2024.10.10
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財前英司氏(以下、財前):本日の華麗なるゲスト講師は、株式会社COTEN代表取締役CEOの深井龍之介さんです。ここに書いてあるプロフィールのように、大学を卒業されて大手家電メーカーに入られて、そこからコンサルやベンチャー企業を経て、2016年にCOTENを設立されました。
そしてみなさんがご存知のとおり、今はその事業活動の1つとして、『COTEN RADIO(コテンラジオ)』などをされています。世界史のデータベースを作られたり、今はいろんな取り組みをされようとしています。そのあたりのことも、今から聞いていきたいなと思っています。
というわけで、まずは深井さんにご登場いただきたいと思いますので、みなさん拍手でお迎えください。深井さん、よろしくお願いします。
(会場拍手)
財前:今日は、ほとんどの方がこの本(『歴史思考』)を入手されていると思いますが、もうすでに読まれたという方はいらっしゃいますか? 何人かいらっしゃいますね。どうでしたか?
参加者1:めちゃくちゃおもしろかったです。
深井龍之介氏(以下、深井):ありがとうございます。
財前:非常に読みやすかったですよね「歴史を知ることで悩みから楽になる」というのがコンセプトなのですが、今日イベントするにあたって、実は僕も3回ぐらい読んだんです。深井さんも、3回ぐらい書き直したとおっしゃっていましたよね。
深井:そうですね。
財前:完全に私的な意見ですが、これを読んだ時に、『罪と罰』というドストエフスキーの小説と、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の2つに、歴史思考が加わったんじゃないかというぐらいのインパクトを持ちました。
「その心は何だろうな?」という感じじゃないですか。これは完全に僕の個人的な意見なのですが、ズバリ共通するテーマは「人間讃歌」じゃないかなと思っています。
「人間讃歌って何?」というところで、「人間的なものへの愛情、すばらしさを称える」と(スライドには)書いています。
財前:みなさんも、あとでお家に帰ってご覧いただければと思うのですが、深井さんは「メタ認知をすることで、最終的に悩みが楽になる」「人は生きているだけで意味がある」ともおっしゃっていて、それがいかにすばらしいことなのかということを、歴史の人物の様々なエピソードを通じて書かれています。これがこの本を貫くテーマであって、まさに「人間讃歌」じゃないかなと思っています。
「なんじゃこの話?」と思われている方もいらっしゃるかもしれないのですが(笑)。非常に勇気づけられる本ですので、まだ読まれていない方は、お家に帰って読んでいただければと思います。
さて、今日の進め方ということで、2つ考えています。まず、書籍の内容について僕から質問をして、深井さんにお答えいただきながらお話を進めていきたいです。
そのあとは起業や新規事業の話にいって、「歴史思考」や「メタ認知」をどう活かしていけばいいのか、深井さんが起業した経緯や、今されている事業などのお話を聞きながら進めていきたいと思います。
まずいきなりですが、「ブレイクスルーについて」。「偉人と呼ばれる人でも実はパッとしなかった」ということが、(本書に)書かれているんですね。孔子やキリスト、その他諸々の人がいるのですが、そういったことを知ることで、「自分はあかんな」「イケてないな」という悩みが楽になるんじゃないかと書かれています。
とはいえ、本書に書かれている偉人もずっとダメだったわけじゃないですよね。たぶん、ダメだったら歴史のどこにも出てこないし、そういう人がほとんどだと思うんです。どこかでブレイクスルーしたポイントがあったと思うのですが、どういうふうに捉えていけばいいのでしょうか。
深井:ブレイクスルーポイントは人によってぜんぜん違うのですが、共通していることは、みんな社会に合わせすぎていないんです。だから、ブレイクスルーするポイントが必ず来るんです。社会に合わせすぎて自分の特性が出し切れないと、ブレイクスルーをしないというか。
