2024.10.10
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大野誠一氏:さてここから、「ライフシフト」についておさらいをしたいと思います。今日お集まりの方々はキャリアに関心がある方が多いので、この本(『LIFE SHIFT』)を読んだ方も多いと思いますから、ちょっと駆け足していきます。著者は、リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの二人ですね。
この本の一番最初に、このデータが出てきましたよね。2007年生まれの子どもの半数が到達する年齢という、ちょっと変わった人口動態のデータですけれども。これで、日本は相変わらず世界トップです。107歳っていう数字が出てくる。2007年生まれの半分の人が107歳まで生きるということです。
例えば今の日本の女性(が到達する年齢)だと、もう半分以上が90歳を超えているし、この107歳という数字は遠い未来ではなくて、もうすぐそこまで来ていると思ってもいいと思います。
リンダ・グラットンは、日本語版の序文にこんなことを書いています。「日本はとても幸せな国ですね」と。何と言っても、平均寿命が長い。日本の100歳以上人口は、2050年までに100万人を突破する見込みだと。
今はどうなっているかというと、去年、9万人を突破しています。でもまだ9万人です。10万人には届いていないんですね。これがこれから30年ぐらいで、50万人とか100万人になる。ものすごい勢いで増えていくということです。
ですから、おそらく今日この場にいらっしゃる数十人の中の何人かは、100歳に到達すると思います。
この「長寿化」というのは、社会に一大革命をもたらす。働き方も変わる。学び方も変わる。結婚の時期も変わる。いろんなことが変わっていきます。企業も変わるでしょうし、教育機関も変わるし、社会保障制度も大きく変わっていくと思うんですね。
ただ一番変わらなきゃいけないのは個人です。一人ひとりが新しい行動に踏み出して、この長寿化時代に適応しなきゃいけない。この「新しい行動に踏み出してますか?」というところが、実はまだできてないんじゃないかなっていうのが、僕たちの今の想いです。危機感と言ってもいいですね。
「人生100年時代」という言葉は広がったんだけど、新しい行動に踏み出している人はまだまだ少ないと感じています。
今日、これから5つのポイントのお話をしたいと思うんですが、全部はたぶん話せないと思うので、まず項目だけ頭に入れておいてください。「人生は、長くなる!」「人生は『3ステージ』から『マルチ・ステージ』」に。「『働く』ということを再定義」していきましょう。
そして「有形資産」、お金はもちろん大事なんだけども、それ以上に「無形資産」が大事になっていく。特にその中でも「変身資産」。「変わるチカラ」みたいなことが、これから問われる時代になっていきます。それが「人生100年時代のキャリア」を考える上での、非常に大事なポイントになっていくんじゃないかなというお話をしたいと思います。
人生は長くなります。そうするとどうなるかというと、“Live Longer,Work Longer”、長く生きるということは長く働くことになる。これはもう世界共通に言われていることで、今までの働いている期間よりも長くなるんですよって言われています。
『LIFE SHIFT』とは別に、こんな本も3年ぐらい前に日本でも出ています。『LIFE SPAN』という本は、医学系からアプローチした本なんですけれども、何を言ってるかというと、「老化は治療できる病なんだ」っていうコンセプトなんですね。
今まで老化は防ぎようのない自然現象だとみんな思っていたんだけれども、老化も他の病気と同じように、治療できるという、そういうアプローチです。
この本の裏表紙の帯のキャッチフレーズが、一番下に書いてある「誰もが人生120年時代を若く生きられる!」。この「若く」っていうのは、今の50代から60代で健康な人の状態で、120歳ぐらいまで生きられる時代が間もなく来るよっていうことが書いてあるんです。
本当かな? って感じはあるんですけれども、だとすると人生100年どころか、もう120年という数字が目の前に出てくるわけです。これをプロットしてみるとこんな感じ。実は日本では、明治時代まで人生は50年だったんですね。つい100数十年前まで、日本の平均寿命は50歳でした。
