2024.10.10
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世界的なイノベーション&クリエイティブの祭典として知られる「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。2024年も各界のクリエイターやリーダー、専門家らが多数登壇し、最先端のテクノロジーやプロダクト、トレンドについて講演を行いました。本記事では、イェール大学の教授であるローリー・サントス氏の講演の模様をお届けします。自分の心と時間を守るための「セルフコンパッション」のポイントを解説しました。
ローリー・サントス氏:私の好きな提言のもう1つは、心理学者のガル・ゾーバーマンのものです。彼は「Yes-Damn Effect」と呼ばれるものについてたくさん話しています。
Yes-Damn Effectとは、何ヶ月も前に誰かが「このプロジェクトの報告書を書いてくれないか」「このミーティングを2、3時間設けてくれないか」「この会議に出てくれないか」とか言われて、それが非常に遠いように感じられると「はい」と答えてしまうことです。
しかし時間が経ち、その日がやってきてカレンダーを見て、そのばかげた予定がそこにあると、あなたは「くそっ」と思います。それがYes-Damn Effectです(笑)。ゾーバーマンは、彼が「No-Yay Effect」と呼ぶ、別の効果を受け入れるべきだと提案しています。
No-Yay Effectの仕組みはご想像のとおり、「このプロジェクトレポートをやってもらえますか?」「これをやってもらえますか?」と言われた時、あなたは断ることを約束します。
しかし、ただ「ノー」と言うだけではありません。「私がノーと言ったそのプロジェクトはいつ提出する予定でしたか?」と聞き、その後あなたはカレンダーを見て、その日付にあなたがやらなければならなかったとされていたものを書きます。
そしてあなたが当日その予定を見て、「私はこれをやらなくてもいい。イエーイ」と言います。それがNo-Yay Effectです。要は、私たちがしていることは、自分の時間を積極的に守ることなのです。お金について考えるのと同じように、時間についても優先順位をつけて考えるのです。
実際、アシュリー・ウィランズと彼女の同僚の研究によると、時間に焦点を当て、お金ではなく時間に投資するほど幸せになるといいます。みなさんがサウスバイにいらっしゃるのは、このようなイベントに参加するために、少なくとも何らかの余裕のある収入があるからでしょう。
ウィランズの研究は、時間を取り戻すために裁量所得を使えば使うほど、つまり時間を得るためにお金をあきらめればあきらめるほど、幸せになれることを示唆しています。そして、私たちはしばしば考えもしないような、本当にバカげた方法でこれを行うことができるのです。
仕事の合間にテイクアウトを注文したことがある人もいるかもしれませんね。私たちはそれを時間の節約とは考えないかもしれませんが、研究によると、そうすべきだとされています。
例えば、パッタイを外で買ったとしましょう。(テイクアウトすれば)自分で料理する必要もなく、レシピを調べてピーナッツソースを買う必要もありませんでした。おそらく1時間半、1時間45分くらいは節約したでしょう。その1時間45分をどのように使いますか?
つまり、より多くの時間を取り戻すためにお金を使うということです。時間の豊かさを守る最後の方法は、今ある時間を有効に使うことです。
私たちの時間は、家を食い荒らす“シロアリ”のように、小さな塊に分割されることがあります。これをジャーナリストのブリジット・シュルツは「時間の紙吹雪」と呼んでいます。Zoom会議が終わった後の5分とか、子どもが寝てしまった時の10分とか。しかしシュルツは、その「時間の紙吹雪」に投資することを提案します。
そこで彼女は、時間の紙吹雪のウィッシュリストを作ることをすすめています。これは仕事のToDoではなく、自分のためのToDoです。例えばリラックスしたり、瞑想したり、その他のセルフケアをする時間のことです。
ポイントは、RedditやInstagramなどで紙吹雪をまき散らす代わりに、実際に何か役に立つことをするということです。そうすることで、少し時間が豊かになったような気がします。これが2つ目のヒントです。
「生産性とは目に見える忙しさである」という考えを見直す必要があります。カレンダーが埋まっているとかではなく、もっとゆっくりとした生産性を受け入れることが必要なのです。本当に必要な時に「イエス」と言えるように、多くのことに「ノー」と言うのです。
しかし、忙しさや大量消費文化、ガールボス(経営者など、自立して成功を追いかけている女性)、内面化された資本主義が最も優勢であるという現代の状況では、「ノー」と言う行為自体が難しいのです。
