2024.10.10
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最近ではミドル・シニア層の人材獲得競争が激化しています。株式会社経営者JPが主催した本イベントでは、2023年を振り返りながら、ミドル・シニアが押さえておくべき、キャリアと転職のトレンドを深掘りしました。本記事では、合同会社THS経営組織研究所 代表社員の小杉俊哉氏、株式会社ルーセントドアーズ代表取締役の黒田真行氏をゲストに迎え、ミドル世代の定年退職への向き合い方を解説します。
黒田真行氏(以下、黒田):この人材難のテーマで、つなぎ的にちょっとお話ししましょうか。
井上和幸氏(以下、井上):ぜひぜひ。
黒田:極度の労働力の不足が、もう目に見えて始まっていますが、その中でいくつか誤解されている節があります。例えば企業側で言うと、どの企業も満遍なく採用難になるんじゃないかと思われている方が多い。しかし現実には「採用できる企業とできなくなる企業の二極に分かれる」と思っています。
需給が反転したことによって、「採用」とか「リクルーティング」という言葉自体の概念も変わり始めています。たとえば、我々が日常的に浸かっている「採用」という言葉って、昆虫採集の「採」に「用いる」という、上から目線を感じさせる言葉ですよね。
これからは、人材側がファシネート(魅了)されない企業は、選ばれなくなるという構造になるので、企業が上から目線で「採用」とか言っている場合じゃない。他の会社と比較検討された上で、あなたが欲しいと思っている人から「選ばれる」にはどうするのかという構えを作っていかないと、見向きもされなくなると思っています。
人材を採用できる企業と採用そのものが難しい企業に二極化して、存続自体が危ぶまれる企業が、たくさん出てきます。
もう1つは、労働力が減って売り手市場になるから、「仕事が見つかりにくかった人も、見つかりやすくなるんじゃないか」という誤解です。
企業が求めるレベルは業種や規模、作っているサービスやものによって千差万別で、そこでの優秀な人は相対的なものですが、求めるレベルに達した人だけを必要とする。そうじゃない人が選ばれる機会は、今まで以上に少なくなっていく。
企業も人も、選ばれるか選ばれないかに二極化するのであって、平均的に薄っすらみんなが苦しくなるわけじゃないのが、これから起こってくる未来なのかなと考えています。
井上:ありがとうございます。でも本当にそうですよね。ミドル・シニアの全体感で言うと、今、黒田さんがおっしゃってくださった「選ばれるミドル・シニア」と「選ばれないミドル・シニア」も二極化するということです。
特にシニア世代の方の転職で言えば、お力はあると思うんですけど、なかなかいい機会に巡り合わないケースが多いじゃないですか。このへんについて黒田くん、どんなふうに見てるの?
黒田:私に言わせると、(ミドル・シニアとは)おいくつかっていうこと。
井上:50代以上ですかね。
黒田:やはり雇用されることの延長線で考えると、会社に雇われていないと不安だとおっしゃる方が多いんです。でも会社に雇われている以上、定年や若手との世代交代も逃れられないんです。なのに、なぜそれが安定だと思うのか、そもそも根本的に考えたほうがいいんじゃないかと。
井上:なるほど。
黒田:その時に会社に雇われる力もあるし、自分で起業する力もあると。選択肢を複数持っておくことが、とにかく精神衛生的にもすごく大事なポイントです。結果的にそれが自分のエネルギーの源にもなるので、わざわざ追い詰められる方向に、自らを持っていってしまわないように注意する必要がある。
リスキリングという言葉はあまり使いたくないですけど、いつでも自分で自分を雇える状態を作ること。極論を言うと、若いほどエイヤで飛び出せるんですけど、年齢が上がるほど動き出すのに時間が掛かる。そのわりに判断が遅れる方が多いなと思っていて、だいたい決断するタイミングが5年くらい遅いですよね。
