2024.10.10
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第2限 選手だけじゃない!スポーツと「仕事」について考えよう 先生:Jリーグよのなか科(全1記事)
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太原靖一郎氏(以下、太原):ではこれから、サッカーに関わる職業のゲストから、その人が考える自分の職業の社会的意義と、「意志」「役割」「能力」の関係を、聞き出していきたいと思います。
今からゲストの方にお越しいただいて、その方に少しお話をしていただきます。お話をしていただいた上で、その人に皆さんから質問していただきたいと思うので、今日まだ発表ができていない人は、積極的に指される前にガンガンと言っていただければと思います。
では、ゲストの方をお呼びしたいと思います。武市憲資さんです。
武市憲資氏(以下、武市):こんにちは。
太原:武市選手と呼ばせていただきます。サッカー歴はここに書いてありますが、元プロのサッカー選手です。引退後大学に行き、ミズノという会社でお仕事をされ、今は外資系金融機関でお仕事をされてます。
ぜひ、話を聞いた上でどんどん質問してもらいたいと思いますので、積極的に聞きながら書いてください。では、武市さんよろしくお願いします。
武市:皆さん、こんにちは。授業っていう形なんですけども、僕のパートはリラックスした形で、みんなこっちを向いていただいて、話してる途中でも聞きたいことがあればバンバン聞いていただければと思います。
カンペを見ながら進めたいと思います(笑)。2限目は仕事というのが大きなテーマなので、僕自身も、いつどんなことを考えて今まで3つの仕事をしてきたかを、自分の経験値に照らし合わせながら、皆さんにお伝えできればなと思います。
その中でしくじっちゃったことなどもいっぱいあるので、皆さんには、あまりしくじらないようにししていただければなと思っています。
まず僕のプロフィールからご説明しますと、サッカーはずっとやっていたんですけれども、高校は(今年の)甲子園に出ている東海大相模という高校に入ってました。高校のサッカー部に入らないで、ベルマーレ平塚(当時)のユースチームでプレーをしていました。学校は帰宅部なんですけど、授業が終わるとそのまま練習場に行き、練習という形になります。
大学附属の高校だったので、そのまま大学にもエスカレーター式に上がって、サッカーも18歳の時にプロ契約をさせてもらいました。
自分の考えで大学は休学しちゃってたんですね。もうサッカー選手として働いてお給料もらって、という生活をしていて、そちらがうまくいったら大学を辞めようと思っていました。
それから一生懸命サッカーやってたんですけれども、3年で戦力外通告を受けまして、ここ悲しい話なんですけど……(笑)、サッカーを辞めて大学に復学しました。
大学を卒業して、スポーツメーカーのミズノという会社に就職しまして、そこで主にランニングシューズや、サッカースパイク、フットサルシューズなどの企画を4年。その後、広報宣伝部といわれているプロモーションの部署に4年ほど、合計8年間勤務した後に、外資系金融会社、今プルデンシャル生命保険という会社にいるんですけども、そこに6年在籍しています。
では、お話させていただきます。
まず、僕が仕事ということを考え始めたのは、ちょうど18歳のとき。プロサッカー選手になるときですね。そのときに思ったのは、先ほど青野さん(サイボウズ代表)が言った通りの話なんですけど、「やりたい仕事」と、「やるべき仕事」と、「やれる仕事」は違うなってすごく感じました。
ちょっと書いたほうがいいですね。字が汚なくてすみません。やりたい仕事、やるべき仕事、やれる仕事。これってやっぱり違うんです。
さっきの円のような形。イメージを残しておいてほしいんですけれども、やりたい仕事、やるべき仕事、やれる仕事、これら3つが円で重なるように並んで仕事って成り立っていて、僕が強く思ったのは、この重なっている部分に自分の仕事が入っていると、「やりたい仕事」ができている自分も幸せですけど、「やるべき仕事」や「やれる仕事」でもあるので、周りの人もすごい幸せなんだな、ということを18歳の時にすごく感じました。
ここまで大丈夫ですか? 「うん」とか「ううん」とか返してくださいね(笑)。
自分の仕事が3つの重なっているところにあてはまると「すごい幸せ」と感じるんですけど、みんなそれぞれ幸せって違いますよね?
