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藤原和博氏、トライセクター・リーダーを語る(全6記事)

「大人の学んでいる姿が一番の教材」 藤原和博氏が教える、本を読む子供の育て方

リクルートでビジネスマンとして活躍した後、杉並区立和田中学校の校長に就任したキャリアを持つ教育改革実践家の藤原和博氏をゲストに招いたトークイベント「藤原和博氏、トライセクター・リーダーを語る」が開催されました。イベントの質疑応答では、「子育てをする上での信念はあるのか」といった会場参加者からの質問に回答。また、読書をする子供の育て方については「大人の学んでいる姿が一番の教材」「自分が本を読まなかったら、それは子供に見透かされる」と、大人自身も読書をしていくことが重要だと語りました。

中2から23年間ほとんど父と口をきかなかった

金野索一氏(以下、金野):ここから質疑応答ということにしますんで、これだけは聞きたい方、とりあえず1人1問だけにしてください。どうぞ。

藤原和博氏(以下、藤原):後で思い付いたら、「よのなかnet」の「よのなかフォーラム」掲示板に書き込んでいただければと思います。どうぞ。

金野:名前と職業くらいを言っていただいて。

質問者1:今日はありがとうございます。今はアメリカのIT企業の日本法人の代表をしています。私には8歳になる娘が1人いて、非常に私に似て、かわいいんですけど(笑)。

先ほど、藤原さんはお子さんが3人いらっしゃるとおっしゃっていたんですが、今までの海外での生活等のご経験から、子育てをする上でこれだけは必ず毎日やられているとか、信念として伝えているとか、あるいはそれが伝わっているのを実感するとか、そういったことがあれば教えてください。

藤原:子供は、今26歳、22歳、20歳で、男、男、女なんですよ。3人共、私の子らしく、私も父に対してやったように私に反発しました。長男が中2の時には、僕は彼に携帯を絶対買わないと決めた。

長男と小学校の時に仲の良かった同級生は皆私立に行っていて携帯を買い与えられている。うちの長男は公立に行かせたもんだから、その彼らと待ち合わせができないと。わかりますよね? 

昔だと、金曜日の7時にハチ公前とかで待ち合わせたけど、今はそういう待ち合わせの仕方はしない。待ち合わせの時間も場所も決めないで、携帯のやりとりでやるじゃないですか。

なので、息子にとっては死活問題だったらしいんですが。3人とも高校までは携帯を買いませんでした。それにものすごい腹立てて、うちの長男とは中学校の時に2年間、まったく口をきかなかった。

自分自身が父に反抗したので、まあ、当たり前かな、と。僕は中2から23年間ほとんど父と口をきかなかったんです。父が67歳の時に、脳に膿瘍(のうよう)と言って水泡みたいなのができて死に損なったんです。看護婦さんが「もうこれは帰ってこないなと思ってました」みたいな。

これは死ぬなと思って、あわててテレコを買ってきて病室でインタビューを始めたんです。戦争の時のこととかね。聞いてなかったから。僕が37歳の時だったので、14歳から23年間に渡って、父と語り合ったことがなかったんです。

それくらい激しく父に反抗しましたので、息子と2年ぐらい口をきかなくても全然平気でした。その後、次男ともやってました。ただおもしろいですね。男の子は、自分の居場所ができると、つまり高校になったり大学になったりして、自分の居場所ができて、自分に自信ができると会話がポンと出てくるというのがありまして。

僕はそういう反抗期は大事だと思っています。とくに男の子は。支配されたくない、自分は独立したい、自分はインディペンデントになりたいという気持ちの表れなんで。それができないことに苛立っているんですよ。そういうのは大事かなって。

今、娘が同じように反抗しています。受験が終わって自分の居場所に自信を持てたら、また会話が戻りそうな気配です。

(会場笑)

なので、息子、娘とも反抗期があることは認めてあげてください。反抗期が嫌だから、めんどくさいからといって、息子や娘と友達になっちゃう親がいるんです。これははっきり言ってダメ。

中学校の校長時代にも何人も見ましたけど、友達家族はろくなことがないです。なんでかと言うと、家に友達がいたら外に出ようとしないでしょ。わかりますよね? 

