2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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坪谷邦生氏(以下、坪谷):まさに“企業の飼い殺し問題”が、いろんなところに出ているなと思っています。
私がリクルートにいた頃は、人事制度の改定のコンサルティングが多かったのですが、高給をもらっているのに活躍できていない中高年層をどうにかしたいという依頼が多かったのです。過去の負の遺産によって、そうなってしまっている状況をどう変えたらいいのかというご相談が一番多かったんですよ。
企業ががんばって仕組みを変え、施策を打つことで、これから先の人たちには40歳になるまでに自分で考えるチャンスを与えることはできます。しかし今そこに直面している人たちに対してできることは少ないと、いつも頭を抱えながら取り組んでいました。
神田昌典氏(以下、神田):これは本当に大きな問題ですね。そのまま会社から首を切られたら生きていけないから、以前、フィージビリティ・スタディ(実行可能性調査)をしたんですよ。
我々が持っている内発的な動機を見出だす方法論を使い、再就職支援プログラムをやれるかどうかを調査しました。すると企業側は「確かに大きな問題だけれども、同じお金を使うなら若手に使いたい」と言うんですね。
アンケートを採ったら、頭が固くなりすぎて、勉強しようとする人は10人に1人もいないから、もう無理だという声がほとんどです。応援はするけど、お金はかけない。できるだけ早く退職されるに越したことはないということですよね。
本来なら、いきなり退職支援のプログラムを受けて、無理矢理ハローワークに行くよりも、一人ひとりのキャリアを考えるための支援をするほうが良いと思うのですが、それをする余裕も受け皿もない。それが現実だと思います。
そして、これはたまたまの過渡期の問題だと思うんです。江戸時代から明治時代になる時、西南戦争で多くの人が犠牲になったように、時代の変わり目についていけない人が出るのは、一人の人間としては仕方がないんです。
社会的な観点では、今大きな第4次産業革命が起こっている中で、「何も変わりたくない人も含めて、全員が幸せに過ごしましたとさ」という状況はなかなか作りづらい。だから戦争も起こるんです。
神田:一方で、この時代は非常にありがたい面もあります。ロボティクスが進んだおかげで、製造業ではロボットが商品を作れるようになりました。人が苦行をする必要がなくなったので、ここにサービスが入ってくるわけです。
サービスもロボットが提供するようになると、サービス費用も限りなく安くなってきます。今はインフレですが、結局、ありとあらゆるものが技術進化で安くなる。そうすると、人間が働かなくてよくなるんですよ。
働かずに豊かになろうと思うと大変だから、限りなくベーシックインカムに近いかたちになれば、現状維持バイアスのかかった人たちは、毎日釣りに行ったり畑作りをしたりできる。しかも、それはSDGsにぴったり合っているから、子どもたちとの話題にも事欠かない。
実はすごく幸せな世の中が、2030年以降には見えてくる。今はそれが見えないから、みんなあたふたして「自分は不幸だ」と思って、目の前の現状におびえている。それで病気になったり、家族関係も悪くなったりと不幸を引き寄せてしまう。
マスコミも不幸を報道すればするほどクリックされるから、“恐れによって作られる経済”というものが生まれてしまっている。恐れによって目標達成をけしかけるのも同じことで、自己成長モデルの人たちはそれでもポジティブになれると思いますが、全員が全員そうじゃないわけです。
OKRのようにわくわくする大きな目標を掲げて、「この世界観が好きだな」という壺の中に入り込むと、安心安全な場があるというのが一番いいんじゃないかと思います。
坪谷:なるほど。おっしゃっていただいたとおり、組織は理想を掲げたオレンジ(達成型)の壺として存在して、中にいる人たちはアンバー(順応型)としてがんばれば幸せになれるという状況は作り得ると思います。
『未来実現マーケティング 人生と社会の変革を加速する35の技術』を拝読したんですが、目標をSDGsに置かれたというのもすごくおもしろくて。オレンジ(達成型)の人の多くが、今は目標を置きにくいと苦しんでいる中で、シンプルにSDGsに目標を置けばいいよと言っていただいてる気がしたのです。
それは、いい方向性だと感じたんですね。それぞれの段階でうまくいく状況を作るためにも、全体としてはSDGsを目指していく。自分で目標を設定できる25パーセントの人たちがSDGsに向かっていくことで、確かに全体の底上げが起きるなと感じました。
