2024.10.10
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鳥越俊太郎 仕事の美学(全1記事)
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鳥越俊太郎氏(以下、鳥越):私がなんでこういう仕事ができてるのかときどき考えますけど。1つは小さいときから、恐らく小学校2年生3年生ぐらいから本を読んでたんです。講談本と言われる『猿飛佐助』『真田十勇士』こういうたぐいの本を、もう必死になって読んでた。
結構厚い本ですけど、漢字に全部仮名が振ってあって、もう自然に漢字も覚えてしまう。だから私は小学校中学校の間、全校で一番、漢字については知ってるという、それだけの自信はありましたね。それぐらい本を読んでた。
そして、中学生になると図書館行って。ちょっと色気づいてくる頃ですから、ディケンズの『二都物語』だとかバルザックの『谷間の百合』とか。あとはスタンダールの『赤と黒』とかですね。背伸びして、ラブストーリーみたいなものを読んだりしてました。
だから読書量だけは誰にも負けないくらい。大学生になってからも、本を読む。そういう読書量によって支えられてるひとつの、なんて言うんでしょうね。僕はどういう表現していいのかわかりませんけど、読書というのは、本を読むということは、一体どういう作業をするのか。つまり脳の作業ですね。脳の中で何が行われているのか。活字を読むということは、どういうことなのか。
これは後で考えたことですよ。読んでいるときに考えることじゃない。活字ってのは皆さん、記号ってあるじゃないですか。記号。活字の1つひとつというのは何の意味もない。まあ漢字にはもちろん意味があります。しかし平仮名にいたっては、意味のない記号の羅列ですよね。しかし並べると1つのまとまりになって、意味を帯びてくる。
しかし意味は出てくるけど、それじゃあまだ、その言葉の本当の意味はわからない。たとえば「ぞう」という単語を見たときに、頭の中にエレファント、象の姿が浮かんでくる。これは日常的な経験の中で、読書を重ねていく中で、頭の中で活字という記号に過ぎないものを、一度変換作業を行なって、具体的なものに変換したんですね。それで、鼻の長い象という姿を思い浮かべる。
つまり抽象から具象への変換作業をやるんです。反対に何か書くときは、具体的なものから抽象的な記号に置き換えるという頭の作業があります。この両方の作業を読書によって、言葉というもの、言葉がどういう意味を持ってるかということを、身につけていくわけですね。
それが非常に豊かな人が、恐らく作家になったりするんでしょう。作家でなくてもいろんな、表現活動をすることになると思うんですけども。本を読むということがいかに大事か、ということを、私は後になってわかった。私はあんまり、自慢になることではないかもしれませんけど、努力というのは嫌いなんですね。
私がここで皆さんに申し上げたいのは、努力というのはね、1も2もなく100%これは正しいことだ、いいことだと皆さん思ってません?
親からも「努力しなさい」、学校の先生からも「努力しなさい」。世の中の皆さんが普通に思っていることは、努力というのはすればするほどいい。何かやるとすれば努力次第。努力しない人はちゃんとした褒美を与えられない、結果を与えられない、というのが常識だと思うんです。努力するということは、必ず、大変大事なことだと教えられてるんです。
しかし、私は努力することは嫌いで、コツコツやるのはだめだった。私は高校は進学高校に進学しまして、久留米大学附設高校というところに入ったんですけれども。受験勉強というのをほとんどしない、そのままで高校に入れました。
大学の進学というときも、受験勉強はほとんどせず、夏休みの補習授業というのを全部ボイコットして、山に登ったり、無銭旅行をやったり、そういうのばっかり。
私は本は好きだから読むんですけど、しかし努力をしてコツコツやるのは、本当に好きではなかった。いまになって思うと、努力は別にしなくてもいいんですよ。1も2もなく努力というのはとにかく大事だというこの常識を、僕はとりあえずみなさんに捨ててもらいたい。
