2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ーー今回は「ビジネスパーソンの『成長機会』のつくり方」というテーマでお話をお聞きしたいと思いますが、「人」と「組織」を研究されてきた古屋さんから見られた、昨今の若いビジネスパーソンに見られる変化をお聞かせください。
古屋星斗氏(以下、古屋):留意すべき大きなポイントとして、よく「最近の若者は」という話をされますが、私は若者が変わったことよりも、近年職場が大きく変わったという指摘をしています。
職場の雰囲気が変わったとか、上司の考え方が変わったというふんわりとした話ではなく、この5、6年の間に労働に関する法律が急激に変わりました。この日本の職場運営法が急激に変わる時代に入ったことに注目しないと、若いビジネスパーソンにあらわれた変化はわかりません。
法律が変わる引き金を引いたのは、もしかすると2013年に流行語大賞トップ10に「ブラック企業」という言葉が入ったことかもしれません。ブラック企業に対する批判が高まったことに対し、当時の政府が打った手が「若者雇用促進法」という法律です。地味であまり有名ではないですが、私はこの法律が大きく影響したと考えています。
新卒採用などで若者を採用したい企業に対して、情報公開を努力義務とした法律で、そこには、今の就活生にとっては当たり前になっている項目がいくつかあります。
例えば平均の残業時間、はたまた有給休暇の取得率や、研修の体制や時間、さらに早期離職率など。努力義務ではありますが、そういった若者の働き方・労働・職場環境に関するデータの開示を、若者に自社を魅力的に感じて欲しい会社が、率先して行うようになった法律がこの若者雇用促進法です。
重要なのは、開示の義務化によって職場環境を改善するために努力するインセンティブが企業に生まれたことです。それまでは「うちの会社は有給休暇をたくさん取得しています」と言っても誰にも評価されないので、企業としてやる気があまり出なかった。
しかし多くの企業が開示をするようになって、「うちの会社はめちゃくちゃ有給休暇取得率が高いから、もっと優秀な若者を採用できるかもしれない」「うちの会社は低いけど、これを改善すれば働いてほしい人材に振り向いてもらえるかもしれない」といった競争が起こったということです。背景には若手採用が困難な状況が労働市場で顕在化してきたことがあります。
ほかにも、働き方改革関連法やパワハラ防止法、直近では育児介護休業法の改正など、いろんなかたちで職場環境が急激に良くなり、若手社員の就業時間の短縮や、有給休暇の取得率が跳ね上がったというデータが、この5〜6年ではっきりとしてきました。
古屋:もちろんこれはとても良い変化です。若者を使い潰すような企業を許してはなりませんので。その結果として今の若手は、本業の仕事が人生に占める時間の割合が、過去の若手と比べてすごく小さくなりました。もしかすると気持ちの割合もそうかもしれません。
これまでのように自分の会社だけで若者が育つわけではないので、職場環境の変化に対応するかたちで、企業と若手の関係性や若手社員の行動も変わっていくと考えられます。
例えば職場だけでキャリアを輝かせることが難しいと判断して、副業・兼業したり、プロボノ(職業上のスキルや経験を活かした社会貢献活動)に行ったり、社会人インターンに参加するなど外部にアクションを起こす人もたくさんいます。
また自分の会社の中で、これまでとぜんぜん違う発想でアクションを起こす若者も出ています。上司に直接「こういった経験がしたい」「もっとフィードバックをたくさん欲しい」と言ってみたり。実際に行動がすごく変わってきていると感じます。
ーー職場環境の変化に伴い、若手社員の意識や社内外での行動が変わってきたということですね。その意識・行動の変化について、何か共通点はありますか?
