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プロ直伝!メンバーとの関係が変わる「相手を理解するための対話」(全2記事)

部下との対話で本音を引き出すための、5秒〜7秒の沈黙 1on1に悩む管理職が知っておきたい、話の「聴き方」

本の学びを深めるオンライン講座「flier book camp」を運営する、株式会社フライヤーが主催した本イベント。1on1に苦手意識がある方や、職場の人間関係を良くしたい方に向けて、悩みを解決するヒントをお伝えします。本記事では、株式会社Mentor For代表 / 一般社団法人ビジネス・キャリアメンター協会代表の池原真佐子氏と、株式会社フライヤー執行役員の久保彩氏が登壇。1on1で役立つメンタリングの手法や、相手と向き合うためのスイッチの切り替え方についてお伝えします。

キャリアの1on1の専門家の池原真佐子氏が登壇

久保彩氏(以下、久保):みなさん、池原さん、お昼のお忙しい中、ご参加本当にありがとうございます。ご登壇よろしくお願いいたします。

池原真佐子氏(以下、池原):よろしくお願いします。

久保:私はコミュニティの運営をしていますので、今回のテーマである「対話」は非常に重視をしています。チームのリーダーとしても日頃から意識をしているんですけど、本当に悩むことが多いんですよ。

毎回池原さんのご著書やお話を聞いていると「あ、そうだった。アタタタ……」みたいなこととか、「なるほど、確かにな」という気づきがすっごく多いので、今日は本当に私自身も楽しみにしておりました。簡単に私の自己紹介と池原さんのご紹介をしていきたいと思います。

株式会社フライヤーの執行役員で法人事業のユーザー企業担当部門の責任者と、コミュニティの事業責任者をしております、久保彩と言います。池原さん、自己紹介をいただいてもよろしいでしょうか。

池原:はい。お昼時にご参加いただいたみなさん、本当にありがとうございます。みなさんにとって、「これ使ってみよう」って思えるようなヒントを少しでも置いて帰りたいので、ぜひどんどんコメント入れてください。

自己紹介としては、株式会社Mentor Forという会社の代表をしています。もともと、大人が社会に出てどうやって成長してより良くなっていくのかにすごく興味があって、大学・大学院で学んでいました。その後PR会社に入って、非営利団体で働いて、また民間のコンサルティング会社に戻って、人材開発、社員の育成やトレーニングに関わっていました。

その中で、人と組織を会話・対話で良くするコーチングに出会いまして。「対話で会社が良くなるってすごいな」と感動して、日本でコーチングスクールに行きました。そして「なんでこの会話が効くのか」という理論を知りたいなと思い、人材開発を学べる海外の大学院を修了します。

そこから、実は私は最初はエグゼクティブコーチということで、コーチングで起業をして人材開発のお仕事をしていたんですね。それもすごくやりがいがあったし、人が変化していくことがパワフル(に感じられる場)だったんですけれども。

自身の生き方やキャリアの悩みが起業のきっかけに

池原:コーチングは、質問とか傾聴を通して相手の考えを引き出すもので、「クライアントの中にすべての答えがある」という理論なんですね。ただ、私自身が30歳前後で「結婚や出産をどうするか」「会社を立ち上げたけれども、ようわからん」みたいなところにあって。「あなたの中に答えがある」と言われても、「いや、経験していないから分からないよ」と、すごく悩んだんですね。

その時にコーチングじゃなくて、自分が目指す先、あるいはやってみたいことを経験している先輩や参考になるようなロールモデルになる人たち。コーチング的な関わりをしながら、アドバイスとか、その人たちが生きてきた中で学んだ経験をシェアするところも必要じゃないかと、すごく思いました。

そこからメンターやメンタリングに行きついたのが2018年ぐらいです。そのあと事業をピボットして新しい事業を始めて、今はプロのメンターを育てるスクールと、卒業した方々の一部を、ロールモデル・メンターがいない企業の方々にマッチングするお仕事をしております。その途中に子どもを産んだり、ドイツと日本を行ったり来たりとかいろいろあったんですけれども、今は日本で事業を行っています。

