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「攻めのシニア起業術」~“正しい”を疑え! 混沌とした時代を戦略的に生きる方法~(全3記事)

中高年のキャリアチェンジで「まぁ、なんとかなる」はない 作家・真山仁氏が語る、「大人の挫折」を避ける検証のポイント

公益財団法人 東京都中小企業振興公社の主催で行われた「第3回 東京シニアビジネスグランプリファイナル」の基調講演に、『ハゲタカ』シリーズで知られる小説家の真山仁氏が登壇。「攻めのシニア起業術」をテーマに、趣味を仕事にする時に気をつけるポイントや、客観的に自分や自分の仕事を見る方法などを語りました。

中高年が急に新しく始める趣味はうまくいかない

真山仁氏(以下、真山):今回のこの「55歳からのスタート」は、確かに良い年齢です。

50になったら多くの人は自分の人生の向こう側が見えてきます。特に、組織に勤務している方は、自分がどういうかたちで出ていくかが見えてくると思います。その時に初めて、自分の人生を振り返り、これからどうしようかと考えるのではないでしょうか。

このまま仕事人間のまま終わってつまらない人生になるんじゃないかとか、尊敬していた上司が会社を辞めて、ものの2年でボケちゃったと聞いたりすると、すごく焦ります。

こういう時に急に新しく趣味を始める人がいますけど、だいたいうまくいきません。趣味って、やりたいからやるんであって、やらなきゃいけないからやってはダメなのです。

できれば50歳ぐらいの時に「自分は何がしたかったんだろう」「何が好きなんだろう」と考え始めた方がいい。

なぜかというと、自分自身が辿ってきた人生のプロセスや人間関係などを、一つひとつ検証していくのに5年ぐらいかかるからです。

若い子から、どうすれば真山さんのようになりますかって言われて、「好きなことをどんどんやりなさい」「いっぱい挑戦して、たくさん失敗して、挫折して乗り越えていらっしゃい」と話すと「挫折なしでお願いします」と言われて絶句したことがありますが、そういう人は挑戦しなくていいです。

挑戦イコール挫折です。50代になれば、それを知らない人はいないと思います。やりたいことが全部やれるような人生なんて絶対ありえないですから。一番やりたいことができなかったのに、大してやりたくもないことでそれなりに成功してしまったり。

やりたいことでなぜうまくいかなかったのか。それは距離感の問題かもしれないし、もしかすると、自分が勝負をかけたタイミングが早かったか遅かったからかもしれない。そういうことは、50ぐらいになると見えるはずです。

『ハゲタカ』で描いたフライフィッシングに挑戦しなかった理由

「自分は仕事人間だ」と言う人は仕事が趣味ですし、部下にえらそうにするのが好きな人は、そのままえらそうにできる人生を歩んだほうがいい。

例えば、商品やサービスを提案し、それを人に聞いてもらい、それが実現した結果として人に喜んでもらった時の充実感や、あるいは、なかなか参入が難しいところに入っていく時のプロセスや達成感は他では得がたいものです。若い頃は結果がすべてだと思いがちですが、プロセスあっての結果だということは、年を経ていくうちに染み込むように実感していくものです。

もしかすると、仕事のそうした部分が一番自分の好きなことであり、強みではないか、と気付いたなら、新しい趣味を探したりしてはダメです。例えば、いきなり釣りを始めても、きっと腹立つだけですよ。

デビュー作の『ハゲタカ』にフライフィッシングが上手なヒロインが出てくるので、フライフィッシングが大好きな人たちから、「一緒に日光でフライフィッシングやりましょう」と言われましたが、すべてお断りしました。

実は、一度もやったことがないんです。竿を握ったこともない。性に合わないのがわかっている。フライフィッシングはこうやって後ろに引いて、虫が飛んでいるようにキャスティングする(疑似餌を飛ばす)のが難しくて、たいていの人は後ろの木の枝に引っかけてしまう。

そもそも私は待つのが嫌いなので、釣りは絶対、楽しめない。それなのに書けたのは、映画『リバー・ランズ・スルー・イット』を見て、「ああ、この瞬間が楽しいんだな」と理解できたからです。

あるいは、釣りの上手な人たちのブログを読んで、「この人たちはこれが楽しいんだ」とつかんだ。実体験はなくても、それで充分です。私は想像するのは好きですけど、自分でなんでも実践しようとしない。

する場合もあって、昔、養蜂家を主人公にするために蜂を飼ったり、日本の絹の問題を書くために蚕を飼って、ちゃんと繭まで作ったこともある。それは観察するだけだからできるんです。

フライフィッシングをやらなかったのは、確実に嫌いになるのがわかったからです。そうなると、読者に「楽しいよ」という嘘がつけないと思ったからやらなかった。ここに実は、大きなヒントがある。つまり、できもしない趣味をしてはいけない。

映画を見て、ブログを読んで、書けるんですから、それでいい。私の強みはそこなんだなと、あの時思いました。

大人の挫折は辛い

同様に、セカンドライフで、安易に目新しいことにとびつくのは高いリスク伴う。例えば、今はAI社会だから、AIをやろうとか、DXしようというのは気を付けた方がいい。

若い子たちの言葉に乗ってリスタートするのも間違ってはいないし、プレゼンテーションとしてはそれでいいんですけど、「それは楽しいですか?」「おもしろいですか?」「本当に若い子たちに太刀打ちできますか?」と自問するべき。

若い頃はいくらでも挫折すればいいけど、大人の挫折は辛いです。特に、それなりに結果を出した経験のある人たちにとって、プライドがズタズタになる覚悟を持つのは、年を取れば取るほどしんどいものです。

