2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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田久保善彦氏(以下、田久保):あと私がこの本からもう1つ受け取った、大事だなと思っているメッセージは、自分の意志で自分の生き方を決めること。「親の言うことを聞くな」という部分の表現の方法もありましたし、いろんな表現の仕方があったと思うんですけども。
例えば松山大耕さんのところ。禅は基本的に失敗するメカニズムが組み込まれてて、そこからみたいなことだとか。どうしても現代社会を生きてると、人との比較にすごく気を取られ、失敗すると指さされるからチャレンジしないとか。自分がやりたいことよりも、周りの人から期待される生き方をどうしても希求してしまうみたいな。
泰蔵さんも「それじゃなくて、自分の生き方しろ」っておっしゃってるような気がするし、有名なスティーブ・ジョブズのスタンフォードのスピーチも「他人の人生を生きるなよ」っていうのがメインのメッセージだったような気もしますしね。
自分の生き方を当たり前のように自分で決められるって、言ってみると当たり前のようなんですけど、実はこれほど難しいこともないと、そんな感覚もあって。そこを「もうちょっとがんばろうぜ」っていうメッセージもいただいた気がしているんですけど、そのあたり泰蔵さん、どんなふうにとらえてらっしゃいますか。
孫泰蔵氏(以下、孫):私は男ばかりの4人兄弟の末っ子でして、そういった意味で末っ子らしい育ち方をしたというか(笑)。兄たちからは「お前はいつもボサッとしとんな」って言われてしまうんですけども。周りをよく見て「これやるとダメだな」とか「これやるのいいんだな」とかっていうのを見て選べる環境だったのもあって。ある意味耳年増とか目年増みたいなところがあって。
その中で選択肢をいろいろ思いつくとか見せてもらえるがゆえに、「自分で決める」っていうことをあまりしないまま育ったような気もするんですね。それでインドに出張で行った時に……僕は「人さまに迷惑をかけないようにしろ」ってずっと思って育ってきた中で、インドではよく「迷惑をかけるところから人付き合いは始まる」っていうのが言われてるらしくて(笑)。
田久保:そうなんですね(笑)。
孫:真逆だなってショックを受けたんですよね。でも確かにそれはそうだなと。自分が逆の立場で「ごめん! お願い、お願い!」とかって頼まれると、やはり誰かのために役に立てるっていうのはすごくうれしいことだし。
そんなふうに言われると「もー……」とか言いながらも、けっこうニヤニヤしながら、やってあげられることがあればやったりするなって。そういう人と意外と仲良くなったりするなっていう、一面の真理を感じたんですよね。
孫:物事は表裏一体で、見方を変えれば真逆のように聞こえることが、どっちも良かったりっていうのはすごくあるなって感じるようになってからは、むしろ自分のやりたいことを主張するのもそうだし、やりたくないことは人に頼もうっていう。
人に「これやって」って言うのはできなくはないので。できなくはないっていう時は、人に「やって」って言うのはちょっと申し訳ないなって思ったりする、遠慮してしまうことが多くて、お互い遠慮し合ってることが多いんですけど。特に日本だとね。
なんですけど、全体的に見れば、苦手なことはやはり得意な人がやったほうが絶対いいじゃないですか。僕にとってはすごく苦手なことは、得意な人には屁の河童みたいなものなんです。「ちゃちゃっと終わるよ」っていう。でも僕はそれをずっと延々ともじもじ、できなくて悩んでため息ついて……とかっていうんだったら、とっとと頼めばいいっていう。
そうやってお互い苦手なことを頼み合って、得意なことをやってあげてっていうほうが、お互い「ありがとう」って言う機会は増えるよなって思って。
僕、よく自分が関わってる会社だとかコミュニティでも、「みんながみんな自分でなんでもやる」ってやるより、「苦手なことはどんどん人に振りなさい。そのぶん得意なことはやってあげなさい。『ありがとう』の数が多いほうがいいじゃん」っていう話をこんこんと、メカニズムを説明して。