むしろ家って適度に居心地が悪いほうが、そこを出たいという気持ちが芽生える。そこにインディペンデンス(自立心)が生まれると思うんで。出たいと思わせなかったら、ずっといますよ。でも、娘かわいくてしょうがないでしょうから、一生自分がコミットするつもりであれば、そうさせたらどうでしょうか。

そうするとお父さんが好きで好きでしょうがない子になって、それはお父さんにとってはいいんですけど。多分どんな男性がパートナー候補として現れても最後はお父さんと比較しちゃうから、別れることになっちゃうんでしょうね。それを望みますか?

(会場笑)

もともと読書をしない子供だった

すごくビミョーなことを言ってますが……あと2つだけ加えますね。僕は実は読書しない子でした。『本を読む人だけが手にするもの』というベストセラーが出ておりまして、6刷りになっているんですが。『本を読む人だけが手にするもの』は、本を読むとどんなにいいことがあるのかというのを書いた本です。

本を読む人だけが手にするもの

読書法の本じゃない。本を読むとどんないいことがあるのかというのを体系立って書いていて、ちょっと珍しい本なんです。

絵本の読み聞かせで子供に波動が伝わる

僕は小学校の時に、ルナールの『にんじん』と、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を課題図書で出されて、こんなつまんないものは絶対に読みたくないと思って、そこから中高と読書しない子になってしまいました。大学受験も現代国語では、ものすごい苦労したんです。

とにかく本を読まなかった。僕は昭和30年代に育ちましたので、テレビとか冷蔵庫とかが次々に家に入ってくる時代で。その中で、公務員は本棚買って、そこに児童文学全集と百科事典を競うように買ったんですよね。

その児童文学全集を、うちの母親は、僕が幼児の時に寝付くまで毎日読んでくれました。これには感謝しています。今でも覚えているんです。『小公子』という物語から始まった。

一通り読んでもらった後に、どれを読んでほしいかと聞かれると、何度も同じ物を繰り返し読んでもらいたいものなんですよね。子供はおもしろい。

読み聞かせは大事だと思います。児童文学全集でなくてもいいと思うんですけど、絵本の読み聞かせはすごく大事。物語の中身がいかに道徳的かとかじゃなくて、波動としてその音を聞いているようなところがあるんです。

うちの父がたまに早く帰ってきて「読んでやろう」とか言って読むと、嫌で嫌でしょうがなくて。そのへんから反抗が始まったんじゃないかと思うんだけど。

(会場笑)

波動なんですよ。音。だから、お腹の中に入っている時に、(質問者1に)下の子ができるかどうかわからないでしょうけれど、声をかけるというのはいいと思います。胎児って母親の声をずっと聞いているから、母親の波動には勝てないところがあるんですよね、父は。

結局は自分の人生を一番間近で観戦しているのが、息子、娘ということになります。だから、自分がどういう人生をするかというところは裏切れない。どんなえらそうなことを言ったって、それを目撃されちゃうんで。例えば、本を読む子を育てたい時に、「本を読め、本を読め」と言っても、自分が本を読まなかったら、それは見透かされちゃうんです。

なので、僕は中学の校長の時にずっとお母さんたちに、「本を読む子を育てたいんだったら、嘘でもいいから本を読んでる振りをして」と言ってたんです。

子供にとっては、「大人の学んでいる姿が一番の教材」なんです。教えている姿よりも大人がどんなふうに学んでいるのかという、その波動を間近に受け止めているのが息子や娘なんで。学んでいる大人の姿が最高の教材だと思っていただいたらいいと思います。教育って、伝染、感染なんですから。

お父さん、お母さんはどう学んでいるのか、それを完璧に見られている、と思っていただいたらいいんじゃないかな。あとはもう無理。責任とれない。最後まで、死ぬところまでずっとコミットできないんだから。

(会場笑)

もう1つだけ。父に反発してリクルートに入って、ベンチャーやって、社会起業家やっている私。そのうちの子がですよ。長男が就活するって数年前、会社訪問を始めましたら、結局最初から大手回りのオンパレード。最後は今やベンチャーと言っていいかどうかわからないソフトバンクに入りましたが、その前にどこを回っていたかというと、TBS、電通……とか。

「エーッ!?」ですよね。つまり、子供はコントロール不能。安心した? 

