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お金の正体/人の巻き込み方/フリーミアム戦略(全3記事)

これからの時代は“作り手”を増やせばいい 『プペル』ヒットの裏側にあるコンテンツ戦略

「学びを遊びに」のテーマのもと、さまざまな業界のトップランナーを招き、新たな学習体験を提供する「MOA大学」。特別講義で登壇したキングコング西野亮廣氏は、「お金の正体/人の巻き込み方/フリーミアム戦略」について語りました。クラウドファンディングを活用した『えんとつ町のプペル』の制作過程から、“お金の正体”を暴きます。

なぜこれまで絵本には分業制がなかったのか?

西野亮廣氏(以下、西野):それで、『えんとつ町のプペル』です。ごめんなさい長くなりました。『えんとつ町のプペル』の作り方、ちょっとめんどくせえな、しゃべるの。

(会場笑)

まあざっくり言うと、『えんとつ町のプペル』というのは初めて分業制で作ったの。これはいろんなところで話してるから聞いたことがあるかもしれない。そもそも、「なんで絵本って僕が1人で作ってるんだろう」っていう疑問を持って。

例えば、映画だったら監督さん照明さん音響さんメイクさん役者さん美術さん、いろんな方がいらっしゃって、それぞれの得意分野を持ち寄って、1つのすばらしい作品を作るじゃないですか。

監督さんがメイクをやるよりも、プロのメイクさんがメイクしたほうが、この作品がよくなるから、プロのメイクさんに委ねますよね。ていうか、世の中の仕事はほとんど分業制です。会社だって分業制だし、このライブだって分業制だし、みなさんのバイト先の店だって分業制でまわってるだろうし、家族だって分業制ですよね。

だけど知らないけど、絵本だけは1人で作ることになっている。でも、例えば絵1つをとっても、空を描く仕事と、建物を描く仕事と、キャラクターをデザインする仕事、森を描く仕事、色を塗る仕事は微妙に業務内容が違う。空を描くのが得意な人だっているし、キャラクターをデザインするのが得意な人だっているし、キャラクターは描けないけど、森を描かせたら俺が一番だぞって人もいらっしゃる。

だったら空のプロフェッショナル、キャラクターのプロフェッショナル、森のプロフェッショナル、建物のプロフェッショナル、みんなで集めてみんなの得意技を持ち寄って、超分業制で1つのすばらしい作品を作っちゃえば、とんでもないものができるんじゃねえかみたいな感じで、「じゃあ分業制で作っちゃおうぜ」みたいなことを言った。

でも、なんでこんな誰でも考えそうなアイデアが、世の中になかったんだ。超分業制で作る絵本なんて、あってもおかしくないじゃないですか。だって世の中のものすべて分業制で回っているのに、なんか知らないけど絵本だけは1人ないし2人ですよね。分業と言っても絵と文みたいな感じで。

何十人体制で作ってる絵本ってなかった。こんなの誰だって思いつくじゃん。「なんでないの?」って考えた時に、原因はすごく簡単で、絵本って5,000部とか1万部でヒットって言われる、市場が小っちゃくて売り上げが見込めないから、製作費をかけることができない、製作費を用意できない、つまりスタッフさんにお支払いする給料が出せないから、1人で作るしかない。

つまり、可能性を殺していったのはお金であると。お金の問題が非常にでかかった。1人で作っているっていう。だったらお金を自分たちで用意しちゃえばいいじゃんっていうことで、『えんとつ町のプペル』のクラウドファンディングをやろう、と。

クラウドファンディングは信頼をお金化するための装置

それでお金を全部集めて、集めたお金でスタッフさんにお給料をお支払いして、データを完全に作り上げてから、出版社にこのデータを渡そうという作り方をした。つまり、まず『えんとつ町のプペル』を作る時、一番最初に必要だったのはお金なの。お金がないと分業制っていうのは成し得なかった。

