2024.10.10
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会社に“依存”しない働き方 社員に複業・副業を推奨するベンチャー企業の狙い(全1記事)
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ーーエンファクトリーさんは「専業禁止」という理念を掲げていますが、インパクトが強い言葉ですよね。あくまでも理念で、本当に全員に副業を強いているわけではないということですが、貴社の「副業に関するルール」について、簡単におうかがいできますか?
清水正樹氏(以下、清水):そうですね。まず、エンファクトリーの情報を使って副業をやるのはもちろんNGです。情報管理の部分はしっかりした上で、基本的に制約条件はあまり課してはいないです。
例えば弊社は「スタイルストア」というEC事業をやっていますが、「ECの事業(副業)は禁止です」なんてことはありません。バルーンのECやパグの服のECなど、自分の得意領域を活かして、商材やターゲットを変えてやっている人もいます。わりかし自由かなと思います。
もう1つ。これは企業側の副業解禁のメリットに通じる部分ですが、「情報開示をしましょう」と言っています。もともとコロナ前は、半年に1回「en Terminal」という会を開いていました。
これは必ずしも副業だけではないんですが、副業をやってる方から「どんな目的で、どんな副業をやって、今こんな結果ですよ」と、可能な範囲でみなさんに3分ピッチをするコーナーがあります。
狙いとしては「こういう知見を得ましたよ」とか、「こういうネットワーキングができましたよ」ということを内部で共有することで、本業では得られないようなノウハウやシナジーを生み出していけたらな、というところです。
それこそ、副業のつながりでエンファクトリーの本業の仕事になることもありますし、逆もあるんです。そういう狙いがあって、とにかく情報開示してもらっています。
清水:その「en Terminal」でもう1つ。我々はこういう制度をやっているので、特に初期は転職よりも起業をしていく方のほうが多かったんです。なのでOBOGの方々で、フリーランスなり会社・法人の起業なりされた方を何名かずつ集めて、「今こんなことやってますよ」と発表していただいています。
イメージとして、昔ながらの会社は排他的というか、「社員とそれ以外」という感じだと思うんですが、僕らはもうちょっとゆるやかです。エンファクトリーにも関わっていながら、他のチャレンジもしている社員とか。OBOGはこんなことをやっていて、今はこんなつながりやスキルを持っているとか。
あと弊社のサービスは、社員と同じぐらい副業とかフリーランスの方に関わっていただいて、事業を進めていることが多いんですよ。なので会社で「社員/それ以外」というゼロイチではなくて、ゆるやかなグラデーションのコミュニティの中でいろんな事業が生まれていく(かたちをイメージしています)。
それこそ“エン”ファクトリーなので、この“円”の中で各自が持ち味を活かして、組織とか事業を成長させていけるようなものが作れたらいいなという理想をもとに、いろいろやっています。
エンファクトリーがやっているこの組織作りを、もっと他の企業にも広めていこうということで、「プロクル」という副業・フリーランスのハイレベル人材/チームを提供するサービスも運営しています。
清水:話がちょっと膨らみましたけれども、副業する人だけじゃなくて、OBOGとかフリーランスの方とか、外から副業として参加される方も含めての「場」作りとしてやっています。
コロナ後は、副業や課外活動の学びとか、社内の部活動とか勉強会をどんどん促進する「Teamlancerエンタープライズ」という社内SNSをやっています。自社のサービスを活用して、月1回投稿して共有してもらいます。
(投稿は)「副業レポート」として、気づきや活動時間を入れていただいて、社内SNSでは、同じタイムラインの中で、本業の気づきも一緒に入れていただいています。
ーー情報をオープンにすることで、どんなメリットがありますか?
清水:他の社員がいろんな刺激を受けるというのもあるんですけど、その方が会社の業務以外の新しいチャレンジをされた時に、「こんな才能もあったんだね」とわかる、ある種の人材能力の発掘もあるんですよ。
「副業でやっているんだったら、本業でもできるじゃん」というところが、かちっとはまるわけですよね。
副業でやるぐらい、その人はそこにモチベーションがあるわけじゃないですか。たまたま会社で、実はこういうポジションでこういうスキルのある人が必要だという時に、「じゃあちょっと手伝ってよ」と(声をかけられることが)あったりしますね。
――時間とか収入とか、どこまで情報をオープンにしているんですか?