古屋:結果として「成長を求める若者が多い」というデータが、たくさんの調査で出ています。例えば、弊社の就職みらい研究所が出したデータでは「就職先を検討するための決め手になった項目」で、ここ数年は「成長できる環境である」という項目がずっとトップです。45パーセントぐらいの人が「成長できる環境」を、就職先を選ぶ決め手となった項目として選んでいるわけです。
ほかの機関の調査でも、「仕事の内容」などが福利厚生や待遇に関連した項目よりも決め手として選ばれています。そう言うと「最近は成長を求める若者が増えた」と捉える方も多いと思いますが、私は単に「意識高い系が増えた」とか、そういうことではないと思っています。
古屋:なぜ成長を求めるのかを考えなければいけませんよね。みんなが「成長したい」とギラギラしているわけではぜんぜんありません。ある種、横並びの成長希求なんですよね。
もっと具体的に言うと、日本的経営・日本型雇用が崩れたことが共通の理解となり、人生の安全や安定を会社が保障してくれなくなったと感じていることに起因していると考えます。自分で自分の職業人生の安定を考えなくてはならないわけです。そういったことを大企業で働く若手ですら認識している。
実際に、私が大企業に就職した新卒1年目から3年目の若者にアンケートをとると「定年退職までその会社にいる」というイメージを持つ人は、2割しかいません。8割の人が自分はどこかのタイミングでこの会社を辞めるだろうと考えているわけです。
そうすると「果たして自分はこの会社を辞めた時に、活躍する場があるのだろうか」ということを誰しもが考えるわけですよね。だから、成長しないといけないわけです。「今の自分だと転職先はないかもしれない」と認識している。その会社を辞める時の自分が、ほかの会社で活躍できる状況にある必要があると考えている。
こういう共通認識が広がっていることが「成長を求める若者が増えた」と言われる背景にあります。別にみんながみんなギラギラ成長したいわけでは当然ないですし、実際2割の人は定年退職まで働くつもりだと回答しているので。その2割の人は成長よりも、もっと社内でしっかりと人間関係をつくりたいと思っているかもしれませんし。
いずれにせよ、いろんな考え方があることを前提としながらも、経済や社会動態の変化によって、横並びで「成長をしなければいけないのではないか」「成長してスキルや経験を獲得するのが安定だ」という機運が高まっているのは間違いないですよね。
古屋:私はそういった「若手の不安と焦り」に注目して書籍でも指摘しましたが、今の若手は過去の若手と比べて「不満」は減っているんですよね。自分の会社に対して、満足している人が増えていますが「不安」があると。ですから転職の理由も「不満型から不安型」に変わってきています。
「友人や家族にどのくらいその会社で働くことを勧めますか」というeNPS(Employee Net Promoter Score)の質問で、高得点を与える人の割合が過去の若手よりも確実に上がっています。なのに、離職率は高まっているという、ちょっとよくわからない状況になっていることを、私はデータ分析の過程で説明させていただいています。
ただ、不安や焦りが「キャリアアクションにつながっている」と見れば、ぜんぜん悪いことではありません。不安は心理的ストレスにつながるのであまり良くないと捉えられがちですが、ポジティブ心理学の分野においては、チクセントミハイという先生が「不安は次のキャリアに至るための準備運動だ」と指摘しています。
そういった意味では不安を感じることができることは1つのスキルですよね。そもそも俯瞰して自分の状態に危機感を持たなければ、不安は生じないわけです。現代社会においてはキャリアに不安を感じること自体はとても良いことだと、まずポジティブに受け止めていただきたいですよね。
SNSの発達もあって、不安や焦りを周りと比較して感じてしまう人も多いと思いますが、自分の次のアクションにつながる良い機会かもしれないと思うんですよね。
おもしろいことに、データからは過去にさまざまなビジネス経験をしている若手社員ほど、不安や焦りを感じやすいという傾向も見えています。まわりが良く見えてしまうのでしょうね。
ーー学生時代に長期インターンなどの経験のある若手社員は、比較対象があるために、より不安を感じるということでしょうか。
古屋:それもあるでしょうし、俯瞰できるだけの点となる経験がいくつかあるので、自分の状況を把握できるということもあるかもしれません。いずれにせよ、井の中の蛙では自分の状況は把握できないので、そうではない視点を持っているということですよね。それ自体はとても良いことだと思うんです。