本当に自分の時間を守りたいのなら、本当にもっとうまく働きたいのなら、科学が最も効果的であると示唆する方法で自分をやる気にさせる必要があるのです。それは「セルフコンパッション」と呼ばれるもので、自分を動機づけることです。
さっきも言ったように、私たちはみんな自分を追い込みたいと思っていますよね。どうすればそれがベストなのかということについて、ここ5から10年の間にいくつかの考え方が生まれました。それは、ハッスルカルチャーという考え方に集約されると思います。
「自分を奮い立たせ続けろ」「死んだら眠れる」といったマントラが私たちの口癖になっています。でも、それではうまくいかないということが、研究によって明らかになり始めています。
こういったマントラは私たちの脳みそに刷り込まれ、「もっと働かなければならない」「もっと努力し続けなければならない」と思わせるのですが、実はそれではうまくいきません。先延ばしにしたり、自己批判に走ったりしてしまうから、あなたはただ自分を押し殺し続けるだけなのです。
「自分をやる気にさせる方法は、訓練指導員やハッスルカルチャーの戦士のように自分に向かって叫ぶことだ」と誤解しているのです。私たちが考えているようなやり方ではうまくいきません。
では、どうすればこの誤解を解くことができるのでしょうか? 私たちは、自分自身を動機づけるためのより良い方法を開発する必要があります。
最近の多くの科学から得られた方法は、セルフコンパッションによって、自分自身のやる気を高める必要があるということです。もしあなたが興味があるのなら、クリスティン・ネフの著書がおすすめです。
彼女の多くの研究では、自分自身を動機づけるためにセルフコンパッションに取り組みたいのであれば、3つのポイントがあることを覚えておく必要があると示唆しています。
1つ目は非常によく知られているもので、自分のネガティブな感情を認識することです。「つらい」「とても疲れている」「とても不安」「とても恥ずかしい」と、何が起こっているかを知る必要があります。これがマインドフルネスです。
2つ目のステップは、そのマインドフルネスを活用することです。これは誰もが経験することで、失敗するのも当たり前、圧倒されるのも当たり前。これが普通なのです。でも、そこで終わりではありません。「自分に優しくなるにはどうしたらいいか」と自問するのです。
私は何を手放すことができるのか? どうすれば今の自分を助けることができるのか? 今の私は何が必要なのか? と、まるで同じ問題を抱えた友人があなたの家に現れたかのように、その友人に話しかけるように自分に話しかけるのです。
私は「自分自身に友人のように話しかける」という考えが好きです。なぜならセルフコンパッションの実践を考える時、特にハッスルカルチャーの考え方からすると、それは自己満足のようなもので、自分に優しくしすぎている、自分を解放してしまっているのではないか? と心配になることがあるからです。
でも、悩んでいる友だちにどう声をかけるか考えてみてください。ハッスルカルチャーの戦士のように怒鳴ったりはせず、好奇心を持って優しく話しかけるでしょう。「何が起きているのかわからないけど、君のことが本当に心配だよ。どうすれば解決できる?」と、好奇心を持って問題解決に取り組むのです。
そのように自分に語りかけることは独りよがりではありません。これは思いやりの一種であり、研究は本当に効果があることを示唆しています。実際にクリスティン・ネフは、セルフコンパッションの実践がもたらすあらゆる効果を検証し、信じられないほど説得力のある効果を挙げています。
例えば、セルフコンパッションが退役軍人のPTSDを軽減できるかどうかについての研究を行いました。イラクやアフガニスタンの帰還兵に、前もってセルフコンパッションの戦略を教えておくと、帰還兵が抱えているトラウマの割合が減るというのです。
ネガティブな感情を乗り越えて自分に優しくすることは、信じられないほどの力を発揮するのです。クリスティン・ネフは、自分に優しくすることで、未来の自分に優しくなりやすくなることを発見しました。セルフコンパッションをする人は、より健康的な食生活を送り、老後のための貯蓄を増やし、将来の自分を優先できるようになります。
そして、セルフコンパッションが先延ばしを減らすことができることを発見しました。つまり、セルフコンパッションはもっと多くのことを成し遂げるための方法でもあり、他人への思いやりを実践するすばらしい方法であることもわかっています。
セルフコンパッションが強い人は、恋愛関係でも、子どもとの関係でも、仕事のチームメイトとの関係でも、セルフコンパッションを示します。セルフコンパッションは、気分を良くする強力な方法なのです。
