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PLAYABLE〜『あそび』が導く新しい働き方〜(全3記事)

好奇心の向かう先が「時間の浪費」になるか「知的好奇心」になるか ゲームを通して考える、学びにつながる「あそび」の要素

従業員にとってのより良い体験を考える「EXデザイン」をテーマに行われた、株式会社mct主催のイベント「EX Design Week」より、ワウ株式会社 鹿野護氏の講演の模様をお届けします。一見相反するように見える「仕事」と「遊び」。組織や働き方、働きがいを考える上でなぜ「遊び」が重要なのか、「playable」の考え方が語られました。

働く中での「遊び」とは何か

渡邉紗希氏(以下、渡邉):鹿野さん、本日はよろしくお願いいたします。

鹿野護氏(以下、鹿野):よろしくお願いいたします。みなさんはじめまして、鹿野護と申します。今日の内容に関しては、先ほどご紹介いただいた3日間のワークショップにもつながるものです。今日は今日で「playable」という考え方を、いかに自分が常に実践しているか、ダイジェストでお話できればなと思っております。

それでは始めたいと思います。今回私が設定しているテーマが、「『あそび』が導く新しい働き方 playable!」です。

先ほど、運営の方から遊びについての質問があったと思うんですが、「遊んでますか?」とか「遊べましたか?」と聞かれると、なかなかちょっと難しいですよね。「『遊び』って何だろう?」と、ちょっと考えてしまうところがあるかと思うんですけれども、ちょっとそのあたりも踏まえてお話しをしていきます。

簡単に自己紹介をさせていただきます。鹿野護と申します。東北芸術工科大学で、映像を教えています。私は東北が地元ですけれども、その前は、宮城大学や東北工業大学だったり、あと、東京藝術大学での非常勤講師も経験しております。

教育の現場に入って8年ぐらいになるんですけれども、その前はワウ株式会社というビジュアルを作る会社で、設立のメンバーとして、チームマネジメントだったり、ディレクションだったりを体験しています。そちらでは広告からアートワークまで幅広く表現に携わっています。また、グッドデザイン賞にも関わらせていただいて、2013年から2022年まで審査をさせていただいております。

あと、今見ていただいている資料で、下のほうにチャット欄みたいな、「?」とか「いいね」を押す欄があります。こちらはマイクロリアクションといって、この資料のちょっとしたリアクションができる機能になっていますので、こちらももし興味があったら押しながら聞いてもらえればと思います。

「驚きの体験」を提供するビジュアルデザインスタジオ

鹿野:まず、ワウという会社についてご説明します。ビジュアルのデザインをする会社で、広告の仕事から始めたんですが、その後デザインの領域に入りました。さまざまな企業の方々とコラボレーションをさせていくかたちで、企業のビジョンを描いたり、あとはユーザーインターフェースの設計をしたり、長期プロジェクトで企業の方々と携わらせていただいて、そこでプロジェクトを実行していく会社です。

6番の映像を再生してみてください。こちらでも解説しながら再生したいと思います。これはちょっとジャイアンツの映像だったり、先ほどのは三菱さんの映像だったりするんですが、このようなかたちで、コンピュータグラフィックスを中心に、さまざまな企業のビジョンを描いたり、あとは広告としてプロモーションの映像を描いたり、幅広いビジュアルのデザインをしている会社になります。

私は、立ち上げ当時から携わっているんですけれども、今は若手のデザイナーたちが中心に現場を支えていまして、私のほうは顧問というかたちでアドバイザーになっております。人を魅了するような映像とか、驚かせるような映像とか、常に人の感性に触れる表現を目指しています。

社名が「ワウ」ですが、ちょっと驚きの体験というか。目で触るような、視覚だけれども何か体験しているかのような表現を常にやってきております。最近ワウが手がけているプロジェクトですと、建築物や施設と、早期段階から相談を受けて、建築だけれども映像がもともと組み込まれている空間みたいなものも、作ることが多くなっております。

また、会社の中に開発チームだったりユーザーインターフェースのチームがありますので、体験そのものをどう作っていけばいいかという研究・リサーチも企業の中で行われていたり。あと、企業だけではなくて地域ですね。地域の方々と、どのようにメディアを使って活性化をしていくか。あとは芸術祭などに関わることでアート的な視点での表現みたいなところにも携わったりしております。