なので、今日みなさんにお話しするポイントは、プロのメンターを育成する観点で「こんなポイントに気をつけたら、みなさんのコミュニケーションにも役に立つよ」とか。私の失敗談とかも含めて、いろいろお伝えしていきたいなと思っています。

久保:ありがとうございます。メンターを育成する事業とマッチングする事業をされているということではあるんですけど、その悩みをご自身も経験したからこその、この事業の立ち上げだったんですね。

池原:そうなんです。もう本当に答えがないのは当然わかってるんですけれども、先をいく先輩たちがいるんだったら、やっぱりその道を参考として知りたいというのが一つと。

自慢話や武勇伝の押し付けをしないために

池原:あと、きっとみなさんもそうだと思うんですが、ずーっと自慢話をされたり、武勇伝を押しつけたりするメンタリングってすごく嫌じゃないですか。自分自身もそうなってしまうこともあったし、相手にそうなられたこともあったので。じゃあ、本当に有効的なメンタリングって何だろうというのを突き詰めて、今の事業に来た感じですね。

久保:わかります。私も子どもが2人いますので、やっぱりその変化の時にはすごく悩みました。乗り越えてみるといろいろなケースがあるので、自分1人の話を伝えるのもちょっと躊躇する部分もあって。

相手の話を聞く時にも、聞かれて答える時もすごく悩むので、メンタリングの必要性を実感します。今日ご参加のみなさんも、すでにコーチングをされているけどメンタリングに興味がある方や、その違いを知りたい方もいらっしゃると思うので、この後お聞きしたいなと思います。

あとは、「人を勇気づけられる人になりたくて、参加しました」という方もいらっしゃいますね。それから「『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』など書籍を参考に、自分なりに取り組んでいますが、相手に『今日お話ししてよかった』と思ってもらえるようなやり取りにしたい」など。対話で相手のモチベーションを上げるにはどうしたらいいのかというお話をお聞きできればと思います。

先ほど、プロのメンターを育成する上でポイントがあるとおっしゃっていました。ダイレクトな質問ですが、何を意識していけばいいでしょうか。

池原:それはプロのメンターを育成する上で意識していることですか? それともメンターになるためのポイントみたいな感じですか?

久保:そうですね。まずは「そもそもコーチングとメンターの違いは何か」ということから、「メンターが押さえるべきところは何だろうか」というところに入っていくのはどうでしょうか。

コーチングとメンタリングの違い

池原:いいと思います。たぶんコーチングとかカウンセラーとかスポンサーとか、人を支援する役割はいくつかあるんですね。まず、先ほどの私の自己紹介にもあったように、よく比較されるのが、コーチという役割です。

傾聴や質問や信頼関係の構築といったスキルを使って、クライアントの中から(答えを)引き出したり、自分で答えを見つけさせる役割を通して、伴走者になるのがコーチです。

基本的にはコーチは助言はしませんし、コーチングのスキルの中にも入っていません。もちろんこれ(コーチング)も、自分で考えさせるとか納得感を持たせる意味でもすごく大事な役割です。

メンターのメンタリングスキルという観点で言うと、コーチングの整理したり引き出したり問いかけたりすることに加えて、必要に応じてメンター自身の経験をシェアする、アドバイスする。これが、まずスキルとしての大きな違いです。

ものすごく単純化して言うと、「コーチング+アドバイス」と考えると分かりやすいかなと思います。また、存在としての違いで言うと、コーチは伴走者。横にいて励ましたりする役割で、コーチはクライアントにとってロールモデルである必要は別にないんですね。

ただしメンターは、メンタリングを受ける人にとって、ある意味「参考になる経験をしている」ロールモデル、パーツモデルであることが一つミソになってくるかなと思います。ロールモデルって言うと、なんかキラキラしていてすごい人みたいな、仕上がった人というイメージですよね。

「メンターになりたいんですけど、こんな経験ないんですが、大丈夫でしょうか」ってよくお聞きするんですが、そういった意味ではないです。(メンターとは)人生において違った経験をしているとか、メンティーにとって参考になりそうな経験をしていると捉えていただければと思います。そういった存在であるのが、一つ大事なポイントかなぁと思います。