それが戦争が終わって平均寿命は伸びてきて、現在は、定年が60歳で、人生は80年ぐらいだよねって感じが、今みなさんの持っている常識だと思います。
これが「人生100年時代」になって、老後が長過ぎるよねって言い始めたのが『LIFE SHIFT』で、さらに人生120年、そういう時代になるかもしれないと。こんなことが『LIFE SPAN』で言われているわけです。まずこのタイムスケールの感覚を頭に入れていただいて。
これを違う言い方で表現したのが、藤原和博さんという私のリクルート時代の先輩です。かつて、民間出身で初めて東京の和田中学校という公立中学校の校長先生になったことで話題になった方ですね。今も教育改革者として活躍されていますけれども、彼はこの人生が長くなる変化をこういうふうに表現したんですね。
明治時代の生き方は「坂の上の雲型」。寿命が50歳くらいだった時代、江戸時代の元服って15歳だったんですよね。ですからもう10代の後半でもう大人です。ティーンエイジャーは大人だったんですよね。そして、20代、30代、40代とがんばって、50歳になったら隠居っていう、こういう人生観ですね。
その後、大正、昭和、平成と寿命が伸びていく中で、感覚的にはこれがずっと伸びていって、「富士山型一山主義」になってきた。実は私自身も若い頃は、人生ってこういうものだろうなと思っていました。人生というのは大きな山を登っていって、あとは下っていくんだというイメージですね。
藤原さんは「いや、これからはちょっと意識を変えていこうよ」という意味で、「八ヶ岳型・連邦主義」、「これからはこれで行かない?」とていうのが、藤原さんのメッセージなわけですね。
人生というのは、いろいろな山を登ったり下りたりしていく中で、最後の山を登っている最中に事切れていく。そんな人生観もあっていいんじゃない? ということを、藤原さんは言っています。
明治時代の人生に比べると人生の長さが倍になっているんで、この「人生」というのは1回で終わりじゃないんだよ。何回でも生き直せるって、そんなニュアンスも含めているのかなっていう気がしますね。
みなさんは、今の藤原さんの図を見てどう感じますか。選択肢1、2、3とあって、これまではどう思っていましたか? 今の話を聞いてどう思いましたか? こんなことをまたチャットにどんどん書き込んでいただけるとうれしいです。
みなさんが感じたことをチャットを通じて共有するっていう、これ一種のみなさんの脳をつなげていく作業になると思います。ぜひぜひ、どんどんチャットで共有してみてください。
つまり「人生が長くなる」ことで、キャリアだけではなく人生観そのものも変わっていく。これがあの『LIFE SHIFT』が提示した、大きなメッセージの1つだったと思うんですね。
そして次のポイントは、「人生は『3ステージ』から『マルチ・ステージ』へ」ということで、これはどういうことかというと、今までの人生モデルはこの「3ステージ」モデル。「教育のステージ」「仕事のステージ」「引退のステージ」という、この3つのステージで人生を捉えていたのが今まででした。
「みんな一緒に進む」「暦年齢とステージがリンクしている」「変化の少ない人生モデル」と書きましたけども、どういうことかというと、「今おいくつですか?」と聞いて、「20歳です」と聞くと皆さんも「学生さんですね」とだいたい思いますよね。
「40歳です」と聞くと、「お勤めなんですね。仕事してるんですよね」と思います。「60歳です」と聞くと、「そろそろ引退ですね」と、みなさんもそう思うんじゃないかと思うんです。こういうふうに、誰しも年齢とステージがリンクしてるっていう意味なんですね。
これが今までの、日本に限らず、世界中の先進国が人生を3ステージで捉えていたんだけれども、人生が100年とか120年になっていく中で、長く生き、長く働く時代になってきました。
だとすると、この「3ステージ」モデルではもう立ち行かなくなるんじゃないか。これからは「マルチ・ステージ」モデルに切り替えていくべきなんじゃないかというのが、『LIFE SHIFT』のもう1つの大きなメッセージです。
