2024.10.10
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浜田敬子氏(以下、浜田):みなさま、こんにちは。本セッションのモデレーターを務めます、浜田敬子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
ここからのセッションは、「エイジ・ダイバーシティ―世代間ギャップを超えるマネジメント論―」をテーマとしてお送りしたいと思います。
簡単に私から、このセッションの趣旨をお話したいと思います。私自身は記者として、組織のあり方や組織と個人の関係性をずっと取材してまいりました。その中でも、特にダイバーシティというテーマを取材してきたんですが、日本はこれまでジェンダーによるダイバーシティの課題が大きいと言われてきました。
しかし、一方で「年代」についてはいかがでしょうか。先日、あるグローバルカンパニーの方が「世界各国でジェンダーのダイバーシティは課題だけれども、日本にはもう1つの課題がある」とおっしゃっていたんですが、それが「年代のダイバーシティがない」ということでした。
2025年、日本の労働人口の約50パーセントが、ミレニアル世代やZ世代と言われる若者になっていきます。
上の世代とは価値観や働き方がずいぶん違うと言われているんですが、「こういった世代とどうコミュニケーションをして、どう育てていけばいいのかわからない」といった課題を感じていらっしゃるという声を、職場の中でもよく聞きます。
今日は3人の方をお迎えして、どう世代を超えてコミュニケーションをとって、理解し合っていけばいいのか。特に、マネジメント層の方に参考になるお話がうかがえるのではないかと思っております。
それではここから、登壇者のみなさまをご紹介していきたいと思います。まず最初に、東海大学教授、全日本柔道連盟強化副委員長、およびブランディング戦略推進特別委員会委員長の井上康生さんです。よろしくお願いします。
井上康生氏(以下、井上):よろしくお願いします。
浜田:今日はどんなお話をしていただけるのか、簡単に(お話し)いただけたらと思います。
井上:私自身、ここにいることが非常に場違いだなとあらためて感じているところなんですが、スポーツ人・柔道人としても、社会とのつながりをより一層を深めていかなければいけない時代になってきています。
スポーツと社会とのさまざまなギャップがあるような気がして、それをぜひとも学びながら、スポーツ界や柔道界の成長・発展につなげていければなという思いで、今日は参加させていただきたいと思います。よろしくお願いします。
浜田:ありがとうございます。いろいろお聞かせください。よろしくお願いします。
浜田:そして次は、Zホールディングス株式会社、Zアカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長の伊藤羊一さんです。よろしくお願いします。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):よろしくお願いします。Zホールディングス、ヤフー、LINE、アスクル、ZOZO、paypayが集まった、Zホールディングスの企業内大学の責任者をしてます。(従業員には)いろんな世代がいますが、基本的にめちゃめちゃフラットなグループです。
加えて、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部を立ち上げました。今はまだ立ち上げて2年目なので、1年生と2年生しかいない状況ですが、1年生と一緒に寮に住んでいるんです。
僕が管理人のおじさんと思われてるぐらい、めちゃめちゃフラットに「羊一さん、羊一さん」と言われています。「先生」とか言われたことないし、そういう(フラットな)コミュニケーションが実現できています。
一方で、この間シリコンバレーに行ったら、70歳近くのアメリカの起業家や80歳近くの日本の起業家が「伊藤くん。(私は)今はこんなことを考えてるんだ」なんて話してくれるわけですが、これが日本にはあんまなりないなと思って。
浜田:ないですよね。
伊藤:「日本の年代ギャップっていったい何なんだ?」と。当たり前のように考えていたけど、柔道界の話も聞いたり、他の会社の話を聞いたりしながら、(年代間のギャップを)ぶち壊したいなと思っています。
浜田:なるほど。特に私と羊一さんは、ほぼ同世代というか。
伊藤:同世代ですよ。
浜田:バブル世代で。
伊藤:よくわかってるんですね。
浜田:会社の中では、働かないおじさん呼ばわりされている世代ですよね。
