2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。今回のセッション「新しい社会を創る、新しい仕事」第2部には、株式会社ウィズグループ 代表取締役の奥田浩美氏、インティマシー・コーディネーターの西山ももこ氏、JPYC株式会社 代表取締役 岡部典孝氏、富士通株式会社 Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也氏の4名が登壇。今回は、大企業でイノベーションを起こすためのポイントなどを明かします。
奥田浩美氏(以下、奥田):(本多さん)本人の自己紹介にいきますか。
本多達也氏(以下、本多):確かに。「お前は何してるんだ?」という(笑)。
(一同笑)
奥田:そうそう(笑)。まず、これだけ突っ込んできた本多さんが何をされているのか。
本多:みなさん、こんにちは。本多と申します。よろしくお願いします。「Ontenna(オンテナ)」という装置を、学生時代からずっと研究開発しています。これは、音の大きさを振動と光の強さに変えて、聴覚障害者、ろう者の方に音を伝える装置です。
学生時代に耳が聞こえない方とたまたま出会ったことがきっかけで、手話通訳のボランティアやNPOの立ち上げをやっていました。もともとバックグラウンドとして、デザインやテクノロジーを勉強していて、彼らに音を伝えたいという思いで(研究開発しています)。
これは音の大きさによって振動します。今、会場が騒がしいのでずっと振動しているんですが、プッシュボタンを押すと複数のOntennaが同時に振動するので、ろう学校の先生が耳が聞こえない子どもたちにダンスを教えることができるんですよ。これでみんなで一緒にダンスを踊ったり、太鼓を叩いたりできます。学生時代の卒業研究でずっとこれを研究していました。
「未踏プロジェクト」って、ご存じですか? 奥田さんはずっとアドバイザーをされているんですが、僕は学生時代からお世話になっていて。(未踏プロジェクトがきっかけで)富士通という会社に入って、これを製品化させてもらって、なんと今は全国の8割のろう学校に(Ontennaが)導入されています。
奥田:すごい。
本多:これをヨーロッパに広めたいという思いもあって、2ヶ月前までデンマークに行っていました。その時も、奥田さんに「こんなので仕事になるんでしょうか?」「僕は新入社員として普通に就職した会社に、このままいるべきなんでしょうか?」みたいな感じで(相談していました)。
奥田:「でも、必要とされるでしょう?」みたいな(笑)。
本多:それで、新入社員で受かっていた会社を辞めて、富士通に入ったんです。だから(奥田さんには)そういう時から心を押してもらっています。
奥田:今日は新しい職業、仕事を作られているということで来てもらっています。この「Ontenna」というプロダクト自体も新しいんですが、それよりも彼は企業の中で新しいポジション、立ち位置を作っています。そのあたりもお願いします。
本多:そうですね。僕は今、社会・社内起業家の「ソーシャルイントラプレナー」という立ち位置で活動させてもらっています。要は、会社のリソースを使いながら、「社会にとっては必要だけど、めっちゃ儲かるわけでもないよね」といったところに対して、もっとアクションしていこうということで、Ontennaプロジェクトをやっています。
Ontennaは全国発明表彰の「恩賜発明賞」を受賞したんですよ。富士通の法務・知財の人たちがめっちゃがんばってくれて、受賞しました。
法務・知財の人って、バックオフィスというか、なかなか表に出ないじゃないですか。それがこういった賞を通して社会に評価されたので、みんな喜んでくれました。「Ontennaを見て富士通に入りました」みたいな人も出てきてくれて、そういうのもうれしいですよね。
また、「エキマトペ」という、AIを使ってリアルタイムに音をオノマトペにするプロジェクトも作っています。当事者と一緒にアイデアを作って、社会実装していくようなプロジェクトを社内でやらせてもらっている状況です。奥田さん、いつも本当にありがとうございます。
奥田:こちらこそ、ありがとうございます。学生時代から15年くらい?
本多:そうですね。10年くらいですね。
奥田:10年くらい?
本多:まだ33歳なんだよね。
奥田:(笑)。(出会ったのは)20歳くらいでしたよね。
本多:そうですね。
奥田:そこからずっと伴走していて。
奥田:最初は「こんなのが本当にプロダクトになるの?」「これが本当に必要とされるの?」「これが売れるの?」「大企業の中で、これでどうやって食べていくの?」と。特に大企業の部分は、私が言うのもなんですが、富士通さんの売上を支えている金額ではないと思うんですが……。
本多:圧倒的に食いちぎっている気がします(笑)。
奥田:でも、富士通に生み出している価値の大きさが、ソーシャルイントラプレナーと呼ばれるゆえんなのかなと思います。
本多:そうですね。日本の企業って、ちゃんと大きいし、トラストもあるし、ある程度の予算もあるじゃないですか。それをもっとソーシャルな部分に突っ込んでもいいんじゃないかと思うし、そこで新しいチャレンジができてもいいんじゃないかと思って。
こういうソーシャルイントラプレナーのコミュニティを広めていきたいなと思っていたら、お声掛けいただいて、いつもありがとうございます。
奥田:彼は、富士通という大きな組織の中のお金をいい方向に生み出しています。実を言うと、私が国の事業・自治体の事業が大好きなのは、私が(お金を)もらうのではなく、私の目の前を通ることで、いい方向に振り分けられるんじゃないかなと思っているからです。だから、大きなお金は大好きです。
本多:確かに。奥田さんは、それを地でずっとやられていますものね。
奥田:やっています。
奥田:どういう背景があるかと言うと、私は若い頃にマザー・テレサの施設でフィールドワークをやっていたんですが、マザー・テレサが「私の目の前に来たお金は、どんなお金でもきれいにします」と言っていたんです。
本多:マザー・テレサ、そんなこと言う(笑)?
