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【基調講演】これからの時代に求められる「優秀人材」〜その定義と育成メソッド〜(全2記事)

15歳時点の地頭力は世界上位、でも社会での生産性は低下… 『ハイパフォーマー思考』著者が語る、日本の構造的な機能不全

「VUCA時代の人材をいかにして定義・育成し、組織で生かすか」をテーマに、NTTビジネスソリューションズが開催したイベントに、『ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式』の著者・増子裕介氏が登壇。前半では、優秀な人材を既定する能力について語られました。

『ハイパフォーマー思考』の著者・増子裕介氏が登壇

増子裕介氏(以下、増子):では私、増子から基調講演を行わせていただきます。「これからの時代に求められる『優秀人材』~その定義と育成メソッド~」ということで、20分ほどお付き合いをいただければと思います。

簡単に自己紹介から申し上げますと、平成元年に新卒で電通に入社しまして、約20年の営業経験を経て、10年ほど海外を含む人事を担当しました。その中でクライアントにも提供できるような人事ソリューションを編み出しまして。

電通の人事局にいながら、クライアントにフィーをいただき人事ソリューションを提供するという、ちょっと特異なポジションにいました。そして、クライアントの一つでもあったパソナから、「うちに来ないか」と言われて転職し、3年ほどコンサルティングに専念した後、2年前に自分の会社、T&Dコンサルティングを立ち上げて現在に至ります。

私が開発した人事コンサルティングメソッドをさまざまなところでお話しする中で興味を持ってくれた出版社があり、去年12月に『ハイパフォーマー思考』という本を出版しました。

お読みいただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、まさに今日のテーマである「高い成果を安定的かつ継続的に出し続けている人に共通する要素」で,、ハイパフォーマーを特徴付けるのは知識やスキルではなく、思考・行動様式であるという内容です。

もちろん企業や団体によってハイパフォーマーの思考・行動はさまざまですが、国内外の企業に共通する、言ってみれば最大公約数みたいな7つの思考・行動様式を抽出すると、このようなものになったということを書いた本です。おかげさまで、セールス的にもそれなりにご好評をいただいています。

本日はこの話をベースに、ご参加いただいているみなさま方だけに、本邦初公開の、ハイパフォーマーの思考・行動様式の7つプラスアルファをご説明します。

国全体も、1人あたりの生産性も下がり続ける日本

まず、今日のテーマである「VUCAの時代における優秀人材とは」という話ですが、自分が提供している人事ソリューションの根本にある課題認識、昨今の言葉で言う「パーパス」みたいなものからお話ししたいと思います。

IMDというスイスにあるビジネススクールが発表する「世界競争力年鑑」というのがあります。

ご覧になったことはありますでしょうか。経済産業省が出している資料からの引用ですが、奇しくも一番左の1989年、私が社会人になった年は、日本がなんと1位だったんですよ。しばらく1位を続けていますよね。

そこから延々とダダ下がりを続けまして、若干の上下はあるものの、ほぼ下がり続けて、2021年では31位。ご覧のとおり先進国中で、ほぼ最下位という状態になっています。「失われた30年」と言いますが、これほど劇的に落ちていたんだなというのが、あらためて実感できるデータになります。

これは国全体の話ですが、じゃあ1人あたりの生産性はどうなのかを示したのが、こちらの図です。1人あたりのGDPランキングを、1990年から10年ごとに取ったものです。

ご覧のとおり、2000年にかけては順調に上がって、2位だったんですが、そこから先ほどと同じようにダダ下がりを続けて、今ではほぼ最下位に近い24位ということで、日本より下にあるのが、UAEぐらいになっているということですね。

順位もさることながら、右側にあるドル建ての絶対値をご覧ください。2000年時点でほぼ4万ドルだったものが、2010年は4万5千ドルで微増していますが、そこから10年かけて下がって約4万ドル。

1位のルクセンブルクをご覧いただくとわかりやすいですけど、2倍強ですよね。ここが特殊かと言うとそんなことはなく、アメリカも3万6千ドルが2倍弱の6万3千ドルですか。1人あたりのGDPは、20年かけて上がっているのが普通なわけです。

なのに日本はほぼ変わっていない。国全体で見ても低落傾向にありますし、1人あたりの生産性も非常によろしくない状況にあることをおわかりいただけるデータとしてご紹介しました。

