2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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松本利明氏(以下、松本):他にもいくつか視点があるので、チャレンジの発想を膨らませるヒントとして代表的なものをご紹介します。
テーマが大きくてまとまらない場合、ペルソナとして対象の解像度を上げていってニーズを具体化していく方法は、商品開発やマーケティングでもよく活用されます。
単に30代男性というよりも、「六本木に住んでいて、外資系に勤めている30代独身男性」や、「新橋の中小企業で働いている30代の営業の人」というように解像度をあげるとイメージがハッキリしますよね。同じ30代男性をターゲットにした居酒屋でも六本木の前者か新橋の後者かではコンセプトは異なりますが、それぞれイメージが湧いてきますよね。このように、テーマが大きい場合は対象の解像度を上げていけばいいのです。
「どうしても視点が広がらず、固定的だ」という場合は、「それと、それ以外」から見ることです。つまり、ローランドさんの「俺と俺以外」みたいに、物事は逆から見ると新しい視点が浮かんでくるんですよね。人間はどうしても、同じ流れで物事を見てしまう。それを逆から見てみると「ああ、こういう視点があるじゃないか」と見つけやすいんです。
あともう1つ、ニーズを探っていく時に「イライラしたり、我慢したりしていること」を問うんですね。そうすると隠れたニーズがピンポイントで浮かび上がってきたりします。後で詳しく説明しますね。
「アイデアが一般的」だったら、「どんな『ありがとう』の声をもらえるか」を問う。「ありがとうの声」とは、提供価値です。例えば、事務の仕事をしていても「正確でありがとう」「気が利いてありがとう」「速くてありがとう」というように、「ありがとうの声」にはたくさんの種類があります。このありがとうの声=提供価値を突き詰めるのです。
ありがとうの声が1個で差別化できないなら、いくつか組み合わせればいいでしょう。「気が利く」だけでなく「気が利く×速い」「気が利く×速い×正確」のように複数をコンボするとオリジナルの価値になります。
松本:最後にアナロジーといいますが、他の成功例を借りてきて、比較して組み直すことで新しい価値を産み出す方法もマーケティングや戦略策定で用いられる有名な方法です。この中から2つほど、簡単にご紹介しますね。「イライラしたり、我慢していることを問う」のは意外とキーだったりします。
まだ世の中にない新しいモノ以外は、すでにだいたいニーズに沿ったものになっているんですね。そこを改良しようと思うと、なかなかアイデアが出てこない。“カイゼンゲーム”になっちゃう。井上さんは、例えば掃除機に関してイライラしていること、我慢していることってありますか?
井上和幸氏(以下、井上):掃除機でイライラ、我慢……なんだろう、音とかですか?
松本:ありますね。他には例えば「吸引力が途中で落ちる」とか「自分で掃除をするのが面倒」などありますよね。我慢しようと思ったらできるんだけど、これを解決しようと思ったとする。そうすると「吸引力が途中で落ちる」に対してはダイソン、「自分で掃除するのが面倒」ならルンバがあると。
こんなふうに、我慢できるんだけど、ちょっとイライラするようなことを書き出して、その論点で考えると、意外と新しい解決策やチャレンジが見つかったりするんです。
次は「逆から見ると?」に関して。「若手社員がすぐ辞めるので、育ててもムダだとみんな思っている」という時に、逆から見てみる。「辞めるから育てない」じゃなくて、「育てないから辞めてしまうんじゃないか」と。だとすると、職場での若手社員の育成方法に課題があるんじゃないかと。
それから、若手が「辞めます」と言った時に、そもそもちゃんと引き留めができているのか。今、みんながうまくできていないことを逆から見ると、クリティカルシンキング(批判的思考)になります。
これは、論理的思考より難しいとされていますが、逆から見るだけで全部できるようになっちゃいます。
それだけで、意外と新しい発想やチャレンジについて、見落としていたことが見つかりやすくなるからなんですね。
松本:次に、「割り切って『得意な人』を増やすこと」について、1分だけポイントをお話しします。まず苦手な人はテクニックでなんとかするよりも、キャラと割り切った方がいいです。「話せばわかり合える」ではないんです。「苦手な人とはわかり合えない」。分かり合えなくても、キャラだと割り切れば、そういうキャラだから仕方ない、と、冷静かつ素直に受け止められるようになります
