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Session3 「働き方」(全3記事)

大企業でも小さな会社でも、「幸福を感じる人」の共通点 安定や裁量権だけではない、働く人の幸せ度を決めるもの

10月の衆議院議員総選挙の期間中に行われたイベント「WILL FESTIVAL」。社会課題に対して意志を持って先導するキーパーソンによるトークセッションが多数開催されました。今回は、株式会社CAMPFIRE代表の家入一真氏、株式会社YOUTRUST代表の岩崎由夏氏、そして産業医の大室正志氏が登壇した「働き方」セッションの模様をお届けします。グローバル競争でこぼれ落ちる人の救済策から、働いた後のお酒をおいしく感じる理由まで幅広く議論しています。

グローバル競争の世界では、成長する人とこぼれ落ちる人で二極化する

瀧口友里奈氏(以下、瀧口):では、家入さんが気になっている働き方についての論点はどうでしょう。

家入一真氏(以下、家入):よく言われることかもしれないんですけど、「生産性」って言葉にすごくアレルギーがあって。なぜかというと、僕自身がドロップアウト組というか。中2から僕は学校へ行けてなくて、ずっと引きこもりで10年間過ごしたみたいな感じだったんです。バイトをやってもクビになって、といった人生を歩んできていたので。

「生産性」みたいな言葉で言うと、どちらかっていうと「生産性がないよね」と排斥される側だという意識があり、そこに対するアレルギーはありますね。だから、「生産性」って言葉を何か別の言葉に言い換えたらいいのかなという気がしなくもないですけど。

生産性だけで考えていくと、例えばこの前、「B Dash」というイベントのオープニングセッションで、ブロックチェーンなどをどう組織で活かしていくのかみたいな。要は「自律分散的な経営スタイルを取れば、グローバルで採用もできるよね」みたいな話もあったりして。

要は雇用しないという働き方の中で、経営者側は国内でどうしても(人材の)取り合いをしようとする。どうしてもパイが小さくなって、なかなか採用ができなくなっていく中で、「海外の優秀な人材を採れるようになっていくよね」みたいな。それは確かに一理あるなと思うんですけど。

一方で、国境を越えてグローバルで採用をする世界は、すごくしんどいなというイメージがあって。だから、どちらかというと働く側で考えた場合に、やはり二極化していくんだろうなと。切磋琢磨して、どんどん吸収して成長して活躍する人たちももちろん必要だと思いますし。だけど一方で、そこからこぼれ落ちる人たちの雇用だったり、そういった人たちとどう関わりを作っていくかは、けっこう考えたりしますね。

瀧口:なるほど。

家入:すみません、何かぼやっとしていますけど。

瀧口:いや、ありがとうございます。

働いた後のお酒がおいしいと感じるのは、仕事至上主義の「洗脳」

瀧口:私もふだん、働くために生きているわけじゃないなと思うことがあって。生きるためにというか、生きることの中で働いているんだよなと考えることがあります。がんばって働いている人だけが偉いというのもちょっと価値観として違うなって、私個人としては思ったりするんですよね。

私が働くのが好きだからがんばって働こうと思っているだけで、全員がグローバル競争にさらされてしまう状況は、それはそれで生きることが難しくなってしまう。今の家入さんのお話のように、ちょっと本末転倒な感じがしますよね。

家入:例えば仕事が終わった後のハイボールがおいしいなと思いながら飲んでいるんですけど。ハイボールを飲むためにがんばっているのか、がんばったからハイボールがおいしいのか、何が正しいのか分かんないなって。そこらへん大室さんは、どう思います?

大室正志氏(以下、大室):そういうパスを出す? 

瀧口:(笑)。 

大室:俺もハイボール持ってきて良いかな(笑)。

そうですね、最近だとフェミニズムみたいな業界ではルッキズムという言葉があるじゃないですか。ルックスで物事を判断することが社会的な呪縛になっているような文脈で言ったら、働き方業界では欧米のバーンアウト(燃え尽き症候群)みたいなところで、ワーキズム(仕事が自分のアイデンティティの中心であり、人生の目標であると信じること)という言葉がかなり流行っていますよね。