「構造的な機能不全」という課題

じゃあ日本人はそれほど賢くないのか、ダメなのかというとそうではないというデータがあります。PISAという国際学力調査をご存知でしょうか。これは15歳、高校の1年生くらいにおける学力を国際比較するもので、2022年の最新版が数日前に発表されました。

2015年は72の国と地域の中で科学的リテラシー、数学的リテラシーが3位で、読解力も8位でした。実は2018年にちょっと下がっているんですが、先日発表された2022年のデータでは、参加国が81か国に増えているにも関わらず、日本は2位、5位、3位と明らかに上位に属しているわけです。

単に知識を問うているものではなく、いわゆる地頭的なものをきちんと測っていて、かなり信ぴょう性のあるものだと言われているので、ご紹介しています。

ということは、高校1年生の段階では地頭が非常に良いと思われる我々が、そこから数年をかけて、高校を卒業して大学に入って社会人になって以降、伸び悩んでいるということがよくわかるわけですね。おそらく高校・大学で落ちているとは思えないので、企業に入ってからの生産性アップが、どうも実現できていないということだと推察されます。

若干、三段論法めく部分はありますが、日本企業の人材育成システムは2000年から20年以上にわたって劣化を繰り返し、「構造的な機能不全」に陥っていると言えるのではないでしょうか。

私がご開発した人事ソリューションとNTTビジネスソリューションズさんと組んで提供しているものは、同じ基本思想にあるわけですが、「ここ(構造的な機能不全)を何とかしたいよね」ということがベースにあるパーパス感だということで、ご説明申し上げました。

優秀な人材を既定する能力

この課題認識を頭に置いていただいて、具体的な話に入りたいと思います。優秀人材を既定する能力とは何かという話です。

「そもそも『能力』とは」ということで、私の本を読んでいないとしたら、多くの方が「能力」、あるいは「生産性」といった言葉から連想するのは、今映っている三角形の連続しているものだと思うんですよ。

例えば、営業なら営業のスキル、人事なら人事のスキル、昨今でいうとITならITのスキル、DXならDXのスキルというものが存在し、それこそが「能力」であるという捉え方が、支配的なように感じられます。

もちろんこれはこれで否定しません。私自身、営業を経て人事をやっていたから、人事のスキルもあるし営業のスキルもあるから、今こうやって人事コンサルタントとして、ビジネスを展開できている。これはまったく否定のしようがないことですけれども。

とはいえ、自分を振り返ってみると、ここだけで勝負している気はまったくありません。(スライドの)下の2つの四角。

上は「部門・職種を問わない『スキル』」。例えば私がこうしてみなさまの前で展開しているプレゼンテーション能力や、あるいは自分のソリューションを売り込む時のコミュニケーション能力などが、ここに入ると思ってください。

さらに、文字の大きさからおわかりいただけるとおり、最も重要な要素は下の「部門や職種を問わない『思考・行動』」だと、強調したいわけですね。「下の2つがあってこその上の三角」だということです。

コンピューターやスマホの例えで申し上げるなら、上の各専門性にひもづいたスキルが、「時代や会社の戦略によって変わる『アプリ』」だと思っていて。ここまで言うと、だいたいおわかりでしょうけど、下の2つは、「普遍的な『OS』」という例えが成立すると思います。

これが意味するところは大きく2つあります。1つは、OSがしっかりしていればアプリは動くけれども、その逆はしからずということですね。最新のアプリを持ってきても、OSがダメだったら動かない。

人材に当てはめると、英語がペラペラだけど、日本の商習慣になじんだコミュニケーションができず、成果を出せない帰国子女の人というのも、残念ながら多数見てきた気がいたします。

思考・行動様式を定義した電通「鬼十則」

このOSとアプリの例えが意味するところはもう1つあります。OSは一定のアップデートを繰り返せば、長期間にわたって機能しますが、アプリは時間の流れとともに、下手をすると1〜2年で陳腐化するというリスクがついてまわる。

例えば、今の英語の話の延長で言うと、私も英語を使ってビジネスをする機会はあるし、これはこれで一定のバリューを生んでいると思うんですが、この間、「ポケトーク」の無料版の同時通訳アプリを試してみたら、TED Talksの英語スピーチを聞かせると、5秒から10秒遅れでほぼ完璧な日本語するわけですね。ということは、おそらく2~3年以内に同時通訳が持つ市場価値は、ダダ下がりする可能性があります。