ルフィさんはゴム人間で、ゴム人間としての武器は使えるけど、他の悪魔の実の能力は使えないわけじゃないですか。だから、ルフィはゴム人間の技を使って強くなるしかない。あと「俺は海賊王になる」と言いながら、いつも寄り道してしまうし、必ず敵に捕まっちゃうんですよね。
信長みたいに「天下を取ろう!」と京都を目指せばいいのに、回り道しちゃったりしますよね。あとサンジくんはどんなにやばい状況でも、かわいい女の子がいると目がハートマークになってそっちに行ってしまう。これもキャラなんだから「言ったって変わらないよね」と割り切ると。
そうすると、「じゃあどうすれば、全員キャラが違う仲間同士で持ち味を出し切って、どう前に進めていくか」と考えるしかなくなります。「わかり合える」と思ったらストレスになりますが、「キャラだからしょうがないよね」と割り切ると、気持ちが半分以上楽になります。
松本:あともう1つだけ言うと、どうしても嫌いな人は「情報量」で改善できる可能性が高まります。苦手な人というのは、その人について知っていることを書き出してみると意外と、嫌いな理由しか知らないことが多いものです。「えらい目に遭った」「あの人苦手」と思ったら、それ以外の情報がそもそも入ってこない。
だから、たくさん情報を知ると「良い面」や「共通項」が見つかって、関係性が改善する可能性が出てきます。リモートだと姿が見えないので、自分がよくわかっている、情報をたくさん持っている人に仕事を振りがちで。逆に苦手な人ほど、接点が少なくなったりします。
だからスライドのように田中さん、斉藤さん、神林さん、井上さんについて「知っていること」「感情を共有したこと」などについて、ポジティブなこと、ネガティブなことを書いていきましょう。
苦手な人が実は魚釣りが好きと知って、「釣りが好きな人に悪い人はいないよね」と急に関係が良くなることもあります。たくさん情報を取ることによって、苦手な人間関係を埋めるんですね。話してわかり合うよりも、お互いの情報を知ることによって、あるいはキャラと割り切ることによって、楽な接し方が見つかりやすくなります。
特に重要なのは、「感情を共有したこと」についてです。「一緒に達成感を感じた」とか「同じことをして失敗した」とか、感情が動いたことが、半年~1年以内にどれだけあったかが心の距離の決め手になるからです。私からの仕事論は以上です。
井上:ありがとうございます。
松本:かなり割り切りましたけど(笑)。
井上:具体的な取り組み方法を示唆いただきました。他のテクニックも気になる方はぜひ本を読んでいただければと思います。あと、松本さんの本に書かれていることで、僭越ながら共感したのが「戦略ゲームと捉えて仕事をする」というところなんです。
松本:はい。
井上:僕は自分の本にも書いたんですけど、やっぱり仕事をゲームみたいに感じることはすごく大事だと思うんですね。仕事をゲーム攻略のように考えて取り組むと、あれやこれやと企んで仕掛けること自体、とても楽しくなります。
そういう意味では、ここまで「戦略ゲームをする上でのコツ」の話をいろいろしていただきましたが、コツを見つけた後は試していくことですよね。そうすると、それが攻略本になっていくんだと理解しました。
松本:そうですね。普通に考えてみればわかるんですけど、何かゲームをしようと思った時に、いきなり始める人はなかなかいないですよね。今は『ドラクエ』でも「スマホにあるアプリのゲーム」でも、まずはみなさんGoogleで「コツがないか」「攻略するポイントはないか」と調べるでしょう。
攻略法を知らないのに、「いきなり攻略しよう」「思いついたことを真面目にやろう」というのは無謀ですよね。
井上:「それを楽しむ」みたいなのもあるかもしれないですけどね。でも確かに、特にRPGなどは攻略サイトや攻略本を携えてやりますよね。
松本:はい。もちろん、その中でも理屈どおり、シナリオどおりにいかないことも多いんですが、「こうすればうまくいくんじゃないか」と考えると、多少の困難が起きても、いける感があるので、自分自身が安心できるのです。結果、ダメだったら「他の手はないかな?」と考えたり、追加で調べたりといった応用を考えるといった余裕をもった精神状態になります。
