2024.10.10
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司会者:壮絶な幼少期。人生を変えた出会いと選択、そして現在。あえて言っちゃいけないことを言うわけと、壁を乗り越えるリーダーに必要な素質とは。
成田悠輔氏(以下、成田):「投げられた石にとって、登っていくことが善でもなければ、落ちていくことが悪でもない」。そんな言葉を発した人が、大昔にいたと聞きました。その言葉を発したのは、マルクス・アウレリウスという人らしいんですね。
この人の名前を聞いたことがある方は、どれぐらいいらっしゃいますかね? このマルクス・アウレリウスという人は、2つのぜんぜん違う顔を持つ人物として歴史に名が刻まれている人だそうです。
1つは、ローマ帝国の皇帝という顔なんですね。ローマ帝国、たぶんどなたも聞いたことがありますよね。世界史の教科書に載ってる帝国です。あの帝国の絶頂期に、その権力の頂点にいた皇帝だったんです。
ただ、同時にこの人物はもう1つの顔を持っていたと聞いています。それはどちらかというと引きこもりな感じの人で、自分の部屋にこもっては、ノートによくわからない断章やアフォリズムとか、文章のようなものを書き連ねてたらしいんです。
感じたことや思ったこと、あるいは考えたこととか、毎日ポエムみたいなものをつらつらと書き連ねていたらしいと。彼が書き連ねたその断章が、今日の『自省録』。つまり、自分を省みる記録という名前で、1つの本にまとまっている。
つまり、権力や政治の頂点という側面と同時に、“引きこもりの日記哲学者”というまったく異なる側面を同時に共存させていた人物が、このマルクス・アウレリウスです。
成田:そのアウレリウスが書き下した言葉が、先ほど紹介した「投げられた石にとって登っていくことが善でもなければ、落ちていくことが悪でもない」という言葉なんですね。今日は、その言葉を結論として提示したいなと思っています。
今日のテーマは「Climbers」という名前だとうかがっています。「乗り越える」ということだと思うんですが、Climbersというと、登っていくもの、登頂していくもの、昇り龍で上がっていく人みたいなイメージですよね。
ただ、いろいろと考えていくと、登ることや乗り越えることはそんなに大事じゃないんじゃないかなという気がしてきます。というよりも、むしろ登ることが大事であるかのように語りすぎると、大事なことを見落としてしまうのではないか。
むしろ重要なのは、登ることよりも落ちていくこと。そして、成功することよりも没落することのほうが大事なのではないかと。そんな話をしたいなと思っているところです。
ただ、いきなりそんな話をしても「いったい何のことやら」という感じだと思いますので、ここからお話しするのは、その結論に至る長い長い寄り道と考えていただければなと思います。ただ、全体的にちょっと辛い感じがしているんですね。
この舞台を見ていただくと、バシバシに作り込まれています。照明も眩しいわ、さらにカメラさんがやたらと鋭いカメラワークで3台、4台で迫ってくるっていう、非常に辛い感じなんですよね。
(一同笑)
成田:だいたいこういう場所に出てくる方は、こんな舞台上に上げられてもとうとうと流れるような講演をバシッと繰り広げて、みんなの心をつかんで、(聴衆が)涙を流して去っていく。そういうのが、エリート文化人のみなさんだと思うんですよね。
ただ、よくよく考えてみると、人間の生活や人生っていうのはそんなに流ちょうに流れるものじゃないと思うんですよね。
僕、今はかなりふらふらしてるんですが、たまたま昨日は夜中の2時ぐらいまで、このイベントを主催しているテレビ東京さんの生配信を2時までやらされていました。そこからタクシーで帰されて、朝一で講演をするという、もうわけのわからないブラック企業のような状態になってます。
昨日、その配信を2時に終えたあとにタクシーで家に帰ったんですよ。そうしたら、驚くぐらいに手際の悪いタクシー運転手さんに当たりまして。夜中の2時に、まったく混んでもいない道なのに迷い始めて。すごい小道みたいなところに入って、気づいてみたら「一方通行だった」とか言うので、引き返して。