とにかく「どんなつまんないことでも、どんどん人に頼みなさい」ということを奨励するようにしてるんですね。そうするとやはりチームで活発にコミュニケーションが行われたり、仲良くなったりしてるなっていうのがあって。
僕自身も「この人と同じ組織にいるけど、ふだんあまり接する機会がないな」って思うと、積極的にそういう人に自分の苦手なことをお願いしにいくっていうのをやったりして(笑)。「俺はこれがやりたいんだ」っていうのを宣言して、「それしかやりたくないんだ」とか言ったりっていうのを、率先してやるようにしてるんですよね。
田久保:なるほどなぁ。去年、人的ネットワークに関する本を書いて、何百人にもインタビューをして書いたんですけども。「頼む力、頼る力」という項目があって。例えば「こういうことを頼ると泰蔵さんの時間を無駄にしちゃうんじゃないか」と思って頼らない、誰にも頼らない。で、なにかウジウジやって、結局うまくいかないみたいな。
でも今、泰蔵さんがおっしゃったみたいに「ごめんなさい、お願い!」とかって言われると、実は頼られた側はちょっと気持ち良かったりとかして(笑)。もっと積極的に頼ったり頼られたり、助けたり助けられたりということがうまく回ってくると、良い状況になるかもしれないですよね。
孫:絶対そうだと思います。頼み上手も頼まれ上手も、両方大事だと思うんですよね。
田久保:大事ですよね。
孫:でもそのためにはやはり「自分が好きなこと、やりたいことをやる」のがあくまでも一番前提にあって。やりたくないことだから頼む。自分がやりたいことに関係することだったら、喜んで頼まれるっていうことなんだろうと思うんですよね。
田久保:なるほどね、まずは自分のスタンスを明確にしておかないと、何を頼んでいい人かもわかりませんしね。ありがとうございます。
田久保:ぜひおうかがいしたかったのですが、(書籍の)最後に内村鑑三が出てきます。『後世への最大遺物』。グロービス経営大学院の中では『代表的日本人』をテキストにしている必修科目があるんですね。
まさに今の話ともちょっと関係するんですけども、私の解釈だと『代表的日本人』に出てくる5人の日本人は、まさに自分自身の頭でものすごく考えて、自分自身で生き方を決めて、そして内村鑑三のフィルターで「最も武士道に生きた人たち」っていうセレクションをされた5人なんだろうと思っていて。
最後に泰蔵さんが『後世の最大遺物』……金を残すか、事業を残すか、思想を残すか、いやいや最後はやはり高尚なる生きざま、つまり高尚なる生涯が、後世に残せる最大の遺物なんだよ。だからみんなそういうことを考えようね、っていうようなメッセージを(発信されていて)。
僕は最後の最後に内村鑑三が出てきて、もう完全にこの本にやられたなっていう感じがしてるんです(笑)。やはり泰蔵さんが若い方にこういうメッセージを伝えたいと思って、結果こういうかたちになったんだよねっていうお話と。
それから今日本を読まれてる方は、最後に泰蔵さんがおっしゃりたかったことは、あの1つのフレーズにまとまるとよくよく理解をされていると思うんですけども。
お話の最後として、泰蔵さんがこの本を読んでくださったみなさんに伝えたかったことを一言でまとめていただくと、どんなふうになるのかなって。もうみんなわかってることなんですけど、たぶん生声で聞きたいなと思うので(笑)。ぜひお願いします。
孫:私は別に物書きでもないですし、特にどうしても本が出したいっていう感じではなかったんですけど。本当に心の底から「書きたい」って、最後はすごく思うようになったんですね。それはなぜかというと、自分の遺書のつもりで書いたんです。なので「もうこの1冊しか書かないんだ」と思うと、「あれも入れたい、これも入れたい」とかって、すごく欲が出てきちゃったんです。
その中で内村鑑三の話って、『代表的日本人』も本当に大好きですし、『後世への最大遺物・デンマルク国の話』とか、いろいろ良いことを言ってらっしゃるんですけど。「この本読んでみて」って最後に言いたいなって思ったのが、併収されている『後世への最大遺物』だったんです。
