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トークイベント(全6記事)

20代なんてみんな未熟者だった 日本の魅力を伝える、英国人クリエイティブディレクターの紆余曲折

未来を考える学生のためのキャリア形成コミュニティ「MY FUTURE CAMPUS」が主催するイベント、MFC×業務外業務 特別イベント「みんな、当然20代なんて未熟者だった!!」が開催されました。株式会社スマイルズ代表の遠山正道氏、Tonoloop Networks Inc. クリエイティブディレクターのトム・ヴィンセント氏、元BRUTUS副編集長・合同会社美術通信社代表の鈴木芳雄氏が登壇し、20代を振り返りながら、やり残したことややっておけばよかったことなどを語ります。本パートでは、それぞれの人生の転機について振り返りました。

20代半ばから30代にモチベーションが下がる時期が来る

司会者:今、自己紹介をしていただきましたけど、お三方のインタビューがMY FUTURE CAMPUSに掲載されているんですが、読んでくれた方いますかね?

(会場挙手)

パラパラ(笑)。そうですか。じゃあ、そこの話はあんまりまだ知らないということですね。

今日はちょっと1つだけ企画を入れて、その下で今日は進めてさせていただきます、ということをお三方にご了解いただきました。今日は大きな趣旨として20代のことをお話ししていただくということで変わりはないのですが、事前にモチベーショングラフというものをみなさんに描いていただきました。

ぎりぎりだったので手書きでバッと書いてもらったのであれなんですが、ピンクは遠山さん、水色はトムさん、青は鈴木さんです。

なんとなく見方はわかりますよね、真ん中がストレスがないときで、上と下がストレスがあったときです。今日はこのモチベーショングラフを使いながらみなさんの20代を語っていただきます。なにか気になることがあれば、どんどんみなさんからも質問してもらう感じでやれればと思います。

ご自身で描いたものはもちろんみなさん見てると思うんですけど、ご自身以外の方のグラフを見てなにかパッと?

トム・ヴィンセント氏(以下、トム):今ね、思ったんだけど、みんな20代後半は下なんだよね。けっこう25歳ぐらいからそうだし、確かに30歳でガーンと下がるし、鈴木さんも26ぐらいでガーンと下がる。みんなそうなんですよ。ごめんね。これからね、大変なんですよ。

(会場笑)

司会者:確かに。

鈴木芳雄氏(以下、鈴木):詳しく解説していくんですか?

司会者:お1人ずつうかがっていきたいなと思っています。

司会者:じゃあ遠山さんからいきましょうか。

一代で莫大な富を築いた大成功者の孫

遠山正道氏(以下、遠山):こうやって見ると、なんか異例すぎるね、私(笑)。実は私がこのお二方を紹介したんです。なんか隣からちらっとお話しされたのが漏れ伝わったんだけど、若い人っておとなしくまとまっちゃうことが多いような気がするんですね。

おとなしくまとまるとおもしろくない人生になるなっていう感じがすごくあるので、おとなしくまとまっていない2人に声をかけました。それから、組織とかにもたれていない人たちかな。

じゃあ私はどういうのかというと、ちょっとお二人と違うかもしれなくて。すごくわかりやすくいうと裕福な感じで生まれて(笑)。

鈴木:解説しましょうか、じゃあ僕から。遠山さんはね……いいの? 全部言っていい?

遠山:まぁまぁ。

鈴木:お祖父様が日興證券の創立者なんですよ。もう日本のそういう偉人伝に出てくるような人なわけ。今の日興コーディアル証券というね。もう1代で莫大な富を築いた大成功者。

遠山:かつて、かつて(笑)。

鈴木:今、埼玉県に遠山記念館というすごく立派な美術館というか記念館があって、そこは重要文化財を複数持っているようなところなわけですよ。証券で一代で財を成すというような小説や映画がありますけど、そういう時代の人です。

遠山:そうですね。でも、私が小学校の時に爺さんも親父も死んじゃうんですね。小学校から慶応で、ずっと港区に住んでいてみたいな感じです。生まれてからずっとイイ感じできているわけです。

三菱商事ってすごく有名な会社なんですけど、大学1年生、2年生だとあんまりよくわからないですよね。三菱商事ってなんとなく知ってる? 私が入った時にね、願書書くのに俺の隣にいたやつは「三麦商事」とか書いてましたから、あんまり学生のときってよくわかってないんだよね。

鈴木:でも、人気ナンバー……ベスト5とかですよね。

遠山:そうですね。人気の商社に入って。だから、ずっと名刺じゃんけんも強いし、学生時代もバブルや高度成長期で楽しい。学生時代はもう本当に楽しい。高校の時に「あっ、俺って世の中で一番楽しいんじゃないかな」って思ってた記憶があるんですけど、そういう感じでずっとやってきた。

鈴木:嫌なやつじゃなかった? 大丈夫?

