2024.10.10
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小田木朝子氏(以下、小田木):では、(組織カルチャー変革を)具体的にどうやって、そして難所をどう捉えたかというところに話を進めていきましょうか。
沢渡あまね氏(以下、沢渡):みなさん、ここからですよ。
小田木:どんな工夫をして、どんな仕掛けがあって、そしてどんなところが難所であると捉えたか。ここを聞いていきたいと思いますが、まずは永井さんからアウトラインの共有をお願いいたします。
永井泰右氏(以下、永井):ありがとうございます。これがタイムラインです。まず最初は、2016年の1月に働き方改革がスタートしました。
このタイミングで、新クライアントPCや在宅勤務の状況とかを整備しました。ただ、やっぱりちょっと旧態依然なので、「遅くまで残業」みたいな。
沢渡:ついやっちゃいますよね。
永井:(遅くとも原則)19時前には退社するんだとか、仕事の進め方の基本的なところから、着実にステップアップしていったところがあるかなと思います。
2018年の4月には、全国でいろんな働き方を変えている人たちを紹介して、一人ひとりムービーで取り上げるという地道なことをやってきました。
永井:2020年にはエンゲージメントサーベイを導入しました。エンゲージメントは、持続的に成長していくための前提であると認識しています。
沢渡:大事ですね。
永井:このサーベイを開始するなど、いろんな取組を行ってきました。
小田木:タイムラインも(まだまだ)続いています。
永井:ここからは、沢渡さんにもいろいろとアドバイスをいただきました。2021年から一気にドレスコードフリーになって、私も今はこんなんですけど(自分の服を指さして)、それまではみんなスーツでした。ドレスコードフリーにしたり、社外副業を解禁したりと、こういったこともやり始めました。
2022年1月からは社内副業として「この指止まれ」的な感じで社内でプロジェクトを立ち上げて、みんなが集まってワイガヤするようなこともスタートしていきました。
2022年の4月はたくさんありますが、まずは「スペシャリスト社員」。流行りの「ジョブ型」と言ったらちょっと簡単に聞こえてしまうかもしれませんが、ジョブ型の要素を入れたものだったり、アルムナイとか、社外カルチャーを経験していることの重要性を高めるというアプローチも開始しました。
永井:ただし、本社だけではだめなんですね。第一線、各事業部とのコラボが重要になりますので、2022年10月からは「まじスマプロジェクト」というものを立ち上げました。
沢渡:「まじスマ」って、何の略でしたっけ?
永井:「まじでみんなでスマートワークしようぜ」って感じです。
沢渡:「まじでみんなでスマートマークしようぜ」で、まじスマ。
永井:まじスマですね。スマートワークというのは、要は「時間の使い方をみんなで変えようぜ」という話です。時間の使い方って、言うのは簡単なんですけど、やることはたくさんありますし、事業部ごとにいろんな特性があります。
なので、本社と第一線のみんなで、沢渡さんがよくお言葉で言う「勝ちパターン」をどんどん作っていこうと。
沢渡:はい、勝ちパターン。
永井:Teamsもどんどん使って、コミュニケーションスピードを上げていきました。2023年の4月からは「Viva Insights」という時間の見える化アプリを入れたり、エンゲージメントサーベイを「クアルトリクス」というものに刷新しました。
沢渡:クアルトリクスさん、すごく評判いいですね。
永井:刷新することもやり始めています。やっぱり、働きやすさもすごく重要になりますので、そのタイミングで育休職場応援手当(祝い金)も入れていきました。
永井:今日(2022年5月16日)ニュースリリースしたんですが、今話題のChatGPTも一部業務に取り入れ始めました。
小田木:おお、なんと。今日プレスリリース。ほやっほやですね。
沢渡:やっぱり、時代の先端を走っている。
永井:いやいや。時間の喪失や生産性向上に、何が一番寄与するんだ? といったところにずっと取り組んでる感じですね。
沢渡:ありがとうございます。
永井:じゃあ、そんな中で人事として何をやってるのというと、けっこうベタなものです。これだけいろんなことをやっているので、やっぱり納得感が一番重要だと思っています。納得感のためには、1on1をやるとか、組織目標と個人目標の連動をかなり意識しています。
やるからには時間が必要になりますので、どんどんコミュニケーションスピードを上げるために、さっき申し上げたChatGPTやTeamsの活用もどんどんやっています。
併せてキャリア形成ですね。自律的な何かが重要になりますので、「この指止まれ」的なところとか、権限委譲もやっています。
最後に、それをやるには働きやすさが重要になりますので、育休職場応援手当(祝い金)や男性育休1ヶ月取得の推進等、こういった部分の取組も同時並行でどんどんやりながら、何が正解かはわからないんですが、とりあえずいろんなことをやってみようと思っています。
永井:今の進捗ですが、こんなところが進み始めています。完全にできあがっているわけではないんですけれども、女性管理職比率も上がってきていますし、公募制の(社内FA、ポストチャレンジの応募者数)も前年比150パーセントです。
「この指止まれ」系のプロジェクトチャレンジをミートアップと言いますが、これも870名が参加したりしています。
小田木:「この指止まれ」って手を上げたら、870人が来たんですか?