神田:もちろん、SDGsが完璧なフレームかどうかはいろいろな意見があります。でも、僕からすると現状においては相当完璧で、これが日本で浸透したのは奇跡的なことなんですよ。SDGsには2030年という期限もあるし、年代を超える共通言語ができたことはすごく大きいと思います。
SDGsで非常によくできているのは17の目標です。「自分は何を目指すのか」という17の項目が提示されていますが、最終的な目標はけっこうフリーに置かれているところにも好感を持っていますね。
坪谷:おもしろいですね。『非常識な成功法則』も『未来実現マーケティング』もシンプルに言い切っていただいてるので、目標を見つけられずに苦しんでいるオレンジの人たちがエネルギーをもらって、前に進んでいけるようになっていると思いました。
アンバーの人たちは、本を読むだけでは自ら目標を持って進もうというところまではいかないと思うのですけれど、オレンジの人たちが活性化すると、アンバーの人たちがやることもたくさん出てくるという状況は、容易に想像できる気がします。
神田:SDGsは少なくとも誰にとっての害悪にもならないということで、わかりやすいですね。アンバーの人もいろんな人たちと出会って、さまざまな経験が積める。人間の認識は経験によってのみ変わるので、未来に必要な経験を積むフレームをどう作るかだと思います。
坪谷:そうですよね。私はコンサルタント時代、神田さんの『全脳思考』で勉強させていただきました。おかげで当時けっこう業績を上げられたので、後輩たちに「坪谷さんのやり方の秘訣を教えてください」と聞かれたら、まず『全脳思考』を読ませていました。そして、クライアントに「へえ」「ほう」と言ってもらえるシーンをどう作るかを1on1で考えてもらうと、後輩たちも業績が伸びるというサイクルが起きました。
全脳思考の背景には、まだ邦訳されていなかった『U理論』(オットー・シャーマーによる、リーダーシップの能力開発やイノベーションを起こすための思考プロセスを明らかにした理論)があり、そのままU理論を読んでもピンとこないような難しい概念を分かりやすく使える形にしていただいたので、とてもありがたかったです。
理解できるものにしてから向かえばいい。相手にわかるフレームにすれば、そこから走れる人たちがけっこう出てくるんだと、『全脳思考』を使わせていただいた経験からも思いました。
神田:ありがとうございます。僕はあの本を書いてからさらに10年、いろんな人たちと積み重ねていって、内発的な動機を見つける方法をほぼ実証しています。小学生から大人まで、自分自身の目標を見出し、それをビジネスモデルとしてどう発信すれば伝わるかというところまで、体系的なフレームワークにしています。
結局、一番の悩みは、自分からは内発的な動機が見えないことなんです。鏡がなければ自分のあざに気づかないように、心の要素はなかなか見ることができない。
だから、実は自分の得意分野が一番の盲点だったりします。当たり前にできてしまっているから。誰もが経験として、得意なことやトラウマや失敗を積み重ねています。そこには見ようとしていなかった部分があって、“鏡”に映すことで初めて投影されるんです。
『全脳思考』に書いているニコちゃんマークは、自分の見えない部分を投影する対象なんですよ。「自分を幸せにしよう」「何かを達成しよう」と思うフレームは、どうしても見えるところを強化するか、足りないところを補うかたちになります。
内発的な動機を持っていても自分では見えないので、フォーカスして解放してあげることが必要です。死や災害に直面して初めて内発的な動機が見えるのは、「自分は何者なのか。このままだと死んでしまう」と考えざるを得ないからですが、それではいくら命があっても足りないので(笑)。
神田:その代わりに「誰かを幸せにする」という未来を描くことで、自分の内発的な動機が見える化されます。それを現実の行動、認識を変化させる行動で変えていくんですね。そうすると、すべてのプロジェクトは内発的な動機にもとづいて、本来持っていた自分の才能を使って、他者貢献ができるようになります。
坪谷:あぁ「誰かを幸せにする!」。その言葉で今いくつかの思考がつながりました。ありがとうございます。まず、神田さんの著書に書かれていた「ホームレスが私を必要としてるんじゃなくて、私がホームレスを必要としている」という話。そうか結局は自分につながるという感覚なんですね。
そして、野中郁次郎さんから聞いた「相互主観性」というお話を思い出しました。以前、研究室にお邪魔した時に教えていただいたのですが、相互主観性というのは「俺と貴様の関係性だ」と。