清水:一応時間に関してはマストで入れる項目があるんです。内容に関しては守秘義務がある可能性もあるので、書ける範囲で書いてねっていう感じです。
清水:(以前「en Terminal」で)「みんなちゃんと数字も出してきてね」という回があって、そこで集計したら、本業ほどじゃないんだけれど、すごい数字になった時がありましたね。
例えば先日、『マツコの知らない世界』に(防災アドバイザーの)高荷智也さんが出ていましたが、高荷さんはうちの元メンバーです。
――書籍の中にも、お名前がありましたね。
清水:そうなんですよ(笑)。高荷さんも結局は防災で食っていきたいとなったんですけど、しばらくはエンファクトリーでWebディレクターの仕事をしていました。
言い方はあれなんですけれども、(Webディレクターは)需要がしっかりある仕事じゃないですか。それをやりながら、防災のお仕事を徐々に増やしていったんです。
いったん独立するぞということで、エンファクトリー社も「がんばってくれ」って後押しをして独立したんですけど、やっぱりちょっと厳しかったということで、半年か1年くらいで1回戻ってこられたんですよ。
またエンファクトリーの仕事をしていただいて、そこから防災の仕事もかなり増えてきて、Webディレクションの仕事もフリーランスとしてけっこうお仕事をもらえるような状態になったので、あらためて独立されたということがありました。
こういう感じで、「防災をやりたい」ってなったとしても、いきなり食ってはいけない。でもちょっとずつやったら、最終的に食べていけるようになることもあるわけですね。なので僕らは、そういう可能性をうまく潰さずに、両者ハッピーな関係性が築ければいいんじゃないかなって思っています。
エンファクトリー出身者が起業してる会社だと、(売り上げ規模が)2億円から4億円、5億円ぐらいまでの会社もけっこうあります。今やそこを足したら、エンファクトリーの売り上げより大きいという状況ですね。
――独立するにあたって、軌道に乗るまでが一番大変だと思うんです。そこに副業を使うことで、後ろ盾がありながらチャレンジできるというのが、エンファクトリーさんから起業して成功している方が多い理由なのかなと思いました。
清水:そうですね。みんな副業にチャレンジしていく中で、最初ニッチだと思ってやり始めたんだけど、実際はすごくスケールしていったものがけっこうあるので、そういった役割もあったのかなと思います。
――起業される方が多いということですが、卒業される社員の方に対しては「どんどん出て行け」というような、前向きなスタンスなんですか?
清水:うちの会社はどちらかといえば、本人の意思を尊重するというのが強いので、いいか悪いかは別として、「覚悟を持ってやるんだったらがんばってよ」というスタンスではありますね。
――高荷さんのように、戻ってくるのもOKなんですか?
清水:今のところ「戻りたい」と言われたら、戻れる保証まではしてないんですけど、「じゃあこういう仕事だったらあるけど、やる?」みたいな感じで、場合によりますね。
ーーなるほど。エンファクトリーさんが、2011年4月の創業時から「専業禁止‼」と掲げているのはけっこうチャレンジングだと思うんですが、自社にコミットしてほしいとはならなかったんですか?
清水:そうですね。もともとリーマンショックがあって、いろんな会社が潰れたりリストラが増えたりする中で、僕らが今のエンファクトリーとして受け継いだ事業も、もう真っ赤っかでした。
でもなんとか残したいという思いもあって、スピンアウトのような始まり方をしたんです。片道切符という感じでしたが、0から起業するのとは別の大変さがあったかもしれません。
もちろん全力投球してがんばるんですが、そういう始まり方だったので、必ずしも1つの会社で一生終身雇用で安泰で、1本のレールに乗ればいい時代じゃないよね、というのがありました。
僕らとしては、会社目線や個人目線で見た時に、今後どういう働き方がベストなのかなと。せっかくなら新しい世界観の会社を作ってみたらどうだっていう、社会実験的な意味合いもありました。
ーー1社で働き続けることのリスクとして、具体的にどんなリスクがありますか?