永井:そうです。いろんなプロジェクトがあるので、それの合算ですけどね。あとは、社員からの新たなビジネスアイデア募集が累計6,000件来ています。
ドラレコ・ロードマネージャーという道路の保守点検のサービスも、実は社員のアイデアからできていたりします。常にアイデアの募集をやっていますね。あとは、Teamsのチームチャットも前年比300パーセント。
沢渡:これ、すごいですよね。
永井:ここはもう、沢渡さんにだいぶお世話になって。
沢渡:ありがとうございます。いや、一緒に苦労しましたねぇ。
永井:そうですね。ここまで来ているという状況でございます。以上になります。
沢渡:ありがとうございます。
小田木:ありがとうございます。
小田木:さっそくいろんなご質問もいただいてますが、まずは沢渡さん。
沢渡:そうですね。
小田木:ここまで、ざっと取り組みのアウトラインを共有いただきました。今回の「組織カルチャー変革」というテーマにおいて、「すごくキータイミングになったな」「キーポイントになったな」という取り組みや出来事を、沢渡さんなりの言語化をしてみていただけますか?
沢渡:はい。一言で言うと、本当に地道な積み重ねで、コミュニケーションの景色を徐々に変えていったことに尽きると思うんですね。
小田木:なるほどね。
沢渡:例えば、プロジェクトチャレンジ。プロジェクト型の仕事のやり方、本社と第一線、あるいは組織を超えて課題解決をする。
この景色は、間違いなく組織カルチャーを変えていくと私も確信しているんですが、最初はプロジェクトチャレンジになかなか手が挙がらなくて大変でしたよね、永井さん。
永井:やっぱり最初は手が挙がらなかったので、「どうですか? どうですか?」って。
沢渡:ですよね。「どうですか? どうですか?」ってやってね。そこから成功体験を1個作って、それを社内に公表しながら、「こういう変化が生まれるんだ」とか、管理職の方も「メンバーにこんな育成の効果があるんだ」って、そこから自己効力感を社内に醸成しながら広がっていった歴史ですね。
最初は半径5メートル以内から地道な営業活動をして、地道なプロモーションをして、まずは人事のみなさんがやってみて、手を変え品を変え、景色を変えをして、コミュニケーションの景色を変えていった部分がキーです。
沢渡:さらに、この取り組みはすごく大事なポイントが3つあると思うんです。1つ目、三井住友海上火災の人事部のみなさんがすごく上手だなと思っているのが、名前の付け方。ネーミングがすごくうまいんですよね。例えば、先ほどの「まじスマ」とか。
あるいは「ムーンショット目標」。目先だけではなく、中長期のテーマを掲げて取り組んでいくムーンショット目標というものを立てて、それをマネジメントされています。ペットネームがあると景色を合わせやすい、あるいは制度を説明しやすい。「利用したい」機運も作りやすいですね。
そういう意味で、名前の付け方がカルチャーを生んでいくものですから、ネーミングの部分はすごく大事。
小田木:単体ごとの名前というよりも、「どうなりたいのか」という大きなビジョンがあって、そこに名前の付けられた取り組みがどうつながるのかという、ここのフィット感が高いことが重要なんですね。
沢渡:そうですね。その部分で1つ目として重要です。2つ目は、永井さんも最初におっしゃっていましたけれども、なんと言っても人事のみなさんが実践して汗をかいている説得力。
3つ目が、変化を定量化して公表している。23ページ目を見てくださいよ。まだ成果につながっているとは言い難い部分もあると思うんですが、例えば、Teamsのコミュニケーションが(前年比の)290パーセントとか、(まじスマプロジェクトの)参加者数が50名。
変化を言語化し、定量化し、公表することによって、成長実感が生まれたりだとか、「組織が変われる」自己効力感を周りにも生んでいっている。
沢渡:変革やデジタルトランスフォーメーションもそうですが、1日にしてならずなんです。カルチャーを変えていくには、3年、5年かかる。いや、10年かかるかもしれない。
成果だけを追うのではなく、道半ばの変化を定量化し、公表していく。そして、今日この場では外にも公表している。縦横斜めに組織の自己効力感を高めていく上でも、組織を自走させていく上でも、すごく大事だなと私は見ています。
永井:あらためて沢渡さんに整理いただくと、「そうなんだな」って思いますので、自分の勉強にもなりました。ありがとうございます。
沢渡:まだ道半ばの部分もありますから、一緒にがんばりましょう。
永井:ぜんぜん、まだまだですね。ありがとうございます。
