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ライフシフト・ジャパン設立1周年記念フォーラム/パネルディスカッション2(全2記事)

なぜ“会社任せの働き方”から抜け出せないのか? サイボウズ「複業解禁」に見る4つのステージ

2018年12月4日、ライフシフト・ジャパン株式会社の設立1周年記念&『実践!50歳からのライフシフト術』の出版記念イベントが開催されました。一人でも多くの人が「人生100年時代」をワクワクしながら生きていける社会づくりを目指すライフシフト・ジャパン。日本に合ったライフシフト社会を創造するためのさまざまな提案や、有識者らによるパネルディスカッションが行われました。本パートでは、パネルディスカッションPart2として、日本と海外の仕事の価値観の違いや、複業解禁後の意識の変化などについて語りました。

日本と海外の仕事観の違いは「有意義な公私混同」

大野誠一氏(以下、大野):ちょっと外国人のお話が出たので、今までわりと日本人の話ばっかりしてたんですけれども、有沢さんは今グローバルの人事ということで、どうでしょう、3分の1ぐらいは海外ですか?

有沢正人氏(以下、有沢):うちは日本人が1,850名で、海外が600名ぐらいですね。

大野:最近は海外に行かれることも非常に多いとうかがっているんですけれども、グローバル人事の立場で、いろいろな国の人事を一緒に見ている中でいうと、最近の海外と日本での違いなど、なにか感じる部分があれば、ちょっと教えていただきたいんですけれど。

有沢:この中でもグローバルの人事をやられてる方は多いと思うので、そういった方々や諸先輩方に言うのも恐縮なんですけれども、明らかに違うのは、このライフシフトアセットの中の「有意義に公私混同している」ということだと思っているんですよ。

「エンリッチ」というんですけれども、やっぱり人生をいかにそう(有意義に公私混同)させるかということに対して、彼ら・彼女らは、本当にある意味、無尽蔵なまでのモチベーションを持ってるんですね。

だから、「ワークライフバランス」という言葉を海外で一生懸命説明しても、彼ら・彼女らは理解できないんです。だってそんなものは、いちいち言われなくても、俺ら勝手に言ってるし、私ら勝手にやってるよ、ということなので。

ミドルであろうがジュニアであろうが、そこのところは基本的に同じで、有意義に公私混同しているということに対して貪欲であるところが、やっぱり10のアセットの中で一番かなと思うんですよね。

行動できないのは「無自覚のバイアス」に囚われているせい

有沢:あとは、グローバルで見たときに大きく違うのは、やっぱりさっき申し上げたように、「ダイバーシティ」といったことも、実は言葉としてはあんまりないんですよね。

これは当たり前のように広まっているので、ある意味、人に違いがあるのは当たり前だということだし、逆に誰かと同じことをやってるということが、むしろ、恥とは言いませんけれども、逆に「なんで?」と言われることが多いんですよね。「なんでこんなことをあなたに言われなきゃいけないの?」ということが多いので、そこのところが決定的に違うかなと。

さっきも申し上げましたけれども、「みんなと同じじゃなくても平気」というのは、逆にみんなと同じことが平気じゃないということですよね。

もう1つだけ言わせてもらいたいのは、「アンコンシャス・バイアス」という言葉はみなさんもお聞きになられると思うんですよね。無自覚のバイアスというものがあると思うんですけれども。これはよくダイバーシティ&インクルージョンの世界、ダイバーシティの世界でよく使われる言葉で、まさにいわゆるミドルのところで使うべき言葉の1つだと思っています。

さっきと話が若干違うかもしれないですけれど、ミドルの人は基本的にこちらからなにか手を差し伸べないと(行動することが)できないものだ、と思い込んでいる人たちがすごく多いと思うんですけど、僕はそんなことはないと思ってて。