“ただいるだけ”のロールモデルは、周囲のモチベーションを下げる

池原:お掃除カウンセラーとか最近いろいろありますけれども。厳密な意味で言うと、カウンセラーはメンタルケアを目的とした、マイナスな状態にある人を診療内科的な医療アプローチを使って、0とかプラスにするところ。

ティーチャーは知識がある人がない人に注入していく。アドバイスというところでは、メンターは一部、ティーチャー的な役割をすることもあると思います。

あとスポンサーは、スポンサリングを受ける人を引き上げていく、具体的なお手伝いをする。企業の中では、例えば、役員の人が女性管理職をメンタリングして引き上げるところまでやるのをスポンサーと呼んだりもします。

ロールモデルは、そこにいる憧れの人とか、メンターも一部その機能を備えているということです。ただ、ロールモデルはいるだけでは逆にモチベーションを下げると言われています。キラキラして見える人がそこにいるだけだと、「私はああはなれない」ってなっちゃうんですよね。

そうじゃなくって、ロールモデル的な人が自分に寄り添ってくれたり励ましてくれる双方向の動きがあることで、よりメンティーの意識が高まっていくと言われています。いったんこんな感じです。

久保:なるほど。今回のセッションのテーマも、「相手を理解する」と言っていますが、最後のメンターのところで言われた、自分に寄り添ってくれるとか、その状態を把握してくれるという役割。特にプロのメンターになっていこうとすると、そこがすごく大事なんですね。

メンターのコミュニケーションは「引き出す」と「伝える」の2つ

久保:今日はみなさん、プロのメンターになりたい方ばかりが集まってるわけではないんですが。おそらく日常の中で「この相手をもっと理解したい」とか、「もっとうまくコミュニケーションしたい」と思っているかと。メンターが押さえるべきポイントや考え方やコミュニケーションの仕方を、ここから聞いていきたいですね。

先ほどのポイントですと、傾聴という聞く姿勢の部分と、「アドバイスする」「経験を共有する」の2側面に大きく分かれると思います。先ほど池原さんが、ご自身の失敗談も交えてお話ししたいと言ってくださったので、ありがちな失敗から、どうやってそれを変えていくのかをお聞きしてみたいなと思います。

池原:おっしゃるとおり、スキルにフォーカスをするあり方、beingのところとdoingで分けるんです。doingのスキルの部分でいくと、引き出す「プル」のコミュニケーションと、伝える「プッシュ」のコミュニケーションの2つに分かれるかなと思います。

まず、引き出す「プル」のコミュニケーションの代表格としては、コーチングでも言われている傾聴があります。でも、傾聴は難しいんです。私はこういう仕事をしてますけど、傾聴できない場面もやっぱりすごくあります。

そもそもなぜ傾聴が大事かと言うと、今日のタイトルにもあるように、相手を理解するには聞いて観察して理解しようと向き合うしかないんですよね。

今日のコメントの中にも「お子さんとの会話」とありましたので、そこにも使えるところで言うと、ありがちな失敗として、相手の意見に対して先回りする会話をしちゃうんですよね。

相手の言葉に対して、5秒〜7秒待つ

池原:例えば、部下が「最近やる気が起きないんです」って言ってきたとすると。みなさんは、どういうふうに聞いたり対応したりしますか? あるいはお子さんが「学校に行きたくないんだ」って言ってきたと。

私たちはつい、「先生が嫌なのか?」「あの案件がやっぱり嫌だったの?」って、前のめりで相手の答えを先回りして言っちゃう癖があると思うんですよね。

例えばうちの子どもは小学生なんですけれども。「今日、体操服忘れちゃった」と言われると「なんで(カバンに)入れなかったの? 昨日言ったじゃない!」みたいについ言っちゃうんです。

そうじゃなくって、例えば「学校に行きたくない」「会社が嫌だ」って言われたら、「あ、会社が嫌だと思ってるんだ」と言って待つ。傾聴って、究極は待つことだと私は思うんですよね。相手の言葉がじっくり熟成されて、自分の言葉として出てくるのを待つ。テクニック的には、「5秒〜7秒待ちましょう」といつも言っています。ちょっと5秒、やってみますか? 

