2024.10.10
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「ChatGPTによる新規事業開発の進化」をテーマに、リブ・コンサルティングが新規事業やサービス開発に取り組む人に向けたイベントを開催。同社の先進技術研究組織「ACROBAT」の所長・森一真氏が、ChatGPTを新規事業開発に活用する方法を語りました。
森一真氏(以下、森):データの分析も知的労働ですし、チームビルディングもある意味知的労働かなと思いますが、特に情報処理的で、かつ問題が曖昧ではなく、ちゃんと定義できるものほどAIに向いています。いわゆるリサーチや分析はどんどん優先的にAIに置き換わっていきます。
新規事業アイデアは(スライドの)真ん中にあるんですが、若干情緒的なところや文脈的なところもありつつ、リサーチ等の情報処理的な業務負荷が著しく高いので、うまくプログラムを組むことでかなりAI化が進みやすいと思います。
逆にリーダーシップやチームビルディング、組織文化などは、AIにはまだちょっと難しいと思います。この(スライドの)右上にいけばいくほど、AI化が進みやすいと考えてください。
その中で新規事業のアイデアを作る場合、どう活用できるか。これ(スライド)は新規事業プロセスの事業仮説を作るまでを簡便化した図です。
内部環境と外部環境を分析して、組み合わせて事業アイデアを作っていこうと。アイデアを作ったらそれを深掘りして、事業仮説に落としていく。特に左側(スライド)はAIでレバレッジが可能になります。先ほどお話した課題を解決していこうと思うと、(スライドの)こういったAI活用方針が考えられます。
森:ここまでは基本的な考え方でしたが、ここからは事業アイデアをオートメーションでAIで作る事例をお話しします。いきなりボリュームの話になりますが、わかりやすいかなと思って。
例えば人間が新規事業アイデアを考える時、ホワイトボードにいろいろと書いたりすると思うんです。でも、かなりがんばって100件や200件かなと。
それが生成AIを使うと、数万件のアイデアが作れます。しかも、ただ適当に作っているだけではなく、実際のリサーチに基づいて作る。この事例では100業界以上から3,000件以上の業界課題を抽出して、その中でも特に重要な800件を重要課題として定義しました。
市場トレンドとは、クライメートテック(気候テック)やIoT(モノのインターネット)、バイオテクノロジーなど業界横断で「今、社会が変わっているよね」というトレンドを指しています。そのトレンドの価値の創出方向性が200件以上あります。例えばメタバースだったら、「非常に没入的な体験ができるようになる」が1つの価値の創出方向性だと思うんですね。
そして自社のところでは、WebサイトやPDFを数千ページ以上読み込みませて、その中から自社の強みやアセットの候補を300件以上抽出し、その中で「特にこれだ」というものを100件ぐらい絞り込みました。これらを組み合わせることで数万件以上のアイデアを作りました。それをAIで自動的に評価して、数百件に絞り込む。人間にはなかなかまねしづらいボリューム感だと思います。
森:中身についてはイメージをお持ちしています。
これは実際のデータではなくてダミーです。内容は意図的にフェイクを入れて簡略化していますが、イメージはかなり伝わるかなと思います。
先ほど「業界課題を調べます」と話しましたが、例えば農業という領域で「小規模農家が大規模資本に淘汰されたり、市場参加が難しくなっている」という課題があったとします。そこから「顧客」「問題」「原因」「なぜそれが重要なのか」の調査結果をまとめて整理します。
例えばこの問題の根本的な原因は「農業食品チェーンの変革が挙げられますね」と。「スーパーマーケットのチェーンでの購買力の集中が生じて、小規模事業者の生計が脅かされていますね」と、それっぽいですよね。100業界以上で、こういう粒度の課題仮説を3,000件ぐらい抽出しています。
そこからアイディエーションに進める時に要素を組み合わせるんですが、そのイメージがこちら(スライド)です。
仮にさっきの「小規模農家の市場参加」が課題だとします。(スライド内の)「自社」もダミーで実存しない企業です。自動車部品製造で、電子部品とプラスチック部品の設計・製造が得意な会社がいたとします。