実は僕は、けっこう性善説なんですよ。仕組みとかサポートシステムを最小限作ってあげたら、あとはみんな、自分たちでなんとかしてくれるんじゃないかという、ものすごく楽観的な考えを持ってるんですね。

とくにうちの会社の人たちは、そういった考え方の中で自由にやっていいというふうに思っているので。ダイバーシティの中でよく言われている、アンコンシャスバイアスという言葉を、僕はミドルの人たちにも基本的には適用できるものだと思っています。この10のアセットに限らないかもしれませんけれど、その無意識のバイアスみたいなものを外して、フラットな目で見てもらいたいというのは僕の考えですね。

「複業解禁」がもたらした、サイボウズの社員たちの変化

大野:はい、ありがとうございます。中根さんにお聞きしたいんですけど、先ほどのサイボウズのお話で、100人いれば100通りの人事制度というのは、実際にはなかなか難しいと。繰り返しやっていく中で自分の幸せの姿が見えてくるというのは、言い方を変えると「自分の人生の主人公になる」ということと同義になるんじゃないかなぁ、と僕は感じています。

今日の一番のキーワードは「人生の主人公になる」というふうに思っているんですけれど、なかなかそうなれない人と、すぐにそうなれる人がいる。逆に今の有沢さんの話で言えば、海外の人はもう当たり前にできてるよねと。

むしろそっちが当たり前で、できていない日本人のほうがちょっと違和感がある人たちなのかもしれないんですけれど、現実的には自分の幸せの姿をパッとすぐに出せるかというと、なかなか難しいという。

中根弓佳氏(以下、中根):難しいですね。

大野:それを見つけていくプロセスでうまくいったことや、なにかのきっかけでそういうものに踏み込めるようになったとか、そういうことがサイボウズさんの中で日々起きてるんだと思うんですけど、どうでしょう?

中根:そうですね。サイボウズの場合、平均年齢が34歳と非常に若いので、「大きくライフシフトしなきゃ」という焦りを感じている人が、同じようなステージにいるかというと、少ないと思うんですけれど。

サイボウズで数年前に、「複業を解禁します」ということをやったんですね。その時にすごく反響があって、みんなの心の中にいろいろな感情が渦巻いたのを感じたんですよ。

例えば、複業をやるということは、サイボウズにフルでコミットしないんだと(いうこと)。今までは育児などは、フルコミットしなくてもなんとなく許せたのに、サイボウズじゃないところにコミットするなんて、なんだかちょっと裏切り者みたいな感じなんじゃないか、というものが第1ステージとしてあったんですよね。

第2ステージとして何があったかというと、複業している人が、複業した成果や「僕はこんな気づきがあったんだ、こんな人とネットワークを築けたんだ」というものを持ち帰ってきたら、「あれ? 複業ってけっこう悪くないかもしれない」と(周りの人も)思う。これが第2ステージです。

選択肢を増やした上で、選択できるようにサポートする

中根:そして、第3ステージで何が起こるかというと、「複業しなきゃいけない」。これは、まだ人と比べてるんですよね。「複業をしないと」「僕はサイボウズの中だけに収まってちゃいけないんだ、どうしたらいいんですか?」ということになって、3年目研修の時などで「複業したいです」「どんなことをやりたいの?」「わかんないですけど、とにかく複業したいです!」と。

(会場笑)

これが第3ステージ。今ようやく第4ステージに立ってきて、いろいろな自分の人生の幸せを、複業というもので実現したければやればいいし、「僕は今サイボウズにけっこうフルコミットしたいぜ」というならそうすればいい。それを選択するのも僕たちなんだと、ようやく気づき始めたステージに来ました。

どうしたら選択できるようになるかというと、急にはできないので、まずは選択肢を増やした上で、それを見守ることだったり、どんな選択肢があって、それに対してどういう結果があり得るのかという情報を極力提供したり、共有すること。

そうすることで、自分たちの気づきが増えてきて、「僕に置き換えたらどうなんだろう」「私に置き換えたら、どういう選択をするのが私にとって気持ちいいんだろう」ということを考える機会になって、トレーニングになるのかなと思います。

