2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):この本(『面白ければなんでもあり』)の二章で、魅力的なキャラクターの重要性として、「『ワンピース』のメインキャラがババ抜きやっているだけでおもしろいだろ?」っていうことが説かれていて、僕もまったくその通りだと思ったんですよ。
キャラってなんなのかという説明をするときに、僕はよく、「例えばコンビニのおにぎりを食べるときに、そいつなら綺麗に食べるだろうとか、グジャグジャになっちゃうだろうとか、それがイメージできるのがいいキャラクターだ」って言うんですけど、それと通じる考え方だなぁと思いまして。
三木一馬氏(以下、三木):そうですね。キャラクターの重要性は言わずもがなですが、「みんなの思ってる以上に、このキャラクターはこんな行動をとるかもよ?」というようなことまで想像してくれるならベストです。
昔はこれが壮大なストーリーのなかで表現されていたり、読者が想像する「余地」を見せる……というだけだったのですが、今はすこし読者の嗜好が変わって、そんな「このキャラはどういった行動をとる!?」というネタ部分だけに特化して独立させた漫画や小説も増えているように思います。
たとえば「シリアスなロボアニメの人気キャラがもしコンビニ店員だったら……」という漫画とか、「哲学にかぶれた青年がもし書店店員だったら……」という漫画とか……。昨今のキャラ特化モノの最先端というか、いわゆるコミックエッセイ的な見せ方とも言います。それらが何十万部も売れる時代ですから、やはり読者のニーズはインパクトをよりインスタントに得る、ということに寄ってきていると思いますね。Webの1枚ネタみたいなノリもそれに拍車をかけているのではないかと。
佐渡島:なるほど! 急に、なんで売れているか、僕には理解できていなかった作品が売れる理由が理解できました。こんなに腑に落ちる説明聞いたこと初めてです。マンガや小説も、インスタ、スナップチャット的な作品が、流行っているのですね。
三木:佐渡島さんが今おっしゃった、「コンビニの一場面でも『ワンピース』キャラなら面白い」ということを、もっとも特化させている1つの形態なんですよ。
佐渡島:それだけをやっているんですね。でも僕たちは、そういうキャラクターを物語のなかで知りたいんですよね。
三木:そう、僕らの世代はそうなんですよ! だけど、今はそうでもないのかなぁ。
佐渡島:『面白ければなんでもあり』のなかで、作品を読んだ人が、「あの胸のデカいキャラ、名前なんだったっけ」って言えるっていうエピソードがあるじゃないですか。それって、キャラのほうを覚えていて名前を覚えていない=キャラが立っているということで、良い作品は、確実にそのような仕組みですね。
だから、そういうところまで到達するように登場人物を作り込むっていう考え方も、もう大賛成で。そういったキャラクターの生み出し方も事細かに書かれていてビックリしました。
三木:僕の勝手なイメージですが、キャラクターのビジュアルはシルエットだけで誰が誰かわかるように、という意識しています。ベタなところですと、体型とか髪型からですね。
『ドラゴンボール』(ジャンプコミックス)の孫悟空はシルエット見ただけで誰でも一発で悟空ってわかるじゃないですか。あとは、たとえば木刀を背中に差しているキャラがいたとしたら、それだけでもシルエットがかなり違う。僕はけっこうそういうことを重視しています。だから僕の編集者としての基本的なメソッドって、もう本当に漫画からなんですよ。
佐渡島:いや僕、それ今後、新人に必ず言うようにします! 「キャラクター作るときにシルエットでわかるようにしろ」って。僕はいつもそれに似たところで、「そのキャラクターが駅にポスターとして貼られていて、興味を持つかどうかで見直すように」と言うのですが、シルエットでわかるようにのほうが、伝わりますね。
三木:ラノベだととくに、イラストの枚数が10枚くらいなんですよね。その限られたチャンスにどうメインキャラクターたちを見せるか、配分するかも大事なんです。すべてのキャラクターを平等には出せないし、主人公も出せても3、4カット。その時にパッと見て覚えてもらうとなれば、ビジュアルもメリハリの特化しかなくて、一番わかりやすいのはシルエット……ということになりました。
佐渡島:それ重要ですね。いや、いいこと聞いたなぁ。
佐渡島:あと、『面白ければなんでもあり』のなかで、「もっと僕は読者になるべきでした。読者の1人としてみんなで心を同じくして面白い作品を作る、それができて初めて編集者としての結果が出る。この自分ルールに気づくためには一度僕は明確に失敗する必要がありました」っていうところがありました。
