2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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松原嘉哉氏(以下、松原):次の質問です。「自分の意見をホームベースから発信していくことにより、他者に良く自分を理解してもらい、心地よい人的ネットワークができていくことにとても魅かれます。が……自分の意見を発信していくことに対する怖れが強いです。この怖れを克服する方法はありますか?」ということです。質問者さんはいらっしゃいますかね。
質問者4:はい。
松原:これは炎上とか、あるいはどう思われるかわからないとか、そういう怖れなんですか。
質問者4:まだちきりんさんのようにインフルエンサーではないので、自分が発信してもそんなに叩かれることはないとは思うんですけど。でも「これを言ったら、こういうネガティブな反応が返ってきてしまうんじゃないか」とか。あるいは話している時でも「これを言ったら拒まれちゃうんじゃないか」とか、そういうことが気になるとどうしても言い出しづらくなったり、書きづらくなったりしてしまいます。
でも反面、そういうことでよりよく自分の価値観とか考え方を理解してもらえれば、自分の周りには心地いい人たちが集まってくるんだろうなという憧れもすごくあります。
松原:この怖れを克服する方法について、ちきりんさんいかがでしょうか。
ちきりん氏(以下、ちきりん):まずは本にもちょこっと書いたかもしれないんですけど、「発信」は2段階目なんです。まずは1段階目の「自分の意見が明確か」がちゃんとできていれば、発信するかどうかはまた別で、タイミングを考えればいいかなと。
ちきりん:自分の意見が明確でないというのは問題です。人間は生きてる間にものすごくたくさんの「答えのない問題」に直面します。それは自分のことだったり、自分の家族のことだったりで、ものすごく重要な判断をしなくちゃいけないわけですよね。
コロナになってECMO(体外式膜型人工肺)をするのかどうか、延命措置を行わないのか、いきなり「明日までに決めてください」という話になるわけです。答えのない問題に対して、自分の意見をいつでも言えるようになっておくこと自体はもう、不可欠だと思います。
それができているのであれば、ぜんぜん問題はありません。さっきも言ったように(他の人に言う必要はなくて、)日記に書くとか、誰も見られない状況のブログに書くとか、音声で入力しておくとかでもいいんです。まずそれができていれば、発信は絶対やらなくちゃいけないって思わなくてもいい。発信したほうがメリットが大きいと思った時にやればいい、ということなんですね。
発信したほうがメリットが大きい人は、やはり「自分のリアルなコミュニティの中だけでは賛同者が少ない」という場合ですね。例えば性的マイノリティの方とかだと、自分の周りだけだと同じ方はすごく少ないけど、発信したらすごくたくさんの方が同じ悩みを持っているとわかるとか。
子どもが発達障害だというケースとか、自分が特別な病気になったという時でも、リアルなコミュニティの中だけでは、同じ立場の人は少ない。でもネットで発信すれば、すごくたくさんの同じ境遇の人と話し合いができるわけですよね。そういう状況に置かれたら、誰でも発信するメリットがめちゃくちゃ大きくなります。ネガティブな反応が少々きても、メリットのほうがはるかに大きいので、発信しようという気になるわけですよ。
そういう状況に置かれてから発信しても、私はいいと思うんです。でも突然そういう状況がきた時に、1回も発信したことない人が発信するのは、けっこう難しいんじゃないかなとも思います。だからできれば発信に慣れるための練習はしといたほうがいいんじゃないかなとも思います。
ちきりん:あと学校でも同じことが言えます。私は小学生の時でも社会派の小説を読んでいて、周りの子どもたちとあまり意見が合わなかったんですよね。当時はネットがなかったからできなかったんですけど、当時もしインターネットがあったら、「小学6年生で山崎豊子読んでる人います?」みたいに話しかけられたわけじゃないですか。
松原:(笑)。
ちきりん:そうやって、同じ趣味の友だちを作ろうと思えば作れた。でも当時の私は根暗な、本の虫のような優等生だと思われてて、友だちもいない、つらい日々を過ごしてるわけです。そうではなく学校で十分楽しいんだったら、別にわざわざネットで発信する必要はないですよね。
つまり、理解者が身の周りに少ないと思ったら、発信するメリットがすごく大きくなるので、「ちょっとぐらいネガティブなことがあっても、私にとってはメリットが大きい」という気持ちになると、発信してみようという気になるかなと思います。