企業ではなく個人が軸となって、納得のいく人生を選択していく

中根:ちょうど年末になってきて、来期の給与を決定する時期なんですよ。我々は「市場価値で決めますよ」と言っています。市場価値なんて取引価格なので、「ここにあるこのペンを、あなたはいくらで買いますか?」「あなたにとって、このペンはどれぐらいの価値ですか?」「私はこのペンを売りたいです。これはすごく思い入れがあるペンなので、できれば私はこれを3,000円で売りたいです」という。

取引は人もモノも同じで、いくらで自分を売りたいのか、つまりいくらほしいのか、会社としてはいくら払うのかということを、取引価格で決めていきますというのが我々(の給与の決め方)なんですね。

ただ、転職価値でお給料を決めていけばいいのかというと、そうじゃないということをみんなが徐々に考え始め、気づき始めています。なぜかというと、自分の幸せのポートフォリオの大きいところはお金だけじゃないから。

サイボウズという場所で働けて、どういうことを自分が実現できるのか。どういう仲間と働くと自分は幸せなのか、その中でお金はどれぐらいなのか、家族とどういう時間を過ごせれば自分にとって幸せなのかということ。この幸せのポートフォリオを全部考えた上で、「僕はいくらほしいです」と提案してくださいということを始めたんですよね。

書かなきゃいけないから、とりあえずなにか書きます。それが1つの考えるきっかけになります。こうやって少しずつ少しずつ、急にいろいろなことを選択しなさいというのではなくて、機会をたくさん増やして、自分で考えていくということができたらいいなぁと思っています。

大野:ありがとうございます。今までは企業が軸で、企業が言うことを受けているだけでよかったんだけど、今のサイボウズの場合で言えば、もう本当に個人が軸で、自分の幸せのポートフォリオを作り上げていく、逆にそれで初めてサイボウズと取引というか……。

中根:そうそう、そんな感じです。自分の条件を出せるという。

「自分・他人・世の中のため」が重なると人生が輝く

大野:そういうことですよね。今みたいに企業軸・個人軸でいうと、個人軸というものを本当に考えられる人は、そんなにたくさんいるとはなかなか思えないですけれど、藤井さんは、転職市場などをずーっと見ている中で言うと、だんだんそっちに寄ってきているんでしょうかね?

藤井薫氏(以下、藤井):そうですね。そもそも「個人」や「自分」という言葉をよく考えると、『アントレ』の時代に玄侑宗久さんのような、お坊さんや、仏教をすごく勉強した方々にお話をうかがってくると、自分ということ自体がとっても深いと教わるんですよね。

その話をしながら質問に答えられるかと思うんですけど、先ほども「旅に出る」から始まったあのストーリーがありましたが、禅の世界だと「真の自己」を求めるため旅に出て、悪戦苦闘し、悟りにいたる過程を十枚の図と詩で表した禅の十牛図というものがあります。

煩悩にまみれた主人公というんでしょうか。そういう個人が牛を捕まえようとして、一生懸命学んで、縄でその牛を獲って、解脱というか、煩悩を取っていく。その牛は後半の絵の中でなくなっていって、最後に「その牛ってどこにあったんだっけ。あっ、自分の心の中にあったんだね」と気づいてゆく。最後に、自分が本当に求めていた自分は、もうすでに心の中にあったと気づいてゆく人生訓です。

『アントレ』で独立された方から、よく「他自公」という言葉もうかがうんですけれど。自分のため、他人のため、公のため。昔で言う「世のため、人のため」に「自分のため」も入りながら、その3つが重なっていくと、やっぱり輝いていくというような、「アントレの法則」みたいなものを教わってきたんですね。

そのカギはやっぱり、狭い自分ではなくて相手に映った自分だったり、公から映されている自分の使命や存在目的だったりする。そういったところに触れていくような、深い自分に気づいていくのはすごく大事な気がしています。