財前:みんながしていることを同じように突き詰めていっても、なかなか難しいということですね。
深井:そうですね。
深井:僕自身もそうですが、「自分が何が好きで、何が得意か」って、実はもう最初から決まっていて、選択式じゃないんですよね。「何にやる気が出るか」とかもその延長線上で、社会と接点を作るしかなくて。
だから、下手に「やる気がでるものに自信がないから、今、社会で人気のこれをしよう」としても、どうにもならないということがよく起こるのかなと思います。
財前:そうですね。学生と話していると、不安から来る部分もあるかと思うんですが、「これから来る業界は何ですか?」「これから身に付けておくべき能力は何ですか?」といった質問がよくあるんです。ですが、その延長線上だとなかなかブレイクスルーができないということですね。
深井:そうですね。それだけだとダメですよね。例えば今、僕は歴史という側面から技術的なデータベースを作っていて、AIも使うし、機械学習も使っているし、自然言語処理というテック系も使っています。ですがテック系だけやっていたら、たぶん成り立ってないんですよ。
「歴史」という、自分が好きなものの延長線上に、今の世界に散りばめられている最新技術を使っているという「幹」があって、それを「枝」として使っているから、たぶん成り立っている……。別に、まだ成り立ってないですけどね(笑)。成り立つかなと思ってやっているんですが、これが逆だったらブレイクスルーはしないでしょうね。
財前:なるほど。
財前:とはいえ、ブレイクスルーするまではけっこう時間軸が長いじゃないですか。
深井:そうですね。長いです。
財前:それに耐え得るのって、けっこうしんどいというか。しかも、特に今はメディアを通じていろんな情報が流れてくるので、「誰々が成功した」「同い年のあいつはもうすでにうまくいっている」とか……。そこはどう耐えていけばいいんでしょうか?
深井:それはね、諦めるのが一番いいです(笑)。
財前:諦める(笑)。「俺は俺、あいつはあいつ」みたいな感じですね。
深井:「自分が成功する」ということを完全に諦めたほうがいいですね。それは結果論なので。
財前:なるほど。やっぱり、歴史的に見てもそうなんですか?
深井:僕から見ると、今成功している人が語る「成功している理由」も、成功しているから本当のように聞こえるけど、「たまたまだな」という感じはしますね。自分がこの世の中に受け入れられることは大事だと思うのですが、「受け入れられた結果、それがマジョリティなのか・マイノリティなのか」というのは自分で選べないんですよね。
だから、「みんなから受け入れられるような成功の仕方をしたい」と思っていてもそうなるとは限らないし、みんなから受け入れられている人が偉いわけでもない。本にも書きましたが、生きている間に世間から認められたからといって偉いわけでもないですよね。
財前:その例だと、ゴッホとかは有名ですよね。生きているうちに売れなかった。
深井:ゴッホはわかりやすいですね。
深井:今は認められているけど、50年後ぐらいに全く違う評価を受けている人も、たぶんいるはずなんです。今はビジネスで成功していて、すごく株価を上げて、世間から評価されて雑誌に載っているような人が、50年後のゲームチェンジした世界で「この人たちの目指していた方向は全く違ったよね」と言われている可能性も十分あるわけですよね。
財前:なるほど。あり得ますね。
深井:だからもう、諦める。そういうのを気にしないことです。
財前:気にしないことからはじめる。
深井:はい。ダメだったらダメで良しとする。
財前:まずは、その「覚悟」ですよね。
深井:覚悟からしか本物は作れないと思います。
財前:うわ、名言が出ましたね(笑)。「覚悟からしか本物は作れない」。
深井:迎合してもどうにもならない気がしますけどね。
財前:覚悟を持つ大事さと、深井さんで言うところの歴史といった「自分が好きなもの」を自覚していくということですよね。
深井:好きというか、たぶん人には自然とやってしまうことがあるんですよ。それをやるという感じですかね。それって、自分ではわからないので。
財前:ついつい見ちゃうとか、つい手が動いちゃうとか?