下世話な話になっちゃうかもしれないですけれど、僕が「どんな時に幸せなのかな?」と思ったときには、「ヒト」と、「コト」と、「カネ」。この3つが、自分の満足する域を3つ揃えて越えると「幸せだな」とすごく感じるんです。多分皆さんも、そうなると「すごく幸せ」って感じると思います。
「ヒト」っていうのはどんな人達と一緒に働きたいかということですね。どんな上司がいいかとか、どんなチームメートとできるかとか、どんな監督のもとで仕事をしたいかとか、そういう要素がヒトです。
「コト」というのは、どんなことを仕事にしたいかということ。
「カネ」は、わかりやすくいうと、どれくらいお金欲しいですか、ということです。
これは本当に誰かと比較することではなくて、自分自身でこの基準を作ることがすごく重要です。「僕、1億円を稼がないと幸せじゃない」という人はそれでもいいですし、「僕はそんなにお金もらわなくてもいいんです」っていう人は、その基準が違うので。
誰かと比較するのではなくて自分自身で決めるということがものすごく重要だと思います。では、僕の経歴で、これがどんな感じで推移してきたかをまず伝えたいと思います。
プロサッカー選手の時の、やりたい仕事というのは、これはもうサッカーです。もうサッカーが好きで好きでしょうがなくて、勉強なんて全然したくなくて、「ずーっとサッカーできていたら本当幸せだな」と思っていたので、やりたい仕事はサッカーですね。
やるべき仕事というのは人から求められるものです。サッカー選手でいうと、サッカーを通じて感動とか、驚きを与えることが求められています。これがやるべき仕事になります。
やれる仕事、ここは先ほど言ったように能力ですね。サッカーでも一生懸命練習して、テクニックを増やしたりとか。あとはやっぱりサッカーだけが上手くても人として魅力がなければ人は感動しませんので、人間性も必要です。インタビューの受け答えを聞いて、「適当だな」、「自分の言葉を持っていないな」ってやつは嫌だと思いますので、きちんと受け答えできるような人間性も能力の部分に入ってきます。
サッカー選手をやるにつれて、やっぱり求められることがどんどん増えてくるんですね。レベルが高い人と一緒にいたりすると、能力の部分を伸ばす努力を怠るとこの領域からどんどん外れていってしまうんですよ。
それをカバーするには2つしかなくて、やれることにどんどん挑戦して能力を増やしていくか、別のやりたいことに当てはめるかしかなかった。
僕は本当はずっとサッカーをしたかったんですけれど、当時皆さん、知ってるのかな? 中田ヒデ(英寿)って知ってますか? 中田ヒデがちょうど僕の1個上なんですね。一緒に練習や試合をしていて、「いや、この人本当に上手いな」って思ったんですよ。
僕自身は、誰よりも練習していた自負はあるんですけど、中田ヒデも同じぐらい練習してたの。だから、僕がこうやって練習して能力の部分を伸ばしても、彼も同じように伸ばしたら、ずっと差は縮まらないんですよ。
中田ヒデとともにいながら「一生サッカーでご飯を食べていくっていう人は、こういう人なんだな」と思って僕は諦めました。それで大学に復学したんですね。
ここまで大丈夫ですか? ちょっと悲しい話ですけど(笑)。
その時に僕が次にやりたかったのは、先ほどもお伝えしたとおり、サッカースパイクの企画だったんです。やりたい仕事の部分で「サッカースパイクなどの用具を通じて、サッカー選手をサポートしたいな」って本当に思ったんです。
やるべき仕事というのは、「こんなスパイクがあったらいいな」っていうのを具現化する。具体的に作るっていうのがこの仕事。
そのために必要な能力というのはいくつかあるんですけど、1つはアイデアとか発想。スパイクの知識とか、作り方に関する知識も必要ですよね。どういうふうにスパイクが出来上がるのか、知識が分かってないと駄目です。あとは安全な靴でなきゃいけないので、力学とか物理学とか、そういったものも必要になってきます。