(会場笑)

1歩目・2歩目は近場でいい 3歩目に必要なのは「無謀さ」

金野:他に? じゃあどうぞ。

質問者2:広告代理店に長くいて、5年前から大学の教員をやっております。(3つの軸の話で)とくに3つめの軸ですけど、同じ1歩目からやっても、うまく掛け合わされるものとうまくいかないところがあって。

藤原:わかります。

質問者2:そのへんはどう考えれば? 

藤原:それは情報編集力の問題なんだけど。掛け合わせの美学ですよね。掛け合わせによって、リスク高いけどリターンが大きいものがある。リスクは低いけど、リターンがあまりないものも。

質問者2:どのへんまでいくといいのか? 

藤原:僕が300くらいの人生を自分で試せれば、そこに共通理論を導き出せれるかもしれないけど。これは運もあれば勘もあればということになるんだろうと思います。ただ僕がいつも言っているのは、「1歩目2歩目については近場でいいんじゃないか」と。足場を固めることなんで、あんまり開き過ぎてもね。

広報やったら宣伝だったり、営業やったら販売だったり。会計やったら財務や税務だったり。そこで2歩目までに固めておいて、3歩目の勝負を遠くに踏み出す。そのほうが、結局、クレジットの面積が広がるということなんです。とりわけ、この3歩目については試行錯誤が必要です。

僕は、3歩目はもしかしたら介護の世界かなと考えていた。大阪に筋ジストロフィーでどんどん体が動かなくなった、春山満さんというハンディネットワークインターナショナル社の社長がいて。彼は僕の盟友で、一緒に会社を作った唯一の人なんです。去年61歳で亡くなりましたけど。住宅の世界では、コーポラティブハウスをやってた会社に出資して役員までやったり。

試行錯誤があったんです。試行錯誤がある中で、教育改革は事業からのアプローチでは難しいな、と。そこにたまたま山田宏氏(元杉並区長)みたいなのが来て、ドンと踏み出したわけ。

そういう意味では、最初から「教育」と決めていたわけではない。3歩目は、(3つの軸からできる)三角形をいっぱい作ってみて、試行錯誤の中でやるしかない。その代わり、一旦踏み出したらもう逃げないという覚悟を決めるしかないですね。

ここ(3歩目)は、勇気とか言うとカッコよすぎるの。そうじゃなくて、むしろ「無謀さ」だと思う。要するに計算しないで踏み出しちゃう。例えば、結婚する時だってそうじゃないですか。計算してます? 普通してないじゃない。

金野:怖がる人が多いですよね。第3の足の時に。ある程度年齢もいってるんで。

住宅ローンがあったら会社を辞める決断はできなかった

藤原:そう。怖くないことはないんです。じゃあ、本音を言おうか。僕はこの時点(3歩目を踏み出す時点)で住宅ローンがなかった。これは大きいと思う。会社にいて会社提携ローンであと4000万借りていたら、まず会社を辞める決断はできなかったかも。踏み出せなかった。それは、42歳くらいの時。

33歳で中古の家を買った時に、6000万の借金をして30何年ローンみたいなことをやったんですよ。それがいきなり8パーセントに金利が上がったんです。89年かな。もうとんでもない。

その時、年間で350万とか400万とか返してるのに元本が減らないという現実に対して、これはとんでもないなと思って。うちのかみさんのほうの両親が医者だったんで、そっちに恥を忍んで金借りて。借り換えちゃって、後から全部返すんです。10数年かけて金利無しで返したんだけど。

そういう意味で、勝負に出る42、3歳の時に住宅ローンがなかったというのがある。これは意外と大きいよね。だって、住宅ローンを会社の提携ローンで抱えてて、「このやろう、辞めてやる!」とは言えないじゃん。ということで、それはあんまり書いていないことなのですが。

(会場笑)

金野:他に? 