「俺はこう思う」という一人称の主観が場に出て、「貴様はそう思うのか」と相手にぶつけることで、初めて二人称の主観のぶつかり合いが起きる。この二人称のぶつかり合いが起きない限り、三人称に届くイノベーションは生まれないという話です。
もう1つ、私は目標管理(Management by Objectives and Self-control)のObjectivesをずっと「目標」だと思っていました。ただ、第1回の対談でドラッカー学会の佐藤理事とお話した際に、「Objectiveとは客観、客観的に方向づけることによって、主観であるSubjectiveが生きるのが元来のMBO」とおっしゃっていたんです。
これは今のお話と非常に似ていて、一度ニコちゃんマークに置き換えて客観視することで、主体(内発的動機)が生きてくる構図はまったく同じだなと思いました。すごく大切な気づきをいただきました。
神田:そうですね。ただビジネスの世界だと、すでに既存のパラダイムの中で選択された“客体”になっちゃうんですよ。
坪谷:あぁ~、そうですよね。
神田:だから、ペルソナ分析とかN1分析をしてしまう。お客さまではなくてデータを見てしまうから、データで捕捉されている部分の振る舞いしか見ないんですよね。
ビジネス界には、実はそういった限界があるんです。本来は仕事とは関係のない生活者としての主体まで飛躍できると、壁のない世界に行けるんですよ。だけど、ビジネスの議論の中では、どうしてもそこを乗り越えられない。
坪谷:そうですよね。自分の感情を入れてはいけないという考え方の根底には、「いかに主観を取り除いて客観にするか」という中で科学が発達してきたことがある気がします。
神田:おそらくそうですね。観察者である我々が影響を与えるということですから。そこはまだビジネス界では踏み込んでいない領域で、U理論など、理論化しようとしている人は確かにいます。
U理論は「瞑想しなさい」というところに行きついていて、それ以上の発展がない。僕は10年前ぐらいに『全脳思考』を書いた時から、主体と客体の両パラダイムの違いをどう乗り越えようかと、いろいろ格闘してきました。
結果としては、別に格闘しなくても「誰かを幸せにする」という意図を持って、逆算すればいいだけの話です。
神田:この考え方は、小学生にも中学生にも使えますし、キャリア形成やビジネスモデルを作る時もみんな同じです。幸せにしたい人を置くことで、逆に自分自身が投影されて、間接的に見える化できる。そうやってアンラーニングして、もう1回自己を再構築するプロセスなので、あまり難しいことを考えなくても結果は出ると。
坪谷:なるほど。
神田:実際に子どもたちとそういう取り組みをしていると、運動会がうまくいったり、合唱コンクールで世界に行ったりと、事象がどんどん出てきます。社会課題についても、子どもたちが大人と対等に議論ができますし、むしろ子どものほうがよりアイデアが出やすいから、企業が子どもたちの発想を必要としていますね。
坪谷:今日、神田さんが私の子どもの頃の話を聞いてくださったのも、そこなのかもしれないと思いました。
多くの場合、人の主観は興味関心から始まると思ってます。相手に興味を持ったり、じっと見たり聞くところからしか主観は始まらないかもしれないと思っていたんですけど、ニコちゃんマークが“鏡”であるという話で、私の中ではすごくつながりました。
『全脳思考』を読んだ時、1人を幸せにしようとしていくことで、結果的にみんなが幸せになるという趣旨に驚きました。今日のお話でも、難しく考えすぎずに「誰かを幸せに」しようとすることで、結果的に自分自身につながっていくのですね。
神田:「人類すべてを幸せにしたい」という人は、自分を見ようとしていないんですよね。ブロックがかかってしまっているので、誰か1人を選んでくださいと言っても強硬に抵抗します。現状を変えたくない人は、自分は変わらなくてよい、というほうにもっていくので。
坪谷:ああ、とてもよくわかります。「みんなが」「会社が」と言う人は、絶対にバイネームでは話してくれませんよね。会社や世の中という大きな概念に置くことで、現実を見たくないのかなと感じます。
神田:そういう人は本当に少数ですけれども、いろいろな体験をするといいですよね。実際に、ある大手の会社でそういう方がいたんです。僕らと仕事をし始める前はすごく強硬で、「会社はそうじゃございません。私はすべての社員さんに提供できることをやっているので、そういう考えはしておりません」という感じだったんですけど。
でも、自由に生きている人を見ると、人って徐々に変わるんですよ。その人はうちの読書会に参加されるようになり、今ではそのプロジェクトの中心になって、社内に読書会を広める役割を推進されています。抑えたものが抑えきれない時に、サポートを必要とする人同士が出会うんじゃないかと思います。
