2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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横石崇氏(以下、横石):ここらでトークセッション始めていきたいと思います。まずは篠田さん。伊藤さんのお話を聞きながらうなずいている箇所もございましたが。
篠田真貴子氏(以下、篠田):そう、「常に考えている」とか「自分の軸」というのを羊一さんが本で言語化していただいて、そうだなと思いながら読んでいました。
さっきおっしゃっていたことで、私がどうかという話を1個加えると、「なにをしたいか」よりも「なにが嫌」「ちょっとつまらなくなってきた」とか、そっちのほうににわりと感度がある気がしています。
例えば、仕事が変わるとか、所属は一緒でも、その中でまた違うプロジェクトに移ったときを思い起こしてみたんです。「それをやりたい」というのもなくはないんですけれども、回数としてはそれよりも「今がいまいち」「なぜいまいちなのか」のほうが言語化するので、それを周りの方とお話ししたりしますね。
今日のみなさんの事前アンケートを拝見して思ったのは、すごく努力家で一生懸命な方ほど、周りの期待に合わせることに自分を最適化していて、自分の中の「嫌だ」をちょっと抑えるということですね。
たぶん中学生・高校生ぐらいの頃に部活とかで、それを社会性だと教わってしまって、そのまま大人になられているんじゃないでしょうか。みなさんはお休みの日にわざわざこういうイベントにいらっしゃるぐらい本当に真面目で良識のある方々なので、「周りの期待に応える」はもうできてるんだと思うんです。
どちらかというと、もっとわがままに。「好き」でもいいし、人によっては私と似ていて「嫌だ」というほうをきちんと感じ取る方もいると思います。その自分をちょっと起点にするといいのかなと思って、うかがっておりました。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):すごく大事ですよね。「嫌だ」というのは、僕はなかなかできなかったんですよ。みんなにいい顔をしたいなと思っていて。この半年ぐらいでようやくできるようになって。
篠田:すごい! 人は変われる!
伊藤:もう幸せですよ。例えば、僕は今、飲み会には一切出ていないんですよ。ゼロ。
横石:もともと出たくなかったんですね。
伊藤:まあ、ちょっとね(笑)。そのことに気がついちゃって、一切ゼロにするとたくさん時間が生まれるわけですよ。「これはなぜ打ち合わせするんだっけ」みたいなのも、今までなんとなく話を聞いてからにしようと思っていたんですけれども、会うのを止めたんですよ。
そうするとね、すごく精神的にいい感じです。だから嫌なことを「嫌だ」と言うのはすごく大事ですよね。
篠田:私、FacebookやTwitterでもちょこっと書いたんですけれども、あるアメリカのブロガーの方が書いた、「『Hell yeah!(マジやりたい!)』じゃなかったら全部断るように自分はしていますよ」という短い記事があって、それに影響を受けています。
私も、いい顔をするというよりかは、ちょっとおもしろがりなので「おもしろそう」と思うと「はい! 行く!」「やる!」と言いがちでした。
でも、「やる!」のハードルをもうちょっと厳しめにしました。「絶対やる!」「お願いします、やらせてください!」じゃなかったら、いったんお断りしてみるようにしてみようかなと思っていて。
さっきの「嫌だ」も、ちょっとでも「いいんだけど、うーん」と思った瞬間に「これはお断り」としてみて、余白を作ることで自分の軸を感じやすくしたいなと今思っている最中なんです。
篠田:そういえば、濱松さんに聞きたいんですよね。
横石:濱松さんはパナソニックを辞めて、ONE JAPANもこれだけうまくいっていたのに、世界一周に行ったわけですよね。
濱松誠氏(以下、濱松):日本のメンバーとはオンラインでやり取りはしている感じです。
横石:濱松さんはパナソニックにいて、さらに中心にいたプロジェクトを離れてまで、世界一周に行ったわけですが、それは見る人が見ればわがままだと捉えられてもおかしくないですよね。
濱松:世界一周は、パナソニックでOne Panasonicというプロジェクトを立ち上げたり、伊藤さんとも対談させていただいたり、メディアでもいくつか取り上げていただいていて。
パナソニックなどの企業の改革をしなければいけないというか、したいと。それは絶対に必要だと思ってはいたんですが、それは私に未だに残っているし、日本としても社会としても、個人としても大事だと思っているんです。
でも一方で、プライベートと仕事ではっきり分けるつもりはないんですけれども、自分の心に本当に素直に生きると。それも大事だけど、私は妻と出会って、その妻が11年前に乳がんになって死にかけたときに、5つのやりたかったことがあって。
命がもう少し長かったらやりたかったことが、親孝行、仕事で結果を残す、結婚、出産、あと世界一周だったんですよね。