テクノロジートレンドは一般的なトレンドですね。こういったものを掛け合わせた時に、例えばスマート農業キットでサステナブルなものを事業としてやっていったり。もしくは小規模農家の市場参加という課題なので、自動運転で農産物の流通を最適化するアイデアも考えられるかなと。
自社の強みと課題とトレンドを掛け合わせた結果、たくさんのパターンがあるんですが、ここではわかりやすい2つをピックアップしています。こういったものが数万件も出てくるイメージですね。
ここで「持続可能なスマート農業キット」を選んだとしたら、それを戦略ストーリーに落としていきます。
戦略ストーリーとは何か。1つの事業仮説として「なぜこれが勝ち筋だ」と言えるのか。市場に投入した時に「一定の規模で我々が勝てる可能性がある」と言えるのかという仮説です。
例えばミッションが「農業を通じて持続可能性を向上させ、食の安全を確保する」だとします。でも、なぜ今、産業変革が必要かというと、「小規模農家はうんぬん……」という先ほどお話した課題に対してスマート農業キットの仮説が考えられる。
なぜこれを今やるべきかというと「現代のスマート技術の発展と、環境意識の高まりがあるので、今が参入すべきタイミングです」と。それをやった時、当社の優位性はどこにあるのか……。1つひとつのアイデアにこういったストーリーを作っていくことができます。
実際はもう少し粒度が細かかったり、リサーチに基づいて具体的な競合の製品名が入ってくるんですが、これだけでもイメージは伝わるかなと。
森:続いて、実際にどういうことをやっているのかという裏側のお話をします。(スライドでは)「アイディエーションの生産性」と題していますが、先ほどお話ししたように、これはアイデアの要素ですね。課題や自社の強みとアイデアの要素をどう組み合わせるのか。
あとはさまざまなパラメーターです。評価基準も含まれますが、こういったものを入れると、ChatGPT1台あたりで1アイデアを10秒ぐらいで作れます。ChatGPT10台で並列処理を行うと、1万アイデアをだいたい3〜4時間ぐらいで生成できます。
「スピードが質を変えていく」という意味合いで、条件をいろいろ変え、何度もアイデア生成をしたり再評価をしたりしながらイテレーション(反復)を回していくことができます。
ちょっと詳細はお伝えできないんですが、調査、アイデア発想、評価、ストーリー化のようにプロセスを細かく区切っていくんですね。
例えば「業界課題を抽出する」をピックアップすると、業界の定義からバリューチェーンを分析して、デスクリサーチして、課題を抽出して、さらに重要課題に落とし込んで……というステップを経ていくと思います。
このデスクリサーチの詳細ステップでは、調査論点の設計、情報探索・収集、分析・ポイント抽出、関連情報の統合、さらに細かくブレイクダウンしていく。情報探索・収集という1タスクを遂行するのに必要な知識や思考や行動を、AIプログラムに落とし込む。こんなことをやっています。
これを調査から最後の戦略ストーリー化まで、すべての詳細タスクに対して行います。事業開発コンサルタントがやっている事業仮説の構築ですね。このプロセスを細かくブレイクダウンして、一気通貫でAI化する。ここはけっこう愚直にやっていまして、一つひとつのプロセスを全部AI化しています。
みなさん、なんとなくイメージを持つことができましたでしょうか。「アイデアはこういった組み合わせで作っているんだよ」「それをリサーチと組み合わせながら、こういったストーリーに落としているんだよ」というところですね。ここのイメージはなんとなく持っていただけたかなと思います。以上が説明パートでした。
森:では、ここからパネルディスカッションに入っていければと思います。モデレーターを村越さんに変わります。
村越潤氏(以下、村越):ここからは私が、先ほどの事例や進めていくためのポイントなどを森さんにいろいろと聞きながら進めていきます。
いくつか質問の候補を(スライドに)挙げていますが、みなさまも、「ここは実際どうなんだ」と気になるところがあれば、ぜひQ&Aで質問してください。