三木:はい。やはり失敗しないと人は反省しないので……その意味で、失敗は人生においてとても重要な役割を果たしているんだと考えるようになりました。
佐渡島:僕も自分の経験で、『ハルジャン』(モーニング)を作ったときに、当時の編集長から、「とにかくこれで失敗しろ」と言われたんです。失敗して、それを糧に次ヒットさせればいいからって。なんで連載始めるのに失敗しろとか言うんだってちょっとイラッしましたが、今となっては経験者だけが言えるアドバイスで、ありがたかったです。
三田(紀房)さんにも、『ハルジャン』がなぜ当たらなかったのか、教えてください、と頼んだんです。そうしたら「スキージャンプを好きになるまでの過程を1話目で書いている」ところだと。
人間って、好きになる過程を論理的に説明できることはほとんどない。でも新人漫画家は、けっこうそれを描いてしまう。そこに共感できなかったら読者はその漫画に入っていけない。だから好きになる理由って描いちゃいけないんだと。
だから宇宙兄弟って、2人が宇宙を好きな理由って書いてないんですよ。宇宙飛行士っていう職業を目指す理由だけ書いていて。
三木:いやもうすっごい正しい。僕もそう思います。僕の担当している『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫)という作品は、ギャルで完璧な中学生の妹がじつはオタク趣味を隠していて、実の兄にその趣味から生じる『妹からの人生相談』を依頼する……という話なんですけど。
佐渡島:はい。
三木:そのオタク趣味というのが、いわゆる男性向けのエッチなゲームで、しかも妹ジャンルが好きっていう設定なんですよ。普通はありえないですよね。でもそのほうが絶対に面白い、キャラがくっきりとわかるようになる。あえていうなら無理やりステータスを決めていったんですよ。
すると当然ですが、作家さんとストーリーを進めていくなかで、「この妹の桐乃は、なんで男性向けのエッチなゲームが好きなんだろう……?」という議題にぶち当たりました。しかしながら、これの答えは「わからない」のです。なかば無理矢理決めた設定という側面もありましたから。
ですので、最終的に僕は「えーと……それはおそらく……、『好き』だから! 『好き』だからです。それだけ!!」と返しました。ヤケクソ気味に(笑)。なんでかと言いますと、ビシッと「それだ!」という理由が思いつかなかったのと、「人を好きになることに理由なんてない」という恋愛の名言(?)が頭をよぎったんです。
佐渡島:それで、どうしたんですか?
三木:なので、「桐乃が男性向けエッチなゲームを好きなことに理由なんてない。好きだから好きなんだ」でいいじゃん! ってことで押し切ったんです。
その結果、今までそこに突っ込みを入れてきた人はいませんでしたし、むしろそれが桐乃というキャラクターのカラーと言うか、彼女をより『人間らしく』見せる一要素としてうまく働いたんですね。
佐渡島:なるほど。
三木:これは意外だったんですけれど、アニメで放送されたとき、主人公の桐乃と同年代の女子中学生から「共感できます」というファンレターをいっぱいいただいたんです。「私も桐乃ちゃんみたいに人に言えない趣味があって悩んでいます。だから、桐乃ちゃんを助けてくれるお兄ちゃんがいるのがすごくうらやましいです」、と。やはり、好きに理由はなくていいんだ、だって人間だもの、そう思いました。
佐渡島:この前、小山さんがいいことを言っていました。小山さんは『ハルジャン』で失敗した理由を自分自身でもすごく考えていて、失敗したけど本気でやっていた。それで、『宇宙兄弟』の中で「本気の失敗には価値がある」っていうセリフを書けた。
だから、『ハルジャン』は失敗じゃないんだって、言っていました。そういう意味で『面白ければなんでもあり』の「失敗の必要がある」っていう話は、作品作りで重要なことですよね。
佐渡島:あと、「おもしろい作品が売れるんじゃない。おもしろさが伝わった読者が多くなったときに本は売れる」っていう話にも、共感しました。だから僕は、初めの方の巻などを積極的に無料でいろいろ見せたりするっていうことへの抵抗感がなくて。
街中でサンプリングってよくしていますよね。一般商品は、サンプリングをするのに、なぜコンテンツはしないのか? コンテンツは、日用品のように使い捨てではなく、一度見ると満足する可能性があるものの、読者が増えると、ヒットになっていくなら、サンプリングはありだと思っています。
三木さんにうかがいたいとずっと思っていたのは、三木さんが担当されている作家の方は、ネット上でもう話題になっていることもあるじゃないですか。だから、活躍の場を全部ネット側に移して、そちらでやりきる方がいいかと思うのですが、やらないのですか?