それを聞いて僕は、いわゆるそんな数年後に数パーセントの命しかないことがなかったので、そこまで考えたことはなかったなと思って。妻といることで、私の死生観が変わったんですね。
実は結婚する前からずっと「夢だった世界一周をやってみよう」と言われていて。「結婚する前になにを言ってるんやろ」と思っていたんですけど、たぶん、その時は私もずっとパナソニックや日本のことを考えていたと思うんです。
それで、やってみたら絶対におもろいなと思って。しかも大切な人と、やりたいことをやろうと。仮に1年後に自分が死ぬとしたら、素直に生きようと。「これをしなければならない」じゃなくて、「これをしたいな」というのは思いましたね。
伊藤:いいね。だから結局、自分自身のことを考えてみても、結局は自分で自分を動かすので、自分を回すエンジンは絶対に作らなきゃいけないわけですよね。
伊藤:だけど、それは自分だけで完結するのかというと、こうやってみなさんと出会い、篠田さんと話し、濱松さんのそういう話を聞きくところから受ける刺激は大きい。なので、そういうところから自分をまわしているものを変えていくというか。
より自分の本能に近づくように変えていくうえで、本当は自分だけだったら「パナソニックとはいえ、しがらみがあるしな」とかあると思うんです。
ひょっとしたら「『お前、One Panasonicを逃げるのかよ』とか言われるとちょっとな」とか思う濱松さんも一方ではいたかもしれないんだけど……いや、どうだろう。でも奥様からの話を受けて、「いやいや」と考えられるんだから、やっぱり人との出会い、人からの刺激はすごく大事なのかなと改めて思いますね。
横石:今3人のお話で共通して「おもしろがる」「おもしろいな」という言葉が出てきました。「おもしろい」というキーワードが共通で出てきたんですけれども、なぜおもしろがれるのでしょうか。
伊藤:そうですね。これは、あるんですよ。さっきの「すげー!」「やべー!」とかに近いんですけれども、結局、僕はおもしろがることができなかったんですよ。おもしろがるようなところを「おもしろい」となれたのは、40歳を超えてからなんですよ。
横石:えらく遅咲きですね。
伊藤:44歳。2012年ぐらいからなんです。
篠田:2012年と言えるのがすごいですよ。
伊藤:そう。そこで明確に習慣を変えたんですよ。それはなにかというと、いろんなものを見る度に「うお、これすげー!」と声を出して言うようにしたんですね。「すげー!」「やべー!」というのは、さっき少し話したと思います。
伊藤:これはいろんなところで話しているんですけれども、要するにその音声が耳や脳に入ったときに誰が主語かがわからずにインストールされるんですよ。だから「これ、すげー!」という情報は自分で言ってるから、自作自演なんですよ。
篠田:今、「すげー!」と言われた瞬間の顔の向き方とか、本当にすごい思っているもんね。
伊藤:思ったでしょ? すごいんですよ。自分が「すげー!」となると同時に、聞いた人は「やっぱりすごいよね!」ってなる。
だから、このスパイラルになっていくと「すごい情報が1たまった!」とインストールされる。これを続けていくと頭の中がすごいことだらけになっていくから、「他にすごいことはないのか」みたいなことで盛り上がっていくんですよ。
みんな半信半疑みたいな顔しているけど、これは本当にだまされたと思ってやってみてください。「すげー!」「やべー!」と言っていると、だんだんテンションが上がってきます。
そうすると、今日なんかも「濱松さんインドかあ」「ガンジス川うらやましいな」と思うし、「俺は普通に大森の自宅で寝起きして、なんなんだろうな」と思うんだけど、「待てよ、俺は今日すごく楽しいぞ」と言う。
今日はなにをやったかというと、ここに来るまでりんかい線に乗ろうと思って。大森に住んでいて大森から大井町まで普通は電車なんですけど、今日は歩いてみようと。
普通は27分ぐらいかかるんですけれども、今日はとにかくなるはやで、assoonaspossibleでどれぐらい速く行けるか試してみたら、なんと20分をきったんですよ。「俺、すげー!」と思うわけですよ。
こうやってテンションを上げていると、それがずっと続くわけじゃないし無理矢理やっているんだけど、そういうふうにやっていくとおもしろがる感性を身につけられるかなと。僕は人格的にそういう人間ではぜんぜんなくて、どちらかというとネクラみたいなんですよ。だから本番が終わるとグエーと。
横石:楽屋でぐったりしていますよね(笑)。
伊藤:してる。
(会場笑)
篠田:羊一さんはすごく内向的なほうなんですよね。
伊藤:こう見えて内向的なんですよ。だけど、表に出ると「お前芸人かよ」みたいな。
篠田:そうです。すごくびっくりした。こんなテンション高い羊一さん、あんまり見たことないわ。
伊藤:そう。ステージでご一緒しないとそうならない。なにが大事かというと、これもそういう習慣だと思っていて。習慣がそういう好奇心や感性につながっていくんですね。
横石:習慣ですか。篠田さんはジョブレスの身とはいえ、習慣・ルーティンにされていることはありますか?
