2024.10.10
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ロバート・ジョス氏(以下、ジョス):ジャック、今日は来ていただき本当に感謝しています。もう本は書かないと言っていましたが、どうしてまた書く気になったのでしょうか?
ジャック・ウェルチ氏(以下、ウェルチ):過去3年半くらいはこんな感じでオーディエンスと話すために世界中を飛び回っていました。最初の本は自叙伝です。全部自分のことです。
この本は、そういった質問に対する解答を明文化したものです。オーディエンスのためになればと思っていますが、会社を選んだり、悪い上司をもったりとか、そういった人のための本なのです。
ジョス:著書は『Winning』というタイトルですが、どういった意味が込められているのでしょうか?
ウェルチ:目的は何かをハッキリさせ、そこに全力で向かうこととは何たるやということについて書いてあります。
ジョス:著書の中で「公平で率直」を強調されていますよね。
「ビジネスのタブー的な闇を語るとしたら、文化、国、社会、クラス、このどれにおいてもそれが欠落している」
ではなぜそれが重要なのでしょうか? 何がそんなに難しいのか。またどのようにしてそれを変えていけばいいのでしょうか?
ウェルチ:小さなスタートアップだとうまくいきます。互いにやりやすく、ミッションも価値も理解しあえていて、パッションとともにそれに向かっていく。
しかし官僚社会においては、自分中心になっていってしまう。四方八方からプレッシャーがかかり、言いたいことが言えなくなってしまう。つまりそれはスピードを殺すんです。周りの声も聞こえなくなり、職場も改善されない。
今朝もサンノゼにてスタートアップ企業やら優良企業の500人の幹部と時間を共にしてきました。その内の400人に、「仕事仲間と率直な付き合いができているか」と聞きました。
すると、手を挙げたのはたったの4人しかいなかった。たった4人。人々が組織の中でストレートなことを言えない事実はもはや恐ろしいことです。あなたも経験ありませんか?
ジョス:私は幸いにも良い会社で働いていたので。そこでは赤裸々なフィードバックができるような改善がされていました。けれどやはり入社当時はそうではなかったですね。
ウェルチ:そう。本当に時間がかかる。
ジョス:本当のリーダーシップとコミットメントというのは特にね。
ウェルチ:その価値観は報いる必要があるし、さらに言うと、最終的には自分が報いた分だけの振る舞いしか返ってこない。正直なものを評価すれば自分にも正直なものが得られる。
ジョス:著書の中で、率直ということだけでなく、区別についても書いていましたね。人々の立ち位置について正直になる。つまり上位20パーセント、中位70パーセント、下位10パーセントという、有名なあなたの理論です。
ウェルチ:「有名な」とは、いいふうに言ってくれますね(笑)。
(会場笑)
区別というのは学校にはあると思います。誰がトップで誰が最下位の学生かというのがわかる。面白いことに、4年生からMBAまで成績付けは許されているいのに、大人にはそれが適応されない。これはおかしい。この間違った優しさが、トラブルになるまで何も言わないという状況を生むんです。
私の考えは、上位20パーセントの面倒をまず見る。もちろん内容は変化します。財布も心も、どっちも温めてやるのです。もうなんでもしてあげる。70パーセントに対しては、20パーセントになるために何が足りていないかを教える。残りの10パーセントには転職の理由を教える。
ただし、切り捨ててしまうようなことはしてはいけない。1年くらいかけて足りない部分を教えるのです。2〜3パーセントの昇給などは絶対にしてはいけない。ダラダラ居座られるのでね。
(会場笑)
賃金の問題をキッチリ分離して、退職してもらう。何ヶ月かは転職を手伝う。こうしたほうがよっぽどいい。西海岸のなんとかバレーのほうでは、この手のトラブルがあると聞きますから。
そこではこんなふうに行われます。コスト削減、解雇も必要。そしてある時こう言うのです。「ジョー、マリー、あなたたちは今日からクビです。コスト削減だから」「なんで?」という顔の彼らに対して、「有能じゃなかったから」と言いますが、それを聞いた彼らも「12年、誰もそんなこと言ってこなかった」と思います。
間違った優しさがこういう結果になるんです。勘違いさせてしまう。キャリア後期でこれが行われれば、マネージメントとしては最も残酷なこととなってしまう。だから、責任をもって人を導くということは、ちゃんと立ち位置をわからせてあげるということでもあるんです。
ピカピカのMBAを持って卒業して働きだす皆さんのことですよ。リーダーや自営業、何かを始める人も、とにかくこれはあなた方にもあてはまることです。
リーダーと名乗ったその日からは、もう全ては部下のためなのです。自分の未来は全て彼らに委ねられているのです。チマチマやっている場合じゃなく、彼らを優れたグループにしなければいけない。
痛い目を見ることもありますが、成長するにつれ、彼らの成功から利益を得ることにもなります。チームを良くしていくということを差し置いて自分のことだけやっていたら、社会にあなたの居場所はなくなります。
ジョス:著書の中で、ミッション、価値観、意見、尊厳といったものを「第一の規則」として、「企業が成功するためにはなければならない」とも書いていますが、それができていない企業がいかに多いかということについて、驚きはありますか?
