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Think Lab 井上一鷹氏 インタビュー(全2記事)

在宅勤務の必須スキルは「タイムマネジメント」 リモートワーク時代の働き方の最適解

新型コロナウイルスによってさまざまな変化が起きている中で、在宅勤務やテレワークが広まり、働き方も大きく変わろうとしています。一人で過ごす時間が増え、オフィスワークと在宅勤務の一長一短が見えてきた今、私たちの働き方と働く場所はどうなっていくのでしょうか。ソロワーキングと集中に関する研究開発を行ってきたThink Lab取締役の井上一鷹氏にお話をお伺いしました。前編では、テレワークの課題とタイムマネジメントの重要性について語ります。(写真提供:Think Lab)

働く場所が最適化されるのは2~3年後

——新型コロナウイルスによって大きな変化が起きていますが、これからの働き方は、どれぐらいのスパンで、どう変わっていくのでしょうか?

井上一鷹氏(以下、井上):僕のnoteにも書いたんですけれども、例えば2年後にウイルス自体がすごくセンシティブに残っている確率は低いと思うんです。

普通に考えて、恐怖が喉元を過ぎたら毎日出勤するのは面倒くさいし、無駄だとわかったことを続けられるほど人は鈍感でいられないだろうなと思っていて。そうすると、働く場所は変わっていくと思いますね。

1つのわかりやすいマイルストーンとしては、今みなさんが所属している企業の賃貸者契約の満了のタイミングがあると思うんですよ。普通に考えるとオフィスは3~5年で借りているので、平均で1.5~2.5年くらいの契約期間が残っています。

だから、2~3年後には契約が満了したオフィスが出てきて、おそらく働く場所を最適化できるようになる。そのタイミングで大きく変わるんだろうなと思います。

ただ、GAFAやTwitterやドワンゴのように、すでに原則として在宅勤務を容認すると宣言している会社も多くあります。そうした中で、この6月の時点でけっこう大きく変わる部分としては、リアル会議室は絶対になくなると思っています。

テレカンはすでに常態化しているし、家を出てどこかで仕事をする行為自体がすべて、枕詞に「わざわざ」という言葉がつくようになるので。わざわざやる価値があるもの以外は外に出ないという前提が基本になるかなと思っています。

“オフィスの難民キャンプ”が必要になる

井上:全部テレカンにしようと思ったときに、JINSでも起きているのが、たまたま20人ぐらいが本社に集まらなきゃいけない日があったとすると、20人しかいないのに、8つある社内の会議室は全部埋まっているんです。

1部屋に1人ずつ入って、全員が別々のテレカンをしているんですよね。そうすると、リアルに複数人で会議する場所はいらないんだけど、テレカンをするブースがなくて困ってしまう。

——確かに。会社に行ってしまうと、そうなりますよね。

井上:そうなんです。もう、むちゃくちゃ困ると思うんです。でも、将来オフィス移転や改装をするタイミングを視野に入れていたら、今は大きな工事なんかしたくないはずなんですよ。投資したって1~2年後にどうなるかわからないから。

大きな投資はせずに、みんながちゃんとストレスなく働けるようにするためには、「テレカン難民キャンプ」みたいなものを各社で持たざるを得なくなるなと思っています。そうしないと、オフィスが回らなくなってしまう。

比喩としてどうかわからないけど、仮設住宅のようなものが必要なんだと思うんですよ。すごくお金をかけてもよければ、JR東日本さんのテレキューブ(電話などのコミュニケーション向け防音ブース)みたいなもの。

そこまで1個ずつ作り込まないにしても、そういったブースをバーッと並べてテレカンできるようにするのが正しいんですけど、そこまでの投資はしないと思うんですよね。だから、その仮設住宅でどう過ごすかが、たぶんこの瞬間のイシューになると思っています。

在宅勤務によって崩された「バランス」の問題

井上:じゃあ、働き方という観点ではどう変わるか。僕は、ワークライフバランス系の人とワークアズライフ系の人は、けっこう態度変容があるなと思っています。

僕は本当にワークアズライフで、別に他に趣味がないので、オンとオフという感覚すらないんです。土日なのか月金なのかは、同僚が連絡を返してくれるかどうか以外は差がなくて。「過集中」という問題があるので、これはこれでやばいなと思っているんですけれど。

ただ、基本的に9割くらいの方は、一般的なワークライフバランスで生きていると思うんです。そうすると、僕は「ワーク」「セルフ」「リレーションシップ」という3つをどうバランスするかで困るのが今の時代だと思っています。

これは図表をお見せしながら話しますね。まず、縦軸は物理空間、横軸は社会空間と切っています。オフィスと家とその真ん中に自分のプライベートがあって、リアルパブリックとして家族がいて、バーチャルパブリックにSNSがあったりします。

在宅勤務によって起きていることは、「ワーク」のいろんな社会的役割が全部下に来る。さらに保育園が閉まったりして、家族と育児が平日の昼にがっつり入ってきてしまう。その左と真ん中の境界も曖昧になって、1つの物理空間に6つの役割をねじ込まなきゃいけなくなっている。

それを「つらいな」と思う人がこれだけ増えてくると、より明確に「ワーク」と「ライフ」を分けたくなる。だから、ワークライフバランスという言葉がわりと強くなるだろうなと思っています。

――なるほど。全部が一緒くたになってしまったからこそ……。

井上:個人としての自分と、会社のロールを持っている自分と、家族といるときの自分。セルフとワークとリレーションシップを明確に分けて、時間配分ができないと、たぶんワークライフバランス型の人は心を病むんです。

