2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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変化の激しいこれからの時代に必要とされる「人的資本経営」のあり方について語られた本イベント。戦略人事や人事制度改革に取り組んできた人事のプロである髙倉千春氏と、プロティアン・キャリア協会代表理事の田中研之輔氏が、日本企業が抱える課題と、個人と組織がより良い関係性を築くためのポイントについて語りました。本記事では、これからの人事の役割や人材育成の秘訣についてお話しします。
今井美穂氏(以下、今井):続いて「プロティアン・キャリアから考える人的資本経営における人材活用」というテーマで、タナケン先生、お願いいたします。
田中研之輔氏(以下、田中):はい、髙倉さん、ありがとうございます。今シャープに(髙倉さんから)プレゼンいただいたんで、私はもう手短に。むしろダイアローグに時間を確保したいなと思います。
私も今、(髙倉さんの本を)熟読していました。髙倉さんの言葉で言うと「今ほどチャンスはなかった。ある意味これだけ注目された時代は30年間振り返ってもなかった」と。これは我々の取り組みの背中をすごく押している(と感じています)。時代的な潮流の中で、今必要な人事変革に一緒に取り組んでいきたいなと思っています。
今日のキーテーマを真正面から考えるんだったら、私がやりたいのはこれだけなんですよ。今日は経営者も人事の方もいらっしゃると思うけど、みなさんの業務にはある種使命、社会的役割があるんです。
今、コロナパンデミック明けのタイミングで、新しい歴史が動き出している時にどこに向かうのか。乗り組んで一緒に航海していく船の(向かう)先はもう1点しかないと思っています。
それは組織が、個人の人的資本の可能性を抑制したり抑圧しない。抑圧とはけっこう強い言葉ですけど、あえて書きました。それを抑圧しない組織の未来を作ることが、みなさんや我々の仕事だと思うんですよ。
2023年を振り返ると、協会側とコンソーシアム側で一緒にやってきて、今、200万人くらい(メンバーが)います。髙倉さんにも審査員としてコンソーシアムにお力をいただき、顧問としてもプロティアンに伴走していただいています。この200万人を多いと見るか、少ないと見るか。
ただそれなりに大企業のみなさんとご一緒しているので、少なくないインパクトではある。ただ6,500万人ぐらいのビジネスパーソンのうちの200万人なので、まだまだ夜明け前だと思っています。これをやりきりたい。
田中:『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』のリンダ・グラットンは「Intangible Aseet(無形資産)を乗り越えたい」とずっと考えていたんですね。僕はこの本の原著を読んでいて、ずっと気になっていました。彼女は2ヶ月間苦しみながら考え抜いて、マルチプル・キャリアキャピタル論(多元的資本論)に接続させたんですね。
ダグラス・T・ホールがキャリアキャピタル論を言っているわけではないんです。私はダグラス・T・ホールの『プロティアン・キャリア・・生涯を通じて生き続けるキャリア (- キャリアへの関係性アプローチ -) 』とリンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』を原著で読んで、「あ、Intangible Asset(無形資産)か」と。
まさに髙倉さんが本の前半で書いていた「資産」と「資本」の捉え方の違いです。キャピタルとして考えれば、動的人材マネジメントとして捉えることが可能となる。だからこれはものすごく重要です。
ただし今の日本のビジネスパーソンは、複数型のポートフォリオを組めていないんだよね。「同じ業務、同じメンバーで長年」というのが美徳とされている中で、実はネットワークが硬直化している。
そしてキャリアパスも、上が詰まってて実はもう上がっていけない。つまりレバレッジが効かないから待つだけ。そうすると、その行き先はやっぱり停滞なんですよね。どれだけ内発的な動機づけを持っていたとしても、みんな停滞してしまう。これがある種の抑止モデルになっちゃってるんです。
