2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
箭内道彦氏 基調講演(全1記事)
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箭内道彦氏(以下、箭内):ご紹介いただきました箭内道彦といいます。今日はよろしくお願いいたします。
先ほど(ホールハート)CEOの小野さんが話しているのを、もう一回就活はしたくないなあと思って聞いていました。就職したのは1990年ですから、もう25、6年前になります。
僕は就職以前に、大学に入る前に3年浪人をしています。当時の東京芸術大学のデザイン科の倍率が50倍で、「だったら50回受ければいいや」とやっと思えた頃、4度目の受験でやっと受かったくちです。
その時点で、すでに年齢がけっこういっちゃっていたので、現役で大学院を出た人より歳を取っていたし、弟よりも若い人たちと就活を競わなきゃいけない。そんなこともあって、なかなかもう1回はやれないな、という感じです。
博報堂に13年勤めた話がビデオで紹介されましたが、僕は最初、実はサンリオに行きたかったんです。自分がデザインした便箋で中学生の女の子がラブレターを書いて、その子の恋が叶ったら素敵だなって考えていました。自分が作ったもので誰かを幸せにすることがもしできたらって思ったんです。
でも、サンリオに勤める人を訪ねてお話をうかがったところ、「男子は要らない」と言われ、泣く泣く断念をしました。
そのあと、でも、もしかすると広告で、人と人の間に立って、誰かを幸せにしたりできるんじゃないかと考えました。
当時、サントリーの宣伝部を受けてみようと思って、履歴書を出して、明日が試験という段で、急に自信がなくなってしまって。
その自信がない自分がすごく恥ずかしかったというか、嫌だったので、前の日に、学校に泊まって同級生たちと酒を飲んで、「もうサントリー受けるのやめる」と宣言して、翌日の面接を辞退しました。
そのあと大学に募集が来ていたのが博報堂で、縁があって入社することができたんですが、デザイナー採用だったのでまず作品面接と実技試験がありました。
そのときは、今思うとなんの根拠もないんですが、自分のなかで「トップで通過してるな」という感覚がかなりあったんです。
ですが、最終の重役面接のとき、当時、副社長だったと思いますが、「君はうちの会社に来て、なにがしたいんだ?」と言われて、「人を幸せにしたい」というようなことを言ったんです、サンリオに入りたかった気持ちのまま。
そしたら、その方からは「そんな気持ちでうちに来たら、君は挫折するよ」と言われてしまって。でも僕は言いたいことを言えたし、実技はトップレベルだったと自分では思ってたんです。ですが、入社したあとに制作部門の担当役員から、「お前が面接のときにした話は、点数がすごく悪かった」と言われて。あそこで一旦バツがついてたけど、「なんとか自分たちが育てるから勘弁してやって欲しい」というようなかたちで入社をさせてもらったという経緯もありました。
すみません、今日言いに来たことで一番言いたかったことがあるので、出します。
「なりたい職業より、やりたいこと」ということです。
もちろん就活は職業にひとまずたどり着く、職業に出会ったり、ありついたりすることです。もちろんとても必要な、大事なチャンスではあるんですが、「この仕事がしたい、この仕事がしたい」とあまり強く思いすぎると、その就職がゴールになってしまいます。
例えば、コピーライターになりたいと強く思う気持ちはとても大事ですが、コピーライターになれたあと、「あれ? 自分はどんなコピーライターになりたかったんだっけ?」「コピーライターになってなにがしたかったんだっけ?」ということがわからなくなって、消えていったコピーライターがたくさんいます。
だから、「コピーライターになって、世の中を変えたいんだ」ということでもいいし、「コピーライターになって、がんばってる人を応援したいんだ」ということでもいいです。なって、なにをしたかったのかということを。
「まだ、そこまで考える余裕ないよ」という人もいるかもしれませんが、それを考えてみるといいんじゃないかなと思います。そうすると、仮にコピーライターになれなかったとき、人生真っ暗にはならない。
例えば、さっき楽屋でも話してたんですが、自分のやりたいことはなんだろう。「人を笑顔にしたい」でも「人を助けたい」でもいいです。
どっちがいいかな、じゃあ、「人を笑顔にしたい」という場合、人を笑顔にしたいのであれば、漫才師になっても人を笑顔にできる。花屋さんになっても人を笑顔にできる。学校の先生になっても人を笑顔にできる。おいしいラーメン屋さんになっても人を笑顔にできます。
そうすると、「漫才師になれなかったら、自分は終わりだ」と思ってた人が、第1希望は漫才師だったけど、第2希望の花屋さんになっても、自分が人生で達成したいと思っていたことは、実はまったくブレてないことになる。
だから、それがないまま「広告代理店に勤めたい」「テレビ局に勤めたい」というだけの目指し方は、とても危ういと思うし、それがうまくいかなかったときに、すべてを否定されたような気持ちになってしまう。
ですから、横軸で、自分のやりたいことと、それを叶えることができそうな職業というのを複数、自分のなかに持っておけばいいと思います。
僕も、博報堂の当時の重役の方には僕の思いは届かなかったんですが、「人を幸せにしたい」という気持ちは今も変わっていません。
ということで、僕は「人を幸せにしたい」と言いましたが、もうひとつ、広告という仕事に対して思っているのは、「応援」という意味合いです。
商品を応援したり、商品を作った人を応援したり、その商品を使う人を応援したりする。広告というのは、あくまでも手段、通過点で、その商品や商品を作った人、例えば、タワーレコードであれば、「NO MUSIC, NO LIFE.」という広告で音楽自体を応援したい。そう考えています。