深井:そうですね。それには勝てないですよね。
深井:例えば僕は「知る」ことがすごく好きで、歴史の勉強じゃなくても好きなんです。『COTEN RADIO』の収録に向けてめちゃくちゃ勉強して、すごく大変だったんです。「このシリーズの勉強が終わった。やった!」と終わった日に、「これでやっと次のシリーズの勉強ができる!」と、僕は思っているわけですよ。
だから「好きな人」には絶対に勝てないんです(笑)。その領域で社会との接点を作っていったら、勝ち負けの世界じゃなくなるんですよね。ほかの人は絶対に勝てないから(笑)。人には必ず好きな領域があるんですよ。
財前:まさに、孔子が言っていた「これを知るものは、これを好むものに如かず」ということですかね。
深井:そうですね。でも、それが評価されるかどうかはわからないですよ。2人しか評価してくれないかもしれないし、5万人ぐらいが評価してくれるかもしれません。それはコントロールできないんだけど、自分の中で良しとするんです。
財前:そうですね。そういう意味では『COTEN RADIO』を始めた時も、そういう感じでしたもんね。
深井:そうです。僕は人文系の事業をやって、世界史のデータベースを作ろうとしていて。大丈夫だとは思っていましたが、究極的に「受け入れられなくてもいいや」と思ってやらないと、あんなのはなかなか怖くてできないですよね。
財前:確かにその覚悟や意思がないと、チャレンジできないですね。
深井:やっぱり、チャレンジできないですね。
財前:ブレイクスルーポイントというと、まずは覚悟からですか?
深井:僕からすると、能動的な感じというよりも、どちらかというと「ほかのことを諦めている」という感じです。評価されることも、「もう、別にいいか」と思っています。
財前:諦観のようなものでしょうか。
深井:「諦観」が一番強い覚悟ですよね。選んでいるというよりは、選択肢を捨てている状態ですね。
財前:なるほど。ありがとうございます。
財前:では、次の質問にいきたいと思います。「現実との調和について」という書き方をしていますが、性やお金や命の重さ・軽さなどは、時代によってまったく違っていたと思います。本書には、「そういう悩みの原因は、私たちが生きる現代の常識や価値観とズレているからだよ」「だからこそ歴史を知る意味があるよ」と書かれていたと思います。
とはいえ、歴史を知り、「孔子やキリストもそうだったんだ」と思えたとしても、実際に自身を取り巻く現実をどう変えていくか?対応していくのが良いのでしょうか?
深井:いろんな答え方があり得るのですが……これは、「悩まなくていい」と言われたとしても、自分が悩んでいることにどう対応するかという話ですよね?
財前:歴史を知ることで、「こう悩んでいたのは自分だけじゃないんだ」と思えたら、溜飲が下がりますよね。それで気持ちがすごく楽になって、ずいぶん救われるとは思うのですが、それだけでは現実は変わらない。気持ちが楽になった上で、そこからどう現実に対応していけばいいのかなと。
深井:「起業したい人向け」に答えると、自分が何をすればいいかがわかっていない時とわかってくる時って、数パターンあると思うんです。人生のステージによって「10年ぐらいしてやり切ったので、また次がわからなくなった」とか、そういう波があると思うんです。
「自分が何をしたらいいか?」というのが確信めいている時はなりふり構わず、悩みとか、周りがどう考えているかは無視したほうがよくて。「自分は何をしたらいいんだろう?」とよくわからない時は、ひたすら目の前にあることをやったほうがいいです。
財前:なるほど。
財前:「やりたいことが見つからないです」「わからないです」という相談も、我々はよく受けたりしますが、そういう時こそ目の前のことに全力で向き合っていくと、それが最終的にやりたいことにつながっていく可能性があるということですかね。
深井:そうですね。ちゃんと説明すると、現代では「個人が社会とどういう関係性を築くか」を自分で勝手に決めていいんです。基本的に、犯罪じゃない限りは。歴史上、そんな時代はなくて、これは今だけなんです。