ワウという仕事としての表現、そして個人の表現を通じて、常に大事にしているのが、見た人、見る人、体験する人がどんな思いになるのか。さらには、どんなモチベーションを持つのかを常に意識してやってきております。

表現の現場で注目される「ゲームエンジン」

鹿野:もともと、こういったビジュアルのデザインをずっと私はやってきていました。その中でもコラボレーションをどうしたらいいのかとか、チームをどのように運用していったらいいのかという流れで仕事を進めているんですけど、最近映像やメディア表現の領域で、革新的な変化がありました。ゲームエンジンと呼ばれる、ゲームを作るツールが、表現の現場で非常に注目されてきているのです。

先日発表されたApple Vision Proの開発にもUnityというゲームエンジンが使われるんですけれども。ゲームエンジンという、いわゆるゲームという体験を作るツールが、実はゲームの領域を越えて、さまざまな体験を作るツールになっているところに非常に着目をして、ここ数年ゲームを研究しています。「ゲームをリサーチしていると、ただ好きでプレイしているんじゃないか?」と言われることもあるんですけど、そうではなくて、研究の一環でやっております。

その中で、やはり研究するだけ、リサーチだけではダメだということで、『大歳ノ島』というゲームを作ってみました。こちらは9番の、30秒ほどの映像をご覧ください。

こちらは仮面を被った異形と呼ばれる人たちが山頂を目指していくゲームになります。山頂にお供えをするストーリーですけど、いわばこれは、日本の方々だとみなさんが体験している、大晦日や元旦にお参りに行くような、お正月の習わしをテーマに作ったゲームです。

メタバースという「空間」があっても、おもしろくなければ過疎になる

鹿野:ここで非常におもしろい現象が起きました。Twitterで公開して、今700万インプレッションになっているんですけれども、非常に多くの方からいろんなコメントだったりリアクションを頂いている状況です。

今まで自分がやってきたデザインワークとかビジュアルとかでは体験したことのないような、もっともっと熱気のあるコミュニケーションを、今ネットの中で僕は体験しております。「なんでここまで違うんだろう?」と、ここ1、2年非常に強く感じています。

こちらの『大歳ノ島』というゲームは、今海外、国内のパブリッシャーと相談しながら、実際にグローバルにリリースする方法も探りながら開発を進めているところです。

こういった研究をしている中で、mctのスタッフの方と企画準備の相談をさせていただいた時に、ちょうど「メタバース」という言葉がもてはやされていたというか、ブームになっていました。

その時に、「メタバースという場があっても、おもしろくなければ誰も活用しませんよね」という話を聞いて、自分もそれを非常に強く感じていたので。いつもゲームだったりインスタレーションみたいな体験型の空間を作る時に気をつけている、「やはりおもしろさのデザインはすごく重要だな」と感じるようになったんですね。

やはり空間だけ作ってしまうと、どうしてもメタバース過疎みたいなものが起きてしまうと思うんです。けれども、どうやっておもしろさとか、そこに能動的に入って、自分の意志で行動するような空間を作れるのかというところで、「もしかすると私が今までやってきたことは、こういったものを解決する1つの手法になるんじゃないか?」と、「playable」という名前をつけて今回お話をしています。

仕事にも役立つ「遊びのデザイン」のヒント

鹿野:ちなみに先ほどのゲームに関して、私はゲーム開発は素人ですけれども、すごく重要視したのは、その世界がどういう世界なのかをプレイヤーにわからせることでした。

例えば島に習わしがあって、それぞれの地域に吉祥や畏怖みたいなものがある。それを取り囲む大きな1年の流れがあるような、時間の設定、空間の設定、カルチャーの設定みたいなこと。また、没入感を誘うためのさまざまな仕掛けを作っていきました。それによって、初めてプレイヤーがその中に入り込んで、自発的に、自分の自由意志で動いているかのような体験ができる、手掛かりをつかめたところです。