ウェルチ:ショックです。そういったものは本当にまわりくどい。本当は実に明確であるべきなのにです。行き先を明確に定義して、それに向かうべきものなのですが、あるべきではない言葉が邪魔をしてししまっている。これはもう本当にハッキリしないといけないことなんです。
私は価値観のことを振る舞いとも呼びます。ミッションにおける価値観とは、目的を達成するのにふさわしい振る舞いなのです。そしてそれを理解し、金銭的にも精神的にも報酬をあたえるのです。それが振る舞い。そしてそれができない人がいたとしても、どうこう言うのではなくて、価値観を持ち合わせてなかったということできっぱり切り離すだけです。
アメリカの企業社会で見る最も異常なことは、法律家などによって経営されている会社が不正に陥ることです。価値観が合わなかったから解雇したなどといいますが、そんなことをした人は罰として晒してもいいくらいなのです。
ちゃんと理にかなったことをしないといけないんです。そして正しいことをしているのなら、それを恐れず全面に出せるはずなんです。ミッションや振る舞いを堂々とする。意見と尊厳を全ての従業員に与え、透明性のあるスタイルで信頼を構築する。時間はかかりますが、それによって築くものには意味があるのです。
ジョス:信頼に関して、著書の中のリーダーシップのチャプターにこうありましたよね。
「リーダーは信頼を得なければいけない。誰も与えてはくれないから自分で得る」
その信頼が得難くなるほどの報酬を、幹部が得るのは可能なのでしょうか? 公平とか不公平とかと思わないですか?
ウェルチ:ゲームをハッキリさせないといけない。自由市場と資本主義ということですが、もちろん欠陥もある。そもそも完璧な答えというのはありませんから。なので、報酬がいくらであるのが正しいということは言えませんが、透明ではあるべきです。人々は機会を知って、それを手にするべきでもあります。
報酬と信頼は一緒にするべきではないと思っています。悪い上司が、チームを作らずに大金を手にしていることだってあります。しかしビジョンを共有してチームを作る者だっています。
しかし給料や離職に関する問題は今日では大きな問題となっています。離職は特に皆が大騒ぎするトピックです。退職して2200万ドルを手にしたという話も、問題なのは2200万ドルを手にしたことなのではなく、その後の引き継ぎプランがなかったことが問題なのです。現役CEOが失敗して、新たな人材を得るために大金を費やす。こういった問題はいつも始め方と終わり方に原因があります。
例えばタイコ(米セキュリティ企業)の場合。皆さんはあの騒動は知っていると思いますが、彼らも引き継ぎプランがなかった。だから彼らはモトローラ(米通信機器メーカー)のエド・ブリーンを獲得しにいった。けれど彼はそんなめちゃくちゃなところに行きたくはなかった。
(会場笑)
GEには引き継ぎプランがあって、最終的に3人の候補がいました。ジェフ、Home Depot(米建築資材チェーン)に行ったボブ、3M(米複合企業)に行ったジム、3人とも等しく有能でした。ジェフがGEに来ましたが、他の2人の行ったところには引き継ぎプランがなかった。でも3人とも出世したことに変わりはないですね。
(会場笑)
ジムとボブには、トラックが大金を積み込んでいたみたいです。悲惨な離職をコントロールするためには、引き継ぎプランは必須なのです。
ジョス:ボブはここにも来たことがあって、当時はうまくいっている感じでしたけどね。
ジョス:著書の中では、読者にとってはショッキングな内容もありましたよね。私にとってはそうでもないですが。「最高人事責任者は最高財務責任者より重要である」とか。