クラウドファンディングって最近よく聞きますよね。去年の暮れあたりからけっこう聞くようになった。たぶん有名なところで言ったら『この世界の片隅に』の映画の製作費の一部がクラウドファンディングで集められたり、年末SMAPさんのファンの方が、新聞の広告をクラウドファンディングで買われたりだとか。

『えんとつ町のプペル』もご多聞に漏れず、クラウドファンディングでお金を集めた。クラウドファンディングをやらせたら、たぶん僕、日本で一番うまいと思うんですけど、なぜなら一番経験しているから。

たぶんどれくらいやってるかな、5年くらい前から20回くらいやってる。このなかからクラウドファンディングをやられる方、今後けっこういらっしゃると思う。選択肢として根付いてきたから。

クラウドファンディングの戦い方を言っちゃうと……、たぶん知ってたほうがいいですよね、クラウドファンディングの戦い方ね。「どうしたら勝てるの?」と。失敗してるやつがいるじゃないですか。うまくいっているやつと、失敗してるやつの差はいったいなんなんだと。

これは、もうこれしかない。クラウドファンディングは信頼をお金化するための装置であるから、まず信頼がないとダメ。

お金っていうのは、信頼、信用を数値化したものである。つまりクラウドファンディングをやって、めちゃくちゃいい企画やってるのに、お金が集まってない人っていうのは、企画云々じゃなくて、企画者、そいつに信用がない。

信用っていうのが、すごく大事なところ。あんまり時間ないから手短かにっていうのも難しいんだけど、お金の話をたぶんしたほうがいいんだよね。お金って信用を数値化した物であるって説明をする時に、僕の友達にホームレスの小谷ってやつがいるんですけど、たぶんホームレスの小谷の話をしたら一番わかりやすいと思う。

ホームレス小谷氏は“信用持ち”

小谷ってやつはゴリゴリの完全なるホームレス。こいつがどうやって生きているかっていったら、自分の1日を50円でネットショップで売ってる何でも屋さんです。とにかくなんでもします。本当になんでもやる。それを3年前からずっとやってるんですけど。

例えばおねえさんが、「庭の草むしりをやって」って言ったら、小谷は朝から来て草むしりむっちゃするんですよ、50円で。最初シャレで50円で買っても、やっぱさすがに申し訳ないってなって、昼ごはん代くらい出すと思うんですよ。「申し訳ない、これ食べてください」みたいな。で、小谷は昼食うんですよ。おかわりとかするんですよ、ちゃんと。

(会場笑)

ちゃんとたらふく食うんですよ、デブだから。食って、また昼から夜まで一生懸命草むしるんです。30まわったおっさんを50円で朝から夜まで働かせたら、さすがに申し訳ないな、ってたぶん夜ご飯をご馳走すると思うんです。小谷は夜ご飯食うんですよ。おかわりするんですよ。

そして昼夜共にしてるから、やっぱり仲良くなっちゃって、「ちょっと飲みに行きませんか」ってたぶんおねえさんが言うと思うんです。結局、おねえさんは、小谷に昼代出して夜代出して飲み代出してるから、けっこう出してる。けっこう出してるんだど、やっぱり残ってるのはなにかって言ったら、「小谷君今日50円で働いてくれて本当にありがとうね」。入口の値段設定を1万円にしてたらそれはもうなかったんです。

昼代は出てなかったし、夜代は出てなかったし、飲みにももちろん行ってない。なぜなら「1万円払ったんだから、これくらい働いて当たり前だろ」ってそこで関係が終わっていたんだけど、小谷君は設定を50円にすることによって、超ブラック企業ですよね、自らそうすることによって、要はお金はいらないけれど信用を稼いでる。

その生活をずーっとずーっとやって来て、ホームレス始めて半年後にあいつ結婚したんです。Twitterのフォロワーの子と意気投合して結婚しちゃって、やっぱ結婚したからには結婚式を挙げたいってことになったんだけど、結婚式を挙げるのにやっぱり費用がいる。

費用がいるって言ったって小谷は1日50円ですから、月マックスで働いても1,500円ですよ。

(会場笑)

