2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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小宮山利恵子氏(以下、小宮山):みなさん、よろしくお願いいたします。これから30分ほどのお時間をいただきまして、パネルを開始したいと思います。今日は3つの質問を用意しております。
まず1つ目は、「旅と学びの関係性は?」ということです。今の出口さんからのお話にもありましたけれども、今日は「人・本・旅」ということなので、本を紹介しながらやっていきたいと思っています。まず1冊目なんですが、出口さんの『「教える」ということ』ですね。
出口治明氏(以下、出口):ありがとうございます。
小宮山:こちらにも、「新しいアウトプットを生み出すには『人・本・旅』によるインプットが不可欠」と書かれております。そのあと、「旅は現場と言い換えてもいいかもしれない」と書かれているんですね。
先ほど「アンコンフォートゾーンが旅にあたるんじゃないか」というお話がありましたけれども、改めて「旅」と「学び」について、お話をいただけませんでしょうか? まず出口さんからお願いいたします。
出口:もうすべてお話しさせていただいたので、付け加えることはほとんどありません。人間って、なかなか変われないんですよ。とくにコンフォートゾーンにいればね。わかりやすくいえば、日本にいれば毎日、新聞やテレビでいろんな社会常識が入ってくるわけです。僕たちは毎日、社会常識のシャワーを浴びている。そうすると、なかなか原点から考えにくくなります。
出口:でも、まったく違う世界に行くと、やっぱり常識が覆されますよね。今回のコロナ騒ぎでも「日本人は清潔好きだからコロナの影響が少ない」とか、ボケたことをいっている人がいるんですが(笑)。違いますよね?
これはほとんどの学者が述べているように、東アジアのモンスーン地域は雨がたくさん降って、水が山ほどあって、水をゲットするコストが安い。だから、みんなが手を洗ったり、お風呂に入る習慣ができただけなんです。他国の人は、別に不潔でいたいわけじゃないんですよね? 水がないから仕方がない。そういう問題ですよね。
日本にいたら、いつも雨が降るから気がつかない。でも、砂漠を旅すれば一発でわかります。そこがやはり現場に身を置く、刺激を受ける、気づきを与える、そこで大きい影響を受けるんじゃないでしょうか。
小宮山:今のお話もそうなんですけれど、現場をすごく重要視するというか……。おいしいパン屋さんができたら、実際に行ってみる。行ってみて、自分で食べてみて、感じてみる。
卑近な例ですけど、そういうものがすごく重要なのかもしれないなと思いました。それで、もっと距離を伸ばしたりだとか、アンコンフォートゾーンに行ってみる。今うかがっていて、そういうところが重要なのかなと、思いました。ありがとうございます。
出口:距離の2乗に比例しますからね。
小宮山:ありがとうございます。次に、前野先生におうかがいしたいと思います。旅と学び。前野先生もだいぶ旅に行かれていると思うんですけれども、このへんはいかがでしょう?
前野隆司氏(以下、前野):出口さんのお話を聞きながら、旅と学びについて考えていました。僕にとって最も学びになった旅は、これは旅とは言わないかもしれないけど、1990年から1992年までカリフォルニア大学のバークレー校に留学していたことですね。非定住時代との連想で考えると、やはり短い旅より長い旅のほうが人生への影響を受けると思います。留学は2年間。僕の場合も、距離の大きい旅だったと思うんですよ。
それまでは「欧米人は個人主義だが、アジア人は集団主義だ」とか、「彼らは自己肯定感が高いが、我々は低い」とか、全部知識で知っているつもりだったんですよね。でも、まさに旅に行ってみると、知識と体験では実感するものがぜんぜん違うわけですよ。
僕はエンジニアリングを勉強しに行ったんですけど、無性に日本人のルーツが気になって、バークレーの図書館に行って日本人のルーツの本を、一生懸命調べたものです。欧米に行ったからこそ「日本人との差って何なんだろう?」ということが気になったんです。まさに出口さんのおっしゃったように、横に広がった結果、本によって縦に広がりたくなったんですよね。
前野:日本に帰ってきてからは仏教に興味を持ったり、それこそ「農耕革命前の19万年間、我々はどう生きていたのか」という、さっきの出口さんのお話のようなことに興味を持つようになった。まさに長い旅に行って戻ってきてからです。アメリカへ行く前の僕はアメリカが大好きで、「アメリカに行って、サクセスだぜ!」と思って行ったんですよ。
アメリカに2年いる間に「日本は自己肯定感が低くて、集団主義で、出る杭は打たれて、ダメだ」と思っていのが、変わりました。そうじゃない良さが見えてきたんですよね。そういう意味で、今すごく興味があるのは農耕革命前です。出口さんがおっしゃっていた定住前は、無理に人口を増やしすぎるという時代じゃないじゃないですか。
自然と共生して、自然と共に生きていた。実はそういう思想が、仏教の「足るを知る」とか、「無我」という欲深くならないという思想の中に残っていたりしています。あるいは、環太平洋のネイティブアメリカンの思想とかですね。フィジーの思想にも残っていたりするんです。
縦に深いものを横に……。その後も、もちろんフィジーにも行ったりネイティブアメリカン(の居住地域)とか、ヨーロッパとか、いろんなところへ旅することから、さらに問いが深まっていきました。今、僕が話していることは、出口さんがおっしゃっていたことの一例です。移動距離を広げるといろんな学びがあるということを、身をもって感じていますね。
小宮山:前野先生、ありがとうございます。一時期『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』という本がすごく売れました。今もベストセラーの中に入っていますね。途上国ですとか、知らなかった世界の情報のアップデートというのが、自分の中でできていなかったり、自分で体験していなかったりするんですね。
前野:ぜんぜんできてない。
小宮山:なので、(情報の更新が)止まっちゃっています。あの本を見て、みんな「え!? 途上国じゃないじゃん!」「すでに発展しているじゃないか!」と思ったんですよね。私も去年、ルワンダという国へ行きました。一時期混乱があった国で、(大虐殺は)たった25年前なんですね。ですが、今は「アフリカのシンガポール」になろうとしているということなんです。
発展途上国もやっぱり発展しているんだということを『FACTFULNESS』からも、みなさん身をもって感じたんじゃないかと思います。前野先生は、実際に体験して横に広がったということですが、(チャットの)コメントにも「やっぱり体験学習って、すごく印象に残りますよね」というのが来ていますね。
前野:そうですね。逆に言うと、体験しない学習なんて嘘ですよ(笑)。嘘はいいすぎですね(笑)。まずはベースとして、知識も大事です。でも、知識と体験は比べようがないくらい違いますよね。だから体験すべきなんです。
小宮山:そうですよね。ありがとうございます。それでは鮫島先生、観光学がご専門ですけれども、「学び」と「旅」の関係性についてはいかがでしょうか?