質問者3:ありがとうございます。今は教育系のワールドピースゲームという子供向けのプログラムを日本に広めようと活動しています。藤原先生は、ビジネスからキャリアを始めて3歩目の教育にというところで、住宅ローンがなかったということで、あまり事業性は見ずとも進めたというのがあると思います。

今は社会的な流れとして、社会的企業が流行っていたり、教育のプログラムが普及していたりする中、事前のトークでも「教育はビジネスでは厳しいな」とおっしゃっていて。

私、まだ1歩目にいるのにどうしようってつまづきそうなんですが。1歩目、2歩目を社会企業とか教育分野で踏み出した時に、3歩目がビジネスになるのかどうなのか、まだわからないんですけど。そういった状況で何かアドバイスがあればいただければと。

子供の創造性を育てることに対して、親はお金を払わない

藤原:(質問者3が)何歳か聞いてもいいですか? 

質問者3:27歳です。

藤原:そうすると、まだ20代で最初の取り組みを今やっているわけ? 

質問者3:はい。

藤原:それは何年やっているんですか? 

質問者3:今半年くらいです。

藤原:そうですか。「1歩目」という意味は、ある技術を獲得するという意味で言っています。要するに、それで食える技術を確立しているかどうかってことなんです。すごくわかりやすく言うと、4〜500万くらい稼げるか。そうじゃなくても、2〜300万くらい稼いで最低限食っていける技術であってほしいんだけど。

それは何かもう持っていますか? それともこれからですか? 

質問者3:それは、もともと英語を教えていたのです。

藤原:英語をどこであれ教えれば、まあ2〜300万くらいは稼げる? 

質問者3:食いっぱぐれない程度にはできます。

藤原:それじゃあもう、片足はしっかり軸がありますね。で、2歩目でワールドピースゲーム?

質問者3:ワールドピースゲームを今やろうと思っていて。それも、それこそ文科省とかに買っていただいたりして、普及するというのがビジョンとしてはあるんですけど、それを事業化するとか収益化するというと、先ほどおっしゃっていただいたような、業界のバックグラウンド等があるので、これはどこに向かうんだろうなというか。

それだったら、まったく違う事業の柱を立てたほうがいいのかというところを、今まさに暗闇に突っ込んでいる途中って感じなんですけど。

藤原:それは俺にはアドバイスできない。あなたが決めないといけないことなので。あなたにはビジネスパートナーがいるんですか? あるいはスポンサーが付いていたりするんですか? 

質問者3:チームがあります。スポンサーはまだないです。

藤原:チームでNPOのようにそのゲームを広めていくようにするのか、版権を買ってライセンスで儲けるというビジネススキームなのか。例えば、塾にそれを売り込んで、塾に拡販してもらって、ライセンス料が入るようにするみたいなことなのか? ……俺にはアドバイスできない。それは自分で考えないと。

質問者3:そうです。それはまさに今考えているところです。

藤原:やってみて、試行錯誤でどう出るかだよね。事業になると思ってやってみたけど砕け散るかもしれないし、NPOライクにやってみたら意外や意外、ニーズが見えてきてすごいお金が入ってくるなんてこともあるかもしれない。

ただ、一般的には創造性とか思考力、判断力、表現力系に持って行くようなサービスというのは、現在の母親がそうお金は出さないですよと。夢のように「創造性が膨らむんです、だから100万円」と言っても、そうはいかないよと。「医学部入れてくれるんだったら100万円出すけど」と、こういう厳しい世界なので。

ただ1つおもしろいなって思うんだけど。安倍政権がやったことで、僕が非常に評価していることがあって。教育資金贈与制度のことです。おじいちゃん、おばあちゃんのお金をそのまま持って亡くなるより、孫の教育や結婚のために、信託で振り替えた場合、1500万までの贈与は相続税から免除になっている。

これを利用する。おじいちゃんおばあちゃんの琴線に触れるイベントとか、おじいちゃんおばあちゃんと孫のコミュニケーションを活性化する。あるいは、そのお金を出してあげるとおじいちゃんおばあちゃんが孫からすごく尊敬される。そういう風にもっていくと、そっちからお金出ちゃうかもしれないね。そういうお金の流れが出てきているから。

質問者3:ありがとうございます。

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