結婚式なんて挙げられないですよ。「どうしようか」ってなって、「クラウドファンディングでやっちゃおう、浅草の花やしき借しきっちゃって、ド派手にやっちゃおう」って。「クラウドファンディングでホームレスが結婚式します」と。

4,000円支援してくださった方は結婚式に参加できるみたいなリターンを1個だけ作って、浅草の花やしきでクラウドファンディングで結婚式やりますって言ったら、2週間で250万円集まった。

すごくないですか? 無名のホームレスだよ。別にテレビ出てるわけでもなんでもないホームレスが、2週間で250万円集まった。で、誰が小谷に4,000円支援したかというと、これまで小谷のことを50円で買った人たちが、「あの小谷君が結婚するんだったらそれは協力するよ」ってことで、これまで50円で買った人たちが4,000円バーって入れだした。

それですごいお金が貯まった。その小谷って、またクラウドファンディングを20回くらいしてるんだけど、全部成功してる。小谷っていうのはどういうやつかっていうと、お金持ちではないけど、信用持ちである。信用の面積がすげーでかいから、お金化する時にずいぶんお金化しやすくなる。

クラウドファンディングの戦い方のいい例です。信用の面積をまず広げてからお金化する、これはたぶんしゃべるとすごく長くなるから、ちょっとやめとく。とかく僕たちは預金通帳を持つみたいな感じで、信用通帳を持ったほうがいい。

1月2月で信用貯めて、3月で使っちゃう。4月5月6月でもう1回貯めて7月で使っちゃうみたいな、預金通帳みたいな感じでクラウドファンディングやるんだったら、その前に信用を貯めてたほうがいい。信用を貯めてないとクラウドファンディングには勝てない。

集めたお金を全部使えるわけじゃない

で、『えんとつ町のプペル』をやった。2回やったんですクラウドファンディング。1回は『えんとつ町のプペル』を作るため、製作費用を集めるクラウドファンディング。2回目は『えんとつ町のプペル』を届けるために個展開催をするんだけど、個展の入場料を無料にするため、無料開催するための費用を集めた。

『えんとつ町のプペル』のクラウドファンディング2回の合計が、延べ1万人くらいに支援していただいて、5,600万円集まったの。そういう感じでパッと世に出たんだけど、ここまでしゃべっておいて、お金の話をしといて申し訳ないんだけど、5,600万円。

テレビでもよくいわれるんですよ、「西野、クラウドファンディングで5,600万円集めておいてなにに使うんだ」「5,600万円も、そんなにかかるの?」。バカなコメンテーターはやっぱり言うんですよ。「5,600万円もかかんないでしょ、こんな本作るのに」みたいに。これはほんとバカで。

(会場笑)

いや、バカはバカって言ったほうがいい。まずクラウドファンディングの仕組みを理解していない。クラウドファンディングというのは大きく言うと2つあって。細かく言うともっとあるよ、でも大きく言うと2つあって、寄付型と購入型。寄付型というのは完全に寄付する。

あなたが3,000円支援したら、もう「もってけドロボー」で使ってくださいって、要は被災地の義援金みたいな感じ。完全に募金です。それが寄付型ね。99.9パーセントのクラウドファンディングは購入型。つまり、これぐらい支援してくださったら、これぐらいのリターンを用意しますっていう明確な見返りがある。

僕の場合だと、『えんとつ町のプペル』の支援してくださった方、つまり3,000円支援してくださった方には、絵本にサインを入れてお返しします。こういう明確なリターン。

じゃあ例えば、3,000円支援してくださって、絵本にサイン入れてお返ししますっていうリターンがあるじゃん。絵本の原価があるでしょ、2,000円だとしましょうよ、ここでまず2,000円使っちゃうんですよ。配送費かかりますよね、手数料もかかりますよね、倉庫代もかかります。

3,000円支援してくださっても、使えるお金ってせいぜい300円とか400円くらいですよ。3,000円支援してくださって3,000円使えるわけじゃない。リターンの設定しだいでは、3,000円支援してくださって、これとこれとこれとこれをお返ししますって言ったら、3,100円のリターンだとしたら、支援してもらってマイナスっていうこともある。