(会場笑)
努力しなくていいですよ、人生は。だけど、僕は努力しない代わりに何を持ってたかというと、好奇心があったんです。つまり何か知りたい、見たい、聞きたい、触りたいという。何々したいという、こういう好奇心が人の何倍もあった。小さいときからですよ。
だからもちろん、女性に対する好奇心もいっぱいありました。いまはなくなりましたけど。
(会場笑)
まあ、まだ残ってますが、もう75歳ですから。もう露骨な好奇心は、残念ながらもうないです。でも、好奇心は失せてません。
ちょっと話は逸れますけど、私は毎朝、タニタの体重計に乗ってます。毎日ノートにつけてます。体重から始まってね、体内年齢とかね、いろんなものが出てくるんですよ。それ全部ずっとメモしてるんですけど、私の体内年齢いくつだと思います? 私75歳です、実年齢。そして、体内年齢。
参加者:50歳。
鳥越:48歳なんです。
(会場笑)
本当に僕は最初驚いてね、48歳って出たから機械狂ってるかと。それではっと思いついて、うちの奥さん連れてきて、ちょっと乗ってみろと。うちの奥さんが乗ったら、ほとんど実年齢に近い体内年齢が出てきた。だからこの体重計は狂ってない。俺の体内年齢は48歳だということで、非常に嬉しかったですね。
しかし人間には年齢がもう1つあって、それは心の年齢です。これは測るものがない。ものさしがないので、自分で決めるしかない。皆さんも自分で決めてください。自分いくつくらいか。測るものさしは好奇心です。好奇心がいくつくらいのときと同じかというので、測ってもらいたい。
私は、心の年齢は18歳です。18歳のときといまと、全く自分では変わってないと。好奇心全体の大きさとか幅とか、そういうことでいうと、変わってない。だから私は、18歳のときと同じ精神状態を保ってるので、心の年齢は18歳。
(会場笑)
だからね、皆さんも測ってみたらいいと思うんですよね。自分の体重計に乗って、自分の体重、実年齢、体内年齢、そして心の年齢。これをね、一応自分の中で測ってみたらいい。自分はいくつくらいかなって。自分の実年齢より年上の心の年齢が出たらもう、死んだほうがいいよ。
(会場笑)
やっぱり僕は生きている以上、実年齢を下回る心の年齢を維持したいです。そして若さが保たれる。これが何の好奇心もなくてぼーっとしてるようになったら単なる老人、ボケ老人になります。
私、75歳ですよ。今年の4月に渋谷区役所から保険証の切り替え通知が届いて、「あなたは後期高齢者向け保険証というのを使いなさい」とあって、カード式のは返還しないといけない。オレンジ色の紙があって、そこに後期高齢者保険証って書いてある。いちいち後期高齢者って言うなよと。
(会場笑)
だけど、私の場合は自分で後期高齢者と思ってないから。自分では18歳だと思ってるから。しかし身体が18歳というわけにはいかないので、身体の健康上の異常はいろいろあります。
しかし、髪の毛の薄い方は申し訳ないですけども。私は癌で手術を4回やったんです。それで抗癌剤を3年飲んだ。だけど幸い髪の毛は抜けなかった。この髪の毛があるおかげで、私75に見えない。若いって言われる。この間も58歳と言われて喜びました。それはちょっと言い過ぎだろって(笑)。もうちょっと実年齢に近いほうに、「75には見えませんね」くらいには言ってくれていいと思うんですけど。だから見た目年齢、心の年齢は意識してます。
そして、もう1回努力の話に戻りますと、努力をしなくても私は京都大学に入った。本当に京都大学文学部しか受けてないんですよ。ほかは一切受けなかった。1つしか受けてない。
私は高校の担任の教師に「お前の学力では京大は無理だから九大にしとけ」と言われた。それでまあ皆、友人は全部九大に行った。
私は小さいときからの性格として、人と同じことをしたくない。つまりめちゃくちゃ天邪鬼だった。人が「右に行く」と言ったら私は「左に行く」と言う。そういう根っからの天邪鬼タイプで。
私は小さいときから嫌いなものが3つある。どうしても嫌なもの。1つはジャイアンツ。
(会場笑)