そこのバランスですね。自分にとってメリットが大きいとなったタイミングで発信するかどうかを考えられたらいいんじゃないかな。
質問者4:ありがとうございます。
松原:これはちょっと珍しいパターンで、(読んだ感想を)議論した中で出てきたんですかね、グループ3からのちきりんさんへの質問です。
「自分の意見を言わない後輩に困っています。意見を促すと『まだわかってませんから……』と黙ってしまいます。良い対応策はありますか?」ということです。グループ3の方、何か補足はありますか。
質問者5:グループ3の中で少し時間があったので、ちきりんさんに質問を作ろうということで作りました。実際の生活の場面で困っていることとして、職場の会議で後輩に、担当していることについて「担当者の意見としてはどうですか」という意見を聞くと、必ず「まだわかってない」という理由で黙ってしまうことがあって。
「担当者が意見を言わないと会議が進まないので言ってほしい」と話すんですが、なかなか言ってくれない。私もどうしたらいいのかわからない、という状況になっています。
松原:なるほど。何か対応策があるのか、ちきりんさん、いかがですか。自分の意見を言わせるという意味合いかもしれないですが。
ちきりん:どれぐらい厳しくしていい職場なのかによる感じですけど。
松原:(笑)。
ちきりん:私が勤めていたような環境であれば、例えば会議の中で「あなたの意見は?」と聞かれてるのに言えないのであれば、もうその人の案件に関しては、まず会議の招集時に「自分の意見はこうだけれども、他の人の意見が聞きたいから会議をしたい」と、先に意見を書いてくるまでは会議の招集を認めないですね。
ちきりん:意見を言わない人のために他の人の時間を無駄にするなんて馬鹿げてるというか、会社全体で生産性が下がってしまうので。「あなたは自分の意見を1回も会議の中で言わないので、他の人の時間がすごく無駄になっています」と伝えます。
「したがって今後はあなたの案件について、上司の意見が欲しいのであれば、まずは自分の意見を書いて、それはなぜなのかを書いた上で、『何月何日に1時間この件で上司の意見を聞きたいです』とか『関係部署の意見を聞きたいです』というかたちで招集通知を送ってください。そうでないと会議はセットしません」と言ってしまう。自分の意見を言うことこそが存在意義とされる外資系企業だったらそういうのも普通ですね。
ただ職場によっては「いきなりそんなことをしたら、落ち込んでしまって会社に来れなくなる人がいるんです」とか、そういう会社もあると思います。私はどれくらい厳しくしていいのか、感覚が世間とズレてるので。
もうちょっと優しくするのであれば……これが本当に優しいかどうかわかりませんけど、「じゃああなたの意見はこれってことにしましょう」と決めてあげると、「いや、そうじゃないんです」と言い出す人がけっこういます。なので、決めてあげたらいいんじゃないかなって気がしないでもないですね。
「違うの? じゃあこれにしよう。あなたの意見はこれでいい?」ってすると、「いや違う」とか言うんです。そこで「じゃあ違うんだったらどう違うの?」と聞いてみたらいいかもしれないですね。
ちきりん:ただ、今のどちらのやり方も私はとても厳しいやり方だと思っています。これは本当に難しい話なんですけど、言語化能力の高低にはものすごく差があります。職場の中に言語化能力が必ずしも高くない人はいっぱいいるわけですね。
もしその人がそういう(言語化能力の低い)人ではないのであれば、何か他の原因を探ってあげればいいと思うんです。例えば「自分が意見を言って、そのとおりにやって事業が失敗したら、責任を取らされる」と思っているとかね。何らかの理由があって意見が言えないのであれば、それを探って取り除いてあげるというアプローチが一番優しいんだろうと思います。
そもそも何に対しても意見が言えないのであれば、言語化能力が高くない可能性もある。会議では意見が言えなくてもレポートだったら意見がちゃんと書けているのかとか調べて、本当は言語化能力の高低もきちんと見ないといけないんだろうなと思いますね。
例えば私は走るのが遅いから、いくら「こうやったら走れますよ」って為末大さんに教えてもらっても、絶対速く走れるようにならない。能力の問題なんだとしたら、やっぱり(その能力に見合う)適切な仕事に移るほうがいいわけですよね。自分に適性のある仕事じゃないことでガンガン詰められるのはとてもつらいことです。
私は(質問者さんの後輩の)その人を知らないし、職場がどれくらい厳しくていい職場なのかもちょっとわからないので、1つの答えではないんですけど、そう考えています。
質問者5:ありがとうございます。
松原:どうですか、何か参考になりましたかね。質問者さんのところは厳しい感じなんですか?