なので、3年間、先ほども映像で出てたんですが、NHKの『トップランナー』というトーク番組の司会をつたないながらさせていただきましたが、広告を作るということと、例えばテレビに出るということは、ぜんぜん別のことというとらえ方もできるかもしれませんが、僕にとっては、ゲストの魅力をみんなに伝えることで、そのゲストの思いを応援したかった。僕にとっては広告だったんです。
また、「故郷を応援したい」という気持ちから福島での活動をして、去年からは福島県のクリエイティブディレクターを務めさせていただいています。
「広告することは応援すること」ということを、代理店に勤める人全員が思ってるわけじゃない。「広告は世の中を変えること」「広告することはお金を儲けること」だと思ってる人もいるかもしれない。そんななかで僕は、応援というキーワードに出会えて、すごく自分のやるべき広告が見えてきたと思います。
最近はなにをしているかというと、今年の4月から渋谷区、渋谷区は僕が仕事をする地元なんですが、渋谷区にFM局を作りました。
87.6MHz『渋谷のラジオ』というFM局ですが、やはりそれも渋谷区を応援したいし、渋谷区で働く人、暮らす人たちを応援したい、と思って作ったラジオ局です。
それがうまくいくかどうかは、非常にまだ途中の状態なんですが、早稲田大学の放送研究会の方が、さきほどこの会の進行をなさってましたが、「ラジオの学校」みたいにしたいと思っています。
「ラジオでしゃべりたい」「ラジオを作りたい」「ラジオからデビューをしたい」、そんな思いのある人たちにどんどんマイクの前に立ってもらったり、ボランティアというかたちで参加してもらったりしようと思ってます。
なので、みなさんも就活が一段落したら、羽根を伸ばすのもいいですし、「渋谷のラジオに自分もちょっと顔出して手伝ってみようかな」みたいな方がいたら、ぜひ。ホームページのほうからボランティアの募集をしてるので、お持ちしています。
昨日、秋葉原のUDXシアターで、完成披露試写会をしたんですが、インターネットを中心に上映していく短編のドキュメンタリーアニメーションを作りました。
これは福島県の仕事です。福島県と僕が一緒に作りました。アニメーションの制作は福島GAINAXという、『エヴァンゲリオン』を作った会社。2014年に福島の三春という町にスタジオを作りました。
そこと力を合わせて、メイドイン福島のアニメーションを作りたいと考えました。『みらいへの手紙~この道の途中から~』という作品です。
ですから、これも「箭内くん、アニメ作るんだって、また広告じゃないことをいろいろやってるね」と言う人もいますが、これは福島の今というものを正しく伝えたい、誤解を理解に変えていきたいという思いで、短い10本のアニメーションを10通の手紙として綴っています。
僕は3年遅れて就職しましたが、13年間博報堂にいて、どこかで自分より3年前に就職した人間を、ここだけの話ですが、追い越したという感覚になったのが、たぶん10年目くらい経ったときです。だから、スタートは3年遅れたけど、その3年を挽回することが会社に入ったあとできる。
これから就活、まだまだ大変ですが、僕がわりとおすすめするのは、転職のおもしろさはあるなと思って。新卒で入れなかった会社に、そのあと別の会社を経由して4年後に入ってくるみたいなケースが、僕が見てる限りではかなり多くあります。
それも、4年遅れて入ったということじゃなく、その4年なんかあとでバーンと追い越せばいいし。別に落ちる前提で話しているわけじゃないんですが、その4年間やっていた別なことというのが、プロパーの人にはないスキルとか、コンテンツになるので、そういう手もあります。
だから、本当に先は長いし、ワクワクすること、これからなにがあるかわからないので、ぜひがんばってほしいなと思います。
この4月から、僕は母校の東京芸術大学の准教授をすることになって、まさか自分が、3年続けて落ちてるときに、その30年ぐらいあとに、学校で教える側になるとは思いませんでした。今みんなが自分に対して想像していることを超えたことがこれからどんどん起きると思うので、それを夢中で楽しんで、苦しんで、もがいて、受けとめ続けていってほしいなと思います。
時間になりましたが、最後に2本上映します。福島には本当にいろんな思いやいろんな人、いろんな立場があって、正解なんてないというアニメーションなので、なにか結論がついていたり、夢と希望にあふれていたりというようなものではありません。最後にご覧いただきます。
(「みらいへの手紙~この道の途中から~」上映)
今日は、10通のうちの最初の2通を観ていただきましたが、こんな感じであと8通あります。もし就活の手を休めるような時間がありましたら、ぜひ観ていただけたらと思います。
正しい選択というのは、自主避難を選んだ方と、福島で暮らす方と、お隣同士の話ですけれど、けっして福島のことに限った話ではなく、みなさんも含めて選ぶ、選ばれる。そして、選んだことをどうにか自分にとっての正解に結びつけていくことは、一緒なんじゃないかなと観ていて思いました。
このなかの誰でもいいですので、と言ったら申し訳ないですが、どなたかが将来、渋谷のラジオでもいいんですが、広告の世界にやってきたとします。
そして、僕と一緒に世の中を応援したり、幸せにしたりしてくれる人が、「あのとき、俺いたよ」「あのとき、私、あの会場にいました」と言ってくれる人がいたら、こんなに幸せなことはないなと思って、時間をオーバーしてしまいましたが、みなさんへの言葉と代えさせていただきます。
みなさん、がんばってください。ありがとうございます!
(会場拍手)
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