清水:必ずしも転職や副業をしないといけないというわけではなくて、特定の会社でずっと同じことをやり続けて、世界が狭いまま10年、20年、30年経ってしまうことがリスクです。
これは正直、会社によると思います。例えば1つの会社の中で、たくさんの事業部や子会社があって、その中を行き来するだけで、別の会社や別の事業、別の業界を経験できることもあるわけです。
そういうところは実質、副業的なものを兼務や異動をすることで成し得てるのかなとも思います。その場合、単純にその1つのところにずっといて、それしかできなくなるというリスクは少ないかなと思います。
逆に言うと、例えば1社で1万人の従業員がいて、その人たちで主力製品の2〜3個のプロダクトを作って売っているような会社では、部分的な仕事を掘り下げていくのも大事なんですけど、もしかすると「その仕事の内容って他社で通用するんだっけ?」みたいな話も出てくるわけですよね。
会社側から見た時だって、社員が外でいろいろ活躍して、帰ってきていろいろな改善アイデアを出してくれたり、「新しい事業やりましょうよ!」となってくれれば、それはそれでハッピーだとも思います。
ーー今の話は、「越境学習」「越境体験」の話につながると思っています。御社でも大企業に向けて越境体験を支援するサービスを提供されていますが、貴社のようないわゆる「大企業」ではない企業が、あえて副業というかたちで社員に越境体験をさせるメリットはなんでしょうか?
清水:もちろん、大企業のほうが越境体験で得られる変化や刺激は大きいと思います。我々もいろんなサービスを立ち上げたり閉じたりしているので、社内にいても、いろんな複数の体験ができる部分はあると思います。
とはいえ、「自分がビジネスオーナーになって商売をする経験」って、ビジネスマンとしては非常に貴重な経験かなと思うんです。それをやることによって、小さくても会社とか経営とか、仕事の全体像が見えるようになる。
よくある話ですが、営業の中でもマーケティングでリードを獲得する人がいて、インサイドセールスで電話をかける人がいて、フィールドセールスがいて、営業という職種だけでも細分化されています。
細分化されていくにつれて、この全体像を把握する機会は少なくて、極端な例では事業部長とかにならないと全体像の把握ができないわけです。
ーーメンバーの方だと難しいですよね。
清水:そうなんですよ。ただ、副業で何か1つでも、自分で「このサービスでいくらです」という値づけをして販売して、実際にお客さまの満足度を高めてリピートしてもらう経験をすると、なんとなく全体像に対する想像とか意識とか、フォローアップができるようになると思っています。
清水:昔から、社員個人が経営者視点を持てる会社って最強だよねという話があります。経営者はみんなそうしたいんですけど、やっぱりなかなか難しい。ただ、副業でちょっとした経営者経験ができると、強い組織になるんじゃないか。それが会社側のメリットの1つかなと思います。
もちろん、他の業種・業界のフレームワークとか知見をいろいろ学んできてくれてると、本業にも活きてきます。
ーー書籍でも「オーナーシップ」という言葉を使ってらっしゃいましたが、そのとおりだと思いますね。自分の仕事にはオーナーシップを持つ。キャリア自律の話にもつながってくると思います。
清水:「これは私の仕事じゃないので」という言葉が出にくくなると思いますね。
ーー大企業ではなく、ベンチャー企業でも副業はできるものでしょうか?