だから、問題は自分の強みや好きなことがあるかどうか。好きなことであっても、下手の横好きの仕事ではしんどいです。

たまにいますよね、サッカーが上手なのに、好きだからずっと野球をやっているけどレギュラーになれない子。あるいは、将棋より、絵を描くほうが得意なのに、本人は将棋で藤井くんみたいになりたいと思っているような人が。

楽しいから趣味で続けるか、これが好きだしやっている間は飽きないから新しい仕事にするか。ここに分岐点があります。

50を過ぎた大人ですから、好きだけどうまくいかないものを仕事にしちゃダメです。それは仕事にしないで、ずっと趣味でやればいい。私の場合は、さっきお話ししたように、趣味から仕事になっています。

趣味を仕事にする時に気をつけるポイント

「趣味は何ですか?」「仕事です」と言うと、「さみしいですね」と言われます。でも、誰も読んだことのない世界を自分だけで書けるって、こんな楽しい趣味を仕事にできるのは最高です。現実は厳しく大変ですけど。

でも、そう言えるじゃないですか。つまり、趣味が仕事になることは良いことです。良いことですけど、趣味が仕事になる時に気をつけなきゃいけないのは、「好きなだけじゃないの?」という目を持てるか。

あと、趣味を仕事にすると退路がないんです。おそらくここにいるほとんどの人は、過去に一度や二度は、「今はまだやりたいことをやっているわけじゃなくて、本当にやりたい夢の過程、プロセス、途中だから」と言い訳をしているはず。これはたぶん世界中みんなそうです。

それがある日突然、やりたいことを手に入れてしまう人がたまにいます。作家デビューしたものの、1本で終わりましたっていう人は決して少なくない。小説家の看板を上げ続けるのは、簡単ではないのです。

なぜなら、プロと言えるには書き続けなければならない。1本に10年かけてもいいからそれをちゃんと自分で理解できているのかどうか。好きなことを仕事にしてしまうと、「いや、本当にしたいことではなくて」とは、もう言えません。

50代で好きなことを新しい選択肢にするなら、そこに今まで50年なり、55年なり、自分が経験してきた仕事や人生や社会の立ち位置、軌跡を活かせるかどうかを、冷静に考えなきゃいけません。

「まぁ、なんとかなる」。ならないです。残念ながら若くないので、体力もお金もついてきません。「これからいくらでも増える」と言えるのは、たぶん20代、30代で、50代以上はある意味守らなきゃいけないお金だったりします。

そこは時に臆病に、時にシビアにならなきゃいけないです。若い時とは異なった視点で自分を分析する。これが、50〜55歳の間にやらなきゃいけないことです。

5年かけて自分を分析する

「自分は大丈夫だ」と思う人がたぶん多いと思うので、逆のアプローチからこの話をしようと思います。

逆のアプローチとは、自分がやってきたことを振り返って、自分には何ができるだろうと考えることです。少なくとも、嫌だ嫌だと言いながらでも結果が出ているのであれば、残念かもしれませんが、そこに才能があるのです。

「誰でもできる仕事」とよく言われますが、誰にでもできる仕事かもしれないけど、それぞれに個性があり、その人の特徴がある。そこをどう自分で分析するかがとても重要です。

もし、若い頃からずっと日記をつけている人がいらっしゃったら、読み直せば、自分の得意なことがわかると思いますが、残念ながら、ほとんどの人は記録していないと思います。

なので、50〜55歳の5年間ぐらいで、自伝を書くほどの気合は入れなくていいので、自分がしてきたことと、その時の気持ちや他にもあったかもしれない選択肢などを書き出して、冷静に自分を分析してほしいと思います。

客観的に自分や自分の仕事を見る方法

気をつけないといけないのは、自分のことを肯定的に書き過ぎないことです。時々ひたすら過去の業績の自慢話をされる方がいます。あとで他の人から、「あの人の話の半分はご自身がやったことじゃない」と言われる例もあります。

自分を客観的に見れない人が新しい世界でリスタートするのは難しいと思います。そういう意味では、親しかった同僚や部下を久しぶりに飲みに誘って、「最近いろいろ、若い頃のことを考えるんだけど」と話すのもいい。

仕事や自分がどういうふうに見えていたかを人に聞く。相対的に見るのが大事なので、自分の自覚している実績と、結果的にうまくいった理由と、実は隠されていた批判などから多角的に分析する。もう過去の話なので、ある年齢になるとみんな気安くいろんなことを言ってくれるものです。

耳の痛い話もあるかもしれませんが、これをやることで、自分はなぜ今ここにいて、どういう状況にあり、どんな実績を得られたかが、だんだんわかるようになる。そうして、今後やりたいことと自分の経験と結果をにらみながら、これを融合し、化学反応させる。

混合物という発想です。ごった煮のまま、好きだし、これもできたから「まぁ、いいか」ではなく、この2つが相乗効果を示すと新しい物が生まれるかもしれない。これを化学反応と言い、おそらくこれがクリエイティブだと思います。

50歳から始めて55歳、なんなら60歳までに、ここに至れるかどうか。そういうことを考えている人がたぶん今この話を聞いていらっしゃると思います。

「新しい」にあまりこだわらないでください。化学反応するような新しさならいいんですけど、目新しい物である必要はないのです。

あくまでも、みなさんの辿ってきた人生と仕事の軌跡の延長線上に未来はある。ただ、できたらポイントを変えたい。つまり、ずっと走ってきた道から違う道に行く。それが、新しい刺激になります。

50歳を過ぎて現場から離れて管理職になると、たぶん、どんどんつまらなくなりがちですが、できたら、自分の中で見えてきた未来は、これまでの延長線上だけどそのままつながっていないのを探そうという目を持ってほしい。

これを「正しいを疑いましょう」という話の前提として、心に留めておいてください。

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