伊藤:その世代もわかるし、ミレニアル世代もわかるし、Z世代もわかる人なんだけど、こうやって秋元さんを真似して若作りしてTシャツを着るっていうのは、1つの有効な手段だと思いますね。
浜田:じゃあ上の方も、がんばってTシャツを着ると。
伊藤:Tシャツを着る。
浜田:ありがとうございます。そして最後のお一方、食べチョク代表の秋元里奈さんです。秋元さんよろしくお願いします。
秋元里奈氏(以下、秋元):お願いします。
浜田:秋元さん、今日はどんなお話をしていただけるんでしょうか。
秋元:私は6年前に会社を創業していまして、今は食べチョクという事業をやっています。25歳の時に起業しているので、起業したばかりの時は、チームのほとんどが年上の方でして。その状況で会社を大きくしてきたので、そこの知見だったり、お話しできることがあるかなと思ってます。
前職は新卒でDeNAで働いていたんですが、それこそディー・エヌ・エーは2,000~3,000人ぐらいの規模の会社です。
私は新卒1年目で8人チームのリーダーになっていたり、自分より年上の人がいる環境でのマネジメントを早いタイミングでやらせてもらったりと、ディー・エヌ・エー時代の経験が活きていることがすごく多いので、そこのお話もできたらなと思います。
浜田:1年目からリーダーをやるというのは、他の日本企業ではあまりないですよね。創業者の南場(智子)さんの人材育成のポイントでもあるのかなと思っています。よろしくお願いします。
秋元:よろしくお願いします。
浜田:ここからパネルディスカッションに入っていきたいと思うんですが、3つのテーマについて、みなさんにうかがっていきたいと思います。最初のテーマが、世代を超えた新しい発想や行動に対してどうやって向き合っていけばいいのか。
特にいわゆる中間管理職と言われる人たちは、下の世代に対してどういうふうにコミュニケーションすればいいのか。みなさんも悩まれてるんじゃないかと思います。
まずは井上さんからおうかがいしたいんですが、柔道やスポーツ界でも、井上さんたちの世代と下の世代は考え方が違いますか? 例えば「勝つ」ということに対して(の考え方)とか、練習に向き合う姿勢とか。
井上:そうですね。今のご質問に答える前に、私もTシャツ着てくればよかったなと、すごく反省しています。「なんて空気を読まない男なんだ」と、感じているんですが。
(会場笑)
浜田:(笑)。
井上:社会的な背景も違う中で、下の世代と上の世代の違いは間違いなくあるんじゃないかなと思います。
でも今の時代において、我々の時代やその上の世代(の考え方が)がすべて当てはまるかというと、そうではない。だからこそ、時代が変わってきてる中で何をすべきか、何を当てはめていくかを考えてかたち作りしていくことは、とても大事かなと感じています。
ただし私自身が考える中では、温故知新じゃないですが、これまでに数多くの歴史を作ってくださった先人の方々のご意見も……いきなりすごい敬語になってしまいましたが。
(会場笑)
浜田:(笑)。
井上:我々がより一層発展させていくためにも、(上の世代の意見も)間違いなく必要な要素だと思うので、そこのバランスをどうマネジメントしていくかは、現場で戦っていく中で常に考えてやっていました。
浜田:井上さんの今の肩書きが、柔道連盟の強化とブランディング。選手を育成して強くすることと、柔道のイメージを広く世間に知らしめてイメージアップして、競技人口を増やすという、両方をなさってるかと思います。
どうしてもスポーツって、強くなるためにはある程度厳しい練習が必要です。「競技人口を増やす」というところにおいては、もしかしたらここが今の若い人たちにとってはハードルになりかねないですよね。具体的に、どういうふうに両立させていらっしゃるんですか?
井上:なぜ私が2つの仕事を務めさせていただいているかというと、自分自身の人生観や仕事観にも関わってくると思います。柔道の究極の目的は何かというと、柔道の修行で己を完成させて、それをもとに社会や世に貢献する人間になることです。
それを考えると、例えば先ほど言った「強化」という目線は、世界で戦っていくため、チャンピオンを作っていくための1つのものです。なので言い方が雑になるかもしれませんが、柔道の価値や魅力の部分を考えた上で、それは点に過ぎないものです。
柔道にはそれだけじゃないもっと多様な魅力、価値がある。そこをもっと突き詰めていこうということで、ブランディング委員会でいろんな活動をさせていただいています。
浜田:「点に過ぎない」「強くなることだけが目標じゃないんだ」ということを、若い世代の選手には伝えていらっしゃるんですか?