企画の仕事っていうのは自分では全部できないので、シューズのデザイナーさんにデザインを依頼したり、開発部門などに「こんな機能開発をしてください」などという感じで、様々に仕事を振り分けてチームとして仕事をしていくんです。
そこでやっぱり必要になってくるのは、コミュニケーション能力だったりとか、あとはリーダーシップとかっていうのが必要になってくるなと思って、大学の時にいろいろ勉強してミズノに入りました。ここまで大丈夫ですかね。
決してミズノで順風満帆という訳ではなかったんですけど、すごく楽しくて、これすごいいい仕事だと思ってたんですけど、1つだけ気になることがあって。
僕は「サッカー選手とかをサポートしたい」と思ってたんですけど、その選手が引退しちゃうとやっぱり関係切れちゃうんです。サッカースパイクを提供しているので、その人が引退しちゃうと、もうぷっつり。
プライベートでは関係がいいんですけど、仕事で関わることがなくなっちゃったんで、「やっぱり一生サッカー選手と関わっていきたいな」「その選手と一生ずっと一緒に行きたいな」って思ってたんで、「やりたい仕事」がまた変わりました。
つまり、サッカー選手を一生サポートしたいということがやりたい仕事になったんです。じゃあ、「僕のやるべき仕事って何かな?」って思ったら、「お金の心配をなくして、現役選手もOBの元サッカー選手も、やりたいことに集中できるような環境作ってあげたいな」って思ったんです。
それで外資系の金融会社に入って、「そこを保険という形でサポートするために、自分の何の能力を上げなきゃいけないかな?」と考えると、金融知識だったり、税務知識だったり、その点を伸ばす必要がありました。あとは、サッカー選手の気持ち、これは僕分かっているので、それを強みとして働いていました。
大丈夫でしょうか? OKですか?
このような感じでやりたいこと、やるべきこと、やれることっていうのをしっかり考えて、自分にとって幸せのヒト、コト、カネを考えながら仕事を考えてきました。
そのため僕の場合はサッカーを通じて仕事を考えてましたけど、皆さんは多分、先ほど言ったように「ゲームが好きだ」「こんなことをしたい」「あんなことしたい」というのをこのスキームで考えて、なるべくこの範囲に自分の仕事が入るようになると幸せになると思うので、そのあたりを考えながら、日々頑張っていただければいいかなと思っています。
以上です。今日は何でも答えていいと言われています。何でも答えますので、何でも聞いてください。何でもいいです。
質問者:戦力外通告を受けた時に、サッカーを続けるか、もしくは他のことをやるかを決めるときにすぐ判断はつきましたか?
武市:いや、判断つかなかったですね。本当に小学校一年生からずっとサッカー選手になりたくて、やっと18歳でなれた。それが僕の意志ではなく、チームの方から「いらないよ」って言われたので、正直その日は……。
練習の前に自主練するために筋トレルームにいたら、チームのスタッフが入ってきて「ちょっと武市、いい?」って呼ばれたんです。「なんですか、なんですか?」ってついていったら「実は来年契約する意志がないから」って言われて、「今日どうする?」と言われて。練習前に。
「どうする?」と聞かれて「とりあえず両親に伝えたいので、今日は練習を休みます」というようなことを言いました。当時、僕は寮に入っていて、寮からグラウンドまで自転車で行ってたんですけど、どうやって帰ったか覚えていないですね。それぐらいボーっとしちゃって。
今はもう亡くなっていますが、当時母に話をした時に「他にやりたいことないの?」って言われて、考えて「サッカー選手以外だったら、やっぱりサッカースパイク作りたいかな」って。
その時は結構考えました。答えが出るのに、やっぱり2ヶ月ぐらいかかりました。
他に何かありますでしょうか?
