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「入社したときから転職のことを考えよう」 尾原和啓さん×北野唯我さん(全6記事)

転職で意識すべきは「アービトラージ」 一流のビジネスパーソンが知っている、付加価値の高め方

2019年3月7日、紀伊國屋書店新宿本店9階にて、「『入社したときから転職のことを考えよう』 尾原和啓さん×北野唯我さんセミナー」が開催されました。尾原氏は『ITビジネスの原理』や『どこでも誰とでも働ける』など、多数の著書を執筆。北野氏の著書は『転職の思考法』で12万部、『天才を殺す凡人』で9万部を記録(いずれも2019年4月時点)。これまでにない「転職」と「働き方」の書籍を上梓し、大きな話題を呼んだ著者二人が、就活やキャリアの新常識を解説します。本パートでは、転職を巡る個人と企業の変化について語りました。

現役ビジネスマンが書いた『転職の思考法』のヒットの理由

北野唯我氏(以下、北野):これは、おそらく永久に言い続けるのですが……。ダイヤモンドさんで、売れたあとプロモーション担当の方がついたときのことです。今でも覚えていますが、担当のプロモーション部長さんのような偉い方が来たときに、いちばん最初に「北野さん」と。初めて会った女性の方に、「北野さん、失礼ですがこれ、ご自分で書かれたのですか?」などと言われまして。

尾原和啓氏(以下、尾原):ははは!

北野:いや、本当に失礼で。「書いたわ!」と。でも、それはおそらく、転職の本は普通売れないのに、どうしてこんなに売れていて、しかも読んでみるとかなりよくできているようだからビックリ、というような感じではないでしょうか。ダイヤモンド的には「いや、まさかこんな30歳の若造が、こんなに本を売るわけがないだろう」と思われていたんだと思いまして、密かに傷つきました。

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

(会場笑)

横田大樹氏(以下、横田):大変失礼いたしました。

北野:いやいや(笑)、ウソです、ウソです。

横田:ただ、補足をすると、もちろん中身が本当にすばらしかったのですが、もう少し深掘りをすると、ストーリーやエモーションの部分がすごく良かったんですよね。

尾原:あぁ〜、そうですよ。本当にそうですよね。

横田:そういったところを書けるビジネス書的なライターさんは、本当に今までいなかったと思っています。

尾原:しかも、現役のビジネスマンですからね。

横田:そうですね。えぇ。

自分の付加価値を高めるギャップを狙う

北野:まさに時代の差を突くというか、専門用語で言えば、いわゆる「アービトラージ」のようなものだと思うのですが。

尾原さんもそうですが、一流のビジネスパーソンなど、ビジネスで活躍をされている方と話すと、やっぱりそういうことがお上手ですよね。例えば「アメリカではこういった事例があって、こうです」というようなことや、IT業界で言えば当たり前なのだけど、出版産業ではぜんぜん当たり前じゃないものを取り入れると、すごく付加価値が高い。

転職というのも、ひとつはそこに価値がある。すなわち、よくある普通の産業でいうと普通の技術かもしれないけれど、新しい産業ではめちゃくちゃありがたいと言う。経済学的に言うと、いわゆる比較優位のようなものだと思うんですが、それが転職の価値なのではないのだろうかという気がしています。

キャリアを作る上でも、そのギャップのようなものを狙うことがすごく大事だと思っているんですよ。だから、尾原さんのキャリアも、やっぱり20年前であればおそらく「マッキンゼーって、何それ?」というようなイメージ。

尾原:はっきり言って、うちの親父には「街金軍団」だと間違われました。

北野:なんですか、それ? 街金?

尾原:街金。「街の金融屋か?」って。『ナニワ金融道』のようなもんですよ。

北野:ですよね。そんな感じでキャリアを作っていくというのは、本づくりも一緒だと思っているのですが。そうしたギャップのようなものはないんですか?

尾原:そうですね。だから逆に言うと、去年北野さんが『転職の思考法』を出したときに「救われた」という読者の方々がいらっしゃるぐらいだから、そういった意味では、新卒の方からすれば、「新卒が最初から転職を考えているのか」という言葉を出すことの危険性。だから、たぶん2年後ぐらいに『新卒の思考法』という本を出せばめっちゃ売れると思いますね。

北野:売れますか!