小田木:事業成果につながってるか・つながってないのかって、つい最終結果を求めちゃいがちになるけれども、まずはやったことのプロセスが見える。やったことがどんな変化につながっているのか、みんなが手応えを感じられることは、すごく大事だなとあらためて思いました。
沢渡:そうなんですよ。そうすると、「この組織では何か新しいことができそうだな」「本社ってもっと変わっていったほうがいいな」「第一線はもっと行動したほうがいいな」「本社とこう絡んだらこんなことができそうだな」とか、「オレたちは強い!」みたいな。
小田木:「オレたちは強い!」。
沢渡:そうそう。「オレたちは強い!!」by湘北バスケ部、みたいな。こういう空気が徐々に生まれてくる。ここからカルチャーは変わってくると思うんですよね。
小田木:「自己効力感は未来への期待」って、よく言い換えされますもんね。
沢渡:はい。私はそう言ってますね。自己効力感は未来への期待、自己肯定感は過去の満足。
小田木:ありがとうございます。
永井:そのためにも、やっぱり「やってみようぜ」という雰囲気づくりですよね。あとは、それを許容するところはけっこう重要かもしれないですね。
沢渡:そうですね。そして人事だからこそ、制度でもって、仕組みでもって、人の行動をデザイン・行動設計できる。これは本当に人事ゆえの醍醐味であり、人事だからできる部分だと思うんですよね。
永井:そうですね。チャットの中から少し拾わせていただくと、「スマイルが大切」というコメントもいただいてますが、まさにスマイルは本当に重要だと思っています。
(スライド資料の)この中には入ってないんですが、今年度から「サンクスポイント」というものを開始しました。
沢渡:サンクスポイント。
永井:人事考課には直接反映しなかったけれども、、「お前のこれ、サンクス!」みたいなものって、けっこうあると思うんです。このファンドをライン長に渡して、「お前のあれにサンクス」というかたちで、少し賞与に上乗せするようなアプローチもあります。
小田木:賞与にも上乗せされる。いいですね。
永井:サンクス加算って(額は)少ないんですが、実際の金額にはなるんですね。そういったものを開始して、サンクスの大切さも強調していきたいなと思っています。
沢渡:そこはすごく大事なポイントだと思います。
沢渡:人事制度って、組織の従業員に対するコミュニケーションなんですよね。この組織ではどういう行動を良しとするか、どういう変化・成長を促していくか。制度ってメッセージなんです。
その意味で、スマイルやサンクスポイントには、「目先の成果だけではなく、中長期の変化を正しく組織として承認しますよ」というメッセージの意味がある。
これがすごく大事で、制度設計も人事だからできる行動デザインであり、人材開発だけではなく組織開発の考え方だなと思います。
永井:まさにおっしゃるとおりですね。あわせて、それをどう運用するのか。
今、弊社では「部支店主体経営」という言い方をしてるんですが、第一線のトップが「組織をこうしたい」「どうやって地域・マーケットに貢献していくのか」ということを、自ら考えているようなスタンスを重視しています。
そのため、自組織の存在価値の定義を行い、それが組織の目標になり、じゃあ目標に対して自分たちは中長期と今年度は何をやるのかという2つを、ムーンショットと単年度目標でセットして納得感を高めることを目指しています。
沢渡:納得感。
永井:言うのは簡単ですけれども、行動することを目指しています。まだまだ道半ばの結果ではありますが、そういうことをやっていきたいと思います。
沢渡:カルチャーを変えるには、なかなか時間がかかりますからね。すぐに成果を出せるものでもないんですが。
そんな中でみなさんがやられていることって、会社の目指す方向感や、ミッション・ビジョン・バリューを自分たちなりに噛み砕いて、望ましい行動や望ましい各組織のあり方を定義し、現場が自律的に期待役割を定義する支援をして、その能力開発と合同デザインをしているんだなと思いました。
永井:そこまでかっこいい感じではないんですけれども。
沢渡:実際には泥臭いですよね。
永井:その状況をウォッチするには何が必要かというと、定期的なサーベイや人事から第一線へのインタビューといったものも必要になります。第一線と人事のコミュニケーションをどんどん強化しながら、同じ方向に持っていけるようなことをやっていきたいと考えています。
(人事)制度設計より、運用のほうが本当に大事だと思っています。運用に魂を込めるためにも、どんどんコミュニケーションしていくしかないなと思っています。
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