そこで私が非常におもしろいなと思ったのが、遊びのデザインとかゲームのデザインにいろんなヒントが隠されていることです。例えば「世界の法則を作る」「好奇心をいかに誘発させるか」「ゴールに向かわせる意思をどう作るか」。

あとはもう1つ、これが重要ですが、「ムダなものといかに戯れさせるか」ですね。このあたりがうまくバランスが取れてくると、遊びとかゲームをプレイする、楽しむ感覚が生まれてくるなと感じています。

特に重要なのが、指示がないとゲームの世界は路頭に迷うんですよね。「何をしたらいいかわからない」になってしまうんです。逆に指示が多いと、「やらされてる」とか「これ、単なる作業ゲーム」みたいになってしまって、みんなやらなくなってしまう。このあたりのバランスは、実はいろいろと仕事にも役立てるのではないかなと考えているところです。

「遊び心」が作業を冒険に変える可能性がある

鹿野:私は教育の現場にいて、常に大学生のやる気スイッチではないですけれども、どうやってやる気とか自主的に学ばせるかいつも苦労をしていています。これに関してはなかなかまだ答えはないんですけれども、「遊び」をキーワードにして、それとかけ算で「はたらく」とか「つくる」とか「おしえる」とか「まなぶ」とか、そのあたりに手応えを感じています。

「遊び」と他の領域をかけ合わせることで、高い教育効果につながるのでは、ということが、今私の中で大きな確信に変わりつつあるところです。

ここで言う「遊び」は、いわゆる暇をつぶしたりとか何か一瞬の快楽にふける意味での遊びだけではなくて。それも重要ですけれども、「好奇心」がやはりすごく大きなキーワードになるかなと思っています。知的な問いだったり、日常の何気ない、いつもは感じないものを感じる感度を手に入れて、それがワクワクする舞台に変わったり、好奇心を抱くことによって、自分も変わるし、世界が変わっていく感覚。

あともう1つが「遊び心」ですね。ウィットに飛んだ表現だったりとか、ちょっとムダのある動きだったりとか、遊び心が作業を冒険に変える可能性があるのではないかなと感じているところです。創造的なユーモアだったりとか未知の探求みたいなものですね。僕は遊びを考える、捉える時に、やはり「冒険」が非常にリンクしやすいなといつも感じています。

「好奇心」が「知的好奇心」に変わる瞬間

鹿野:その上で、このシーン(「iPhone」を発表した、MacWorld2007でのスティーブ・ジョブズ氏の基調講演)を分析したんですけど、最初にヒントを点在させていくんですね。「iPodですよ」とか「携帯電話ですよ」と3つありましたよね。それを何度も繰り返して、知識として蓄積させていく。観客のみなさんは、参加者のみなさんはどんどん盛り上がってきて、そのヒントが知識となって、1つのつながりとなって、物語になっていって、どんどん好奇心と期待が膨らんでいく。

(スライドの中に)感情曲線的なものを黄色く書いてみました。そこで好奇心と期待で「あれだよね」「こういうものが出るんだよね」とみんなが思った瞬間に裏切って、ユーモアで一気に会場の雰囲気とムードを変えているんですよね。その後に本当に伝えたいことが来るんです。

こうして、ストーリーテリングのうまさもさることながら、やはりここに意外性とかユーモアみたいなものを大きな柱にした発表になっているのが、実に現実を湾曲させているなとあらためて思います。

ここでやはり好奇心をどんどんどんどん誘発させている話し方が重要だと思うんですけれども、好奇心っていろいろな……。みなさんも好奇心をお持ちだと思うんですけど、やはり最初は「何だろう? 知りたいな」みたいな、「細かいことが知りたいな」とか「あれ何だろう? 不思議だな」と思うと思うんです。

それだけだとそのまま消費されて終わって、忘れてしまうんですけど、「理解を深めたい」に変わった時に知的好奇心に変わって、そこから冒険が始まると思います。また、知れば知るほど何が足りないかとか、何が欠落しているのかが見えてくるので、それを補完したいと思うようになるし、その後に共感したい、それを分かち合いたいという思いにもつながってくるかなと思います。