基本的に、昔は「どう関わるか」を社会に全部決められていたわけです。「長男として生まれたら、こういうふうに社会と関わるルートしかないですよ」ということが、規範として決まっていました。現代社会では、それがほぼ全開放されているわけです。
もちろん、規範として決まっているコミュニティで生きている人たちもいるし、そういう国で生きている人もいるんだけど、先進的な考えでは、今は「完全自由」になっているわけです。完全自由になっている社会で生きている人間って、すごく困るんですよね。
(ジャン=ポール・)サルトルが言うところの、「自由の刑に処せられている」わけです。ある意味、刑罰なレベルで「困る」状態になっているんですが、社会との関係をどう築くと自分が幸せなのかがわからないわけです。起業もそうですよね。
その時に何が足りていないかというと、判断するためのデータが足りてないんです。データが足りてないので、自分が社会と関わってみてデータを集めるしかないですよね。
深井:「やってみる」という時に、その対象をコロコロ変えると逆にわからなくて。目の前にあることにめっちゃ集中して、ある程度バーッとやり切ってみないとわからない。データがあると、「自分が何をやるべきか」が決められるようになってくるので、社会との関係性を決められるんですよ。
僕でいうと、いったん今の人生のステージでは「人文という切り口から社会と関わる」と決めているんです。50歳ぐらいになったら変わっているかもしれないですが、これ以外にあんまりないかな、という感覚があって。
仮に僕が成功していなくて、仲間の起業家がめちゃくちゃ成功していても、別にうらやましくないんですよ。どうせ、僕にはそれができないから(笑)。なんでそれがわかるのかというと、ほかの事業をある程度やってみた結果、それが自分にとってどういう関係性だったかがわかるレベルまで、データとして自分の中に貯まっているからですよね。
わかっていないんだったら、「1つのことをちゃんとやること」以外に、あんまりやることはないんです。自分が何をやるべきかがわかっているんだったら、それ以外にやることはないわけですよ。
財前:論語で言うところの「一を以て之を貫く」というか、自分の「一」を決める。
深井:そんなにがんばらなくてもいいんですけどね。もっとナチュラルに、「これしかないのかなぁ」みたいな感じで。そうすると、努力している感じでも無理をしている感じでもなくて、自然体でできるようになるので。
財前:さっきのお話にもありましたが、基本的に今は誰から規制されるわけでもなく、いろんなことが自由にやれる時代になっていますよね。でも、あなたの好きにしていいよ、自由にしていいよと言われると逆に「誰か私をちゃんと管理してほしい」みたいな感情、まさにエーリヒ・フロムの「自由からの逃走」の側面はあると思うんです。
我々はずっと、「与えられた問題に対して、いかに早く正しい答えを出すか」が求められていました。なので、「自由にしていいよ」「自分で考えなさい」と言われた時に、どうしたら良いかわからなくなって、そこから逃げたくなっちゃう。そういった時に、自分の指針として「一」を決めるということでしょうか?
深井:そうですね。(自分でやりたいことを)決められないから、目の前のことをやってデータを集めて、決められるまでデータを集めるということですね。
財前:やっぱり「データを集める」というところがポイントなんですよね。
深井:データがないとわからなさすぎて、判断できないですよね。
財前:とりあえず始めてみて、データを蓄積していく。
深井:「これ以上得るデータがない」という感覚があるかどうかですよね。これ以上得るデータがなかったら、次のことをしていいと思うし、「まだ足りないデータがある」という感覚だったら、もう少しやったほうがいいと思います。
財前:深井さんにとって世界史のデータベースは、どこまで行っても終わりがないですね。
深井:世界史のデータベースは、ひたすら貯め続けられるやつですね。
財前:ありがとうございます。
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