遠山:うーん、まぁ……。

(会場笑)

人生絶好調のなかでふいに訪れた、焦りと転機

遠山:周りもみんなそうなんですよね。それで、あそこにちょこんとあるのが就職です。三菱商事に入って、そこから落ちてますよね。これはなにかというと、なんだかうっすら気づき出したんですよ。要するに、このまま定年を迎えたら自分は満足しないだろうなということに、このへんでなんとなく気づいてきちゃったんですね。

あるいは、私の上司ですごく優秀な部長がいて、私が一番下で、その間に15人ぐらい中間管理職がいて。「この人たちって部長がいなくなったらどうなっちゃうんだろうな」って思った時に「あっ、それ他人事じゃなくて、オレもそうじゃん?」「この部長がいなかったら、オレってなにができるんだっけな」みたいな焦りがだんだんわかってくるわけですね。

三菱商事なんていうのは合コンではモテるけれども、それは三菱商事がいいわけであって、オレがモテてるわけじゃないわけですよね。そういうことにうっすら気づき出す。それで焦って。

そこでV字になっているのは、私の場合は、そこでなぜか絵の個展をやったんです。これを話すとちょっと長くなっちゃうんだけど、とにかく33歳までにやろうと決めて、1年間で70点の作品を描いて個展をやって。それがきっかけになって今日まで地続きにつながっているという、私にとってはすごく大きな体験でした。それがあそこです。

この図を簡単に言うと、生まれてからずっと「世界一楽しいんじゃないか」という感じで過ごしていたのに、「これは自分の能動的なことではなくて、全部借りてる世界だったんだ」ということに気づいて、そこから「じゃあ自分でなにができるのか」ってやりだした。

外目には変わらないのかもしれないけど、自分の中じゃすごく変わったんです。(グラフを指して)主体的になれたのがここ。

160人にお礼状を書くことで生まれた感謝の気持ち

司会者:それによって、人間性とかもだいぶ変わるんですか?

遠山:人間性、そうですね、うーん……。個展の時、感謝はすごくありましたね。自分の絵が真ん中にはあるけど、周りがすごく手伝ってくれて。

その個展が終わった時、手伝ってくれていた友人に「これでオレの夢が実現した」と言ったら、「そんなチンケな夢にはつきあってられない。これは夢の実現じゃなくて、ここからスタートだろ?」って言われて、「あっ、そっか」みたいな。

「じゃあなにができるんだっけ?」ともう1回考え直して、当時、関連会社にケンタッキーフライドチキンというのがあって、私は情報産業グループのメンバーだったんだけど、そこに無理やり出向するんですね。そこからスープを思いついて提案するんだけど。

その頃、160人にお礼状を書いたんです。「おかげさまで個展は終わって、作品も70点すべて売れました。ありがとう。みなさんのご恩に報いるために成功することを決めました」って書いて送って。外との関係性が初めてできた。

絶好調だと思ってたはずの時は、感謝されるような自分の行為すらなにもやってなかったから、感謝の気持ちすら薄かったというか……あのとき初めて能動的に動いて、初めて感謝が生まれたという感じです。

司会者:このグラフを描いてくださいってお願いしたんですけど、遠山さんは頑として30歳過ぎまで描いていいのかという。だから、30いくつですね、33歳。

遠山:33歳で個展やったので。

司会者:そうですね。そこのあたりの話がきっと遠山さんのストーリーを語る上で重要なターニングポイントだったんですね。

遠山:20代までだとなんのストーリーもなくて、ただ1人で楽しんでるようなおもしろくない人でしかなかったなーって。

「就職しないといけない」ということがわからなかった

司会者:では続いて、トムさん。これはあれですよ。(グラフが)だいぶ脈打ってますけど。

トム:なんか遠山さんのあとで話すの、いろいろとね。

司会者:そうか。トムさんのインタビューを読んだという人はいますかね? 就職する気なんかぜんぜんなかったという、なかなかロックな内容でしたが(笑)。

トム:そうなんですよ。「就職する気がない」というか、「就職しないといけない」ということがわからなくて。そういう意味では、僕はものすごいバカだったんですよね。

就職というか、どこかに勤めないといけないということはなんとなくわかっていて、ときどき思い出していました。このグラフのどこかの間にイギリスに帰ったり、まだ日本に100パーセント住むということが決まっていなくて。

イギリスに帰って「なんかあかんな」と思っていたとき、新聞にBBCに面接の広告出ていて就職のあれがあって、「ああ、そうかそうか、BBCっていいよね」と応募してみたんですよね。