井上:彼らがやっている強化での仕事は、彼ら自身が生き甲斐、やり甲斐を感じて、そして突き詰めている。どれだけ意識してるかは別にしても、たくさんの方々に勇気や希望とを与えている部分もあるんじゃないかなと思います。
柔道のワードばかりで言ってしまうんですが、「精力善用」「自他共栄」という言葉があって。これは何かというと、それぞれの立場・役割のもとで、自分自身を磨き上げていく。そしてそれをもとに、社会とどう共存共栄していくかということだと思います。
ですから、選手は選手の立場で、それを全うしていけばいいんじゃないかなと思います。ただし、「柔道の魅力や価値ってそれだけじゃないよね」ということも追求していきながら、先を見据えた上での活動もまた考えていこうという話は、よくしていますね。
浜田:伊藤さん。これを会社に置き換えると、上の世代に「会社を成長させる」「発展させていく」「強い組織にしていく」というモチベーションがあったとしても、特に若い世代は「自分がこの組織の中でどうやって成長できるか」「社会に貢献したい」という(考えを持った)人が多いですよね。
上の世代と下の世代で、若干組織に対する期待感が違うというか。だからこそみなさんがどう接していいかわからず苦労していらっしゃる。
もしかしたら柔道も、教え方も少しずつ変わってるのかもしれないんですが、昔だったら「厳しく鍛えて」とか、もっと言えば「背中見て覚えろ」という感じだったのが、逆に今はそれをやってしまうとハラスメントと言われる。だから、むしろ中間管理職の人のほうが、腫れ物に触るようにものすごく遠慮している。
「ゆるい職場からは若者がどんどん離職する」という、研究も話題になっています。じゃあどうすりゃいいの? というのが、今の職場の世代間に横たわってる問題なんですが、このあたりは羊一さんの実体験を踏まえていかがですか?
伊藤:話をおうかがいして、柔道も一般企業も本当に同じだなと感じるのは、「先人が作ってきたものはリスペクトする」ということは、大前提としてある。それから、先輩として長年生きてきたからこそ、そこに対する人間としてのリスペクトも当然持つ。だけど、それを仕事場に持ってくるからいかんのであって。
「仕事場って何?」というと、秋元さんの(話にあった)マネジメントもそうだし、僕も前職でヴァイスプレジデントというところにいて、直属の方が全員10歳ぐらい年上だったんですよ。
「どう(マネジメント)するか?」ってなった時に、僕の部下になった1人が「伊藤、飲みに行こう」と言ったんです。「飲んでる時は俺はお前のことを『伊藤』と呼ぶ。だけど、マネジメントの場に行ったら『伊藤さん』と呼ぶ。いいか、リーダーというのは機能なんだ。リーダーという機能を果たせ。そこに年上だろうが年下だろうが関係ないよ」と言われて。
浜田:気が楽になりました?