奥田:言ってたんです!
本多:すごい(笑)。あの人、お金の話するの?
奥田:します。
本多:そうなの?
奥田:私、彼女の言葉の中でこの言葉が一番好きなんです。
本多:確かに。
奥田:それは、南米から来るお金がものすごく批判されて、「ギャングから得たお金じゃないか」「色がついたお金なんじゃないか」と糾弾された時に、「その背景が何であれ、私の目の前に来たお金はきれいなお金にします」と言った言葉(だからです)。
「(マザー・テレサが)そんなこと言うわけないじゃん」というくらいの言葉なので、あまり知られていないのですが、私はその言葉が大好きです。
本多:本質をついている感じがしますね。
奥田:本質をついていますよね。世の中のお金は一番いい方向に回ってほしいから、仕事という括りも大事だなと思って、(今の話を)聞いておりました。
本多:おもしろい。
奥田:第1部と同じように、どんな社会背景があって、これが仕事として成り立ってきているのか。自己紹介の部分でもたくさんおっしゃったと思いますが、今度は本多さんから。社会背景の変化と、自分の職業との関係性を(教えてください)。
本多:みなさんも言われているかもしれませんが、SDGsの背景やESG投資の話があって、株主からの目線が重要になってきています。
企業は何をすればいいのかという時に、例えば「木を植えます」「水をきれいにします」という活動もめっちゃ大事だと思うのですが、それをソーシャルの、これまで光が当たらなかったところに当てていくのはすごく重要かなと思っています。
加えて、みなさんのようなイノベーターというか、「やりたい」みたいな思いは大学の研究の中にたくさんあります。でも、お金にならないということで、結局やめてしまうことがよくあります。そういうのをもっと世の中に出していきたいという思いもありました。たぶん、そこのマッチングがうまくいったんだと思います。
奥田:デンマークに2年間行っていて、ちょうど帰ってきたばかりですよね。
本多:はい。2ヶ月前までデンマークに住んでいました。デンマークは本当にいい国でしたね。(西山さんは)大学がフィンランドって書いてありましたよね?
西山ももこ氏(以下、西山):大学はチェコです。
本多:あれ? フィンランドの高校って書いてなかった? すみません。デンマークは社会保障制度がめっちゃ充実していて、世界一幸せな国と言われていますが、その分税金は高いです。例えば消費税は25パーセント、所得税は55パーセントなんですよ。めっちゃ高いです。
奥田:高っ。でも、払いますよね。
本多:はい。その代わり医療費はタダだし、大学に行ったらお金がもらえるし、おじいちゃんになってもちゃんと寮があって、返ってくる循環があります。たぶん、それが研究にも活かされています。
奥田:どんどん変わってきていますよね。
本多:そうですね。日本で言われる福祉的な研究も、かなり社会実装されている感じですね。
奥田:ありがとうございます。
奥田:では、西山さん。まさに女性の立ち位置が変わるなど、いろんな背景があると思うのですが、ご自身が考えられているインティマシー・コーディネーターが生まれてきた社会背景って、どんなことがあると思いますか?
西山:やっぱり、一人ひとりの声が拾われやすくなってきたところだと思います。
たぶん、みなさんの業界も私の業界も同じだと思うんですが、どこまでもパワーバランスがあります。「この人の(依頼)を断ったら、ちょっと仕事が減るんじゃないか」「この人にこう言ったら嫌われちゃうんじゃないか」といった背景がある中で、NOって言いにくいことが多いと思うんですよ。私自身、今でもそれは感じています。
ただ、それが2018年くらいの「MeToo」から、「声を上げていいんだよ」という世の中にやっとなってきました。今も声を上げたら潰されることは多いですが、1個の声がだんだん連帯を生むかたちになってきたことが、私たちのような仕事を生んだんじゃないかなと思っています。
奥田:それは男性・女性関係なく、「みんな声を出せなかった」みたいなことが現れてきていますか?
西山:ここにジェンダーはあまり関係ないなと思いながらも、特に女性はセクシャルハラスメントが大きくあったと思うのですね。日本でもいまだにあると思うし、それが声としてなかなか上がってこなかった。上がってきても、誰かに握り潰されたことがあるから、不条理を感じているのは女性がすごく多いんじゃないかなと思います。
奥田:「このシーンを受け入れなければ次の出演はないよ」と言われる前に、自分で押しつぶしてしまうイメージですか?