質問者5:私は厳しいほうです。
松原:(笑)。
質問者5:でも策を打たないままでいることはできないので、また自分でも考えて対策を実行してみます。ありがとうございます。
松原:ありがとうございます。時間も時間ですので、ここらへんでクロージングに入っていきたいと思います。今日は「ペアドク」というやり方をしましたが、本書の中で承認欲求の話が僕にとってすごく印象的でした。
自分を認めてほしいという欲求なんだけど、意見を言うことでその承認欲求が徐々に満たされていくと。自分と他者を切り分けるような意見というのはそういうものだから、という話があったと思います。
まさに(2人1組で同じ本を読んで、発見や感想を言い合うという)この「ペアドク」も同じ構造だなと、ふと思いました。おかげさまで満足度が、平均して97パーセントぐらいなんですね。なんでなのかなと思った時に、やはりその場で30分だけ読んで話すので、全部は読めないという制約がミソなんじゃないのかなと思いました。
読みきれないとわかっているので、どこを読むかと考えたり、「なんで私はここを読んだんだっけ」と意見らしい話を考えたりする。自ずと感想のシェアの時も「ちきりんさんがこう言ってた!」という話ではなく、「私はここをこう読んだ」とか、主語が「私」になるところがあるんじゃないかなと思っています。
そうやって意見を交換するので満足度が高まるんじゃないかなと、ちきりんさんの本を読んで感じたところでした。なので今後も、意見を作る練習としてペアドクを使っていただければいいんじゃないかなと思います。
月1回程度、さまざまなテーマを取り上げてイベントをしていきます。どんな著者を呼びたいかとか、どんなテーマでやりたいかとかも、みんなで考えていきたいと思ってます。おもしろいなと思っていただけたら、ぜひFacebookのグループに参加いただけるとありがたいです。無料なので、よろしくお願いします。
松原:では最後にちきりんさんから、今日参加した感想を一言いただけますでしょうか。
ちきりん:まずは本を選んでいただいて、もしくは読んでいただいて、本当にありがとうございました。みなさんからの質問は私にとっても勉強になりますし、それからみなさんが(ディスカッションで)お話をされている内容もとても参考になりました。
「意見を言う」ことについて、みなさん言えるようになっているというか、もともと言えたのかもしれないですし、そこまではいけると思うんですよね。難しいのは、その意見をブラッシュアップするところです。
例えば3人で(飛び級制度の賛否について)話し合った時に、3人とも「飛び級に賛成だ」となった時に、議論が止まっちゃうのではなくて。3人とも賛成だったら、「じゃあ反対の立場の人はなんで反対してるの?」とか、反対に「僕たちはみんな反対なのに、なんで賛成の人は賛成してるんだろう」と、別の立場で考えてみる。それが大切です。本の中の練習編のところで「違う立場で順番に考えていく」というのも説明しているので、ぜひやってみるといいかと思います。
自分の意見が賛成であれ反対であれ、異なる立場からも考えていくと、すごく意見が深くなっていきます。自分の意見が言えるようになったという方は、トライしてみていただければと思います。以上です。みなさん、本当にありがとうございました。
松原:ありがとうございました。
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