引き返したら、後ろにある壁に車が当たって。「すいません、すいません」って言いながら、ひたすら家に着かないという悪夢のようなタクシーに乗ったんですよ。でも、ふと「ま、人生ってのはこういうものだな」と思ったんです。
つまり、だいたい人間の人生は堂々巡りがあったり、「うまくいった」と思ったらただ迷い込んでいただけだったり、言い淀んだり、言葉が出なかったり、そういうものだらけなんじゃないかと思うんですよ。
そんなものをうまくまとめてしまって、1つのストーリーとして提示してしまうと、大事なものがすっかり落ちてしまうのではないかと。そんな気もするんですね。
成田:なのでここからは、言い淀みとか、何を考えてるのか・考えてないのかもよくわからない、できるだけ今ここで浮かんできた言葉をお話ししたいなと思っています。そのためには、あまり流ちょうに頭の中で描かれてるストーリーをペラペラとしゃべっていてはいけないということで、小道具を用意してきました。
ゴーストライターの方が用意してくださった台本と筋書きがあるんですね。それをカラーペンで研究してきましたので、(今回の講演に)どんなストーリーが期待されているのかということを、僕なりに振り返りながら考えていきたいと思います。
この台本を見てみると、タイトル案と「未来を変えるタブーなきアイデア」と書いてあります。「何も恐れない好奇心だけが革新」ということについて語るべきだと。
「トークイメージ」というところを見てみると、最初に簡単な自己紹介からスタートするんですね。「著名ではございますが、あらためて自己紹介をお願いします」と。「お前のことなんか誰も知らないぞ」と、ちゃんとリマインドしてくださるということですね。
あ、自己紹介から始めてみたいなと思います。成田悠輔と申します。何をやっている人間なのかと言われると、ちょっと困るんですよね。(このイベントには)霊長類最強の金メダリストとか、誰もが知ってる政党の党首の方とか、そういう完璧な感じの方ばっかりがいらっしゃる。
はっきり言えるものが何もない人間ということで、何をやってるのかというと、3つぐらいのことを並行してやっています。1個は、研究者や学者のようなことをやっています。同時に、ちょっとした企業のようなこともやっていて。
今日主催されているSansanさんの1万分の1ぐらいの規模の、近所の八百屋さんや駄菓子屋さんぐらいの規模の零細企業を営んだりもしています。
成田:同時に、最近は三流タレントのようなこともしております。ニュースや討論番組に行って、世の中についてわかったような口調で、あまり内容のないことを語ったりする。かと思うと、深夜のバラエティ番組に呼ばれていって、誰にもウケないギャグを言って寒々しい空気で帰ってくる。そんなことをやってる人間なんです。
ただ、ちょっとだけ真面目に自己紹介してみます。データやソフトウェア、アルゴリズムとか、デジタル技術っぽいものがあるじゃないですか。こういうデジタル技術を使って、世の中にある政策、あるいはビジネスをよりよくデザインできないか、ということをやっている人間です。
もともと、特に教育や医療の問題に興味があったんですね。例えば教育というと、ほとんどのみなさんが良い教育を受けたり、良いとされている学校に入るためにすごくがんばると思うんですよ。がんばって受験したり、お金をかけて塾へ行ったり悩んだりして、すごくコストをかけているわけですよね。
でも、ふと振り返ってみると、そんなにがんばって「良い」とされている学校に入って、本当に良いことはあるんだろうか? そんなふうに思うことも、誰でも1度か2度はあると思うんですよね。
本当に有名なエリート学校に行くと、良いことが起きるんだろうか? そういう問いに、自分の意見や議論で答えるのではなくて、データや科学を使って答える。そんなことをやったりしています。
成田:実際にアメリカで、有名なエリート大学や高校は本当に教育効果があるのかを測ると、実はほとんど効果がないという結果が出たりもしています。
有名な学校に行ってる人たちは「良い感じの人生」を送ることが多い。それは、誰しも見ればわかりますよね。でも、良い感じの生活を送れる人たちは、良い感じの学校に入る余力があるだけだと。つまり、良い感じの生活を送れているのは学校のおかげではなくて、単純にその人たちがもともとすごかったからだけだ、という結果が出てきたりします。