坪谷:わかります。強い反応が出ている人は、自分の考え方の限界を感じているので、次のパラダイムが目の前に開けていて、アンバー(順応型)からオレンジ(達成型)にいく瞬間だからこそ、拒絶反応が強く出ているのかもしれません。
神田:目標管理をMBOやOKRで縛ることは簡単ですけど、内発的な動機までいくと、ちょっと深い議論になると思います。ほぼ解答がないので、そこに手をつけるのは本当に大変な作業ですね(笑)。
坪谷:大変だし、届くかどうかもわかりませんが、チャレンジしようと思っています。
神田:すばらしいですね。子どもたちは探究学習によって、これから内発的な動機を持ち始めると思いますが、大人たちは内発的な動機を殺して現状を維持してきたというギャップはものすごく大きいですよね。すべての子どもたちが学校で学んだことが、企業に入ると使えなくなるような状態だったら、早めに企業を変えていかないと社会的には持たないと思います。
坪谷:今、大手企業の新人研修を扱う会社の顧問をしているのですが、まさにその問題をよく聞きます。新しく入ってきた優秀な若手層は、もうグリーン(多元型)のパラダイムを持っているので、アンバー(順応型)として優秀な上司たちが言ってることがばかばかしく思えてしまう。
ただ、彼らもちゃんと戦って勝った経験があるわけではないので、“机上のグリーン”なんですよね。机上のグリーンの優秀な若者たちと、締め付けないとうまくいかないと思ってるアンバーとして成熟した大人たちの悲しいすれ違いと葛藤が、今の大企業で起きているのではないでしょうか。
神田:なるほど、確かにそうですね。
坪谷:おっしゃるとおり、私も企業側を変えたいという気持ちは強いのですが、構造的に変えるのは難しいと感じることも多いのです。企業へのコンサルティングを続けてきた中で、企業側へのアプローチには私一人では限界があると思って、多くの人事を志す方に裾野を広めようと本を書き始めた経緯があります。
神田:そうねぇ。企業はなかなか難しいですよね。一気に企業を変えることは難しいですが、僕は企業と子どもたちの学校の現場をつなぐというアプローチをしています。そこでは大人のほうが生き生きしていきますね。
例えば、小学5年生の子どもたちが先生と一緒に、「ど冷えもん」という冷凍自販機の分析をしました。プロコン(Pros&Cons)を出して、「ど冷えもん」はこれからどういうふうに販売していったらいいのかという授業をやりました。
これがすごくよくできていて。僕がNPOをやっている学校の先生が授業をしているので、今度はその話を僕のクライアントの大塚製薬さんに話したら、大塚製薬の自動販売機を売っている部隊が目の色を変えて、「あぁ『ど冷えもん』知ってます」と。「ど冷えもん」のメーカー(サンデン・リテールシステム株式会社)さんとも話したら、もう超盛り上がって、その学校に行くことになりました。
サンデンさんが学校に「ど冷えもん」を持ち込んで、ワークショップをすると、大人たちが突然、自分たちのやっていることが報われたとみんなキラキラし始めちゃって。これが内発的な動機だと僕は思うんです。
それまでは自動販売機は社会の悪者だと、大人が誇りや自信を失っていたわけです。でも、子どもも大人も関係ない世界に変えていくことで、「こうじゃなくちゃいけない」という凝り固まっていたものが急に変わっていくところがあるんですよね。
神田:小学校の先生が、『全脳思考』のフューチャーマッピングを使って企画し、子どもたちも考える力を養っていく。これは学校の一事象にとどめず、僕は経団連さんとも話し、企業と教育のパイプを広げていこうと調整に入っています。
会社は変わらないもののように見えますし、制度を変えるのは相当大変だと思います。評価制度から何から全部手つけると言ったら、今までやってきたのはどうなるんだという話になりますが、教育を通して、企業という壁の外に出られるように誘導すると、変わり始めるんじゃないかなぁと思います。
子どもたちに触れることによって、自分たちの内発的な動機を思い出す可能性もある。それは、基本的にSDGsやCEOが掲げているビジョンと一致することが多々あります。会社の変革は、そういうところからスムーズに行われ始める気がします。
坪谷:なるほど! 既存の枠組み外のところに共通の目的や目標を置いて、新しい人たちと共に目指した時に、何か新しい「兆し」が起きるのですね。
神田:絶対盛り上がりますからね。
坪谷:今日は大きなヒントをたくさんいただきました。本当に貴重なお時間をありがとうございました。
神田:こちらこそありがとうございました。
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