井上:なるほど(笑)。ミドル世代で5年はデカいですね。
小杉俊哉氏(以下、小杉):2023年12月発売の『Works』181号の18ページに、Works研究所の調査が出ていますね。50代前半までは、転職して10パーセント以上給与が増加するとか、プラス10パーセント未満になると、その下の世代とあまり変わらないんですよね。
10パーセント以上給与が減少する人は、27パーセントくらい。それが55歳になると、とたんに40パーセント以上の人が、10パーセント以上(給与が)減少する。その線引きは55歳、というのが示されているんですけど。
大手企業でも、55歳を過ぎるとすでに役職定年年齢になっているので。おそらく年齢的なものもあるし、黒田さんが言われたみたいに長らく自分でキャリアを考えずに、ただ会社に言われたことを粛々とやってきた方。または主体的にキャリア開発行動をやってこなかった人、転職も考えてなかった人なのではないでしょうか。
今の役職から下がるとしたら、一般職かあるいは専門職になるしかないんで、当然給与が落ちますよねって話です。これは「年齢によるものだからしょうがない」って考えるのもおかしくて。だって55歳以上で、役員として何千万円の報酬で迎えられる人だって、世の中にはいっぱいいるわけじゃないですか。その差は何なのかっていう話だと思うんですよね。
なので、どう自分のキャリア観を持って磨いていくか、その意識を持つか持たないかがすごく大きい。それはもちろん若い時から考えたほうがいいんですけど、ある程度年齢がいってからでも、遅くないんじゃないかなと思うんですよね。
井上:今日は中核で活躍されてらっしゃる、ホワイトカラーのマネジメントの方々に多くお集まりいただいている。その方たちのたぶん望まれるであろうことで言えば、やはり小杉さんがチラッとおっしゃってくださった、より上位の組織、事業や会社全体を率いることができると。そういった方々であれば、その年齢でも(給与は)上がる可能性があるわけですよね。
単に年を食っていれば社長になるってことじゃないですけど、その幅が出てくる。それは社長だけじゃなくて、いくつかの機会は各職種ごとにあるので、そういったものを見ていく必要があるんだろうとは思うんですよね。
気楽な話をするつもりはないんですが、時代の流れで今すごく僕が実感しているのは、10数年前までは、(転職市場における)40代は今で言う50代前半ぐらいの感じだったと思うんですよ。
機会がなくはないんだけど、「少し年齢が上だな」みたいな感じがあったんですが、今、40代というと一番の売り時というか。このへんは日本人の寿命が延びていることとも少し関係しながら、上がっていると思うんですね。
例えでよく言うのは「嵐のみんなももう40代ですよね」とかね。「SMAPもほとんどみんな50代ですよね」とか。そういう世代観って昔とだいぶ変わっていると思うんですよ。それがどうなるか、お二人の意見をお聞きしたいんですけど。
みんな今若いですしね。自分もこれまでのようには伸びないでしょうけど、もう少し(能力が)上がるんだろうと考えると、50代あたりが今の40代ぐらいの感覚になって、黒田くんが嫌いなエンプロイアビリティ(雇われる力)が上がる可能性はあると少し感じています。そこにすがるべきかどうかは、正直言うと何とも言えないんですけれども。
小杉:井上さん、質問が来ていますよ。
井上:はい。ありがとうございます。「先ほどの小杉先生のOSとアプリの例えは、とても示唆的だと思いました。ただ、アプリ=スキルを磨いていくのでなく、OSの入れ替えを志すほうが、難易度が高い気がするのですが、自分のキャリアを振り返って、強みを活かすようなOSを選んでいくイメージでしょうか」と。小杉さん、どうでしょうか。
小杉:OSを選んでいくというより、OSをアップグレードしていくイメージなんで、まさにこの方がやられているみたいな、転職で場を変えるのもあるでしょうし、自分自身を変えるのもあると思います。