医療についても似たような分析をやっているんですね。コロナ禍でいろんな国が数兆円とか数十兆円のお金を病院に流し込んで、コロナ対策を支援しましたよね。こんなにお金を使って、本当にコロナ患者の受け入れ数が増えたんだろうか? 病床が増えて、コロナ患者は救われたんだろうか? そんなことの分析もやっています。
分析してみると、アメリカではコロナ助成金にはほとんど何の効果もなかったらしいという結果が出ています。
データや科学は、人間が放っておくと「なんとなくこうやっておけばいいんではないか」と思われるような、思い込みの壁を乗り越えて打ち砕いてくれるような力があるんじゃないかなと。そんなことを考えながら、データやアルゴリズムを使った政策、ビジネスのようなことを同時にやっていたりします。
そんなこんなで、大学をやっていたり、スタートアップっぽいものをやっていたりする人間なんですね。
成田:自己紹介を終えて、またしも台本の筋書きに戻ってみると、自己紹介の後に「しかし」とあるんです。「しかし」、これが重要ですよね。何事もひねりが大事ですからね。
「順風満帆なエリート人生だと思われていますが、実は家庭環境が非常に厳しかった」と。そして、いろいろな事情で不登校気味で、満足に学校での教育を受けることもなく、ふらふらと10代を過ごしてしまったと。そんなことが書いてあります。苦労を苦労と気づかなかった幼少期、ということですね。
順風満帆な公式見解の裏には知られざる苦労があるという、いつもどおりの鉄板の流れですよね。自分が生まれた家庭環境がかなり複雑で、父親がギャンブル好きだったり、アルコール依存症気味だったんです。
夜中にギャンブルをしては、サラ金とか街金で借金を作ってきて、こそこそと家に戻ってきて、それを母親が見つけ出して怒鳴り合いがスタート。だいたいその怒鳴り合いを聞いて朝起きる、という感じの子ども時代を過ごしていたんですよね。
家庭はぐちゃぐちゃで、僕が小学校に入った直後ぐらいには、父親も働いていたかどうかわからないような感じでした。母親もサラ金の返済をするために、細々と働きながら。
当時は、いろんな駅の前に借金を返すためのブースがあったんですよね。あるところで借金をして、別のブースで借金を返す。やってはいけないことをやるために、ママチャリで駅の周りをぐるぐる走る。その(自転車の)後ろに乗っかっていた記憶があります。
成田:小学校に入ったあたりには、プレハブ小屋みたいな、プラスチックでできているようなすごく安っぽいワンルームアパートに家族4人で住んでいて。ゴキブリが出て起きるみたいな、もうだめだめの典型みたいな家庭にいたんですよね。
その後、親が社会復帰っぽいことをしまして。しばらくはサラリーマンっぽい感じで、ちゃんとした生活を送ってるかに見える時期が10年ぐらいあったんですよ。なんですが、その後やっぱり無理がたたりまして、僕が高校を出る前ぐらいに父親が突然「新しい人生を始めたい」と言って、いきなり失踪することがあったんですね。
母親はパニックで、くも膜下出血にかかって突然倒れたりしました。2~3ヶ月ぐらい、病院で意識不明の重体になった。だけど借金を積み重ねているわけなので、方々に借金がある。さらに、身の丈をわきまえずに住宅ローンとかも借りちゃったりして、けっこう借金があると。
僕が17、18歳の時ぐらいに「もう返せない」ということになって、しょうがないから一家で自己破産したことがあります。
自分自身も体が弱くて、体力がなくて。睡眠障害というか、学校に行く途中の道で寝始めちゃって。ベンチでずっと昼まで寝てるとか、起きたら夜みたいなことを繰り返してるんです。そんなこんなで、今日も朝ここに出てこられているだけで自分を褒めてあげたい気分になっている次第です。
さらに、人付き合いもあまり得意じゃなくてですね。10代の頃は、1ヶ月ぐらい人とほとんどしゃべらない時期があって、深夜のラジオをひたすら聞いているタイプの人間でした。
数ヶ月ということはないですが、今でも3~4日ぐらい生身の人間と一切触れ合わないで過ごすということを、特にアメリカにいる間はやったりしています。
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