止めどない欲求が「好奇心」として表れる場面

鹿野:「ヒトは好奇心のおかげで人間になった」という考え方もあると思うんですが、やはり(資料の)24番、覗き穴があると覗きたくなりますよね。ならないですかね? 僕だけでしょうか? あと、「次どうなるの?」がすごく気になるところで、よくTwitterでも、漫画のいいところで切れていて、「この後どうなる?」みたいなものがあると思うんです。

私が好きな絵で「アダムの創造」という絵があるんですけど、指と指が触れ合うような場面が描かれているんです。この絵のどこに惹かれているかというと、指と指が触れる直前で止まっているんですよね。この後触れることがわかる。触れた後に何かが起きる。もしくは触れた直後なのかもしれないんですけど、この「瞬間」という時間を感じさせる表現だからこそ、名画として残っているのではないかなと私は思っております。

また、(資料の)26番。気になりますよね。黒くてごちゃごちゃしたモザイクみたいな。「何が隠されているの?」となりますよね。27番をクリックしていただくと答えが出てきます。なんてことはないカメラですが、やはり隠されるとそれを暴きたくなる。

あとは、ご覧になった方もいると思います。「君たちはどう『 』」と空白があると、付け足したくなりますよね。「どう食べるか」とか「どう寝るのか」とか、何か付け足したくなる。欠損があると、そこに何かを加えたくなるとか。

あとは、29番(「あなたが次に買うのは?」と書かれており、画面中央にサイコロのアイコンがある)。こちらのツール、「Breakfast」は、インタラクティブ性があるという特徴があります。「あなたが次に買うのは?」。みなさん、サイコロを振ってみてください。それぞれランダムに違う結果が出てくると思います。本。「わ、本かな。じゃあ次は何だろう?」と押したくなるわけですよね。

たくさん満たされているものの一部が見えている時に、「次は何だろう?」と、とめどない欲求が好奇心として表れてきます。プライベートジェットはたぶん永遠に買えないと思いますが、みなさんは何が出たでしょうか?

「拡散的好奇心」と「知的好奇心」

鹿野:ということで、こうしたふとした好奇心は、実はみなさん常に感じていると思うんですけども……。(会場のチャットから)「猫の形をしたティッシュホルダー」。そういうのあり得るんですかね(笑)。こういった好奇心を刺激されるからこそ、Twitterを見続けてしまう、時間の浪費にもつながるんですけど、僕はそれだけだと遊びにはつながらないと思っています。

例えば、こういうちょっと和風な文様、一時期ハマっていたことがありました。「よく見るけど、これは何だろう?」と最初は思ったんですね。これだけで終わってしまうと、いわゆる拡散的好奇心という、ちょっとした好奇心です。けれどもその後に、「文様の構造はどうなっているんだろう?」と、自分で作ってみたりしたことがありました。同心円の組み合わせで作れるんですが。

「これ、じゃあいつ頃から使われているの?」と調べると、なんとササン朝ペルシア、中東です。しかも紀元前です。「ちょっと待って。これ、江戸の文様じゃないのか」と深掘りしていくと、こんなふうに……私はこういう年表を作るのが好きな人間ですが、「あ、そうか。文様ってこんなふうに変容しているんだ」となるわけですね。

こうした年表は、一応授業で使う名目で作ってはいるんですけれども、私にとっては完全に「遊び」です。ここまで詳細に整理して作る必要はないんです。例えば文様の本を資料として見せればいいんですけど、いつのまにか年表に熱中して何時間も作り続けている。僕にとってはこれが知的好奇心だし、遊びになるのではないかと思います。まったく苦痛でもないですし、おもしろくてしょうがない状態ですね。

ということで、単純な欲求が深い学びへの努力へと変化して、知的好奇心になる。好奇心に必要なものは知識です。要するに知識がないと、好奇心が知的なものに変わらなくて、遊びにも変わらないんですね。単なる時間の浪費だと思うんです。理解しているものと、まだ理解できていないと感じるものの中間に好奇心が生まれてくると考えています。

なので、大いなる世界があって、自分がいて、自分にある知識と世界にある知識の中間に好奇心が生まれるのではないかなと思います。その好奇心に引き寄せられて、自分が動いていく感覚ですね。

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