じゃあ、OSはどれくらい普遍的か。いろいろな事情があって、今では私の古巣の社員手帳からも消えているという話ですが、「(電通)鬼十則」というのがありまして。

例えば1番目。「仕事は、自分から『創る』べきで与えられるべきではない」。あるいは10番目が一番有名かもしれません。「『摩擦を怖れるな』摩擦は進歩の母」と書かれていて、あらためて見ると、これは1から10までスキルの話は何もしていないんですね。仕事への心構えや取り組む姿勢なので、まさに思考・行動様式をかなり厳密に定義したものであるわけです。

これがいつできたのか。1951年、72年前に作られたものです。今でもこの1から10までができたら電通だろうが、おそらくGoogleだろうがAmazonだろうが、超ハイパフォーマーになれるような、そういうOSが書かれているということです。

表面的なスキルとは違って、100年経とうが、おそらく200年経とうが、優秀人材であり続けるための普遍的な能力要件定義がなされていると言えるのではないでしょうか。

大谷翔平選手と清原和博選手のアプローチの違い

これはあまりに古いので、新しい話もさせていただくと、ここ数日、日本だけではなく世界を騒がしている大谷翔平さんと、かつて世間を盛り上げた清原和博氏という、野球選手の話をしたいと思います。

大谷翔平選手は、今でこそすばらしい選手ですが、メジャー1年目はそこまですごくなかったんですね。特にデビューした初期の頃に、ジャスティン・バーランダーというメジャーを代表するピッチャーの前に4打席で3三振していた。

なんだけれども、試合が終わったあとニコニコしている。何で凡退したのにニコニコしているのかというと、「今は打てないけれども、これほどすばらしい、日本では見られなかったボールを見ることができて、これを打つ努力をすることでさらに高いステージに行けると思ったら嬉しくなってきた」ということを言っていて。その結果が3年後のMVPですよね。

一方、清原和博氏はちょっと古い話なのでご存じないかもしれませんが、西武ライオンズで活躍したあとに自らの意思で、FAでセ・リーグの読売ジャイアンツに移り、期待されたような活躍ができなかったんですよ。その時に彼は、「パ・リーグではここぞという勝負どころでは、相手のエースクラスのピッチャーは直球で勝負してきたが、セ・リーグに来ると勝負どころで変化球が来る」と言っていまして。一方的に怒りを募らせているわけですね。

ただ、普通に考えれば、野球は勝負ごとですから、清原選手が変化球が苦手だと思えば、勝負どころで変化球を投げるのは普通の話です。ここで怒っているということは、大谷と逆で自分の苦手に向き合っていない。つまり、変化球が来ると思えば打てるようにすればいい話なんですが、そうではないアプローチをしていたということですね。なので伸び悩んだということが言えるのではないかと。

単に好き嫌いの話をしてるわけではなく、パフォーマンスにどれだけ思考・行動様式が影響しているかということです。

OSの重要性

大谷翔平は今はすごすぎるんで、みんな忘れていますけど、北海道日本ハムファイターズに入った1年目は、成績的にはそんなパッとしていないんですよ。本塁打3本、2割3分8厘。これが8年経った2021年に、メジャーで46本塁打、100打点。この年に1回目の満票でのア・リーグ(アメリカンリーグ)のMVPを取っています。

一方、清原和博。私と清原は二つ違いなので、リアルタイムに彼を見ていて、デビューの年は未だに覚えていますが、高卒1年目のバッターで、しかも優勝争いしているチームに入って、ほぼ全試合4番で出て、30本塁打、3割。まあ、すごかったですよね。

この時には、王貞治の記録を抜くのは彼しかいないと思ったんですが、大谷がブレークした8年目の成績と比べると、出場試合数は変わらず、打点は上がっていますけど、本塁打も打率も落ちている。正直、伸び悩んでいるなという感じですよね。

とはいえ、1年目にこれだけ打っているわけですから、野球選手としてのスキルや才能はすごかったのは間違いない。1年目の成績で比べれば、大谷を凌いでいたことは間違いないでしょう。

ただ、思考・行動様式が劣後していたために8年後に伸び悩み、それなりに成績を残しましたけど、元々持っていた才能をフルに活かしたとは言えない結果になっている。OSが、どれだけパフォーマンスを左右するかという話ですね。

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