伊藤:めちゃめちゃ気が楽になって。だから変な話、リスペクトはしますけど、機能としてのヴァイスプレジデントとして、「私はあなたにこういうことをしていただきたいと思います」というニュアンスは出すようにする。
伊藤:みんな職場では「伊藤さん」「なんとかですよね」って言うんだけど、飲みに行くと「伊藤。さっきのあれ、ねえだろうよ」って。
浜田:なるほど。個人としての人格と、機能としてのマネジメントを分けて考える。
伊藤:そうそう。そこを徹底すると、年代差があっても。
浜田:乗り越えられる。
伊藤:(それを踏まえていれば)下の人が上の人をマネジメントすることは大丈夫かなと思います。一方で、逆にシニアの人たちがいろいろ思うことがあって、「どうやって触れたらいいんだろう?」と思う時も同じです。要するに、「機能としてあなたが果たすべき役割を果たせば、あなたの役割なんですか?」っていう。
浜田:「(マネージャーという)機能として、ここはちょっと厳しく言わなきゃいけないな」と思ったら、それは機能としてきちんと(役割を果たす)。
伊藤:そうそう。別に、年上とか年下とかないじゃないですか。言い出すと本当に話が終わんないんですが、日本の社会って年を取ると偉くなっていくじゃないですか。そもそも、それがおかしいだろうと。
浜田:崩れない年功序列という構造ですね。
伊藤:そうじゃなくて、ちゃんと役割を果たしているからマネージャーになる。だからヤフーも年齢とか関係ないし、おそらく秋元さんもそういう社会の中で育ってきたんだと思います。
(長く)生きてきたから、シニアの人はシニアの人でリスペクトされるべきだし、一方で「あなたの果たすべき機能は何なの?」っていうところは、全員がフラットに問うべきだと思いますよね。
浜田:ありがとうございます。秋元さんは、自己紹介の時に「ディー・エヌ・エー時代の体験がすごくマネジメントに生きている」と言われました。おうかがいしたいんですが、ディー・エヌ・エーからは起業される方がたくさんいますよね。
プロジェクトマネージャーなど、いきなり1年目からリーダーの体験をされている方が多いです。その時の戸惑いとか、世代を越えていきなり何人もメンバーの方が束ねなきゃいけない時、どういうことに気をつけてらっしゃったんですか?
秋元:まず前提として大事だなと思うのが、組織全体が「人」ではなく「こと」に向かうというのは、すごく強く言ってるんですね。誰が言ったかではなく、何を言ったかで評価される会社。
「誰が(言ったか)」を完全に排除した状態で言葉を並べた時に、良いものを取るのがあるべき姿だというカルチャーがベースとしてあります。つまり、新卒1年目でもいいことを言ったら、ベテランが言った言葉よりも(評価されることもある)。
そういう意味だと、例えば自分がリーダーになって、経験はないけれども言ってることが正しければ、部下が年上でも「私だから」というのを切り捨てて判断してくれる土壌があったのは大きいかなと思ってます。
浜田:なるほど。確かに「こと」に向かうと、「誰が言ったか」が薄まる。誰が言ったかを強調するから、「あいつはゆとり世代だから」みたいな、ある種の世代のラベリングと結びついていくところありますよね。
秋元:そうですね。結局、抜擢文化を生んでるのって組織の評価制度だと思うんです。それこそ「経験」は、もちろん人を評価するための1つではあると思うんですが、ディー・エヌ・エーの場合はそこにかける成長率をすごく重視していて。
つまり、経験があっても緩やかな成長の人と、今は経験がないけれどもものすごい勢いで成長してる人だと、「半年後にどうなってるか」に裁量を与えて投資をするという考え方なんです。
「今は若くて経験はないけど成長率が高いから、この人に裁量を渡したら、きっと半年後には経験がある人よりも良い成果が出てるんじゃないか」という考え方で裁量を渡してもらえたのは、すごく大きかったかなと思ってますね。
浜田:そのカルチャーを作ったのは、南場さんの考え方ですか?
秋元:そうですね。「50パーセントの成功確率の仕事を振る」という言葉を聞いてディー・エヌ・エーに入社したんです。
「その人だからできるよね」で任せるんじゃなくて、「この人だったらきっと50パーセントの確率でやってくれそう。もしかしたら失敗しちゃうかもしれないけど、50パーセントを埋めに行くことで人は成長するから、仕事で人を育てる」という考え方が、南場さんはすごく強いですね。
伊藤:ディー・エヌ・エーでそういう文化の中でやられてきて、ご自身で起業されて、同じように年上の部下になる人もいます。そのままシフトしたのか、ご自身なりに悩まれたとか考えたところなのか、どんなものですか?
秋元:そうですね。ディー・エヌ・エーはもともと土壌があったので、何も考えずにできたんですが、自分の会社の場合は土壌を作るところからのスタートでそした。ほとんどの人が中途で入ってくるので、それぞれの会社のカルチャーがあるから、そこは今もすごく苦労はしてますね。
伊藤:なるほど。
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