働くことが最上位の概念という価値観になっていることは、ルッキズムと同じですよね。そこに対する異議申し立てみたいなことが、Z世代の人などに多いわけですよね。僕らの世代は今のハイボールの話で言ったら、働いたからこそおいしいんだと。働かないで飲んだらおいしくないとずっと小さい頃から洗脳を受けている人。

ただ一方で、僕は休日に飲んだほうがおいしい時もあるんですけど。世論的に人間が生きていくために有利なことが格言になるわけですよね。だから、「働いた後のほうがおいしい」とか、「働いていたほうが幸せだ」と聞いていたほうが、生存に対して有利だということの裏返しなんじゃないかなと。ただ、Z世代の方が今後どうなるかは分からないですよね。

テクノロジーの発達によって週休1.5日から今2日になって、今度は週休3日の会社も出てきたりと、労働時間が世界的に減ると言われています。その中で言うと、働くことを至上の価値観とするワーキズム自体がちょっと減ってきているので。もしかしたらハイボールの味も変わってくるかもしれません。こんな感じで良いですか?

瀧口:ハイボールでまとめていただいて、ありがとうございます。

家入:さすがですね(笑)。

Z世代が企業に求めるのは、働く環境、働き方の選択肢があるか

瀧口:まさに岩崎さんのところのサービスは、Z世代の方とかがよく使ってらっしゃるサービスかなと思うんですけど。

岩崎由夏氏(以下、岩崎):多いですね。

瀧口:Z世代の方の働くことに関する価値観というのはどうなんでしょう。

岩崎:最近弊社でも、働き方や会社に求めることで一番大切なものって何なんですか? みたいなアンケートを採らせていただいたんですけれど。若い方に多かったのは、働く環境だったり、それが選べるかということだったんですよね。

実際に「フルリモートじゃないと困ります。なぜならば自分がフルリモートで働きたいんで」というわけではなくて。「そういう働き方が選べますか?」というところを環境に求めてらしたり。多様な働き方が広がってきたんだなと思いますし。

弊社の採用でもけっこう地方の方が多く、会わないまま採用になったりとか。いろんな働き方が増えてきて、個人的にそれはうれしいことだなって。

瀧口:働き方が選べるかという、その選択権が自分にあるのかを、すごく気にしている……。

岩崎:そうみたいですね。

瀧口:そういうところは、心理的安全性みたいなものにもつながってきますよね。

岩崎:いろんな価値観があることが素敵だと言われて育っている方々なので。絶対に働かないといけないとも思っていないし、でも働くのも楽しいと思っている人たちもいるし。東京でメタメタに揉まれたいと思っている人もいれば、地元で家族と一緒にと思っている人もいるし。

さっきおっしゃっていたように、労働人口が減って採用もかなり難しくなってきているので、会社側もいろんな働き方が認めるような対応をしていかないと、採用が相当難しくなってくるんだろうなと。人が減っていく一方になってしまうんじゃないかと、経営者としてもすごく思うところがありますね。

大企業に頼らずに生きていく世界をどう作っていくか

瀧口:企業で働くという観点でお話をいただきましたが、家入さんがやってらっしゃるCAMPFIREであったりBASEというサービスは、個のエンパワーメントで、企業に必ずしも属さないでも働く、お金を生み出すことができる仕組みでもありますからね。それも1つの働き方としてどんどん今拡大しているところですよね。

家入:そうですね、先ほどイワヤン(岩崎)さんが「選べる」ことが大事と言ったのは、本当に僕も同意で。僕らは働き方を選ぶのと同様に、経済圏を自分で選ぶ世界になっていくだろうと思っていて。

僕らは資本主義という国家と密接に連結したレイヤーの上に存在していて、その上に企業があったりすると思うんですけど。これまで大企業というレイヤーの上にいたら安心だったところに、そうも言っていられないよねみたいなものが出て、けっこうな間続いているわけですけど。

そういった中で、大きなものに頼らずに生きていく世界をどう作っていくかが1つのテーマになっていて。例えばBASEで個人を中心とした小さな経済圏を作って、これまでだったらこれだけで生活をすることが不可能だったような、趣味で作っているアクセサリーを売るとか、庭で取れた野菜を売るとか。

そういった、個人が経済圏を作っていき、しかもそれがいくつもお互いに重なり合って、レイヤーになっている。そういった世界観は、10年前くらいから想像していたもので、それはCAMPFIREも同じですね。そうやって自分で自分の経済圏を選んでいく。それが可能になる世界が理想というか、必要となっていくと想像しながらやってきたと。