(会場笑)

北野:では、ダイヤモンドさんで(笑)。

売れる本を作るための着眼点

尾原:……などと言ってしまうぐらいのズレが、今でも残っているということが大事だと思うんですよね。今だから言えますが、実際に僕も『モチベーション革命』という本も、ものすごくアービトラージで書いていました。最初、もともとは組織論の話で書こうと思っていたのですが。

モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書 (NewsPicks Book)

北野:へぇ〜。

尾原:ところが名編集者の箕輪さんが、やっぱり今の若い方が、自分たちのモチベーションが理解されなくて困っているという話をされていた。僕からすれば「そんなの『ミレニアル世代』といって、アメリカではめちゃくちゃ研究されていることじゃないですか」と思っているんだけれども。

「あれ? こんなにレーダーが立っている箕輪さんがそう言うということは、もしかして」と思って探してみると、日本でミレニアルの本は1冊しかなかったんですよ。それを読んだら「勝てる」と思いました。

(会場笑)

そこで急きょ、『モチベーション革命』という名前に変えて、ミレニアル世代にぶっ刺す本に変えたという。

北野:もしかして『どこでも誰とでも働ける』もそうなんですか? そういった……。

どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから"の仕事と転職のルール

尾原:『どこでも誰とでも働ける』は、僕的には実は……。これ、いいのかな? こんな暴露大会、楽しい?

北野:こんな感じでいいんじゃないでしょうか。今日は。

尾原:あとでちゃんと新卒の方にもギブできるヒントをご提言いたしますので、あくまでも最初の前フリとすると、もともと僕は『1職目の教科書』という……。

北野:ほぉ! なんか聞いたことがありますね(笑)。めっちゃ聞いたことがある。

尾原:転職が当たり前の時代になるから、「『1職目の教科書』というタイトルで書きませんか、横田さん」と言ったら、「尾原さんがそんな普通の本を書いちゃダメです」と諭されました。「そんなことよりも、尾原さんはどこでもいろんな人と働いている。そちらのほうが尾原さんでなければ書けないことだから、書いたほうがいいですよ」と言われました。

世界各地を転々としながら働く「リゾートワーカー」

尾原:僕は、「リゾートワーカー」と呼ばれる職業なんですね。リゾートワーカーという言葉を聞いたことがある人はいますか? いませんよね。

北野:なんですか? リゾートワーカーとは。

尾原:どこでも働けるようになったときに、今までは、きっちりがっちり答えを出すことが仕事だったのだけど、それはAIがやるから、まだ問題がわからないことの問題を定義することであったり、新しい解き方を定義することのほうが、仕事の価値になるんですよね。こういったことには、クリエイティビティが必要じゃないですか。

北野:なるほど。そうですよね。

尾原:クリエイティビティとは何かというと、普段は触れないものにいっぱい触れている人のほうが、クリエイティビティがあるわけですよ。そうすると、普段は触れていないものにいちばん触れ続ける人は、リゾート地を転々としている人なんですよね。

北野:ほぉ。リゾート地。へぇ〜。

尾原:だから、僕は今、シンガポールとバリの2拠点で生活をしているのですが、バリにいるときに、そこのコワーキングスペースに行くと、「先月まではシリコンバレーで働いていて、これから3ヶ月バリにいて、次はインドのゴアに行こうと思うんだ」、「バリ島からリモートでパロアルトの中学校で教師として授業をやっています」というような。そうした人がゴロゴロいるんですよ。

こうした人たちは、先程のアービトラージでいうと、ちょっと遠いでしょ? ポカーンでしょ?

北野:そうですね、わかんないですね。

尾原:そういうポカーンという本を出せというのよ、この人が。

(会場笑)

いや、僕としては「1職目の教科書」のほうがいいと思っていたんだけれども、そのあとに『転職の思考法』がバーンと売れて、「やっぱりなぁ……」と。

(会場笑)

何らかの分野で名前が出る最初の一人になる

北野:ひとつ言ってもいいですか? 尾原さんのお話はめっちゃおもしろいんですが、まったく役に立たないですよね。どうしたらいいんですか?