2024年にこれをどうやって解放していくのか。これが我々の1つのアジェンダかなと思います。個人ができることとしては、本当に髙倉さんと同じメッセージです。
これまで培ってきた経験という名の、「こうあるものだ」という常識的なもの。あえて最初の草稿では「経験と偏見」って書いたんだけど、ちょっと偏見は言いすぎかなと。でも、表現したいことはバイアスですね。つまり、働くとは、キャリアとは「こういうものである」という経験を、この歴史的転換期の中でいかに脱構築するかが肝だなと思っています。
田中:最後のスライドです。プロティアンでもいいし、主体的なキャリアオーナーシップでもいいし、みなさんなりの当事者意識の持てるワードでいいんです。ただ、社員一人ひとりの可能性を応援するんだということでは同じ方向ですよね。そのためにやっぱり持続的な成長が必要だと。成長って言葉を使わなくても、創造でもいいと思いますけども。これは別に言葉を届けたいというよりは、考え方の方向性を共有したいんです。
そしてやっぱりダイアローグがものすごく大事です。この後のセッションでもいろいろお話しさせていただきますけども、みなさん同士もオンラインでいろんなダイアローグをしていただけるといいんじゃないかなと思いました。
これ(『人事変革ストーリー』)は光文社から手に取りやすい価格帯で出てますので、みなさんに読んでいただけるといいのかなと思います。ありがとうございました。じゃあ、ダイアローグに入りましょう。
今井:はい。タナケン先生、ありがとうございました。それではダイアローグに移っていきたいと思いますが、お気軽にコメントをお寄せください。それでは、よろしくお願いします。
田中:髙倉さんを独占して聞いてみたいことがあります。2024年の人事の役割はなんだと考えますか?
髙倉千春氏(以下、髙倉):さっき言った2つですね。もう究極、どうやってこの船を持続的に航行させるかが経営者の課題です。先生もおっしゃったように、もう個人が資産、資本になってるということなので。その個人をどうやって活かすか。人事の役割はもう経営の真ん中にあるんですよ。
ごめんなさい、これは自分も含めてですけど、対等に話し合える人事の人がどれだけいるか。やっぱり人事から経営を見るんじゃなくて、まず経営から人事を見る視点の変換をしていく。
そうすると、やっぱり世の中のことをいろいろ勉強しなきゃいけないし、タナケン先生がおっしゃったように、「この人事をどう思うか」と(考えることで)視野が広くなるじゃないですか。こういう視点をまず持ってほしい。それはCHROだけの話じゃなくて、人事のあらゆる人がやらなきゃだめだと思います。
それから2つ目は、個が主役となった時に、どれだけ寄り添える人事になっているのか。私は、これにはすごく疑問があります。やっぱり先生がおっしゃるように、相当バイアスがかかってると思うんですよ。
例えば、「できる人って誰?」と言った時に、過去の業績と業績評価から見るじゃないですか。もちろんそれは担保するものなんだけど、過去の業績の評価がいい人が将来活躍できるかと言うと、ちょっと違う文脈になってきてる。
自分の中でバイアスを外して、「じゃあどういう人が必要なんだっけ」と考えてそれぞれの人に寄り添う。それができないと、おそらくもう人事はいらなくなると思いますよ。
田中:人事に必要なストラテジック(戦略的)な思考法の磨き方って、髙倉さんは日頃どんなことをされてるんですか。
髙倉:今いろんな若い方に向けて人事塾をやらせていただいてるんですね。「10年後どんな会社になりますか」って聞くと、笑っちゃうんだけど「うちの経営企画に聞いてきます」と言うわけ。「いや、そうじゃなくて」と。
田中:そうじゃないよね。
髙倉:人事のみんながそれぞれ、「自分の会社をどうしたいか」だと思うのね。先生が言うWillの部分なのかな。「あなたはこの会社をどうしたいんですか?」という考え方がないと、お勉強をしてもだめだと思っていて(笑)。そこが出発点かなって思うんです。
田中:髙倉さんのプレゼンの最後にあった、いわゆる船の乗組員という話ね。エンゲージメントをどう高めていくか。多様な人材、ダイバーシティの中での多様なキャリア、社員の一人ひとりに寄り添っていく。これは2023年に、我々人材、人事、人材開発、キャリコン業界で、1つ到達した感覚もあるんです。
