2024.10.10
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セカンドキャリアに幸あれ!! 大野俊三×玉乃淳(全1記事)
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玉乃淳氏(以下、玉乃):今日はよろしくお願いします。このコーナー、実は鹿島アントラーズで活躍されていた方は初めての対談です。
大野俊三氏(以下、大野):へえ、そうなんだ。元鹿島はみんなエリートだからね。僕ぐらいじゃないかな、「外れモノ」で、険しいアップダウンあるエピソードがバックボーンになっているの。
住金(住友金属工業サッカー部=鹿島アントラーズの前身)時代、一緒にプレーしていた後輩の手倉森誠は、五輪代表の監督になったよね。黒崎、秋田、奥野、相馬……みんな一流の指導者や解説者として、日本のサッカー界を支えている。
玉乃:でも大野さんは、この広大なスポーツ施設「鹿島ハイツスポーツプラザ」の支配人ですよね!? どうすればこんな重要なポストに就けるのか、興味津々です。セカンドキャリアのスタート、引退されたのは31歳でしたよね?
大野:そうだね。1996年に鹿島から京都に移籍して1年間プレーした後、ほかのクラブでの現役続行を模索したけれど、京都から指導者の話をいただいて、最終的にはそれを受けることにした。僕には、ジーコから教わったサッカー観があったからね。
僕みたいにノンタイトルだった人間が、日本代表にまで上りつめることができたのもジーコのおかげなんだけれど、彼のサッカーに対する姿勢や情熱を間近で見ることができたのは、本当に貴重な財産となった。それをただ単純に後進たちに伝えたいと思ったのが、指導者のオファーを受けた理由だよ。
玉乃:どのカテゴリーを教えていたのですか?
大野:ユースやジュニアユース、それと京都市内の幼稚園を巡回する普及活動にも携わった。結局、京都で4年間お世話になったけれど、時が経つにつれ、鹿島に戻りたい気持ちが芽生えて、少しずつ大きくなっていった。
鹿島には住金時代にお世話になった先輩をはじめ、親しい仲間や昔から僕を支えてくれた人たちがいる。できることなら慣れ親しんだ土地に戻って、指導者としてやっていきたいという考えも心の底にあった。
それで、何かきっかけがあればと思っていたところに、アントラーズに関連した広告代理店で働いてみないかと誘ってもらって、鹿島に戻ることにしたんだよね、広告代理店の営業マンとして。
玉乃:サッカーの指導者から営業マンに転身されたのですね。
大野:その代理店にいれば、アントラーズのフロントとも話ができるわけだからね。少なくともクラブとのつながりがあるという意味では、そこにいれば、指導スタッフへの道もひらけてくるのでは……なんていう狙いは確かにあった(笑)。それで、鹿島に戻るタイミングで飲食店開業もしたんだよ。「やんちゃくらぶShunzo」っていう洋風居酒屋なんだけれど。
玉乃:居酒屋ですか? どれくらいの規模だったのですか?
大野:全部で50 席ぐらいはあったかな。ちょっとしたパーティもできるぐらいの大きさで、僕もお店に出たときには、ギター片手に弾き語りをやったりしてさ(笑)。
玉乃:へぇ、おもしろそうですね。ちなみに弾き語りはどんな曲を?
大野:主にフォーク。あとは替え歌メドレーとか(笑)。
玉乃:今度ぜひ聞かせてください。それでお店は順調だったんですか?
大野:それなりにはね。そのお店が軌道にのりかけたとき、もっと利益を出そうとして、実はもう1店舗オープンさせたんだよね。ラーメン、パスタ、そば、うどんなどを選んで食べられる麺類中心のお店なんだけれど。
玉乃:それはすごいですね。
大野:でしょ? でもやっぱり、ラーメンが食べたければ、ラーメン屋に行くのが自然なわけで、「麺類」という大きなカテゴリーは、逆にお客さんを迷わせてしまって、思うような成果は得られなかった(苦笑)。
玉乃:結局、飲食店はどれぐらい続けられたのですか?
大野:4年かな。最後は辞めざるを得ない状況になってしまって。広告代理店もやっていたから、なかなかお店に出られなくて、試合当日もお客さんはたくさん来てくれるけれど、僕は試合会場でいろいろと手伝いをしているから、お店に顔を出せるのは、試合が終わってしばらく経ってからになってしまう。
そうなると、もうお客さんも帰ってしまうよね。店名に僕の名前が入っているのに、当の本人がいない。それはやっぱり、お客さまをガッカリさせてしまったと思っている。
玉乃:客足は遠のいてしまいますよね?