尾原:そうでしょう?

(会場笑)

北野:何かアドバイスはありませんか? 今のお話で、僕らは「じゃあ、明日からインドネシアに行こう!」とはならないじゃないですか。どうしたらいいですか? なんかありませんか? 国内ではできないんですか?

尾原:もしあるすれば、少なくとも僕は「リゾートワーカー」ということに関して、日本で何かあるときに呼ばれる存在になっている。そういう感じで、何かのタグの1人目になるというのが、いちばん得なんですよね。

北野:なるほどね。深掘りしてもいいですか? その「リゾートワーカー」というのは、今はそうですよね。『転職の思考法』の中でも「タグを持っている人が強い」というようなことはかなり言っていましたが、10年前もそうしたタグのようなことについては、あったんですか?

尾原:いや、10年前のリゾートワーカーは、限られた職種だけなんですよ。結局、作家、映画監督……。

北野:あぁ、なるほどね。

尾原:そうした、本当のクリエイティビティだけでお仕事をする方に限られていました。それがこの10年でインターネットがつながることで、実はホワイトカラーの仕事なんてほとんどリモートでできてしまうんですよね。だから僕は、こういうのを「ペーパーレス運動」と呼んでいます。ペーパーレス運動というのがあったことを知らない人はどのぐらいいますか? さすがにみんなが知っている?

(会場挙手)

逆に、ペーパーレス運動があった、あるということを知っている人は?

(会場挙手)

はい、かなりいますね。今はまったく聞かないじゃないですか。どうしてでしょうか? ペーパーレスにするためには、みんな「紙を節約しよう」「コピーは何枚まで」なんて言っていましたよね。すげぇ努力してぜんぜん達成しなかったものが、ある年ぐらいから突然言われなくなった。

「ペーパーレス運動」が突然終わったわけ

尾原:それは何かというと、プロジェクターが安くなって、各お部屋にプロジェクターが常備されることが当たり前になり、しかも部長職の方々もノートパソコンを使わざるを得ないとなったとたん、紙に印刷しなくなったんですね。

これと一緒で、要はインフラの設備的には、実は次の働き方や次の暮らし方がもうできるのに、発注者のリテラシーが追いついていないという真空状態が何年かあるんですよ。実は、リゾートワーカーは今そうしたタイミングにあります。

みなさんが今やっている仕事は、本当にオフィスでやらなければいけないんでしたっけ? でも、実際はほとんどがミーティングとメールの処理、電話の処理ですから、それであれば別に、家でもできますよね。けれども、なんとなく上司がそれをやると、「こいつは不真面目なやつだ」という感じがあるから、なんとなく言い出せない。

だから大事なことは、アービトラージには2種類あるんですよね。やっぱりインフラが整ってきて、徐々に徐々にライフスタイルが変わっていくのと、もうテクノロジーのほうが変わっちゃって、実はいつでも別のライフスタイルに移れるのに、前のタブーが残っているから、ある日何かの「ドーン」がないと変わらないという。

北野:なるほどね。

尾原:そういった意味では、本当に『転職の思考法』という本は、その「ドーン」となるレディネス(何かを学習する際の前提となる知識や経験など)がたまっているところに、北野さんがぶっ刺した。しかも難しい本ではなくて、ああいう読みやすいストーリー調でぶっ刺したので、「あぁ、これは私のための本だ」とみんなが思ってくれたんじゃないかと思います。

北野:そうですよね。本質的な部分、変わらない思考法のような部分と、あとは世の中のトレンドは両方持っていないと売れないというのは、本を見ていてすごく思うのですが、どうでしょうか?

横田:おっしゃる通りだと思いますよ。

売れる本は、普遍性とトレンドの両方を押さえている

尾原:何か、あの、あんこのような。中身はどっしりしているけれど、表はソーシャルというか、今の世の中の流れにぶつけた本じゃないと売れないというのはすごく思います。最近、トヨタの社内プレゼンのようなものがネット上でオープンになったものを見ましたか?