こぼれ落ちていく人たちを包摂する仕組みとしてのシェアハウス

家入:特に最近だと個の時代だとか、個のエンパワーメントと言われるようになりましたけども。良い面だけではもちろんなくて、個の時代は突き詰めると自己責任みたいなものが、すでに言われ始めていますけど。例えば独立して自分で稼いでいくことを選択した以上は、食えるか食えないかみたいなのはあなたが選んだ結果でしょ、と突きつけられる世界になりかねないというか、なりつつある。

そこからこぼれ落ちていく人たちに対して、どう包摂の仕組みを作っていくのかをすごく問われるだろうと、プラットホームをやっている側としては思うところですかね。最初に話したLivertyのように、個人が小さく稼ぐ世界を作っていくよという、プロジェクトベースでさまざまなものを生み出す団体を作った一方で、どうしてもこぼれ落ちてしまう人たちがいる。

共同生活でいかに生活費を下げていくか。共同生活をしてお互いに支え合って生きていく仕組みを作っていくことを、セットでやる必要があって、シェアハウスを立ち上げて続けていたりするんですよね。

瀧口:個がエンパワーメントされていく中で、負の側面である孤独や自己責任をどう解決するかというところも一緒にやってらっしゃるということなんですが。「家入さんが小さな経済圏というものに興味を持った理由をお聞きしたいです」という質問をいただいたんですが。今お話いただいたことはまさにその一部だと思うんですが……。

家入:そうですね、このテーマは、僕が20年前に最初に作ったpaperboy&co.(現GMOペパボ)という会社の時から、変わらずにずっと自分の中でも言っているテーマでして。これは、さっき言ったように自分自身が既存の社会からドロップアウトし、どう生きていくべきかで悩んだという自分の原体験に紐づいています。

あと、インターネットというテクノロジーが何を実現したのかを本質的に考えた時、僕の中であらゆるものを民主化することであるという結論に至ったので。

これまでだったら、例えばテレビの向こう側から不特定多数に対して配信するなんて、芸能人とかの特権だったわけじゃないですか。だけど、今やスマホ1台で誰でもすぐに配信ができるわけで。これって表現の民主化だと思うんですよね。そういったことがあらゆるところで起きています。民主化させて、個人が奪われた力を再度手にして、小さい経済圏を作って戦っていくイメージはずっと変わらずに持っている感じですね。

瀧口:原体験からそういったイメージをずっと思ってらっしゃったというのが、この質問への答えですね。ありがとうございます。

働く人の幸せ度を決めるのは、「選択できる感覚の多さ」と「納得感」

瀧口:大室先生、今の小さな経済圏であったり、大企業に属していなくても大丈夫だよという時代に、どんどんなっていますけれども。大室先生がふだん産業医として働いていらっしゃるところは大企業が多いんですか?

大室:大企業もありますし、すごく小さい企業も、両方一応バランスよくやるようにしてます。

瀧口:どっちのほうが働き手としては幸せであったり充実しているとか、そういうのって言いづらいかもしれないんですけど。

大室:すごい主語が大きい質問(笑)。

瀧口:そうですよね(笑)。

大室:1つは、基本的には自分の納得感があれば大きくても小さくてもどっちでも良いと思うんですけれども。よく小さいところは裁量権がでかく、大きいところは安定しているなんて言われますけど。必ずしもポジションだけで比べたらそこだけじゃない場合もけっこうありますし、一概には言えないんですけれども。

昔ユングの研究者で文化庁の長官になった河合隼雄さんという方が、「自分の人生、自分の物語に自分で辻褄が合っている人は病まない」ということを言っていまして。何でここを選び、何でここで働いているかを自分で説明できれば、それで良いのかなと思いますし。

さっき「選べる」と言っていましたけれども。昔、ナンシー関というめちゃくちゃ辛口なコラムニストがいて、当時出始めの森三中を見た時に、「森三中はヤバい」と。何がヤバいと言ったら、「大島(美幸)さんは、たぶん本気を出したらいつでもパンツを脱ぐ覚悟を持っている」と。