清水:そうですね。例えばベンチャー企業のシーズAのような、「ここから伸ばしていくぞ」っていう時に、集中して、熱狂して、仕事にのめり込む体験は、それはそれでいいのかなとも思うんです。
でもそれって、ずっとは続かないじゃないですか。どこかで働き方を変えなきゃいけなくなる。「ちょっとこのままみんなに働き続けてもらうと、監査的に通らなくてIPOができないな」というフェーズが必ず来ると思うんです。
そういう(熱狂する)時期があることは、その個人の方にとっても会社としてもすごく有意義だと思うんですけど、どこかで必ず落ち着く時期が来る。そのタイミングで、熱狂して仕事にのめり込んだ時に身につけたスキルを発揮できる場所が、他にもあると思うんですよね。
そこで場を変えて、自分なりに、個人でビジネスをするチャレンジというステップにするのが1つ、いいやり方なのかなぁと思います。
清水:あと本質的じゃないかもしれないんですが、企業側が優秀な人材を採りたいと思った時に、副業を禁止するメリットがどんどん薄れてくと思うんですよね。
優秀な人材であればあるほど、いろんなことにチャレンジしたり、いろんなことに興味が湧いたり、いろんな人に「ちょっと手伝ってよ」って声をかけられるじゃないですか。
そういう人たちをつなぎとめておくためにも、自由にさせてあげたら? と考えるところがあります。転職されちゃうぐらいだったら、「じゃあうちはうちで、こうやってくれよ」と。「君のやりたいことは別に副業でもできるじゃないか」じゃないんですけど、現実問題としてはありなんじゃないかなと思っています。
逆に個人側と企業側をフラットに見た時に、個人側がやりたいことを100パーセントどこかしらの会社で実現できますという(のはもう難しくて)、需要と供給が合わないと思うんです。
会社は会社で、個人は個人で自分の得意技を磨きながら仕事をまっとうして、とはいえ「これで食ってけるかわかんないけどやりたいこと」を、副業でやる。1本の柱まではいかないんですけれども、一定の収入を得られる。そんなバランスの取り方もあるかなとは思っています。
――副業で人材が流出するんじゃないかという懸念を持っている方もいらっしゃると思うんですが、逆に副業OKにすることで優秀な社員を引き止めることができるんですね。
清水:副業人材が増えてきているので、流出を心配するぐらいだったら、社外の優秀な副業人材に社内で活躍してもらえるようにすればいいんじゃないと思っちゃいます。
(外部の副業人材が)うちの会社にいるメリットでけっこう挙がるのが、フリーランスとか副業の優秀な人に、教えを請えることなんです。
例えば、我々がBtoBマーケティングとか営業の組織を立ち上げたいけど、社内にそこまでのスペシャリストがいない場合は、その領域に強い副業やフリーランスの方を外から呼んできて、毎週フルコミットじゃなくて数時間ずつ、マネジメントしていただいたり、知識をインプットしていただく機会を設けていたりするんですよね。
他の会社から、スキルや仕事のスタンス(を教えてくれる)超優秀な人が入ってきてくれて、一緒に仕事ができることってあまりない。かつどの人に教えを請いたいかって選べなくないですか? って思っていて。どんどん外部の副業の方に入ってきてもらうことによって、今の内部メンバーの満足度が上がることもありますね。
――なるほど。日本企業の中で、今は副業OKと副業NGの企業が半々くらいと言われていますが、今後はどんどん副業解禁が主流になってくると考えています。清水さんとしては「複業」が広がっていってほしいという思いはありますか。
清水:広がってほしいなと思います。(どちらかというと)複業が広がっていくことが目的ではなくて、各個人が自分なりにキャリアを選べたりとか、副業ができたり。
好きなことをやりつつ、でも飯を食っていかなきゃいけないし、時には「今はちょっと家族との時間を大事にしたいから、固定費を下げるのも兼ねて田舎で暮らそうよ」とか、いろんな選択肢ができて、楽しくやれればいいかなと思います。
キャリアってどうしても会社側が主語になってしまう。でも会社側がすごく強かった時代もちょっとずつ変わってきているし、そもそも人が経済活動していくための会社なので。会社が強すぎるのも、それはそれでアンバランスだなと思ってたんです。
これからは個人が主語になって、そこがうまいこと回っていくようになったら、よりいいんじゃないかなとは思いますね。
――最初にエンファクトリーのイメージを「ゆるやかなコミュニティ」とおっしゃっていましたが、1社に縛られるのではなく、自分がどの「コミュニティ」に属するか選べるようになると、もっと自分らしいキャリアや生き方が広がるのかなと思いました。
清水:ありがとうございます。なので会社に依存しないためにも、会社に貢献しつつ、がんばって自分自信のスキルを磨かなきゃいけないという話でもあります。
――その通りですね。本日はありがとうございました。
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