鮫島卓氏(以下、鮫島):僕は観光学が専門なので、毎日旅のことを考えています。その立場から、今回の取り組みでは、出口先生、それから小宮山先生、そして前野先生というまったく分野の違う方々と、こうやって一緒に旅について考えられる機会をいただいて、本当にワクワクして挑んでいます。
僕は、旅の歴史的な観点から、学びとの関係について話をしたいと思います。そもそも先ほど出口先生がおっしゃったように、人類が定住する以前の旅はまさに「生きるための旅」だったわけですよね。先ほどの話を聞いていて「そうだな」と思ったのは、移動することが生きるためであったと同時に、社会を変えるきっかけになっていたということです。
移動することの裏側には「逃げる」ことがあった。「逃げる」ことは、定住社会において非常にネガティブに取られるんですけれども、人類学者が言っているように「遊動社会」にあっては「逃げる」というのは「挑戦する」という積極的なものだったということです。そういった価値観は、現代でも学ぶべき点だと思います。
定住社会が始まってから、旅がどういうふうに変わっていくかなんですけれども、最初に始まったのが、実は信仰の旅なんですね。お参りの旅です。このお参りの旅は、平安末期に「熊野詣」が始まり、室町時代には「お伊勢参り」があったりと、実は日本も古くから旅をしているんです。このときの旅は、お寺や神社を参拝するのが目的だったとしても、実は旅のプロセスそのものに価値があったんです。
どういうことかと言うと、当時の旅行の環境は、決していいものではありません。基本的に徒歩ですし、宿泊場所もありませんし、道路も整備されていません。まさに、いわゆるアンコンフォートゾーンなわけですね。ですから、旅をすること自体が修行や苦行であり、人間を成長させるものだったということなんです。そこに、大きな意味があったと思います。定住社会においての旅が、お参りの旅から始まったことは、日本に限らず、世界の歴史を見ても普遍性を持っています。
鮫島:その後、参勤交代のおかげで、江戸時代以降に街道や宿場町が整備され、一般の人々も旅がしやすくなった。こういった流れの中で考えていきますと、実は「旅」には2つの要素があるかなと思っているんです。
1つは、プロセス自体に意味があるということです。つまり目的達成までの過程にこそ価値があるんじゃないかという考え方です。もう1つは地域の人々、沿道の人々との触れ合いや、客扱いしない人々との触れ合いがあったわけです。
民俗学者の柳田國男さんが言っているんですけれども、「旅」の語源は、「給ふ(たまふ)」という言葉(と同じ「くださる」という意味)の「給ぶ(たぶ)」の命令形で、信仰の旅の中で使われた「給べ(たべ)」から来ているんじゃないかということなんです。
つまり、旅人が沿道住民に食料や一夜の宿泊場所の提供を懇願する。こういった「ください」という意味から、旅という言葉が生まれているんじゃないかと言っているんです。いずれにしても、旅は交流を含んだ意味を持っているということですね。
鮫島:もう1つ。実は「観光」という言葉の由来に「学ぶ」の要素があると考えています。日本で最初に「観光」という言葉が使われたのは、江戸時代の末期なんですね。江戸幕府に当時交易のあったオランダから寄贈された軍艦、蒸気船の軍艦につけられた「観光丸」という名前。これが最初と言われています。
元はと言えば、中国の(儒教の基本書籍である)五経の1つである『易経』の中の「国の光を観る」という一節から取ったそうなんですけれども、この意味するところは、つまり「国の宝」ですね。優れたところを観る、または観せるということなんです。
当時は江戸末期ですから、欧米の列強の脅威に非常に直面していた時代だと思います。その中で国の威信を示す、といった意図が見て取れるわけですね。
「観光」とは、私たちがふだん使っている「楽しみ」や「娯楽」という意味とはまったく異なる使われ方で始まっていると言えます。
このように見ていくと、旅は時代とともに、地層のようにいろいろなレイヤーが積み重なっていて、今があると思います。そして、出口先生がおっしゃったような、遊動という人々が移動することが根底にあると思いますね。
小宮山:ありがとうございます。視聴者の方からも「なるほど」というコメントがあります。私自身も知らないことばかりで、大変勉強させていただきました。「明治維新を起こした吉田松陰たち、志士も旅をしている」というコメントもありまして、移動の重要性、大切さというのがここからもわかると思います。鮫島先生、ありがとうございます。
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