その結果、「一人ひとりが違う人生を歩む」「暦年齢とステージはバラバラになっていく」「変化の多いモデル」に変わっていきます。例えば20歳で起業してる人がいるかもしれないし、40歳で学び直しのために大学院で学んでますっていう人もいるかもしれないし。
60歳を過ぎて起業したり、フリーランスで働いたり、そんな多様な人生を歩む人が、みんな自分の人生を自分で作っていく。そういう時代になっていくんじゃないかというのが、この「3ステージ」から「マルチ・ステージ」へという大きなメッセージだと思うんですね。
その中で、日本という社会はどんな社会かなって考えていただくと、みなさんも感じると思うんですが、今の日本という社会は、究極の「3ステージ」モデルと言ってもいいかもしれません。毎年4月1日に、大学生は一斉に「教育のステージ」から「仕事のステージ」に移りますよね。新卒一括採用。年功序列人事で仕事をしていって定年制。
未だに7割以上の会社が60歳定年で、60歳になった誕生日の月末で定年退職。どんな体調の人もどんな能力の人も、同じように定年で一斉に仕事のステージから引退のステージに移っていく。
今は65歳までの雇用延長とか、70歳就業法ということもあって、ここは少し緩やかになって来ているわけですけれども、でも基本的には仕事のステージから引退のステージに移っていくんだっていう社会システムが定着してますね。
だからこそ、日本で「マルチ・ステージ」の人生を生きるというのは、意外と難しいとも言えると思います。そういう中で一人ひとりがどんな人生を歩んでいくのか? 定年したあとにも長い人生がまだ残っているので、その時間をどうするんだってことを考えなきゃいけない。これが「人生100年時代」と「キャリア」という関係の、もう1つのテーマだと思います
もちろん定年まで会社を勤め上げるのはいいけども、そのあともものすごい長い時間がある。その時間をどうするのか?。「Live Longer,Work Longer」という事は、定年する前から考えておく必要があるんじゃないかと思います。
そして『LIFE SHIFT』という本の中では、新しいステージも生まれてくると書かれています。例えば「エクスプローラー」という、人生を考える探索のステージ。こういう時間を人生の中に組み込んでいってもいいんだよっていうことだったり。「インデペンデント・プロデューサー」。会社に雇われない働き方する人も増えていくと。いったん会社から独立しても、また会社員に戻るとか、そういう会社から出たり、再び入ったりする人も増えていく。
そして「ポートフォリオ・ワーカー」。いろんな働き方を組み合わせて、新しい働き方を作っていく人たち。そういう新しいステージも出てくる。先ほどの教育・仕事・引退というだけではない、新しいステージも出てくることを提示しているわけです。
そしてこの「3ステージ」から「マルチ・ステージ」へということを、もう1人、日本で石川善樹先生がちょっと違う捉え方で、『フルライフ(FULL LIFE)』っていう本を、3、4年前に書かれています。この本は「ハードな仕事と長い人生の“重心”はどこに置くの?」という問い掛けを考える本ですが、石川さんはこういうふうに捉えているんですね。
人生を四季、春夏秋冬に例えてみると、今までの「3ステージ」型の人生観というのは、「学ぶ春」と「働く夏」と「休む冬」っていう、秋がない人生観だったんじゃないのかと。「人生100年時代」になったことで、ここに「実りの秋」を、僕たちはようやく手に入れたんだっていうのが、彼の捉え方なんですね。とてもウェルビーイングな感じですよね。
「学ぶ春」「働く夏」があって、その次に、冬の前に「実りの秋」があるんだ。これが新しい人生100年時代に生まれた新しい季節なんだと、石川さんは言っています。これを人生120年と捉えると、この「実りの秋」はもっと長くなるかもしれません。30歳ぐらいまでが「学びの春」で、30歳から60歳ぐらいが一番働き盛りの「働く夏」、60歳から90歳ぐらいが「実りの秋」。それから先が「休みの冬」、そんなふうに考えてもいいのかと思います。
この自分の人生の中で、どこにウェイトを置いていくのか。このせっかく手に入った、ちょっと大げさですけど今までの人類は持っていなかった「実りの秋」という季節を僕たちは手に入れることができたので、この季節をどのぐらい豊かにしていくのか。