どこに到達したかと言うと、1on1がそれなりのスタンダードになってきました。1on1で到達したと言えるのは傾聴スキルなんですね。傾聴スキルというのは、「このダイアローグは、無駄な取り組みではない」と寄り添って委ねてとにかく聴くこと。
ただし、やっぱり僕と髙倉さんが、ある種の足りなさ感を感じているのは何かと言うと、やっぱり傾聴じゃ足りないと思うんだよね。傾聴では横ばいの状態、つまり戦力にならないんですよ。
だからそれをコーチングと言ってもいいし、僕はワークアウトとかトレーニングと言ってるんだけど。上司、あるいはキャリコンのみなさんだったら、寄り添ってあげたあとにもう1段階、2段階、引き上げてほしいんですよね。
なんでかと言うと、組織の中で抑圧されているから。ポテンシャルが高いのに、本人のバイアスがあって「50歳だからこれぐらいなんです」「30歳だからこれぐらいなんです」と。これは誰が決めたのでもなく、だいたい本人が決めてるんですよね。
髙倉:(笑)。確かに。
田中:だから「いやいや、あなたが決めちゃってるんじゃん?」と言ってあげるだけなんですよ。僕なんかゼミ生からもFacebookのメッセージでいろいろ相談が来るわけ。そしたらもう「OK、突き抜けて」「OK、突き抜けて」。それしか言ってない(笑)。
田中:あとは丁寧に伴走してあげる。でもやっぱり言葉はすごく大事だから。我々はもっと何かできますよね。ただ、その時に無理強いするわけじゃまったくなくって。100メートルを17秒ぐらいでしか走れないのに12秒で走れという話じゃない。
「15秒で走れるのに17秒でペース配分しちゃってんじゃん」というのが、今の日本の企業のビジネスパーソンとして問題だと思うんですよ。
だって、「ローンを組んじゃって、副業はできないから残業を増やしてるんです」とか真顔で言うんですよ。ローンはいいとして、それを残業にあてるのはおかしくないですか。だから残業を増やすために、業務をわざとゆっくりにする。
髙倉:へー。
田中:もう、ちゃんちゃらおかしいよね。たぶん髙倉さんが歩んできた外資系とかロートさんだったら、そういうことはあり得ないと思う。だって、生産性を高めれば新しいチャレンジができるわけじゃない?
「じゃあ賃金を高めましょう」というロジックはけっこう難しくて。昨日、僕はある企業の経営者と話してたんですけど、やっぱり全社員の賃金を一律で上げるのは無理だと思う。
髙倉:うん。そうですね。
田中:だからインセンティブで上げるか。つまり先ほどの評価の話にもつながるんですけど。それか自分で、いわゆる経済報酬を上げていくしかないんだよね。
田中:だから本人の個の躍動性をどうやってプロデュースしていくのか。髙倉さん、何かパワーワードはないですか。例えば経営層でもいいんですけど。「この人、まだもうちょっとできるのに」という時に、髙倉さんマジックでは、なんて声かけるの?
髙倉:私は、いつも人材育成の話をする時に、「貫く目」と「育む目」で見てくださいと言う。
田中:あぁ~。いい言葉。
髙倉:今先生がおっしゃっている寄り添うというのは、きっと「育む目」なんだけど、子どもの教育と一緒で、やっぱり親として自分の子どもにはちゃんと成長してもらわなきゃいけないじゃないですか。だから親は寄り添ってるだけじゃないんですよ。
20歳過ぎたら自分で食べていってもらわなきゃいけないから。「この子はどういうふうに育って自立できるか」と見るじゃないですか。そのぐらいの責任が人材育成にあると思っているんですが、それは「貫く目」なんですよ。
例えば、「僕はマーケがやりたいんです」と言う人がいたとして、でも明らかにマーケティングに向かない人もいるじゃないですか。「勉強はけっこうだけど、やっぱり営業でやったほうがあなたの特性が活きるわ」とか。
あるいは今の企業経営の戦略の中で、もうちょっと厳しく「いや、マーケじゃないよ」と言って、例えば新規事業開拓とかに行ってもらう。そうしたら「この人の突破力は必要だわ」と、会社のニーズに合うこともあるじゃないですか。そういう視点でその人を見ることが、本当の意味で成長させることだと思うのね。これがないから、若年層は大企業を見切って去っていくんだと思うのね。
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