転職しなくても、転職活動をすることで、新たな自分に気づける

藤井:最後にもう1個だけご紹介すると、その玄侑宗久さんが「自分という言葉は、自然の分身だ」とも教えてくれたんですね。そういう意味では、まさに自分の体と自然がつながっているという感覚を持った中で、自分の存在の価値や目的はなんだっけということを、問われながら歩んで行くのが人生なのかなと思っています。 

とくに50歳を過ぎれば過ぎるほど、「自分って、何のためにここにいるんでしたっけ?」と常に問われるようなことがどんどん進んでいくと思うと、まさに今回の「50歳からの~(『実践!50歳からのライフシフト術―葛藤・挫折・不安を乗り越えた22人』)」という話でいうと、人生の正午を過ぎた後のほうが、旅に出て気づくことがとても多いのかなと思います。

その中で、きっと転職というのも、まさに自分と世のため人のためということをリフレクティングで鏡写しにして自分の使命に気づいていくという営みです。転職活動自体が旅の糸部かなと思っています。ぜひ転職しなくても、活動をすることによって、新たな自分を映し出す鏡に触れていける世の中になるといいなぁと思っています。

大野:最後に、豊田さん。今回この法則をまとめていった中で、とくに日本は今サラリーマンの人が圧倒的に多いわけで、さっき有沢さんがおっしゃったように、ちょっとミドルを越えたぐらいのサラリーマンは、なかなか受け入れるのが難しいんじゃないかとおっしゃっていました。どんなきっかけで、こういう変化のスタートを切れるのかという点で、感じたことや思ったことがあれば教えてください。

豊田義博氏(以下、豊田):はい。これは今回の(本を作る際に)インタビューした人たちでも感じましたけれど、そうじゃないいろいろな仕事での聞き込みをしている中で、やはり転職などのステージでも、うまくいく人、いかない人という話をするときに、よくキャリアコンサルタントの方は、やっぱり1つの会社だと非常に狭い世界だと。

さっき言ったみたいに、「ユニークネス」という言葉も強調していただきましたが、そういう単一の世界観しか持ってない人はやっぱりうまくいかないと。

30年同じ会社に勤め続けていた人にも、ライフシフトはできる

豊田:では、ずっと同じ会社に30年いた人はダメなのかと、極端に言えばそういう話になってしまうんですけれども、でもそういう人が、なにかのきっかけで心がざわついて、一歩外の世界に出る。昨今の越境学習と言われるようなものは、みんなそうですよね。

一歩外に出てぜんぜん違う人と交わって、意外と「あれ?」というようないろいろな気づきをする中で、自分自身を相対的に見られる経験は、実はいろいろな人がしている気がします。

一応、ワークス研究所では私は若年の研究者なので、若年に関して一言触れておくと、今の人たちは越境学習的なことが当たり前になってるわけですよね。常にいろいろな人たちが広くつながっているので、先ほどの前半のパネルでもみなさんが強調されていたように、彼らのマインドセットはもう非常にオープンなものになっている。

だけど、私の世代を中心としたミドル・シニアの人たちは、やっぱりそういう世界観というか、コミュニティそのものを自分でデザインしていくことに関して、あまり長けていない。でも、一歩二歩外に出ることさえすれば、いろいろなかたちで変わる機会はあるし、変わっていく人たちもたくさんいました。

本の中に出ている22名の人たちは、50歳までほぼずっと1つの会社の正社員だった方ばかりなんですよね。でも、そういう人たちも、やっぱりこういうこと(ライフシフト)ができるというのは、間違いない事実としてあると思っています。

その時に、まさに心がざわついた上で旅に出られるかどうか、その一点にかかってるんじゃないかなぁというふうに思います。

大野:はい、ありがとうございました。では、以上でパート2のパネルディスカッションを終わりたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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