クラウドファンディングってそういう仕組みなの。だから「5,600万円も西野はなにに使うの?」みたいな話になってるんだけど、5,600万円まるまる使えるわけでは決してなくて、5,600万円支援してもらって、リターンに5,500万円かけていたら100万円しか使えないし、5,600万円支援してもらって、6,000万円リターンに使っていたら、マイナス400万円こっちがなにかに払わなきゃいけない。

つまり、よくクラウドファンディングの数字が出るニュースが出る。誰がクラウドファンディング何千万円集めましたみたいな金額が出るんだけど、あそこの金額にはなんの価値も無い。もしかしたら使えるお金は何千万かもしれないし、10円かもしれない。

クラウドファンディングのお金はどうでもいいんです。お金なんてどうだっていい。クラウドファンディングの魅力はそこじゃない、本分はそこじゃない。

とにかく作り手を増やす

いよいよちゃんとこの話終わらせますね、いよいよ決着です。クラウドファンディングの見なきゃいけない数字っていうのは、僕の場合だと5,600万円じゃなくて、1万人が支援した。

支援した人っていうのは、やっぱり協力してるから、最後まで見届けてくれる。一緒に『えんとつ町のプペル』を作ってる。で、僕とおにいさん2人で本を作ったら、一生懸命作ったら最低2冊売れると思うんです。僕たちがそれぞれ1冊ずつ買うから。もしかしたらもっと買うかもしれないよ、5冊ずつ買って友達に配るかもしれない。「僕たちの頑張りみてよ」みたいな感じで。

でも、最低2人で作ったら本が2冊売れると。だったら10万人で作っちゃたら、10万部売れるじゃん。つまり僕たちはこれまでお客さんを増やすことばっかり考えていたけど、そうじゃなくてこれからの時代は、作り手を増やせばいい。

作り手はそのままお客さんになるから、もっと言うと今この時代に、純粋なお客さんなんかもう全員死んでる。要はみなさんもそうだと思うけど、街中でおもしろい看板とかみたら写真を撮ってインスタにアップしてるし、おもしろいことあったらTwitterにつぶやいてるし、嫌なことあったらFacebookに書いてるし、つまりそれを生業にしてるか、してないかの話で、全員が情報発信者である。つまり全員クリエーターである。それを仕事にしてるか、してないかはさておいて、クリエーターである。

純粋なお客さんなんか、受け手一方のお客さんなんて1人もいない。クリエーターしかいない時代に突入した。だったら、ここから刺さるコンテンツっていうのは、全員クリエーター、全員オーディエンスになれるそういうコンテンツが一番重宝する。

つまり、バーベキューみたいなやつですね。自分たちが食べる肉を自分たちで焼くみたいな。あれは誰がクリエーターで、誰がお客さんかよくわからない、全員クリエーターで全員お客さんだし。『えんとつ町のプペル』を届ける時に僕たちがスタッフと一番やったのは、「とにかく作り手を増やそう」と。

それは分業制ということではなくて、とにかく作る段階からお客さんを絡めよう。それで、1万人と作った。予約の段階で1万部売れてた。これがニュースになって、テレビで紹介されて、バーっていったんだけど、ここから今のところ27万部だから、ここから僕がやらなきゃいけないのは、お客さんを増やすんじゃなくて、作り手を増やす。

これはたぶん、今からの時代、すごく大事な戦い方になってくると思う。もうそろそろ締めで、それっぽいこと言わないといけないと思って、すいませんありがとうございます。『えんとつ町のプペル』の話、最後に自分の目標だけ、ちゃんと公言して終わるね。

『えんとつ町のプペル』は映画化が決まったんです。僕がここから3年間かけて一生懸命アニメーション『えんとつ町のプペル』の映画を作っちゃう。で、映画の公開日をディズニーアニメの新作の公開日にぶつけちゃう。

(会場笑)

それで観客動員数で勝つっていう。それは30代のうちに1回ディズニーに数字で勝つっていうのに、どうかご協力ください。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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