でも、もっとセルフコンパッションを見つけるために、特にハッスルカルチャーにどっぷり浸かっている私たちが使える実践的な戦略は何でしょう? クリスティンがすすめている、安っぽく見えるけど効果的な方法の1つは、思いやりのあるセルフタッチをすることです。
最後に嫌なことがあった時のことを考えてみてください。両親がまだいるのなら、お母さんに電話したり、コーヒーを飲みに行ってハグしてもらったり、友人や配偶者に会ったりしたかもしれません。私たちは、ある種の触れ合いで互いを慰める傾向があります。
クリスティン・ネフは、「自分自身にそうしてあげてください。バカげて見えるかもしれませんが効果があります。実際、脳はバカです。誰が触っているかわからないのです」と言います。
練習が必要なので、ここにいるみなさんにもセルフハグをしてもらいます。私は、この触れ合いの練習が好きです。自分自身と違う話し方をしなければいけないと気づかせてくれます。そして、その戦略を使って話すのです。
今は本当につらくて、苦しくて、最悪で、うまくいかない。でもそれは普通のことです。人間だからストレスは人生の一部で、誰もが苦労するものです。そして苦しんでいる時に、「私は何を手放すことができるか?」「今、私には何が必要か?」と自問するだけでも、非常に強力なことができます。
繰り返しになりますが、私たちがそう思っていなくても、ハッスルカルチャー的な自己批判よりも、セルフコンパッションは自分自身を動機づけるずっと良い方法だということが、研究によって示されています。
私たちはセルフコンパッションで自分をやる気にさせなければなりません。しかし問題は、「私たちは何をするために自分を動機づけるのか」ということです。私たちがより充実し、燃え尽き症候群を減らすために、仕事の中ですべきことは何でしょうか?
本当に燃え尽き症候群と戦いたいのであれば、仕事が天職になるように少し工夫する必要があるということが、研究によって示されているのです。
燃え尽き症候群はサウスバイでみんなが話題にしていることですが、これについても多くの誤解を抱いていると思います。私たちは燃え尽き症候群を単に精神的な疲労のことだと考えていますが、研究によると、燃え尽き症候群はむしろ職業的な問題の可能性があります。私たちが理解しなければならないのは、あなたと仕事との相互作用なのです。
このことは、クリスティーナ・マスラックのすばらしい研究からわかっています。彼女は燃え尽き症候群の科学的な専門家で、私たちが組織の中で燃え尽き症候群になるステップを順を追って説明しました。
彼女は6つの要因を挙げています。その6つは、私たちがよく思い浮かべるようなものです。仕事量が多すぎるとか、自分のしている仕事に対して十分な報酬を得られていないとか。しかし、このリストの中で特に重要なのは、一番下の「価値観の不一致」です。
私たちが燃え尽きるのは、仕事をするうえで期待していた価値観と、実際に経験している価値観が一致しない時です。これは本当に問題だと思うのですが、いろいろな業界で起こっています。
例えば看護師であれ医者であれ、その仕事に就いたのは、人を助けることが自分の価値だからです。でも現場では、保険会社や病院のためにお金を節約し、患者を素早く処理させているように感じます。そのミスマッチが、私たちを燃え尽き症候群に陥れるのです。
つまり、私たちは自分の価値観を正しく理解する必要があるということですね。そのことにもっと集中すべきなのです。でも、私たちはその方法を知りません。
しかし、良いニュースがあります。どのようにそれを行うかに焦点を当てた研究はたくさんあります。その多くはペンシルベニア大学のクリストファー・ピーターソンとマーティン・セリグマンの研究から来ており、自分の特徴的な強みを見つけることに焦点を当てています。
彼らの研究は基本的に、仕事やボランティア活動において、人々が良いことを成し遂げるために関与する価値観は何かを調査しています。彼らは異文化を横断して調査し、24の「性格的な強み」と呼ぶものを特定しました。リストを載せますので見てみてください。希望、粘り強さ、自制心、生きる力、美への感謝、勇敢さなどです。
これらは私たち全員が共感できる価値観です。しかしリストをスクロールしていくと、「私は本当は創造性が好きなんだ」「私は本当はユーモアが好きなんだ」「私は生きる力が好きなんだ」と、その中でも特に共感するものがあるかもしれません。それが、研究者たちが「特徴的な強み」と呼ぶものです。
これを調べるには正式な方法があります。私はこのテストと提携しているわけではありませんが、テストは無料で行うことができます。もしあなたがこれらを見て、何か1つが目に飛び込んできたら、おそらくそれがあなたの特徴的な強さなのでしょう。
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