ウェルチ:そうなっていないのが現状です。妻のスージーとメキシコで話していたのですが、メキシコで人事担当者5000人と話をした時、最高人事責任者と最高財務責任者が対等である人に挙手を願ったのですが、50も挙がらなかった。
しかしGEでは、その手が挙がらないなんてことはありません。数字を数えている人より、なんだったら人事のほうが重要だということを皆が知っています。好きなたとえ話があるのですが、「自分が野球チームのコーチだとして、いいチームを作るために、選手担当と会計係のどちらとつるみますか?」というやつです。
会計係は、例えばバリーボンズ獲得のためにあといくら残っているかとかを、数えることしかできないんです。会計とつるむCEOなんてどうかしています。
(会場笑)
ほとんどの会社が人材担当に楽な仕事をさせてしまう。しかし彼らを上手く使って熟練した幹部を育てれば、チームを作るにあたって強力な助けとなるのです。
優れた人材担当は、人々の声を聞き、子を育てる親のようなものなのだと我々は言っています。なので彼らを昇格させ、スターにする必要はおおいにあるのです。人材担当への疑問というのは、その考え自体が重要なことなのです。皆、自分が人材のプロだと思っている。
(会場笑)
「誰か助けがいるか?」という視点がそもそもおかしいのです。サーベンス・オクスリー法は必要なのです。正直でなく、値踏みし、財務諸表を扱うように人を扱うような企業をただすために。企業に規律をもたらすためにはやはりサーベンス・オクスリー法を含む自分の考えが必要だった。
ジョス:会計に携わる以上、M&Aというのはよく聞きますよね。著書にも「文化の適合は戦略の適合より大事」という章がありましたが。
ウェルチ:もしくは等しくね。
ジョス:投資銀行に文化適合の側面はないですよね。
ウェルチ:そのようでした。モルガン・スタンレーとかゴールドマン・サックスとかいう、ウォールストリートの有名企業に皆さんも行くでしょうが、あなたたちですよ、そうやって殺した相手で食っていくのは。
(会場笑)
指標が全てボーナス、ボーナス、ボーナスみたいな所です。ビジネス間でアイデアをシェアしたり、そうして境界を越えた考えがリーダーやスターを生むみたいなものとは全く違った世界です。
ウェルチ:話をM&Aのチャプターに戻しますが、その中でも最も馬鹿げたものが「ディール・ヒート」です。MCI(米電気通信事業者)を見てみるとわかりますが、60億ドルで良さそうだったのに、過熱してしまって止まらなくなってしまっている。
一度始まるともう大変なことになる。M&Aの大罪の1つはディール・ヒートです。君らのような若き投資銀行員が、そんな愚かな行為をやらかしてしまうんですよ。そして過熱しすぎた時に切られるのはあなたなんです。
(会場笑)
ジョス:スタンフォードのMBAじゃなくて?
ウェルチ:違います。答えも知識もある支配権のある人ではなくて、静かな人のことなのですが、彼らの行いの最も愚かなところは、自分の企業を誰かが買収した時に、膨れっ面をして抵抗することです。
そんなときに何が起こるかと言うと、不服そうにしてるインテリよりは、ポジティブな一般人のほうがいいと人は思ってしまうんですね。このばかばかしいことがいつも起こる。そんな人材についてのチャプターは『Winning』にあります。M&Aの七つの大罪です。
ジョス:ここの学生たちも非常に興味があるであろう「ふさわしい仕事」についてのチャプターもありますよね? 「すばらしい仕事は、人生に意味をもたらし、エキサイティングなものにする。悪い仕事は、人生を搾取する」いい仕事ってどうやったら就けますか?