そういう意味では1つの答えは、不安や焦る気持ちをエネルギーにして、新しい小さなアクションに踏み出すことです。私が注目しているのは、スモールステップと呼ぶ行動群です。キャリアの満足度が高い人たちが、過去にどういう行動をしたかを分析すると、もちろんビッグアクションをした人もいますが、むしろ効果があったのはスモールステップなんですよね。
転職や副業・兼業といった目に見えるアクションも最終的には大事ですが、まずはスモールステップに注目しましょう。例えば「自己開示」。自分がやりたいことをSNSにつぶやいてみるとか、知人に誘われた勉強会に参加するとか、誰かに自分のキャリアを相談してみるとか。「内省」も有効です。これまで自分がしてきた経験や行動について、メモに書き出してみるとか。
今すぐにできるかもしれない、そうした小さなアクションが、キャリアにとって大きな意味を持つことがわかっています。これがある種、2つ目の共通した行動・ポイントかもしれません。こうしたことがビッグトランジションよりも必要かもしれないということ。
ビッグトランジションはリスクを伴いますが、リスクがない状態で起こせる行動にも価値があることがわかってきています。ローリスク、もしくはほとんどノーリスクであるスモールステップが、成長を実感する若手社員に共通した行動・ポイントの1つとして、注目しています。
特にこういったことで効果がある人もわかっています。キャリアに関して課題があり、不安や焦りがあって、たくさん情報を収集しているけど、まだアクションを起こせていない人たちにとっては、スモールステップから始めることが有効です。
ーー不安や焦る気持ちをエネルギーにして、スモールステップで行動をするということですね。
古屋:スモールステップは5つあります。先ほどお話しした「自己開示」が1つ目で、2つ目が「エンパワーメント」。エネルギーを受け取るフェーズです。3つ目が目的のある「情報探索」のフェーズ。4つ目が試行、試すという「トライ」のフェーズ。5つ目が「振り返り・内省」です。
実はスモールステップをやっている人の中で、5つ目をやってない人がすごく多いんですよね。行動は認知をして初めて経験になりますので、どんなスモールステップをしたかという自己認知をしないといけないんですよね。
私がスモールステップの話をすると、多くの若手の人たちから「今までスモールステップをやっていたことに今日あらためて気づきました」というリアクションがあります。本当にそのとおりで、やっているんですけど、認識していないんですよね。「飲み会に行きました」とか、そういったレベルの認知しかできていなかったりする。
その認知を変えることで、実は過去の行動を変えることができるんです。心理上、認知上では、内省という、スモールステップの5番目のフェーズで過去は変えられます。でも、意外とみんなやっていないんですよね。
そのために私のところによく来るのが、勉強会や講演会に行ったり、いろいろ副業もしているのに「自分が一番専門にできる分野が見つかりません」という相談です。これはまさに内省による意味づけができてない状況だと思います。
例えば自分が鳥肌が立った瞬間やアドレナリンがすごく出た瞬間を、スマホのメモでもSNSへの書き込みでもいいのでメモする。とにかく書き留めておいて、貯まってきたらその共通項を言語化してみるといったアプローチが有効です。そういうことをしないと「いろんなアクションをしました、終わり」になってしまうので。
「自分が一番成長した時はいつだろう」とかでもいいんですけど、まず1つ自分に関する問いを立ててみる。シチュエーションを書き貯めて、一定程度貯まったり、1ヶ月や3ヶ月と一定程度の時間が経ったあとに、その共通項を言語化することがすごくお勧めです。
「目的地のない船に追い風は吹かない」という言葉がありますが、仮置きでも良いので、目的地がないとどっちが前か後ろか、吹いてる風が追い風か向かい風かもわからないわけです。自分が前に向かって進んでいるのか、後ろに向かっているのかを自覚する上で、振り返りによって見定めることが大切ですね。
それはキャリアだけではなく、自分の幸福感などにもつながっていきます。そういった観点で言うと、最終的には何が自分にとってハッピーなのかを考えるということかもしれません。それが成長し続けることにとって、とても重要かなと考えています。
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