やって1次審査に通って面接行くんだけど、まったく準備してなくて。ものすごくダサいスーツを着て行ったんだけど、世界のBBCって、もう世界のトップのメディアの会社と言ってもおかしくないぐらいの会社なんです。そこに、僕はまったく準備しないで行って、まったく質問に答えられなかったんです。

まずアンケートがあって、今この数ヶ月に起きてる世界のニュースについてのことをいろいろ書きなさいって。さっぱりわからなくて、もうその時点で冷や汗が出てきて「やばっ」と思って。

面接入ると当時のBBCのトップの、人事部だったかな、タフな女性にいろんな難しい質問を投げられて、僕は答えられなくて。彼女たちはたぶん怒っていて、さらに難しい質問を投げるわけ。どんどん向こうの顔が厳しくなってきて、僕もう「やだ〜、帰りたーい」という感じで、ダメダメだったんですよね。

そういう感じで、就職なんか、まったく興味なかったんですよ。よくわからない。なんでそうなったんだろうな。僕は一番下はものすごいどん底から入るんだけど、ぜんぜん遠山さんほどではないんだけど、僕も一応お坊ちゃま的な。

遠山:ちなみにイギリスにあるご実家に行ったことあるんですけど、まぁ、お城みたいな感じ(笑)。

たばこを吸って17歳で退学になった日の思い出

トム:うちの曾祖父ちゃんがめちゃくちゃ金持ちだったんですよ。お金はもう全部なくなってしまったんだけど、おかげで母は立派な家に住んでいるんです。

ずっとお坊ちゃまでイギリスの私立学校に行かされて、とくに中高、日本の中高一貫校みたいな、受験しなくても続けられる学校に行ったんだけど、高2の終わりぐらい、あと1年(というところ)で、退学になっちゃったんですよ。

学校から「明日から学校来ないでね」と言われて、親が来て、荷物を全部、親の車に積んで。あれはもう本当にどん底でした。実は人生いろいろあるんですけど、17歳でたばこを吸ってたんですよ。今でもばんばん吸うんだけど。

その当時から吸っていて、当然学校ではたばこを吸っちゃだめで、何度も注意されて、もう面倒くさくなっちゃって。たぶん(たばこ)臭かったんでしょう。先生に「吸ったでしょう」と言われて、もう面倒くさいから「はい」と言って。

それで僕の担任というか、責任者の先生に「お前は退学だ! 明日帰れ」と金曜日の夕方に言われて。先生が親に電話して、たまたま運よく……すごく遠いところに住んでいた親が近くにいて、「え?」という感じで迎えに来てくれて……今思い出した、ごめんね、この話長くなるね(笑)。

僕が服とか荷物を全部ごみ袋の中に入れて、何も準備する気もなく車に入れておいて。学校の正門から出た瞬間におやじが……(車の中で)僕が後ろに、おやじと母が前に座っていて、おやじが振り向いて自分のポケットからマールボロを俺に1本出して。

(会場笑)

「アホ!」と言われて、それで3人でぱかぱか吸いながら、飲みに行ったんですよ。「親、最高―!」という感じなんですけど。

(会場笑)

初めて、おやじがそんなことしたんだけどね。

遠山:すごく素敵なお父様。メディアの方ですよね?

トム:うん。当時はテレビ会社をやってたの。それで、僕はその後美大にいって……でも途中で、ちょっと違うなと思って、今度はアメリカへ留学してさ。好き勝手に生きてめちゃくちゃ楽しかったですよ。

マイナビの取材記事にも書いてあるんだけど、アメリカの大学がよくわからなくて。「単位をとらないと卒業できませんよ」ということをちゃんと読んでいなくて、好き勝手に授業を受けただけなんですよ。

英語では「社会人」という言葉はない

トム:美術大学を出てアメリカの大学に入ると、当時はインターネットがないから、本(授業要項)の中にこれだけ(たくさんの)授業があって、おもしろくて。哲学だとか宗教学、僕にとっておもしろいもの……けっこうハードな授業でした。

後でわかってくるんだけど、全部大学院生の授業でした。でも、アメリカの大学は大きいから、別にもう1人(無関係の生徒が)授業にいても、誰も「誰か来た」と言わない。だから、ずっとそれに参加して、ちゃんとレポートも書いていました。

1年生でやらないといけない基礎科目があるじゃないですか。高校生レベルの数学と理科系のもの。僕は文系の人間で。イギリスは数学、理科、地理といった理系の科目は高校から専攻するから、16歳以降さわったことがないの。だから、いきなり21、22歳くらいで高校レベルの数学をやらされて……。

俺は留学生なのにお金を払ってるから「これはバカバカしいな」と思って辞めちゃったんですね。辞めたら辞めたで、どうしようって感じだったんですね。25歳から30歳くらいまでは、人生どうしようって(笑)。

(会場笑)

鈴木:まったく就職なんて考えてないですもんね?