周りは全部ジャイアンツファン。2つ目が自民党。周りが全部自民党。3つ目が東京。皆東京へ行きたがるから。ところがもうね、自民党はこれ好きとか嫌いじゃなくて取材の対象ですから、あんまり好き嫌いだけを言ってるわけにはいかない。いまの安倍政権を別に好きだとは言いたくはないけど、それは別として。
東京はもう自分が住んでますから、好きとか嫌いとか言えません。最後のアンチジャイアンツだけは守りぬいております。これだけは絶対に。
そういうふうに天邪鬼な性格があって、九大は行きたくない。皆が行くんだから。私は母親が京都の出身で、京都というと何か馴染みがあったもんですから、京都行きたいなと。
そしたら担任から「お前の学力では無理だから、九大にしなさい」と言われたけれども、私は「いや、浪人して行きますから」と言って、入試の1ヶ月前に、京都に行って下宿をしまして。もう落ちるもんだということで予備校に手続きとって、4月から予備校に通うことを決めた。
入試は3月3日から3、4、5日と試験があって。私は合格発表の日はですね、見に行かなかった。もう落ちたと思ってるから。そしたら夕方5時頃になって、下宿のおばちゃんが、「鳥越さん、一応見てきたらどう? 万一ということもあるから」って。こういうとき「万一」って使わないよね(笑)。「万一」って悪いときに使うからね。
(会場笑)
まあおばさんが間違って使ったんですけど、とりあえず僕はそうかと思って。銀閣寺の横から下駄履いてカランコロンと坂降りて、京大文学部の事務室のところに行った。もう誰もいませんよね、夕方5時って。だって合格発表って午前9時とか10時でしょ。だからもう皆帰っていない。私1人だけ。
そしたら、壁に貼ってあるんですよ。受験番号が。こう見てたらですね、私の受験番号が書いてあるんですよ。「京大ってやっぱ変なところだなあ。落ちた人の番号も書くのか」と一瞬思ったんですよ。
(会場笑)
そう思ったんだけど、頭のほうみたら合格者発表って書いてあるから、あれ、受かったのかと。しばらくは信じられなくて。
自分でわかってるんですよ。数学の試験は全然だめだったとか、日本史も1番最後の問題は、「近代史における日本の科学の進歩について、科学者の人名を5人以上挙げて200字以内で書け」とかそんな試験でした。ところが私の高校の先生は、九大の教授を辞めて、よぼよぼになってきた老人だった。だから、授業が江戸時代で終わったんだ(笑)。
(会場笑)
だから近代わからないんだよね。書けなかった。そういうのがあるから落ちてるんだと思ってた。だけど、見てみたらあったんです。
これは1つだけ思い当たるところがあるのは、私1ヶ月前、2月1日から3月3日の入学試験まで、2月ですから28日までしかないんですけど、3月の1日と2日もありますから、合わせて30日間くらい京都の下宿に住み込みまして、朝5時に起きて夜の12時に寝るまで、トイレと食事をする以外は全部、受験勉強をした。
受験勉強といっても、当時7科目の試験ですから、英語、数学、国語、社会2科目、理科2科目。それで僕は、英語と数学と国語は今から勉強しても身につかないと。だから自分の地力でやるしかないと思ってこれは捨てました。
そして社会と理科の4科目については、『傾向と対策』っていう参考書知ってるでしょ? いまでもあると思いますが、『傾向と対策』という本を買ってきて、それを繰り返しやったんです。ほかの参考書に目もくれず。もう『傾向と対策』だけを繰り返し、繰り返しやる。4科目。
化学なんかですね、それを何回も繰り返すと、化学式が頭に入ってきたんですよ。いまはもうほとんど全部忘れてしまいましたけど。当時はもう化学式といったら任しとけ、みたいな感じ。
恐らくね、化学の試験は100点取ったんじゃないかと、後で思うんですよ。数学なんかはボロボロでした。日本史だって最後の設問白紙で出しましたから、だめだったんですけど。
でも化学とか生物とか、人文地理とか、そういう『傾向と対策』で集中してずっとやってたものが、恐らく身についたんですよ。だから何年もかけてダラダラと努力して身につけたものじゃなくて、本当に束の間の、瞬間に、集中して詰め込んだものなんですね。記憶力はその当時まだいいですから。
僕は学んだのね。人生において大事なのは、1つは好奇心。これが大事だと。それからもう1つは集中力。努力してるとね、集中力が落ちるんですよ。自分は日頃からコツコツやってたと思うから、別に普通にやってれば大丈夫だと。