能動的なタイムマネジメントができないとつらくなる

井上:だから、これからの働き方において一番のテーマになるのは、タイムマネジメントだと思っています。みんなが「1週間の中で、どれくらいの割合で自分の時間を持たないと精神崩壊するのか」を学んでいかない限り、ヘルシーに仕事ができなくなっていくのが今の問題だと思うんですね。

さっきのワークアズライフの話にも近いんですけれども、9時から17時で8時間という時間に対してサラリーをもらっている、いわゆるタイムワーカー的な働き方をしている人は、今みんな本当に苦しんでいます。自分が何をもって貢献しているかの定義ができないので、「自己貢献感」を何も持たずに1日を過ごすというメンタルヘルスのやばさがあると思います。

僕はタイムワーカーが悪いとはぜんぜん思っていないので、良し悪しの話ではなく、その人たちが働く人の7割以上を占めるんだとしたら、気持ちよくオンとオフを切り分けられるように、セルフマネジメントができるようにしてあげないとつらいんです。

全員が「能動的に仕事ができるように変われ」というのは無理だと思うんですけど、時間管理は能動的にしないといけないよ、ということなんですね。このタイムマネジメントの基本って、ある程度は会社や研修というかたちでやっていかないとしんどいなと思います。

――確かに社会人経験が浅い人もいますし、もともとできる人ばかりではないですよね。

マイクロマネジメントをする中間管理職は不要?

井上:あと、これはちょっと手探りでしゃべりますけれど、もう1つの問題は「中間管理職は今後何をするのか?」という話なんです。

今までずっとJINS MEMEで人の集中を計ってきたなかで問題視していたのは、Beforeコロナの日本のオフィスでは、11分に1回は話しかけられていることでした。「ちょっといいですか」をやりまくっていたんです。それは何かというと、中間管理職がマイクロマネジメントを基本にやるんですよね。

でも、物理的に遠くなると、マイクロマネジメントはしにくくなるはずなんですよ。そうなると、少しずつすり合わせたり、方向修正をすることに価値を見いだしていた人は逆にやることがなくなるはずで。

もうちょっと大きな視点で、セルフマネジメントのコーチができるようなコーチングの体制を作ったり、リーダーシップを発揮するようにシフトしていく必要が出てくるのかなと思っています。

集中力のカギは、お互いの「独りの時間」を尊重すること

——セルフマネジメントには、井上さんが研究されてきた「集中力」というものも関わってくる気がします。コーチがいない環境にいる人は、どうすればうまく集中力をコントロールできるようになるでしょうか?

井上:すごくシンプルに言うと、集中には、集中状態に早く入れるという瞬発力と、それをちゃんと維持できるという持続力の話があるんですね。

だいたいの人は、集中できる状態に入れないということで、瞬発力で困るんですよ。こちらに関してはけっこうシンプルで、社会的役割から離すことなんです。一番簡単にできることは、SNSを見ないとか、Wi-Fiを切るとか、家族に「話しかけないでね」と言うこと。

つまり、「独りの時間」を周りと一緒に大事にすることが必要なんです。自分だけが重視していても、周りがそう思っていないとどんどん侵害してくるので、「お互いに独りの時間をリスペクトする」という考え方が大事です。

あとは、今お見せしている、この6つの項目を「ながらでやらないこと」が大事です。集中というのは「シングルタスク化すること」なので、マルチタスクをしていると絶対に集中できないんですよ。だから、複数の役割を同時にやらないように徹底するのがいい。そのほうが1つ1つに対する満足感が高くなります。

自己認識力と「間を取る」ことの大切さ

井上:僕は昔、「独りでやる仕事だけが大事だ」という論調で語っていた気がするんですが、今はそれって間違っているなと思っているんです。会議も家族との時間も、全部1つずつ深くやっていくことが集中なんですよね。だから、まずは分けることが大事です。

難しい言葉を使うとよくわからないから、最近は「ゆとり」と「ゆらぎ」という言葉を使っています。もうちょっと日本語っぽく言うと、「間を取る」ことが大事なんです。これは石川善樹さんが言っていたことのそのままなんですけど、「空間」と「時間」と「仲間」との間を取るという話ですね。

1つ1つの体験の価値を上げていくことで、集中できるようにすることがゆらぎです。やっぱり、人工物に囲まれた部屋で、変化のない視覚情報の中で何かを考えても、ぜんぜん気持ちって高まらない。ある程度は五感に対する刺激がないと、アイデアも出ないんですよね。

ちょっと深遠な話になってしまうけれど、セルフマネジメントの前段階には、セルフ・アウェアネス(自己認識力)があります。「自分はどうなったら集中できるんだろう」とか「自分はどういう状況だと家族とうまくいくんだろう」という気づきがあれば、人はそこに向かっていけると思うんです。

だから、この3つ(「セルフ」「ワーク」「リレーションシップ」)において、自分がどういう環境だとより気持ちよく過ごせるかを書き出すといいですね。しかも、それが空間として分かれているといいんですよ。僕みたいに自由に生きている人間は、ベッドルームと書斎を分けているけど、家族がいたら普通はできないじゃないですか。

どうすればいいかと言うと、例えば今この電球は白系の光にしているんですけれども、暖色系に変えることもできます。「暖色系のときは話しかけていいよ」とか、「白系のときは仕事してるからそっとしておいて」とか、ソフトウェアで環境を切り替えられる。そういうルールを作ることもすごく大事かなと思っています。

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