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『ライフ シフト』発売記念「100年時代の人生戦略」(全7記事)

「週に2日ずつ、平均寿命が延びている」リンダ・グラットンが説く、超長寿社会での人生観

誰もが100年生きうる時代(100歳人生)がやってくる。そのとき、働き方や学び方、結婚、子育てなど、人生はどのように変化するのでしょうか。10月27日、東洋経済新報社が主催する「『ライフ シフト』発売記念 100年時代の人生戦略」を開催。第一部では、著者であるリンダ・グラットン氏を招き、基調講演を行いました。寿命が延びるとは“老い以外の時間”も延びるということ。本パートでは、リンダ氏が100歳人生における仕事観や働き方について語りました。

毎年2ヶ月、週に2日、平均寿命が延びている

リンダ・グラットン氏(以下、リンダ):まず、出版社のみなさまに感謝申しあげます。拙著『100-Year Life』が『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』として、世界一の長寿国、この日本において出版されたことを大変ありがたく思っています。きっとみなさまから多くのことを学べると考えています。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

経済学者であるアンドリュー・スコットと、心理学者である私が、「100歳人生」について考えたとき、「これは技術革新と同じくらい大きな影響を人々の日常生活に与える」と確信するようになりました。それで、この本を著したわけです。

まず、平均寿命から見てみましょう。

1850年以降、先進国はもとより世界の多くの国で絶えず増加しています。実際、10年で2年ほど延びているのです。毎年2ヶ月、あるいは週に2日延びているとも考えられます。

長寿を考えるとき、どうしても人生の終末に注意が向いてしまいます。ここでは、「長寿は老いの時間が長くなるのではなく、若い時間が長くなる」のだと、我々はポジティブにとらえています。

日本は今後、世界のどの国よりも長寿の国になると予想されています。世界は、日本がその特別な状況にどう対応していくのかを注目しているのです。

長寿は今まで「ありがたい贈りもの」として考えられてきました。それを本当にありがたいものとするためには、我々にとって、とくに子供たちにとって、どういう意味を持つのかを深く考えなくてはなりません。

また、日本は高齢者人口の増加と低出生率という問題を同時に抱えています。ほかの国ではまだ数年のゆとりがあるところ、日本は待ったなしで困難な課題を克服しなければなりません。

長寿社会では、70歳半ばまで働くことになる

長寿社会において、長寿はどのような意味を持つのでしょうか? ここでは6つの考え方を考察していきたいと思います。

この本の共著者は、アンドリュー・スコットという優れた経済学者です。彼とともにまず注目したのが「100歳まで生きるとしたら、どれくらい長く働かなければならないか」です。

もちろん、これは個人の貯蓄率や退職に対する準備で変わります。しかし、これが一番肝心な問題です。というのは、今20歳の人は、おそらく100歳まで生きるからです。私は今61歳ですが、その年齢であれば90歳まで生きるでしょう。もちろん、個人的には100歳まで生きたいと思っています。

(会場笑)

私はこの本の著者ですので。いずれにせよ、寿命の見直しが大切です。

日本もずっと長寿だったわけではありません。ここ1〜2世代で変化したわけですから、みなさんやみなさんのお子さんも、急激な変化に対応しなくてはならないのです。

さて、長寿についての6つの考え方の1つ目である、「長く働かなければならないこと」について考えてみましょう。どれくらい長く働かなければならないのでしょうか。私の本のなかでは、考えやすくするため、ジャック、ジミー、ジェーンという3人の人物を登場させています。

まずはジミーです。彼は1971年生まれで、お父さんがジャックです。お父さん世代の人は、65歳で定年退職できました。現在の日本人と同じです。ジミーは現在40代ですが、彼もお父さんと同じように65歳で退職したいと考えているとしましょう。そうすると、どのようなことが考えられるでしょう?