質問者:さっきの質問と近いんですけど。
武市:みんな悲しいことばっか聞くんですね(笑)。いいけど(笑)。
質問者:戦力外受けた時に、何とか現役として続けよう、なんかその方法はないかって、模索じゃないですが、なんかそういうふうに方法考えたりとかはされたのですか。
武市:さっきも伝えたんですけど、もう圧倒的な実力の差があったんですよ。彼らが遊んでいたら、別に「いつか抜かしちゃうだろうな」とかって思ってたんです。本当に誰より練習してたので。
なんですけど、本当にトップ選手が同じぐらい練習するんです。「この人いつ寝てんのかな?」とか思っちゃうぐらい。やっぱりやるからに仕事って楽しくやりたいし、できることなら1番目指してやりたいんで、ここはちょっと抜けないかなと自分で考えて、辞めました。でも葛藤はすごいありました。
質問者:今、後悔とかしてないですか?
武市:これ最後に皆さんに言おうと思ったんですけど、後悔あるんですよ。何が後悔かっていうと、本当にキーワードとして皆さんに伝えたいことが1つだけあって。
皆さん若いから時間いっぱいあると思ってると思いますけれど、やっぱり時間って有限なんですね。いっぱいあるけど有限なんですよ。
1回目の転職と2回目の転職で何が大きな違いかっていうと、さっき言ってもらいましたけど、ミズノからプルデンシャルには自分が行きたくて行ったんです。こういうことしたいって。
でも、サッカー選手からミズノっていうのは、僕は(サッカーを)したかったのに「もういらないよ」って言われちゃったんですね。これ、このまま「やっちゃったなー」っていうので終わっちゃうともったいないなって思ったんで、そのどうやってやってたら、中田ヒデよりうまくなってたのかなって、すごく考えたんです。
そしたら、もう気付いた時点で差がついちゃってたんで、どんなに努力しても同じ努力されちゃうから差が埋まらないんです。ただ人生ってすごくズルができて、例えば100メートル走、ウサイン・ボルトと一緒に走ろうと思ったら絶対に勝てないんですけど、人生はスタートはいくらでも早く切れるんですよ。
だから変な話、20秒前からスタートしていいよって言われたら、僕ウサイン・ボルトに勝っちゃうんですね。人生も全く同じで、多分、ヒデ君とかはすごい若いときに「いや俺は絶対セリエA行くんだ!」とか、「絶対日本代表になって俺が牽引してやるんだ!」っていう強い意志とかを持ってたのが、僕より全然早かったと思うんですよ。
でも僕が、小学生ぐらいでその気持ちでやれていたら、もしかしたら勝てたんじゃないかなって思ったのが唯一の後悔ですね。やってたことに関しては全く後悔なくて、辞めたことにも後悔ないんですけど、そのスタートでちょっとズルできたら良かったかなってのは本当に思いました。
他に何かありますでしょうか? 大丈夫ですか。
皆さん多分夏休みだと思いますがが、僕が君たちくらいの年齢の時、夏休みなんて自分でインターネットを検索してこういうところに来ようなんて全く思ってなかったです。
「もうプール行っちゃうか」とか、「まずは本屋だな!」とか、「クーラーきいてるところ行こう!」そんな感じだったんですけど、多分君たちは、周りの子たちよりもスタートを早く切ってるんだと思います。
せっかくそのアドバンテージがあるんだからその気持ちをずっと保ちながら、僕みたいにしくじりをしないように頑張っていただければと思います。以上です。ありがとうございました。
太原:ありがとうございました。スタートをいつ切るのか、というとても大切なお話でした。最初にスタート切っていればもしかしたら変わったかもしれないというお話がありましたが、ぜひ考えてもらえたらなと思います。
最後、アディショナルタイムということで、皆さんのお手元にアンケートがあります。そのアンケートに答えていただいて終わりたいと思います。
私からも一言だけ。今日はサッカーを通じて、仕事とは何か?ということを少しでも感じていただけたと思います。
その中でも本当に自分に合う仕事というは「意志」「役割」「能力」の3つの視点が大切だということをぜひ考えながら、いろいろな職業をたくさん知っていただいて、自分が将来何をやりたいのか、という問いに繋げてもらえたらいいなと思います。
私達のパートはこれで終わりになります。何か全体を通して聞いておきたいことがあればお答えしておきますが、何かありますか。大丈夫ですか?
Jリーグのよのなか科のパートは以上で終わります。ありがとうございました。
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