北野:あっ、それは拝見していません。

尾原:トヨタの豊田章男会長が、社内の従業員に対して語っているんですよ。僕は別に見ていなかったのですが、ある日Twitterでエゴサーチをしていたら、「『転職の思考法』に書いていた最強の会社というのは、トヨタだった」というようなことを誰かがつぶやいていた。それで動画を見ると、章男さんがまったく同じことを言っているんですよ。

北野:ああ、あれですね。拝見しました。

尾原:「トヨタは、トヨタの看板がなくても働けるように市場価値を高めてください」と。「それでもトヨタを選んでくれるような会社を作りたいと思っています」と言っていました。「あれっ? 章男さんは『転職の思考法』を読んだんじゃないか?」というような(笑)。

北野:ははは(笑)。

尾原:「あれっ? これ、まったく同じことを言ってるじゃん」という部分がありまして。

横田:対談を申し込みますか?

転職が当たり前になり、先進的な企業が変化しつつある時代

北野:ぜひ。いやいや……(笑)。おそらくそれは、時代の変わり目というか。いつも僕が思っているのは、個人が変わって、システムが変わっていくということは、螺旋階段のようにちょっとずつ上がっていくものだと。

去年は、転職というものが、裏切り者がするものではなくて、別に普通のことなんだよということをベタッと送ってあげるという、個人のキャリアに寄り添う時代で、今年はそれが会社側に変わっていこうとしていて、トヨタというリーディングカンパニーのイノベーターがそれに気付き始めている。

それも同時多発的に言っていて、そもそもこれはオフレコの話なのですが、ある総合商社や、あとは日本のすごく大きなメーカーでも同じことを言っている。あとはこの前、サイボウズの副社長の山田さんという、USAの社長と対談したのですが、そのときもまったく同じようなことを言っておられた。

だから、透明化されて、人々がそれでもその会社を選ぶような経営をしていかないと、人はついてきてくれないというようなことを、かなりみんな同時に言っているんですよね。今、複数のIT企業で役員をしているのですが、ITベンチャーの社長としゃべると、彼らも同じことを言うんですよ。

彼らも、これからはベーシックインカムやAIなどによって、必ずしもすべての人が働かなくてもいい時代になるだろうと言っている。その中で、どうすれば優秀な人に働いてもらえるんだろうというようなことを、かなりみんなが言っているんですよ。

ITという先進的な会社だけではなくて、いわゆる東海岸といわれるトラディショナルな会社の経営者も言っているので、今、時代の変わり目にいるんだということはすごく思いますね。

自分の名前で働くか、起業するか

尾原:そういうことを「時代精神」という言い方をして、たまたまその時代精神に対してレーダーが高かった北野さんが最初に言語化したことで……。

最初に神様がしずくを1本ポローンと垂らすと、沖ノ島から中心に日本列島ができあがったというのが日本神話のはじまりと言われますが。日本という国はそれと同じで、もう時代は固まっていて、北野さんがポーンとやると、「それだー!」という感じで、みんなにブワーッと広がっていくような、そうしたタイミングではあるんですよね。

だから難しいのは、転職に関しては少なくとも、もうそれが起きた。同じように、新卒の方々に対するタブーも、パーンとやってしまえば全部がピリピリピリッと割れるのか、それともやっぱり「しょせん新卒だろ?」というような……「しょせん」という言葉がいちばん大嫌いなのですが。そうなるのか、というのは、あなた方の見極めが大事です。

転職の時代だろうが、新卒の方々だろうが、結局僕らは雇用契約としては対等ですが、僕たちが名指しで「尾原さんと仕事したいです」「北野さんと仕事したいです」と言われるようになる前は、やっぱりどうしても替えのきく商品ですから、僕ら。

だから、そうすると、「あなたに買ってもらいたいです」と言われるようになるためには、買ってくれる方々が何をイヤと思って、何を欲しているのかということをちゃんと考えながらやらなければ、しょうがないですよね。それがイヤなのであれば、起業しろという話ですから。起業大歓迎でございますので。はい。

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