……これで5秒です(笑)。

久保:いやぁ、イベントだと事故だって感じがします(笑)。

池原:7秒の沈黙は通信障害ですよね(笑)。

久保:そう、そう(笑)。普通の会話でも、5秒待つのは怖い感じがしますね。でも、話し手の立場からすると違うんでしょうね。要はバトンがどっちにあるかの状態だと。黙って待ってくれていると、あ、まだこっちに(バトンが)あるんだって思いますよね。

部下の本音を引き出すためのテクニック

池原:「待つって怖いですよね」という(相手が言った)感情について「あ、怖いですよね」ってもう一度繰り返して待つ。そうすると久保さんが言った言葉が、私の口を通してもう一度、久保さんの耳に入ってくるじゃないですか。

そうすると久保さんの脳の中で、「そう、そう。私は怖いんだ」って、言葉が次に出てくるんですよね。こういうのは「オートクライン」というテクニックなんですけれども。

感情を表す言葉とか、「実は」「やっぱり」「話していて気づいたんですけど」という言葉が出てきたら、その後に続く言葉を1回リピートして5秒〜7秒待ってあげる。決して先回りしないということです。

久保:でも、オートクラインで感情に気づくと言われましたけど、なぜそこにフォーカスするんでしょう。直感的にわかるものの、どうして相手の言葉を繰り返して待つことが有益なのか、もう少しお聞きしていいですか。

池原:まず何かしら感情が出てくることと、「実は」「やっぱり」「話していて気づいたんですけど」という言葉の後に、本音に近い部分が続くんですよね。でも、本人は無意識で言っているんです。

だから、こちらがもう一度繰り返して言ってあげることで、さらに思考がもう一段深くなっていく現象がけっこう出てきます。これは部下の面談とか、何か考えてほしい時、あるいはお子さんとのコミュニケーションでもすごく使えると思います。

久保:なるほど。こちらの考えを次々言うんではなくって、向こうの考えを深めてもらうために引き出す。

相手と向き合う“帽子”をかぶる

池原:そうなんです。前半のコメントで、対話というキーワードにフォーカスいただいた方がいるんですが。

ふだん私たちがビジネスで行っているような、時間内に結論を出して合意を取るというのは議論なんですよね。これはもう至極当たり前のビジネスの基本ですよね。ただ、キャリアの話とか、相手を理解しようとした時には、時間内にロジカルな結論で何かを決めるよりも、本音が醸成されるのを待ってあげる。

ふだん言葉に出ないものを、こちらがゆったりと受け止めてあげることが、まず相手を理解することなのかなと思います。

久保:なるほど。先ほどおっしゃったように、まず(対話を)スキルとあり方に分けて、スキルの(うちの)傾聴の第一歩が、先回りせずに1回黙ること。そして繰り返してあげる。いや、これだけでもかなりできてないなっていう感じがしますね。

池原:これはやっぱり難しくって。もう土台の部分で、自分に余裕がないと人に向き合えないんですよね。なので、メンターのトレーニングの時に私たちが言ってるのが、相手と向き合う時間に入る前に、5分でもいいから自分と向き合う空白の時間を作ってほしいと。

例えばコーヒーを飲むとか、チョコを食べる、窓を開ける、深呼吸する。「はい、いきますよ」と、「メンターの帽子をかぶる」という表現を私は使います。さっきまでバンバンビジネスのディスカッションをしてたのに、いきなり「7秒待ちなさい」と言われると、スイッチを切り替えられないので。(相手と)向き合う帽子をかぶってください。

久保:わぁ、そうですね。場合によっては、それまでは問題解決モードというか。メールを打ち返したり、いろいろ問い合わせ対応をしたり。

池原:「トラブルがあったー」みたいな時って、聴けないですよね。相手に向き合うには、本当に自分をケアしなければいけないんです。

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