大野:立地条件などの見通しも甘かった。いわゆる飲み屋街からは少し離れたところで開店したけれど、それもよくなかった。いずれにしても、もっと同業者の方たちに話を聞くなどして準備するべきだった。リサーチ不足だよ。
飲食店って、スポーツ選手は始めやすいじゃない? 簡単なイメージがあるから。でもその実、かなり難しいよね。味だったり、雰囲気だったり、どういうビジョンで店のキャラクターを作っていくかとか。そのへんをしっかり練らないとダメだよね。
玉乃:確かに。元スポーツ選手のお店、けっこうありますけれど、苦労も多いと聞きます。
大野:悩んだのが、「ありがとうございました」とか「またよろしくお願いします」とか、頭を下げなければならないこと。現役時代は、なんだかんだで周りからもてはやされるわけだよね。それが完全に逆になるわけだから、正直抵抗はあったよ。
サポーターは、頭を下げる僕に「大野さんらしくないよ!」とか「そんな弱っちい大野さん、見たくない!」とか言ってくるし。正直、1年ぐらいは、頭を下げることについて、「これでいいのか」と自問自答の毎日だった。
でも立場が逆になったことで、これまではみんなに支えられていたんだと初めて気づいて、すごく恥ずかしくもなった。もちろん、今ではもうぜんぜん気にならないんだけれどね。
玉乃:なるほど。では、お店を辞められてからは、広告代理店のみで?
大野:いや、同じタイミングでそっちも辞めた。一度すべてを白紙に戻そうと思って。
玉乃:えっ!? ということは収入源なし?
大野:そうだね。
玉乃:でも、いくらか蓄えがあったのですよね?
大野:ないよ。すべてお店のことで使い切ってしまったから。
玉乃:本当ですか? 不安はなかったのですか?
大野:そりゃあ、不安だったよ。でも、ここでも周りの人に救われたんだ。地元の個人事業主が名を連ねる僕の私設後援会があるんだけれど、そのなかの1人の方が板金屋を経営されていて、「やることがないんだったら、うちで働けば?」と声をかけてくれたんだ。
玉乃:今度はガテン系!?
大野:屋根や壁の工事、プレハブの解体、波板の張り替え……。僕にできることならなんでもやったよ。
玉乃:そういうお仕事ってすぐにできるものなのですか? かなり高度な技術が必要な感じがしますけど。
大野:ほら、僕はアントラーズの前は、住金でサラリーマンをやっていたでしょ。そのときの経験があるわけ。機械修理はもちろん、ガス溶接やアーク溶接とか、一通りはこなせるんだよ。でっかいクレーンのタイヤのベアリングをはめ変えたりもしていたよ。
玉乃:すごい、たくましすぎます。
大野:だから、たしかにさっき「不安」と言ったけれど、不安な一方でなんとか食いつなぐ自信はあったんだよね。
玉乃:それは、今のJリーガーにはない強みですよね。
大野:僕らの世代のJリーガーは、ほとんどそう。企業にいた人は、技術職にせよ、事務職にせよ、なにかしら社会人としての経験があるし、それは確かに強みだと思う。
僕らはサラリーマンをやめてプロサッカー選手になっているからね。いつか現役を引退するのはもちろんわかっているし、「サッカー選手引退後はなんでもやってやる」という心構えでサラリーマンをやめているんだよね。
玉乃:なるほど、社会人をやめてプロの選手になっているのですね……。確かに覚悟の種類が違いますね。それで、板金屋から現職へはどのような経緯ですか?
大野:板金屋で働かせてもらいながら、解説業やサッカー教室の仕事もやっていてね。ちょうど1年ぐらい経った頃、この鹿島ハイツスポーツプラザのオーナーから声をかけてもらったんだ。
オーナーはこの施設を合宿所として大きく展開したかったようで、それでチーム招致や合宿所の運営といった部分を誰にやらせるかという話になった。それで、オーナーの相談役がたまたま僕のことを知っていて、それで推薦してもらい、最初は営業職としてスタートしたんだ。
玉乃:いわゆるコーディネーター的な仕事ですね。
大野:自分のできる範囲でなんとか頑張ろうと思ってね。その間、ラジオのDJもやっていたんだよ。
玉乃:なんでもアリですね。
大野:ははは。2時間半の生番組。よくある情報番組だね。
玉乃:それで、支配人にはどうやってなられたのですか?