この「実りの秋」を何歳から何歳ぐらいと捉えるかというのは、人それぞれだと思いますけれども、こんな捉え方もできるんじゃないかなっていうのが、この「『3ステージ』から『マルチ・ステージ』へ」というテーマだったと思います。
この「長く生き、長く働く」ということと、「『3ステージ』から『マルチ・ステージ』へ」ということを合わせて考えると、働くってなんだっけ? という、まさにキャリアと結びついていくテーマになっていくわけです。ここがすごく大事なテーマになってきますよね。
ここでは、「働く」ことの意味合いを再定義する必要があるんじゃないかと思うのです。今日はちょっと時間がないので、こと細かに説明はできないんだけれども、左側が「3ステージ」時代の「働く」感覚。働く期間は40年ぐらいで、基本は「雇用される」ということを中心に、定年まで働く。
組織はヒエラルキーとかリテンションとか、組織ロイヤリティを大事にしてきました。こういうことで3ステージ時代の「働く」はOKだったんだけど、「マルチ・ステージ」時代の働くはちょっと変わってきます。
もしかすると働く期間は60年とか、それ以上になるかもしれない。働き方も多様になるし、生涯現役。そしてもっと組織もフラットになっていくし、エンゲージメントとか1on1という、最近よく言われることがだいぶ入ってますよね。これもいろいろな局面で「マルチ・ステージ」型に時代が変わっていくことの必然として、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)などを含めて、指摘されているのかなと思います。
そしてもう1つの視点として、日本では一昨年、70歳就業法が施行されましたよね。みなさんご存知だと思います。まだ努力義務なので、企業がどう対応するかはこれから本格的に議論されていくと思いますが、1つ頭に入れておいていいと思うポイントは、今までの65歳までの雇用確保は「雇われる」という働き方しか選択肢がなかった。
ところが70歳就業法には、雇用以外の「雇われない」選択肢が入ってきた。国もこういうことを言い始めたんですね。これはけっこう大事なポイントかなと感じていて、今後の働き方の選択が変わっていくきっかけになるかもしれません。
今まで、大企業の場合は「雇用延長」をほとんどの人が選んでいました。65歳まで雇用延長で同じ会社で働く人が多かったわけですが、これからはこういった企業で働く、雇われる働き方以外の道、例えば社外役員とか、顧問みたいなものを選んでいく人も出てくるかもしれないし、中にはお店を持って独立するとか、フランチャイズで独立をして、「定年なく生涯現役でがんばる」みたいな人も出てくるかもしれません。
シニア起業とかM&A独立、これは会社を自分で買っちゃうことですけど、そういう道だったり、NPOとかソーシャルベンチャーのような、収入よりも社会貢献を大事にしたい、こういう選択肢もありました。
私はこれから一番増えてくるのは、「新しい自営業」と緩やかにくくっていますけれども、個人事業主だったりパラレルワークをする人だったり、ひとり起業だったり、スモールビジネス、生業(なりわい)みたいなことをいろいろ組み合わせていく働き方だと思います。
定年まで会社に勤めたとしても、そのあとのキャリアを考えた時には、「新しい自営業」として生きていくことも十分あり得るし、そういう人が増えてくるんじゃないかなと思っています。
そんな将来像を考える上で、「働く」ということの意味をアップデートするためには、「Self-Employment(セルフエンプロイメント)」という感覚を持っていくことが大事なんじゃないかなと思っています。
「Self-Employment」という言葉は、直訳すると「自営業」という意味ですが、ここでいう意味合いとしては、「自分で自分を雇っている」感覚と捉えて欲しいと思います。仮に今、会社勤めしてる人も、「今、自分が自分にその仕事を与えてるんだ」といった感覚を持つことが大事なんじゃないかと思います。
実は、この感覚が一番冒頭にお話をした「キャリア自律」につながっていくんじゃないかなって感じるんですね。そういう意味合いでこの「働く」という言葉に対する意識をアップデートしていきたい。そんな思いでお話ししています。
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