例えば自社だけでは得られない知見を求めて、ふだん接することのない他社の人たちと議論するような場に、自らを放り込むとか。これはいくらでもオンラインでできるんで、こういう刺激を得ることじゃないかと。
刺激を得ないと、それ以上自分を上げようとはなかなかならないじゃないですか。なので、何か非連続的に影響を受けるような刺激を、自らに課す。社内で何か提案して新しいプロジェクトをやるのでもいいですし、別に会社を辞めなくても、さっきも出ていた副業やNPOで何かやるのでもいいですし。
今までとは違う種類の人とつき合うのは、すごく大きな刺激になると思います。
井上:そうですね。この方がどうかはわからないんですが、会社を変えなくても所属部署が変わるとかもあると思いますし。ややミーハーな表現なので、浅いと思われちゃうかもしれないんですけど。人事なら人事、マーケティングならマーケティング、営業なら営業で、その時々の取り組み方としてイケている考え方とかアプローチがある。
一番最初にバズワードを揶揄しておきながら何なんですけど、そういうアップデートも、意外と大きい気がしています。単に「流行りに飛びつけ」と言いたいわけじゃないんですけども。ちょっと本音で言いますけど、僕らが転職のご相談をしてても、古臭いやり方のままやっている人って、けっこう魅力を感じにくくて。
片や、わりと今の状況や世の中の流れをとらえてたり、リーダーシップを発揮してらっしゃったりすると、情報感度がすごく良い方だなと。これからもどんどんアップデートされていって、一番活性化しているような状況で組織を作って引っ張っていってくれるんじゃないだろうか、と感じます。
小杉:ちょっと教訓的に聞こえちゃうかもしれないですけど、それって、上司も良くて働きやすい今の状況に慣れてしまっているということ(ですかね)。「うまくいった状況を長く続けない」ってけっこう重要じゃないかと思うんですよ。
黒田:そうですね。
小杉:アウェイ感を感じながらじゃないと。
黒田:いかに自らコンフォートゾーンを出るかが、大事じゃないようですごく大事な一歩なんですよ。
小杉:そうしないとアップグレードされないんですよね。
黒田:安全圏からいくらやろうと思っても、やはり覚悟が決まらないですよね。温もったドームを出て、寒風に当たるその一歩が、覚悟を決めるためにすごく大事な勇気かなと。副業の「ココナラ」を使ってみるとか、それにトライできる環境やツールがすごくたくさん出てきているので。
副業って言うと「会社の規定で(できません)」とすぐ言うんですけど、「じゃあ無償でやってみたらいいじゃん」と。本当にスキルが必要とされるかどうか、確認するだけなら無償でやれば別に業務にならないので、やり方はあると思います。
そもそもどこまで会社に従順に尽くして、定年で放り出されるつもりなのかと。もっと自分の人生に対して、ド厚かましくというか貪欲に、自分のことを最優先に考えて動くべきなんじゃないかと思います。
小杉:そうですね。今、いただいている質問とも関連するんじゃないですかね。
井上:次、いいですか? 「うかがってみたいことが2つあります。女性もそうですが、時代の変化によって、急に今までと違うやり方を求められています。その最前線にいるのが、今のミドル・シニアなのだと思っています」。
「ただ1つ、活躍やモチベーションの邪魔をしているのが、定年という概念。制度というより、そうあるものとして染みついているように感じます。このあたりはどうでしょうか。個人の努力だけではどうにもならないものがある気がしています」。
おっしゃるとおりだと僕は思いますね。僕らもご相談者の方の状況として、つき合わざるを得ないんですけど、役職定年って、「なんでそんなことしているんだろう」とすごく感じますね。それがあるからまだまだやれるのに、「もうあと2年だ」となっちゃっていたりする方がすごく多いので。
(そういう方は)50代前半とか、下手すると40代後半だったりします。まだぜんぜん力がある方で、その会社でそれなりに役員とかマネジメントをしている方ですよ。本人が「後方に甘んじたくない」と、ご相談いただくケースはまだいいと思うんですけど。