西山:例えば、「監督に好かれなきゃ、私は次に使ってもらえないかもしれない」とか。インティマシー・コーディネーターの私ですら、「プロデューサーに嫌われたら、次の仕事につながらないかもしれない」と(思ってしまいます)。
それが事実かどうかなんてわからないんです。もしかしたら「ぜんぜんいいよ」と言ってくれる人もいるかもしれない。でも、言う前に自分で閉じ込めちゃう。この国で育ったところもあるのかもしれないけど、それは大きいと思うんですよね。
これって日本特有だと思われがちですが、この仕事は実際にアメリカでもイギリスでもヨーロッパでもあるので、同じような境遇の人は多いんじゃないかなと思っています。
奥田:まさにNetflixとか、本当に多くの作品がそれに支えられていますよね。ありがとうございます。
奥田:では、岡部さん。社会背景の変化と(自分の職業との関係性をお願いします)。
岡部典孝氏(以下、岡部):社会背景としては、昔は規制を作って守ればいいだけだったのが、「イノベーションを起こさなきゃいけない」という機運が高まって、そういう空気になってきて、IVSもこんなに盛り上がるようになったじゃないですか。そうなった時に、当然、大企業もイノベーションに参画してくるようになったんです。
大企業の特徴としては、法律ができないと動けないんですよ。法律を作るためには、誰かが先に動いて実例を作ってくれないと、法律を考えるほうも何をやったらいいかわからないんです。まさにAIが最たる例ですよね。我々がやっているステーブルコインの領域、決済も日進月歩で、PayPayが出てきてどんどん進化しています。
では、新しい法律をどう作れば、イノベーションを阻害せずに利用者も守れるんですか? みたいなことを考えた時に、頭の中で空想していても何も始まらないんです。特に官僚の人が空想するのには限界があります。
そういう時に、誰かがやってくれというのが起業家に求められています。でも起業家からすると、「いきなりやると捕まってしまうかもしれない」と思うわけです。だから、「誰かやってくれ」という声がいろんなところから来ます。
本多:「お前、行けよ」みたいな(笑)。
岡部:そういう役割です。我々はある意味、行政からもお尻を押されていると思っています。例えば今は「決済の手数料が高すぎる」という課題があって。「決済手数料を下げようと思うんだけど、どういう規制にしたら下がるでしょうか?」という課題が、たぶん彼らにもあるんですよ。
その時に我々が、例えば「ステーブルコインという技術を使うと、こういう理由で決済手数料が一気にほぼゼロに下がります」と提案する。そして、「法律が邪魔しているんだったら変えて、できるようにしましょうか?」と言うと、通しやすくなるんです。
我々がいくらがんばっても、当然、国会を通らなきゃいけないし、官僚の人が法律を書かないと、世の中の規制は変わりません。だけど、その人たちを後押しするための事例を作ってあげて、弁護士やいろんな人と協力して、みんなが納得しやすい規制に持っていきます。そういうお仕事ですね。
奥田:特にこの第2部は「新しい価値を作る仕事」と、まとめています。(みなさんは)「これをやるとお金をガッポガッポ稼げるよ」ということを元に始めていないし、そもそもそれは持続可能な職業になり得るのか? といったことがありつつ、まずは自分がトライしているグループだと思います。
これを広げていくためには、どんな人にこの仕事・職域が向いていて、どんな仲間がいたらいいと思いますかね。私も自分の(仕事の)再現性ってなかなか難しいなと思いつつですが、本多さんからどうぞ。
本多:「やりたい」という思いがある人が諦める社会って、やっぱりおもしろくないと思うんですよね。特に僕は富士通というけっこう大きな会社なんですが、多くの大企業の人たちは、「これをやりたい」みたいなものがないんですよ。
奥田:言っちゃった(笑)。
本多:「言われたことをやるほうが幸せ」という人も多くて。それはそれで1つの幸せなんだけど、一方で「やりたい」と言うことを押しつぶされちゃうんですよね。
それはもったいないし、特にソーシャルの文脈はなかなか予算がつかないし、「結局それってお金になるんだっけ?」みたいな話になっちゃう。でも、そんなことないよね。大企業ってまだお金があるだろ、これをやっても死ぬわけじゃないだろと思って。
それを「やりたい」という人に、ちゃんとお金と決定権が与えられて、それを守ってくれる上の人たちもいる社会が理想かなと思いますね。
奥田:会社では、本多さんを支えるチームがだんだん広がりを見せているんですか?
本多:そうですね。ちゃんと部署として作ってくれました。やっぱり社長直下というのが強いです。一方で、社長も3年に1回くらい変わるじゃないですか(笑)。
奥田:はい(笑)。
本多:だから、そこをちゃんと守ってくれる人が継続するかどうかがポイントです。それにはだいたい攻略法があって、周りを巻き込むんです。
つまり、社内の中だけで完結すると、社長や役員が変わるとプロジェクトが潰されがちです。でも、外の会社と一緒にプロジェクトを起こして動かしていると、なかなかやめられないんですよね。「そっちに迷惑をかけちゃうと困る」みたいな。
奥田:大人になりましたね(笑)。
本多:大人になった。奥田さんのおかげです。ありがとうございます。
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