ウェルチ:257ページを読んでください(笑)。5つ、ハッキリとした項目があります。まず1つは人。仕事を探すときは、自分に似た人を探す。同じ冗談で笑えて、自分のように考える相手です。同じ繊細さを兼ね備えている人ですね。自分がオタクだったら、オタクを探せばいい。混乱してはいけないのですが、人格を作ってはいけない。
チャンスについて考えているのなら、自分よりできる人に囲まれた環境に身を置くことです。自分が学び、成長できる場です。自分が1番になるような場所に行っても、自分のためにはなりません。スタートアップや起業について言っていますが、会社に勤める人にとっても価値のあることです。
3つ目は選択について。もし会社について何が正しいかハッキリわからないのなら、私ならブランドのある会社に行くでしょう。ブランドは役に立ちます。マイクロソフト、ジョンソン・エンド・ジョンソン、Wells Fargo(米金融機関)、何でもいいです。
なぜなら2つ目の職場を探す時に、ブランドは役に立つからです。別にできるわけでなくても、人はデュポン(米化学会社)の人を雇いたがる。とにかくマイクロソフトだったらいいんです。役に立たないやつでもね。まあ、それはバルマー(マイクロソフトCEO(当時)スティーブ・バルマー)に聞けばいいんですけどね。
ジョス:本当に役立たずが多いかをね。
(会場笑)
ウェルチ:ブランド志向も捨てたもんじゃないんです。
ウェルチ:4つ目はオーナーシップについて。仕事ではなく会社を自分のものにするのです。何かを誰かのせいにしてはいけない。「母がここから離れないでと言っている」とか「家族がいるから出張できない」とか言うのなら、それを自覚して下さい。自分のせいなので八つ当たりをしない。
最後に、しっかり働く。変人だと思われるくらいに。10ドル15ドル多いとかいう理由で仕事を選んではいけない。本当にやる気があって毎日ワクワクさせることを選ぶのです。それが仕事です。「いい仕事が見つかるまでとりあえず今だけ」とかそんなんじゃないんです。そんなものは上手くいきませんから。
この5つの項目が役に立つと思います。背中の痛みのことで、あるレントゲン医師のところへ行った時のことです。ステロイドの注射をくれたので私はこの項目、257ページを教えてあげました。彼は防護エプロンを着て注射をしてこういいました。「ああ、もう辞めたい」「やっていることも人も仕事も何も好きじゃない」と言っていましたね。
(会場笑)
ジョス:ワーク・ライフバランスについて「可能だけど、自分の力で手に入れなければいけない」と書いていましたが。
ウェルチ:そうそう。会社ですからね。家族に優しい会社がいいというのはもちろんわかる。でもそれをするのは会社の役目ではない。リクルートのツールなだけで、上司を立てるためのチップみたいなものです。バレーだろうがヨガだろうが子供のためだろうが同じです。
それは古いチップの慣習みたいなもので、うまく使うことでフレキシビリティを得ることができるのです。そしてその効果は明らかです。本にも書いたのですが、ある友人が60人のチームを指揮していました。その中のある女性に2人目の子供ができました。彼女は8年働くスターでした。そしてこう言いました。「金曜と月曜は自宅勤務にしたいので、オフィスに来るのは週3回でもいいですか?」周りは「もちろん!」といった感じでした。
それとは打って変わって、チャキチャキの若者が「金曜と月曜を休んでもいいですか?」と聞いた時に、上司は「なんで?」と言いました。彼は「ヨガを極めたい」と言い、上司は「もってのほかです」と答えました。すると彼は「子育てはヨガより大切というジャッジですか? あなたにそんな権利はありません」と言いました。
上司は、「ジャッジではありません。この6ヶ月何も成していないあなたにはフレキシビリティなどありません。今だって仕事全然できてないですから」と言いました。
(会場笑)
こういうことなんです。与えるから、自分にもフレキシビリティが与えられる。上司が必要としている時にそこにいないあなたに、物事は都合良く働いてくれません。フレキシビリティを得るためには、そうなるシステムを自分で構築しないといけない。
ジョス:ジャック。あなたはマネージメントをそういう方法で学びましたよね。マネージメントとリーダーシップをかってでることで、自分自身マネージャーとしてのリーダーシップを学んだ。そういった生活から離れてからは、それについてどのくらい話していますか? 本を書いたりして反映させることで学ぶものはありましたか?
ウェルチ:思い返して反映させることはよっぽど簡単ですね。実際に行動してるときはむちゃくちゃなことが多い。試行錯誤ですからね。本で自分の知っていることは全て明文化していますが、過去の3年は、働きだしてからの最初の40年より学ぶことが多かった。
ジョス:なるほど。自分の過去の行動を理解することでですか? 何がうまくいって、何がうまくいかなかったとか。
ウェルチ:行動中は、戦場ですからね。四方八方からものが飛んでくる。動きながらではそれら全てを考えられない。役にたてばいいですがね。こうして書いている今の自分のほうががよっぽど賢いです。そうですね、もう死ぬほど学んだってとこでしょうか。
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