これは別にパンツを脱ぐことがポイントじゃなくて、脱げる覚悟を持っているのがポイントだと。本当に脱ぐかどうかじゃなく、いつでも脱げるぞという覚悟が大事だと言ってて。僕何か変なこと言っています?(笑)。

何が言いたいかというと、本当に脱ぐかどうかじゃないです。今言ったように、いつ辞めても俺は大丈夫。本当に転職するかどうかじゃなくて、「俺は別に転職しても何とかなるから」という、自分でいつでも行使できるという感覚があると、けっこう平気で。

さっきのリモートもそうですよね。リモートでやってても良いんだけど、行こうと思えば会社も行ける。要するにリモートワークでも良いけど、毎日行っています、という人がいても良いんですよ。リモートもできるという、「選択できる」感覚が多いほうが、一般的に言うと幸せ度が高いと思います。

大企業からベンチャーに移って戸惑う、1on1での「あなたは何がやりたいの?」の質問

大室:ここで、また話を混ぜっ返しますけど。例えば、士農工商みたいな。今は士農工商って言わないらしいんですけど。世襲制が主だった時代というのは職業選択の自由がないわけですよね。今でも皇室はないんですけど、職業選択の自由がないのは、今の我々から見ると非常にストレスフルだと思う一方で、職業を決めなくて良いんですよ。決められたレールというか。

だから美空ひばりさんの時代は、多くの人に銀幕の大スターとかになる気はないんですよ。遠すぎて無理じゃないですか。だけど今は、ワンチャンYouTubeで発信したらスターになっちゃうかもしれないわけですよ。なんていうかな、すべて自分で選べるという意味では、すごく楽しい時代になってきたなと。

ただ一方で、すべてを自分で選ばなければいけない時代になっているんですよね。だから決められないストレスもあるけど、決めるストレスもありますと。よく大手企業の社員が意識の高いベンチャーや外資系に入って、最初に戸惑うのは、1on1で「あなたは何がやりたいの?」と聞かれることだったと面談をしててもよくお聞きします。今までそんなこと考えたことがない人から見たら確かにそうですよね。

要するに決められることには慣れているんだけど、決めることには慣れていないから、それでけっこう疲れてしまう。そういうことを言う人は「Willハラ」とか呼びますけれども。Willばっか聞いてくる、みたいな。

今日みたいな社会では、いろんなWillが増えることは僕は基本的には良いとだと思っているんです。ただその調整局面の中で、そういうOSチェンジに不具合を起こしている人がいることも確かなんです。でも社会の流れは変わらないので、たぶんそっちにいくべきだとは思うんですけれども。そんなことを現場感覚としては思っています。

「ビールを医者に止められている」も、決定の責任を他者に委ねたい心理の現れ

瀧口:なるほど。決める必要がないことが、逆に心地良いという人たちも一定層いるということですよね。

大室:例えば、最近はあまり行かないかもしれなんですけど、飲み屋とかで「じゃ、ビールで良いですか?」と聞くと、「いや、医者に止められているんで」という人がよくいるじゃないですか。「痛風が」とか言って。

あれ、医者が決めていないですよね。医者はアドバイザーだから、「ビールをやめたほうが良いですよ」と言って、やめるのは自分ですからね。これはいわゆる西洋的な個人主義と言われるものです。個人が責任の主体の時代というのは、医者はあくまで自分のアドバイザーですから。

やめるのは自分なんですよ。だけど、「医者に止められているから」と言うことによって、自分で決めたということを免罪したいと。あと就活も「なんとなくあそこに決まったんで」と。「妻との馴れ初めは腐れ縁ですね」みたいに、今の50代くらいの人に聞くと、自分がこう決めたと説明する人がすごく少ないんですよ。

家入:なるほど。

大室:責任の主体を曖昧にしておくことが、実は心地良さでもあったんですよね。

家入:あの、あれだ。ジャニーズの……。

大室:例えばアメリカとかは、「なんであなたはこの絵が好きなのか?」とか、小学校の時から説明したりプレゼンをする授業がたくさんあるわけですよ。でも、我々はそんなことやっていないじゃないですか。そこで急に「妻とはなんで結婚したんですか?」と聞かれると、みんなが困って「腐れ縁」とか言っちゃうんですよね。

瀧口:家入さんがすごく言いたそうな感じの……。

大室:なんか分かります?

家入:僕はもういいです。

大室:なんで?(笑)。

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