですよ(笑)。今回、うちの大学偏差値が上がったんですけれどね。

山口:あ、よかったですね。

常見:それはいいとして。すみません、ちょっと余談になって。「東京大学が39位だから、けしからん」みたいなね。

山口:「トップ10に入るんだ」「ランキング100位までに10個入れろ」という政策目標になってしまうんですよね。

常見:でも、そこに対するドライバーがわかっていないまま、ランキングを上げろと。いろんなドライバーがあって、論文の被引用件数のようなウェイトってけっこう高かったですよね?

山口:そうなんですよ。ただ『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』の場合は研究者への評判がけっこう多くて。僕のところなんかでもタイムズ社からアンケート用紙が来るんですよ。「徳島大学が一番よろしいです」みたいなことを書くんだけれど(笑)。世界数万人の研究者に隈なくアンケートを送っているみたいで、僕が多少書いたからってランキングは上がりませんけれどね。

学生のときの成績と就職先の相関

常見:5、6年前、『週刊現代』という下世話な雑誌なんだけれど、やっぱり大学特集があって。今、天皇の生前退位の有識者会議にも入っている山内昌之先生が、「東大が低いだからダメだという論理はおかしい」「だからアメリカの大学に負けないようにするってことが、すべて日本の大学にとって裏目に出る」ということをコメントしていました。極めて秀逸な視点だなと思いましたね。

山口:なるほど。ランキングの100位に入るためにはあと何が足りないのかということを計算すると、自分の大学は大学院生の数を2倍に増やして、教員の論文の投稿数を3倍に増やしたら、何位かに入るといった話が出てくるんですが、無理だろうっていう(笑)。

常見:論文の生産量を3倍ってなかなか無理筋ですよねぇ。

山口:先程も言ってますけれど、企業はもともと大学の教育になんか期待していない。だってその証拠に新卒採用を4年生のうちに決めてしまうんですね。最終的に大学を卒業したときの成績なんか見ちゃいない。でも、社会学的に調査すると、実は学生のときの成績というのは、大企業の就職にかなり相関してるらしいですけど。

常見:このへんはいろいろ論点があって、企業が見ているのはレベルなのかラベルなのかというのは、ずっと問われることなんですよね。結局、今も昔もラベルを見た採用にならざるを得ない側面がある。今は一部の俗説なんだけれども、若者の学力低下論みたいなものがあって、だからますますラベルに頼ろうとする。

この前の厚労省の会議に出たときも、日本を代表するような企業の人たちが出席していたんですけれども、「昔の早慶と、今の早慶は違うよね? だからますますラベルを上げざるを得ない」と。ただラベルが高くても、レベルが信じられないということが起こったりしているんです。これは非常に問題ですよね。

山口:私の本のなかでも触れましたが、ちょっと古いデータなんですけれど1980年代後半くらいに調べたデータでは、東大卒とか京大卒とか「いわゆる銘柄大学をたくさん採っている企業の業績は上がるか」というのを調べると、実はほとんど関係がない。そういうデータもあるので、ラベルで採用しても実はあんまり関係ないのではないかということも言われています。

近年、都市の大企業は、地方国立大学生をターゲットにしている

常見:ターゲット採用ってどんどん進んでいた時期があって。年によるんですけれど、今だいたい5~6割くらいの企業が採用ターゲットを定めているんですね。余談のようですが、先ほどの話と重なるので言いますけれども、地方国立大学は「地元に貢献しろ」と言うじゃないですか?

山口:言いますねぇ。

常見:だけれど、産業構造の掛け算もあるし。東京都って凄まじいエリアで毎年10万人ずつ人口が増えてるんですよね。日本は都市部というか、とくに首都への集中が極度な国なんです。

僕は今、地方自治体のお手伝いをしてるんですけれども、地方の国立大学って「地元に貢献しろ」と言うんだけれど、その地方国立大学で地元のとくに中堅中小企業に行ってくれる人って、言い方乱暴だけれどレベルが真ん中より下の人なんですよね。上の人はどんどん中央の大手企業に行っちゃう。

ここ数年で大きく変わったのは、たぶん教え子を見ててもそうだと思うんですけれど、最近東京の大手に行く学生が増えてませんか?

山口:どっちかと言うと、うちは大阪のほうですね。

常見:あ~大阪。東京とは言わず、大都市の大企業や日本を代表するような企業に行く人が、地方大学は明確に増えてるんです。ここ数年で「ターゲット校にするぞ」という割合が明確に上がったのは地方国立大学なんです。

なぜかと言うと、これは世の中の変化とも関係があります。それは、実は女性活躍とか働き方改革なんですね。女性活躍と言ったときに、今まで総合職ではこの大学は採らなかったという大学に、リクルーターがつくようになったんですね。

そこで企業が目をつけたのは、地方国立大学なんです。地方国立大学っていうのはやっぱり「入試時の基礎学力がなんだかんだ言って高いだろう」「まじめに勉強してる」というところで、今、金融機関の総合職にかっさらわれたりするんです。

山口:しかも、地方の国立大学に来るのって女子学生が多い。なぜかと言うと、親が、下宿させるのが嫌なんですよね。

常見:そうそう。

山口:だから、「なんで君、うちにいるの?」っていうくらいすっげぇ賢い女の子がいる。

常見:女性の進学問題って確かにあって。例えば、関西の有力私学の職員と教員両方に聞いたんですけれど……なんとなく大学バレると思うけれど、芦屋だとか宝塚とか神戸とかのお嬢様たちは早稲田や慶応に行く学力があっても関西学院大学に行くんですね。ほとんど大学名を事実上言ってますね。

山口:明言してますよ(笑)。

常見:やっぱり地元に置いときたいからというのがあって、関学の女子って異常にできる子がいるんですよね。

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