まず、私から質問です。新規事業開発の支援をたくさんやられているということでしたが、当初想定した部分と実際にやって気づいた違いやポイントがあればぜひお聞きしたいと思います。
森:まず最初に思ったことは、けっこう素朴に「思ったよりも良いアイデアがたくさん出て良かった」ですね(笑)。パターン数をたくさんやっても、「AIが作るので、そんなにおもしろいアイデアが出ないんじゃないか」と、ある意味半信半疑だったんです。
でもAIのプログラム自体にブラッシュアップを重ねたことで、人間の発想の限界を超えるようなアイデアも多数生まれました。それも1〜2件ではなく、何十件というレベルで生まれたので、そこは非常に良かったと思います。
あと、いわゆるリサーチからアイデアを出してストーリーに落とすことは、一般的な事業開発のプロジェクトでも、コンサルタントが稼働するケースでもけっこうやっていますが、こういった流れは人間がやるPJだと、多くの場合は不可逆なんだなとあらためて気づきました。
今回のプロジェクトは、途中でクライアントは「こういうアイデアを求めていた」「こういう方針だった」というのが徐々に明らかになったこともあって、プログラム自体を何度か作り直しているんですね。
いろいろなアイデアをお見せした時に「こういうのよりも、こういうほうがいいな」というフィードバックをいただいて、「こちらのほうが、今、御社の求める方向性に近いんですね」と徐々にわかっていった。
なので、その方向性のアイデアを高く評価するチューニングをして、もう1回全体を走り直させました。人間だと、これはすごく手戻りになるのでたぶん無理だろうなと思いましたね。
村越:新規事業開発を進める上での難しさの1つとしてけっこうありますね。たくさんあるアイデアの洗い出しはできるけど、より良さそうなものを絞り込む過程で、どういう基準を重視するかが各社さんによって変わる。ないしは同じ企業でも、判断される方が複数人いる場合、人によって変わったり。
その観点で行ったり来たりしながら見た時に「アイデア? ないな……」という、一番悲惨なことが起きるかもしれない。それが難しさだなと思います。そういったことが起きる時に、AIにはどんな良さがあるんでしょうか。
森:クライアントが本当に求めている領域や方向性を知ったあとに行ったチューニングとしては、ある特定の業界、ある特定のカテゴリーだけをものすごく細かくブレイクダウンしました。通常は1~3業界ぐらいの粒度感ですが、10業界ぐらいに細かく分割して、いろいろなパターンを出すようにしたり。あとは評価基準を新しく作りました。
自社の特定の方向性に沿ったアイデアかどうかを評価基準として作り、その評価軸の重みを増すことで、求める方向性のアイデアを相対的に高く評価し、より多く出力することができるようなりました。
村越:そのやり直しに必要な期間はどれぐらいですか? 評価を置き直したあとに残るアイデアを、通常のアナログ的な新規事業で出し直そうすると、相当なやり直し感があると思いますが、AIを活用するとどれぐらいで解決するんでしょうか?
森:評価のやり直し自体は1〜2日でできるんですが、新しい評価軸を作るのは3日ぐらいかかったので、ざっくり1週間ぐらいでやり直したと思いますね。
村越:ただ評価の作り込みができたあとは、その先はまた自動でやってくれるので、アイデアの出し直し自体は数時間ぐらいでできるというイメージですかね。
森:そうですね。チューニングレベルであれば1日ぐらいかなと思いますね。
村越:もう1つ聞きたいのが、先ほど話のあった数万件のアイデアを出した上で絞り込んだプロジェクトは、何人ぐらいの体制でやっていたのでしょうか。
森:私とエンジニア1名の、合計2名です。たださっきも話しましたが、AIを10台並列稼働したので、「実質12人」と言っていいのかどうか……という感じですね(笑)。
村越:10台のAIと2人ということですね(笑)。
コンサルタントが数万件のアイデアを出して、そこから絞り込みをするとなると、リサーチを含めて10人以上の人間が入らないとできない。そう考えると、かなりのコストがかかるプロジェクトかなと思います。それを2人プラスAIによってできるのは、圧倒的なコストパフォーマンスではないかなと感じました。
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