トム:ときどき、思い出したように面接に行くんだけど、すっごい嫌な経験するから嫌だ! 就職なんてしたくない! って。

鈴木:どうやって食べていたんですか? バイトしてたんですか? 仕送り?

トム:若干仕送りがあったんだけど、それで生活できるほどのものではなくて、バイトしてたよ。今で言う「プータロー」「フリーター」みたいな、便利な言葉はなかったからね。

鈴木:アメリカだってないわけだからね。

トム:「就職」という言葉、英語で何と言うんでしょうね。

鈴木:「リクルート」?

トム:「リクルート」は会社側から人を引っ張るほう。僕、考えたことがないんだけど、たぶん「就職」の英語はないんじゃないかな? まあ「ジョブハンティング」とか……あのかっこいい、熟語的な。

鈴木:かっこいいですか? 就職(笑)。

トム:社会人という言葉もない。日本に来て「社会人」という言葉を知って、「何それ」という感じでした。大学を出てからやっと社会人1年なんて……。

ロンドンの高校生は「自分は若い大人だ」と思っている

鈴木:日本は、最近は違うかもしれないけれど、僕たちの頃は完全に新卒一括採用で、大学を卒業すると会社に入るんですよ。一括で、1回は会社に入る。今みたいに転職とかもそんなに(自由では)なくて。イギリスだと、学校出て就職する場合と就職しない場合があるんだよね。

トム:「ギャップイヤー」も多いし、昔から大学が終わったところで、とりあえず1年間旅に出る……1年間じゃないけどね。

鈴木:ボランティアとかじゃなくて、自分で?

トム:ボランティアは最近なんだよね。僕らの世代は、そんな真面目なことをやる人はあまりいなくて。

鈴木:放浪するの?

トム:それこそ、何ヶ月はバイトしてお金を貯めといて、そのお金を使って旅に出るという感じで。

遠山:「『社会人』なんて初めて聞いた」というのは、ロンドンにいると高校生くらいから、もう十分大人という自覚があるってことですか?

トム:そうですね。たぶん高校生になると、自分が若い大人のつもりで。まず、18歳になるとお酒が飲める。運転免許は17歳と決まってるけど。(日本では)20歳だけど、実際は17、18歳くらいからお酒は飲んでるじゃないですか。

(会場笑)

遠山:決めつけないでほしいよね(笑)。

トム:18歳から飲めるとなると、(イギリスでは)完全に16歳は普通に飲んでるから。

(会場笑)

なにもうまくいかないと悩んで過ごした20代

トム:まあ、僕はね。僕の地元は田舎だったんですよ。実家の近くでサーディンというおばちゃんがバーテンをやってたんだけど、昔は朝11時から営業。飲み屋なので早い時間はやってなくて、10時くらいに歩いていると(お店の)ドアが開いてて、(サーディンが)掃除機をかけてて、「おはようトム」「おはようサーディン」「一杯飲む?」「うん!」と言って。

サーディンが掃除しているうちに僕はカウンターに座って、サーディンがぽーんとパンチ一杯分を僕に出してくれて、そこで飲みながらお話するのが、僕の16歳だった(笑)。

(会場笑)

鈴木:だめだよ! 絶対真似しちゃだめ(笑)。ちょっと待って、これ10代の話じゃん(笑)。

トム:10代の話になってしまった。20代ね。正直、就職しないといけないというより、自分は何をする人なのかというので、たぶんずっと悩んでいました。どういう会社に入りたいかとか、どういう生活スタイル……というよりも、僕は何をする人なんだろうということを、ずっと悩んでいて。

もともと美大を出ていたので、自分は芸術家のつもりでいたんですけど、大学でもシナリオライティングなどで舞台系の文章を書く人で、文章を書いたり絵を描いたり……だから僕は芸術家のつもりでいたんだけど、結局僕は、この20代に何もできてないんですよ。

やってみてもうまくいかなくて。周りの友だちが美大を卒業して、どんどんかっこいい仕事をしてるのに。それこそ個展を開いたりとか、おもしろい劇団に入ったりとか。じゃあ僕は何をする人だろうなって、ずっと悩んでたの、どっちかというと。

就職先というよりも、20代は、何もうまくいかないって悩んでいました。だから、本当に何もないんですよ、結局。

鈴木:どこかで何かを掴んで上がっていくんですか? 30歳ぐらいで。

トム:そうです。それは日本で。

司会者:じゃあ、そのあたりは後ほど伺いたいです。

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