次の2つは明らかです。まず、退職後の期間がとても長いということです。20年以上もゴルフ三昧で暮らすことになります。

もっと重要なのが、65歳で引退するためには、働き始めたときから収入の17パーセントをずっと貯蓄しなければなりません。日本は貯蓄率が非常に高いですが、それでも収入の17パーセントを貯め続ける人はあまりいないでしょう。

今年7月に、アメリカでもこの本が出版されました。ですが、アメリカでは17パーセントも貯蓄する人は誰もいません。それどころか、貯蓄がゼロという人がとても多いのです。アメリカ人がこの本を読むと、老後の貧困や年金のことで思い悩んでしまうのです。日本人は貯蓄する人が多いので、アメリカ人のように心配することはないと思います。

ジミーは17パーセントも貯蓄できないので、長く働く以外に方法はないことはおわかりいただけるでしょう。何歳まで働くことになるでしょう? おそらく、70歳か70歳半ばまで働くことになるのです。

次に、ジェーンです。ここにいるみなさんのなかにも、20代の若い方が見受けられますが、みなさんの場合は、どうなるのでしょう? 

ジェーンは100歳まで生きるとしましょう。1998年生まれですから、2098年まで生きるわけです。彼女も、今の日本の方と同じように、65歳で退職を望んでいるとしましょう。そうすると、まず退職後の期間は35年になります。なんとも、長い期間ですね。

ところで、早く引退する人は、働き続ける人より早く死ぬということをご存じですか? その意味では、65歳で退職することはジェーンにとってはよくありません。それよりも重要なのは、ジェーンが65歳で退職し、最終所得の半分でその後生活していくためには、収入の25パーセントを貯蓄し続ける必要があるということです。

人生の3ステージが崩壊するのは必然

本のなかでは、3人それぞれについてくわしく説明していますが、いずれにせよ対策は3つしかありません。退職後の生活費を減らすか、貯蓄を増やすか、退職を遅らせるか、です。

ジェーンの場合、おそらく退職を遅らせて75歳から80歳まで働くことになるのではないでしょうか。80歳まで働くことを想像してください。実感がわきますか? とはいえ、長く働くようになることは、避けて通れないとおわかりいただけるのではないでしょうか。

すでに日本では、55歳以上で働いている人の数は他国より極めて多いのです。ヨーロッパには、55歳以上の人の就業率がとても低い国があります。例えばギリシャです。ここでは、55歳以上の人の就業率は30パーセントを切っています。これは、老人を支えなければならない若者にとっては、とんでもない状況です。

まず、長く働く覚悟をしなければならなりません。政府の言うことはあてになりません。ギリシャ政府もきっと「心配はいらない。65歳で定年退職できる」と言っていると思いますが、真実ではありません。65歳を過ぎても、働き続けないといけないのです。なお、本のなかでは、年金がどのようになるかもくわしく説明しています。

次に、人生の3ステージを続けられるかです。3ステージとは、人生を学業期・就業期・退職期に分けることを言います。

現在、政府の政策や企業の運営方針は、人はこの3ステージの人生を送る前提のもとに考えられています。

ところで、みんながまったく同じペースで人生を送るとどうなるでしょう? みんな同時に大学に入り、結婚し、同じように子供を産んで、退職していくことになります。これは企業にとっては、ありがたいことです。年齢さえわかれば、どのステージにいるのかを把握できるからです。

私が本に書いていることは、企業からは歓迎されません。企業にとって複雑になってしまうからです。私は、人生の3ステージが崩壊するのは必然だと考えています。というのは、誰もが20〜80歳までずっと働き続けるのは、無理だからです。とくに、日本人のように休暇も取らずに長時間働いている場合は、とても不可能なことです。

では、人生の3ステージにとって代わるのはどのようなものでしょう? 

私は、多様な(マルチ)ステージの人生になっていくと考えています。人生がさまざまなステージに分けられて、各自が自分の人生にいろんなステージをはめ込んでいくようになるのではないかと思います。人生でなにをしたいかを自分で決めて、それをしたい時期にやっていけばいいのです。

これは、政府にとっては迷惑な話です。国民を掌握するのが難しくなるからです。企業にとってもありがたくありません。従業員の入れ替わりが激しくなってしまうからです。日本の企業風土にとっては、とくに受け入れがたいのではないかと思います。