選択肢が1個しかないと、選べないから真面目に一生懸命がんばるしかないで、精神的にも余裕がなくなります。ダメだったら焦るか、ダメでも1つの選択肢を選び続けるしか考えられなくなります。だけど選択肢を増やせれば、その中から筋の良いものを選べる。状況が変われば、また変えればいい。という冷静的に最適解を選ぶ、精神的な余裕が生まれるのです。
松本:自分の仕事を前に進めていくためでもあるんですけど、特に30代になってくると社内の政治というか、組織を動かすことが必ず必要になってきますよね。指示された仕事をやるだけじゃなくなってくる。井上さんからリクエストがあったので、根回しを戦略的ゲーム感覚でクリアするポイントの、キーになる部分だけを解説します。
井上:お願いします。
松本:「根回し」というと、時代劇の大黒屋九兵衛の「おぬしも悪よのぅ」みたいに悪いイメージがあると思いますが、実際は悪いことでも、ずるいことでもありません。
根回しは様子伺いでもないですし、お願いに行くことでもない。意見を伺うことでもありません。組織では「正論が通らない」のが当たり前なんです。なぜなら、組織にはさまざまな部門があって、立場の違う人がいるので、利害が衝突するのは当たり前だからです。
言わば、「正義は組織の立場の数だけある」のです。例えば、商品の定価を決めるにあたって、「コストを安くしよう」と思う製造側と、「高く売ろう」とする営業側が対立したりする。このように、自分自身の部署や立場が変われば、正義も変わってくることはわかるでしょう。
『ガンダム』では「地球防衛軍」なのか「ジオン軍」なのかによって正義が変わりますが、会社の中でもそれぞれ正義が違うから、正論が通らないのが当たり前だと思ってください。
大事なことは、「正しい意見を実現可能なかたちで通して、組織を動かしていく」ということ。これが根回しです。だから、みなさんの意見を聞いたり、お願いしたりしても、結果が出ないのなら意味がないことだし、それでは根回しではないんですね。
逆に言うと、根回しを通じて、いろんな利害関係の違う人に意見を聞くことで、プランに取り込み、ブラッシュアップできる。プランの完成度をあげるために必要だと認識することです。お客に突っ込まれたら終わっちゃいますけど、社内ならば突っ込まれたことを改善してプランを直し、確認してもらうことがやりやすいのです。そして、プランの完成度を高めて、通す。これをやっていくことが根回しです。
これをせずに、30代を超えて「上司の言っていることがわからない」「上司は馬鹿なんだよ」と言っている人はもういらないんですね。
井上:そうなんですよね。ついこの前のオンライントークライブの時にも話題になって話したのですが、僕がリクルートで学んだことのひとつは、根回しなんですよ。ある部署にいた時期の直属の上司が根回しの得意な人だったこともあって、20代の時に「リクルートも根回しするんだ」と思ったんですね。
その頃本社の某本部部門にいたので、担当事業部の経営会議に参加する機会が折々あったのですが、「そうか、出来レースみたいなものなんだな」と最初は思ったんです。
でも、「何某かの起案テーマを、きちんとみんなのコンセンサスを取って、良い方向に決めていくこと」が目的だから、その場で何かをバーンとぶちまけて横槍が入るぐらいなら、ちゃんと事前に関係する人たちに打診して事前合意を取り付けておくことが必要で。まさしく今松本さんがおっしゃったことですよね。
その先に何か問題点があるんだったら、逆にその時点で突っ込んでもらう。そして、決める場では全部整えてしまうという。その時僕は、「やっぱり根回しはすごく大事なんだな」と思いました。
松本:根回しのポイントとしては特に、「反対意見を事前に把握しておくこと」だと考えましょう。反対意見を把握して、やらない理由を1つずつ潰しておくと、提案内容のリスク自体が減って完成度が高くなり、賛成派が増えていきます。
当然全員が賛成していなくても、組織の中で「これでいけるんじゃないか」と思ってくれる人が半数を超えると、「これでいける!」という感覚がつかめる。全員が賛成しているプランは根回しもいらないし、どうでもいい話になりますが、そうでなければ「意見が割れること」が絶対の前提なので、根回しが一番大事なんですね。だからゲームとして割り切らないと、根回しはやってられなくなります。
井上:そうですね。
松本:反対している人は敵じゃなくて、同じ組織の味方としてあなたの提案をより良くするため「あえて敵役を演じている」と思えばいいんですね。
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