僕の場合は、日頃努力してない。だから高校時代、試験の結果、模擬試験なんかの結果が貼り出されるんですけど、大体私、学校で16番、1桁台には入ったことないんです。言ってみれば1番手クラスじゃなくて2番手クラス。
だけど僕はね、「俺、努力してないから、まあそのくらいだろう」と。でも「俺が努力すれば上のクラスに入れるんだろう」という非常に前向きな気持ちがありまして、あんまり焦ってなかった。
でも最終的には最後の1ヶ月間だけで集中したんですね。そのおかげで、恐らく京都大学に入れたと。普通は入れないですよ。私、受験勉強何にもしてないんだから。だから人生において大事なのは、1に好奇心だけど次に集中力というのがあるよと、いうのを学びました。
それで新聞社に入って、仕事をいろいろするようになりました。新聞記者になるつもりもなかったから、はじめは何も別に努力もすることもなく、言われたことを「はーい」とやってた。その内だんだん、この仕事俺に向いてるかもと思い始めた。
それはなぜかというとね、努力してませんので、論理的にものをきちっと段階を踏んで考えていって、1+1=2みたいな、そういう論理的思考が全くないんですね。いまでもない。論理性はまったくゼロ。
だけど私にあったのはですね、そのとき新聞記者になってわかったのは、論理性はないんだけど、直感力があると。ひらめき。これはこうじゃないかという、何の裏づけも意味もない、直感力。
これが自分には結構備わってると。若い頃は、ひらめいて「こうじゃないか」と言うと先輩に怒られてた。「お前何を根拠にそんなこと言うんだ」と言われても説明できない。「いや、こう思うんです」と。そして、当たらないことが結構あった。
それがだんだん歳を重ねて経験をし、いろんな人と会い、いろんな失敗もし、いろんな恋愛もし、失恋もし、映画も観て、音楽も聴きというふうに、まあいろんな人生経験を積んでくると、データが頭の中にちょっとずつ、ちょっとずつ蓄積されていく。
直感というのはコンピューターのマッチングですね。データがコンピューターの中にいっぱい入っていて、たとえば「三省堂」というのを打ち込むとパパパパッと答えが出てくるでしょ。あれがコンピューターの世界、あれはずばり論理的な0101の世界ですけれども。
脳もそれに似たところがあって、人間の脳というのは、様々な経験が頭の中にデータとして残ってる。それがある事象に出会ったときに、パパパパッと瞬間的にひらめいて、こうじゃないかと結論を導き出す。これを直感力と。これが人間のインタビューで結構大事だということがわかりました。
新聞記者をやってる中に、直感力を使って、テレビでもそうですけれども、こうでないかと。警察がこう言ってるんだけどもこっちはこうじゃないか、僕はこうじゃないかと思ってるということが、当たったことは何遍もある。
それ以来私は、自分の直感力を信用することにしました。その直感力ということについて、人生においてそれがいかに大事か、必要かということを、本の中に書いてあります。本を読んでください(笑)。
(会場笑)
これ読まないとわからないと思いますけど(笑)。私にとって人生において大事なこと、私がいま皆さんに言えるのは、1に好奇心、2に集中力、3に直感力。この3つです。後はどうでもいい。努力なんかせんでもええ。私は、そう思ってる。
皆さん方、一人ひとり違うタイプの人間ですからね。だから型にはまって考えなくてもいいと思います。私は1つの生き方みたいなものを、私の経験で申し上げます。それは参考として皆さん受け取っていただいて、もし自分に合ってるところがあれば、それは取り入れていただきたい。
そうじゃなければ、「俺はこの道を行く」と。論理的思考できっちり物事を考えて、「安倍政権は良くない」という結論にいってもいいし。
(会場笑)
私は何も考えないで、「あー安倍はダメだ」と直感で言ってるわけです。そういう、まあ安倍さんの話は忘れてください。これたとえ話ですから。
(会場笑)
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