寿命が延びる=人生のすべての部分が長く伸びる

では、具体的に新しいステージとして、どのようなものが考えられるでしょうか? その前に指摘しておきたいのですが、じつは新しいステージは過去にも生まれていたのです。

例えば、ティーンエイジャーは新しく生まれたステージです。日本での、戦争直後のことを思い出してください。イギリスでもそうでしたが、中学校を出てすぐに就職することが多かったのです。当時、ティーンエイジャーというステージはありませんでした。

また、1900年代には退職という概念もありませんでした。みんな、死ぬまで働くのが普通だったのです。

そういうわけで、今までにも新しいステージは生まれてきていたわけです。そして今、新しいステージがさらに生まれようとしています。どのようなものでしょうか? 4つ挙げてみたいと思います。

まず、100歳くらいまで長生きできるとしたら、世界をもっと知ってみたくなるのではないでしょうか。自分自身のことももっと知りたいと思うでしょう。新しい働き方について知りたいと思うかもしれません。現在の若者を見てください。彼らは、すでにそれをやり始めているのです。大学を終えた後、1年間休暇を取る人が多くいます。

若い人がやっているのなら、我々もやってみたらどうでしょう。1年間、休暇を取るのです。長生きして何十万時間も働くことになるのですから、人生の一部を自分や世界をもっと知るために使ってもいいのではないでしょうか。

次に考えられるのは、自分で会社を始めることです。日本は人工知能やロボット工学の先進国です。人工知能やロボット工学、さらにUberやAirbnbが使っているプラットフォームを使えば、小さな会社をすぐに設立して、Googleの市場に売り出すことも可能なのです。会社を作る絶好の機会です。現在、欧米のビジネスの成長を支えているのは、大企業ではありません。小さな企業によって、新たな雇用が生み出されているのです。

100歳人生の社会では、誰もが人生のあるステージで自分自身の会社を起こす、いいチャンスがあると思います。その証拠にアメリカでは、55歳以上の人が起業家の大半を占めているのです。自分の企業を起こしたい、自分でなにかを作り上げたいと多くの人が考えているわけです。自分でビジネスを始めることは、人生の1つのステージとしてすばらしいものになると思います。

人生の新たなステージとして3つ目に挙げたいのは、フルタイム勤務を変えることです。

例えば、3日働いて、ほかの2日はコミュニティ活動をするのです。子供や孫の世話にあててもいいですし、自分の好きなことをしてもかまいません。そして、残りの1日は、新しいスキルを身につけるために使うのです。我々はこれをポートフォリオと呼んでいます。これも新しいステージの1つとして考えられます。

自分を変革していく人たちがいますが、彼らが口をそろえて言うことは、「転職することにより、古い自分を捨てて新しい自分になれる」ということです。時間をかけて、新たな仕事に挑戦していくことも、人生の有意義なステージになると思います。

いずれにせよ、人生が長くなるとは、人生のすべての部分が長く延びるということです。老いの部分も長くなるかもしれませんが、若い部分も長くなるのです。長寿というありがたい贈りものを、そのようにポジティブにとらえることが大切です。

長く働くために必要な「無形資産」

6つの考え方の、3つ目となる私の予想です。会社で雇用されるとは、どういうことでしょうか。

あなたと会社のもっとも重要なやりとりは、支払われる給料、年金、ボーナスです。それらは有形資産と呼ぶことができます。有形資産とは誰もが持っているものです。貯蓄、家があれば不動産、そして年金など、これらが極めて大切なことは言うまでもありません。

しかし、おもしろいことに、有形資産は退職するために役立ちますが、長く働くためにはあまり役に立たないのです。長寿の人生を送るうえでは、無形資産と呼ばれるものがより大切なのです。

無形資産をどのようにして作り上げていくか、それを我々1人ひとりが考えなくてはなりません。また、これからは企業もますます無形資産の形成について考えていくべきだと思います。

我々のWebサイトを見ていただくと、無形資産形成状態の診断を受けることができます。現在は英語のみですが、早急に日本語でも受けられるようにしたいと思っています。

この診断で、あなたの無形資産の状態が把握できます。どの部分が増え、減っているかが判断できるのです。すでに診断を受けた人は1万人以上になりますが、そこから興味深い実態も明らかになりつつあります。

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