篠田:別に仕事をしていても、していなくても、そこはあまり変わらない気がします。本を読んでいても、他のことでも。
例えば、今日はこの会場に来る前、お向かいの渋谷スクランブルスクエアに初めて足を踏み入れたんですけど、そういう新しいものに触れて、「これはどうやってこの店舗を選んだのかな」と考えて、自分なりに仮説が浮かんだときに「なるほどね」と。
まず、それがうれしい。当てずっぽうでもそれを人に話してみて「おもしろいね」と言われると、なおうれしい。
この間、ある機会があって「なんでそういう人間になったんだろう?」と振り返ったんですよ。たぶん、なにかそうやってちょっと新しい視点を発見できる自分、あるいは人に提供できる自分じゃないと、自分は価値がないのではないかという、ちょっと変な強迫観念が中にあるんです。
伊藤:いつ頃からできたんですか?
篠田:たぶん、高校生ぐらいから。
伊藤:それは留学とかしていたから?
篠田:それもあるけど、自分に大人としてのアイデンティティが形成される時期に、例えば学校の中とかでも、どういうポジショニングで社会と折り合っていくか、探っていくじゃないですか。
子どもの頃からクラスの中、部活の中、大人との関係の中でいろいろ試したんだと思うんですけど、たぶんそれが自分としてはうまくはまった気がしたんでしょうね。
伊藤:その頃からそれがフィットしている感じがあります?
篠田:あると言えばある。そんなに苦ではないので、ずっと今まで続けていて。それに気がついたときにも「なるほどね」という感じだったんですけど。
一方で好奇心ドリブンなために、できないくせについ「おもしろそうだからやる」と言っちゃうのは、新しい視点を獲得し提供しなくちゃという強迫観念に原因があるから。だからもうちょっと押さえようという反省にもなったんですけれど。
伊藤:ある意味副作用というかね。
篠田:そう、そういうのもありました。私が横で見ていても思ったこととか、さっきのもみんなすごく「あれ、行ったほうがいいですよ」と勧めていたけど、無理しなくていいです。お好みだから。
伊藤:そう。やり方は人それぞれだと思ってください。
篠田:それに1つのことを静かに淡々と長時間、何年にも渡って探求するという興味の持ち方だってすごく尊いです。もっと言うと、大した興味は別にないんだけれども、周りの人と穏やかに折り合っていく暮らし方や働き方もすごく尊いと思います。
「軸」とか「生き方」と言われると、なんか本にできそうな、すごく高尚なことを目指さないとだめなんじゃないかと思われがちな気がするんですけれども、私はまったくそんなことはないと思うので。
伊藤:ちなみに来月にまた新作を出すんですよ。
篠田:すごいね。
伊藤:その題名が、こんなことを言っておいてなんなんですけど、『やりたいことなんてなくていい』という。
(一同笑)
横石:羊一さーん!(笑)。
伊藤:いや、違うんです。だから、篠田さんが今言ったとおりですよ。結局やりたいことなんて、そんな生まれた時からいきなりあるわけがないじゃないですか。
別に僕もやりたいことなんて、ほとんどよくわからないうちに生きているわけですよ。ぜんぜんダメだからこうやって自分を鼓舞しているんだけれども、基本「俺はなにをやりたいんだ?」ということは、別にあんまりないんですよね。
ただ、さっき言っていた自分に合った習慣を回すうちに、薄らぼんやり「なんかこんな感じかな」と見えてくるぐらいで。そこは本当に人それぞれで、「軸がすごく明確にないとダメなんじゃないか」ということではないんですよ。
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