大野:支配人の入れ替わりが多かったりして、ある日オーナーから「君が支配人をやればいい」と打診を受けたんだ。それから今年で9年目になるかな。
支配人業なんて右も左もわからなかったけど、自分なりにいろいろと勉強して、オーナーにも相談に乗ってもらいながら、今がある感じだね。
玉乃:これだけ広い施設のトップというポストですから、責任のある仕事で、やりがいもあるのでは?
大野:やりがいはあるよね。オーナーは別にして、この施設における業務執行の最終的な決定権は僕にある。つまり、すべての責任は自分にあるし、各部門への指示の仕方1つで、施設自体が良くも悪くもなる。
笑顔やサービスは大前提として、各自で最大限のことをやってほしいと思っている。備品が足りなければ足しておくのは当然。
効率良く作業するための準備を怠らない。汚れていたり破損したりしていれば、清掃したり修理を依頼したりする。すべてはお客さまに喜んでいただけるように、満足していただけるように、環境の整備というか、全体がスムーズに動くようにするのが、支配人の役目かな。
玉乃:お伺いしていて、「お客さま」を「サポーター」に置き換えると、支配人はまるでサッカーチームの監督のようなお仕事ですね。
大野:本当にそう。監督業と通じるものがあると思っている。僕が常々、言っているのは、「僕たちはチームなんだ。そしてプロなんだ。プロである以上、最大限の努力をしなければならない」ということ。
そして、社員全員がこの鹿島ハイツスポーツプラザという船に乗りこんだ以上、誰にも降りてもらいたくない。みんなで1つになって、目標に向かって走り続けたいんだ。
玉乃:経営も任されているのですよね? となると、監督兼GMですね。業績のほうはどうですか?
大野:僕がここに来る前は1億ちょっとの累積赤字があったみたいだけれど、今では春・夏・冬の学校の長期休暇期間はほぼ満員。それ以外の日でも週末は、大学のサークルの大会でほぼ埋まりつつある。
ウィークデーをどうするかという課題はあるけれど、現状十分に採算ベースにはのっている。あと、全国から多くの指導者や生徒がこの施設を利用しにきてくれるから、常にサッカー人と交流を持てるんだよね。最高だよ。
玉乃:へぇ。一度、完全にサッカー界から離れたのにもかかわらず、巡り巡ってまたこうして日本サッカー界を支えているのですね。
大野:本当に不思議だよね。あらためてサッカーとは切っても切れない縁なんだと思うよ。
玉乃:常に前進し続けている印象の大野さんですが、この先にはどんな野望やビジョンがあるのですか?
大野:ここに総合スポーツクラブを立ち上げたいと思っている。今すでにサッカーやラグビー、アメフトができるグラウンドが5面、屋根付きフットサル場が4面、テニスコートは全部で25面、野球場や体育館、宿舎、大浴場もあるからね。スポーツクラブは夢じゃなくて、もはや使命だと思っている。
玉乃:ハード面は揃っていますよね。
大野:理想は、いろんなスポーツが交流できればいい。例えば、サッカー部や野球部が互いの競技で対決する。野球部がテニス部と対決するのも楽しいんじゃないかな。
玉乃:それで子供たちの隠れたポテンシャルが引き出されるかもしれませんよね。
大野:あとは、ご年配の方に喜んでいただけるようなプールがほしい。現存する宿舎とは別に、ホテルを増設したいんだけれど、そこにプールを作れればいいかな。
玉乃:え! さらにホテルも? どれだけイケイケですか(笑)。
大野:好奇心が強いんだよ。たった一度の人生だし、おもしろいと思うなら、なんでもやってみたい。当面の目標は、ここを国内随一のスポーツ拠点にすること。そのためには、宿泊施設の拡大や医療体制の整備など、まだまだやらなければならないことは多い。
でも、自信を持ってプロジェクトを推し進められるのは、数々の失敗のおかげだと思っている。これまでチャレンジしてきたことすべてが、今の糧になっているからさ。
【大野俊三(おおのしゅんぞう)プロフィール】1983年、習志野高校卒業後、住友金属工業に入社し、同社サッカー部に所属。Jリーグ開幕の前年に同社が鹿島アントラーズになると共にプロ契約を締結。1993年のJリーグ開幕からスタメンに名を連ね、チームの黄金期を支える。1996年に京都サンガへ移籍し、同年現役引退し、京都にて育成者としてのキャリアをスタート。以降、飲食店経営やサッカー解説者を経て、現在はスポーツ施設「鹿島ハイツスポーツプラザ」の支配人をつとめる。
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