孫:なんでかというと、僕が初めて読んだのは大学生の時、尊敬する方に勧められてだったんですよ。大学生の時は正直言って、あんまりグッとくる感じはなくて。というか、わからなくてね。あんまりピンとこなくて。
ただすごく印象に残ったのは、岩波文庫だし物々しい感じで書いたんだろうと思ったら、なんてことはない講演録なんですよね。ちょっと古めかしい訳でしたけど、よくよく読んでみるとギャグとかも言ってるし(笑)。
「おもしれぇ、これ。この人めちゃくちゃおもしろいやん」って。すごく変わった言い方で、聴く人の興味を引く。うまいなぁって思ったのが最初にあったんです。で、「僕この人好きかも」って思って。
(本文も)短いですし、それこそまさに10年に一度ぐらいずつ読み返してたんですね。20代の時、30代の時、40代の時。それであらためてこの本を書いてる途中で読んだ時に、めちゃくちゃグッときたんですよね。
自分がそれなりの年になってきて、若い世代に何を伝えられるだろうって思った時に、自分がというより「この本読んでみて。良いよ」みたいに言いたくて、これを最後に持ってきたっていうところがあるんです。
でも、この本を最後に持ってくるっていうのを最初から思って書いてたわけではなく。「明日もし死ぬとしたら何を残すだろう」って言葉で「世界は必ず変えられると思うよ。絶対変えられるって」っていう言葉にしたいって、自分が思ったことを書いたあとに、あらためて内村鑑三の『後世への最大遺物』を読んだら、本当に同じようなことを言っていて。
僕はこの影響を知らず知らずに受けてたんだなって気がついた時に……もちろんお会いしたこともないし、物理的に会えるわけもないんですけど。なにか通じ合えたような気持ちがしたというか、「内村さんの気持ちの一端は、ひょっとしたらこういうことだったのかもしれないな」とか思えたことで、自然に涙がにじみまして。
それでこの本を最後に紹介して、自分の本を書き終えたいなと思ったんです。
孫:ですからこの本は、僕としてはブックガイドなんです。私の思想を伝えようとかではなく、本当にすごく分厚いブックガイド(笑)。でも別に「紹介されている本を全部読め」とかいう気持ちもまったくなく、「あなたのそういうのを作ってみてほしいな」というのが、私が一番伝えたいメッセージでして。なので最後に「次はあなたが冒険の書を書く番だ」っていう言葉で締めさせていただきました。
もしよろしければみなさん、今日なにかのご縁でこの場を知って、私と田久保さんの対談をお聴きになるご縁があったので。もしよければみなさんも自分なりの冒険の書を作って、後世の人たち、もしくは自分のお子さんがいればお子さんとか、誰か愛する人のために、そういったものをまとめてみる。
どんなかたちでもけっこうですので、自分なりにまとめてみると、もらう側はたぶんみなさんが思う以上にうれしいと思います。それを伝える側は最高にうれしいです。本を出して3ヶ月になるんですけど、それを今噛み締めているがゆえに、経験談として心の底からそうお伝えできるなと思います。
田久保:ありがとうございます。私も(内村鑑三の本を)読んで「あ、講演録なんだ」と。金か事業か思想かと、どれも残すにふさわしいものであるが、それは最高の遺物ではない。誰にでも残すことができる最高の遺物は何であるか、それが勇ましい高尚なる生涯である……そんな文章だったと思うんですけども。
まさに「どう生きたのか」とか「どう生きるのか」っていうことに関して言えば、それぞれの人生にそれぞれの冒険があり、思想があり、思索があり。我々が学ばせていただいていることって、この本の中に出てくる哲学者もそうですけども「生きざま」とか「どう考えたのか」とかなんだなと。
僕は今回、本当に泰蔵さんがどうこの問題をとらえ続けられたのか、短い時間のことかもしれませんけども、ある種泰蔵さんの生きざま、思考プロセスみたいなものを感じて。実は間接的に『後世への最大遺物』みたいなものの一端を感じさせていただきました。ややマニアックかもしれませんけども、そんな感じ方をした最終章でした。ありがとうございます。
孫:ありがとうございます。
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