三木:これは、まずは前職の版元出版社編集者としての観点からご説明しますが、ネットは有象無象、玉石混淆なところがある一方、出版社はしっかりとしたブランド価値が存在していると思うのです。
ですから、今もたとえば「あのネットで書いていたウェブ小説家が、○○文庫でデビューするらしいぞ!」とか、うちでいうなら「あのネット作家が電撃文庫で本を出すみたい、すごい!」というふうに、ちょっとしたプレミアム感が、まだまだ出版社にはあると思っています。そういった意味では、依然、紙媒体をベースとする出版社も抜群に機能しているし、非常に有利な武器になるだろうと。
佐渡島:はい。
三木:ただ一方で、出版社は今までの文化や伝統、スキーム、セクショナリズムなどがあって小回りがなかなか利かないこともありました。本当はそこで現場の編集者が頑張らないといけないのですが……。
たとえばおっしゃるようなサンプリングなんて、本来は有料のものをただで作品を提供しようとすればするほど、抵抗力も強くなっていきますよね。コンテンツで商売をしている会社が、自らダンピングをしているようなものですから。ですが、これから勝負をかけていくなら、もっとインターネットから発信して、さらに広げる戦略も採っていくべきだと思います。
佐渡島:その想いがあったからこそ、三木さんも独立を?
三木:それも理由の1つですね。結局は、佐渡島さんが『ぼくらの仮説が世界をつくる』に書いてある通り、面白い物語とかコンテンツがあって、それを広く選ぶためのチャンネルをどうするかというだけなんだと思います。
そのチャンネルに、インターネットを使わない手はないです。そうしないとプラットフォーム屋にコンテンツ業界が牛耳られていくだけですから。そうなる前に、行動を起こしたかったというところはありますね。その先達である、コルクの佐渡島さんに言うのも釈迦に説法ではありますが。
佐渡島:出版社の編集者として能力を持っている人たちが乗り込んできて、早く作家が安定してネットのなかで活躍できる場をつくるのに協力してほしいなあって、思っています。だから、今回の三木さんの独立は、全力でサポートしたいし、僕自身の励みにもなる嬉しいニュースです。
三木:そうですね。もし佐渡島さんや、おこがましいですが僕のようなエージェント的な編集者が増えれば、いろいろ状況が変わってくるなら、なんというか興奮しますね、たくさんの作家さんから、ネットというオープンな場所で編集者の価値がフラットに問われるという、そんな時代が来るかもしれません。
僕は、市場や読者との真剣勝負が大好きなので、望むところですね。そこには、まだまだ力とバリューを持った出版社も君臨しているはずですから、作家、エージェント、出版社という三者の切磋琢磨が、面白いコンテンツを生みだし、この業界を活性化させることを信じています。もちろん、それの最前線に立てることを信じて頑張りたいです。
佐渡島:いい言葉ですね。ライバルができたことで、僕もより自分に厳しくなれて、より楽しくなりますね。ともに歩み、そしてともに戦っていきましょう!
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