そういう方でも、やはり目の前にそんなの(役職定年)が来ちゃって、「あと1年で後ろに回らなきゃいけないんですよね」とか、「給与がこれくらい下がるんです」みたいな話を(される)。結局は発揮できるものは変わらないのに、会社側が(限界を)設定しちゃっているのって、すごくもったいないなと思います。
いちいち個別に(能力を)判断していたら滞留しちゃいますから、特に大手の会社側の論理はわかるんですけれどもね。昔はその冷たさも必要だったところが、今は会社側もかなり機会損失し始めているんじゃないのかなと、僕は感じています。
小杉:今日は会社側の制度の議論じゃなく、やはり会社側に雇ってもらうという前提の話なんで、定年とか別に関係ないじゃんと思いますけどね。
黒田:自分で決めたらいいと思う。
小杉:自分で可能性を広げて起業したら、あるいは単に個人事業主になったら、定年はないですからね。個人の努力でできることっていろいろあると思いますよ。会社から雇ってもらうという前提だと、そういう制度があるのはいかんともしがたいですね。
黒田:僕がお勧めしている方法として、Excelのシートを1枚開いていただいて、横のABCDのところに、1月、2月、3月、4月、12月まで書いて、縦の1234のところに0歳、1歳、2歳と100歳まで入れる。そうすると、ほぼ1,200のセルで100歳まで生きた時の1,200ヶ月の人生が俯瞰できるんです。
今までに(キャリアとして)飛翔したところを1回塗りつぶして、会社から決められている定年は何歳の何月か。自分がリタイアしたいのは(いつか)。例えば70歳いっぱいまで働きたいのかもExcelで色分けするなりして全体を見ていただくと、Excel1枚で己の人生の全体がだいたい俯瞰できます。
今までの(キャリアが)飛翔した時間と、残りの働きたい時間の差分の「仕事余命」をどう充実させていくのか。実際にExcelに書き出してみて、そこの戦略策定に真剣に取り組むというやり方をお勧めしています。
小杉:なるほど。
黒田:人生のあっけなさにおののきますよ。
井上:(笑)。確かに可視化されますね。
小杉:私は今年65歳になっちゃったんで、大学も非常勤なのに定年させられて、厚労省から高齢者という認定を受けて、年金をもらう制度に乗っかっちゃって。いやおうなしに年齢を突き付けられているわけですよ。
もちろん余裕があってリタイアしている友人たちもいますけど、自分は80歳まで働く必要があるし、働こうと思っているので。2軒の家のローンがあるという事情もあるんですけど、「どうしたらあと15年必要とされるか」ということを、考えざるを得ないですよね。
そうすると何をしたらいいかとか、どうすべきかを考えざるを得ない。というか生きていくために考える必要があるので、ぜんぜんそんな制度は関係ないよねと。
井上:強いな(笑)。考え方としてはお二人のおっしゃるとおりですよね。
黒田:私事ですけど、私は今58歳で抗がん剤治療中で、もうそろそろ髪の毛が抜け始めるタイミング。
小杉:そうだったんですか…。
黒田:今も痛み止めを飲んでいるんですけど。余計に残り時間を意識しますし、自分がやってきたことをどこまで世の中に提供できるかを、より明確に考えるようになります。時間が見えるというのはすごく大事なことだなと。
小杉:私もちょっとだけ一緒に働いていましたけど、スティーブ・ジョブスがそうでしたよね。病気になってから、スタンフォード大学の卒業式で言った「今日が人生最後の日だったら、今日やろうとしていることは本当にやりたいことだろうか」。何があるか、みんなわかんないですからね。
南海トラフ地震が来て、我々も(瓦礫の)下敷きになっちゃうかもしれないし、何の保証もない中で何をするのかを、絶えず自分で選択していく必要があると思うんですけどね。
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