2024.10.10
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グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「メディアとプラットフォームの今後はどうなる?」のセッションの模様をお届けします。『文春』とガーシーの違いはあるのか? 現在の広告ビジネスの構造の問題点について議論しました。
津田大介氏(以下、津田):もう1つ、アットコスメとセグメントが似てるところで言うと、みなさんもニュースで覚えてるかもしれないですが、「クックパッド」で乳幼児が亡くなったことがありましたよね。乳幼児にはちみつって与えちゃいけないじゃないですか。だけれども、離乳食としてはちみつのレシピが投稿されていた。
それを見て、知らずに与えてしまって亡くなるというすごく痛ましい事件があったんですが、あれは全量有人監視していれば即座にはねられるケースだったわけですよね。だからあれは、まさにプラットフォーマーが責任を果たせなかったということです。
やっぱり全量有人監視は大事だと思うし、コストをかけなきゃいけない。ただ、「AIじゃ限界があるよね」と言われていたのが、この1年で生成AIがすごく発展しちゃったので、プラットフォーマー側が「あれ、やっぱりAIでいける?ってなるんじゃないかなという危惧を持っていて。このへん、藤代さんはどう見てますか?
藤代裕之氏(以下、藤代):AIがフェイクニュースを作って、そのフェイクニュースをAIが収集して、そこからさらに生成するので、僕は大規模言語処理を“ミックスジュース機”だと思っていて。ミックスジュースって、ミキサーに材料を入れたらブイーンって出てくるじゃないですか。
ミックスジュースになったものを「おいしいね」ってゴクゴクって飲んでも、何を入れたかはわからないですよね。その中に何が入ってるかがまったくわからないまま、私たちは情報を“飲む”時代に来ているわけです。
津田:「メディアリテラシーを高めて対応しよう」というのが、まったく無意味な時代になりましたからね。
藤代:ミンチの中に入っていますからね。時々、人参が嫌いな人が必死でカレーの中の人参をどけたりしてますが、全部混ぜてミックスジュースにすると、1つずつ振り分けるのは無理じゃないですか。
逆に言うと、お子さんに「嫌いな人参を食べさせよう」というご家族の努力もあるわけです。世の中にそういうものも出回る時代になってきた時に、どうやって信頼を確保するのかってなると、やっぱり違うフェーズになってくるなと思っていて。
食べ物と議論がすごく似てると思うんです。ミックスジュースの話をしていますが、私たちは夜にジャンクフードとかを食べますよね。例えば今日のあすか会議の打ち上げで、帰ったらカップ麺を食べる人もいるかもしれない。
「いやあ、今日はがんばった。カップ麺うまいなぁ」もあるけど、やっぱり子どもにはきちんとしたもの食べさせたい。今、これを選ぶ基準がないんですね。たぶん、これからはこの基準を作っていく必要があると思うんです。そうしたらユーザーが選べる。
今は全部の情報が混ざっちゃって、何がなんだかわからない。そこをなんか区分していく取り組みが必要なんだと思います。
瀬尾傑氏(以下、瀬尾):そうですね。
瀬尾:藤代さんの話で言えば、まさに信頼の基準を見えるようにしていくことがすごく大事だと思うんですよね。
例えばガーシーと『文春』がどう違うのかと言うと、どっちも「スキャンダルを暴いているんじゃないか」というふうに見えるけれども、まったく違う部分があって。ガーシーは犯罪なんですよね。「脅迫ビジネス」です。一方で『文春』はそうではないわけですよね。
ところがこれを広告ビジネスとして見た場合に、なんでガーシーが成立するかというと、名誉毀損コンテンツにも広告がつく仕組みができているんですよね。例えばYouTubeとかを使って、違法どころか相手の人権を毀損するようなコンテンツでも稼げるような状況ができてしまっている。
なので、まさに「信頼」がない。信頼がないどころか、人権を圧迫するようなコンテンツがビジネス化するような仕組みができてるという、広告サイドの責任はすごく大きいと思うんですよね。
広告の責任は2つあります。1つは、クライアントがどこに広告が出てるかすら把握してない「クライアント側の認知の問題」。もう1つは、それをいいことにいろんなところに違法なコンテンツにすら広告を出す「広告プラットフォームの問題」もあります。
この前「MIT Technology Review」の中で、「Googleの広告コンテンツがGoogleの基準を違反しているところにすら出ている」というレポートも出てました。
瀬尾:広告ビジネスの仕組みとして、プラットフォーム側が広告プラットフォームの責任を果たしていない問題はすごく大きい。藤代さん、そこはどう見てますか?
藤代:『文春』とガーシーはそんなに違うんですかね?
瀬尾:法律に明確に違反してるという意味では、僕は違うと思います。要するに犯罪……。
藤代:でも、『文春』もよく訴えられているじゃないですか。
瀬尾:あれが訴えられているのは……。
藤代:弁護士が強力か、弁護士が強力じゃないかだけの違いなのでは?
(会場笑)
瀬尾:いや、民事で訴えられているのと刑事事件になるのは違いますし。
藤代:なんでそんなに『文春』の肩を持ってるの?
(会場笑)
瀬尾:僕は『FRIDAY』にいたことがあるんですよね。
津田:『文春』と『FRIDAY』は、名誉毀損というかプライバシー侵害で負けるケースのほうが多いかもしれないですよね。
瀬尾:だから、そこは本当に明確にしておいたほうがいいと思うんですよ。犯罪行為・人権を損なう行為と、倫理で語れる部分と、刑法のような法律で語れる部分とは違いますよね。
そこをすごく曖昧にしていくと、「そういうコンテンツもいいんじゃないか」と許されるんだけども、法律に違反してるものに関しては明確にダメだって言うことは重要だと思いますよ。
藤代:でも、『文春』やガーシーは基本的に同じくくりだと思うんです。そういう人たちは裏通りのほうでビジネスをやってもらって、きちんと社会のことやビジネスのことは……。
だってあれですよ。タレントさんのラブレターを見て、何の経営判断ができるんですか? どういう関係が? 「すごくアイドルのファンだったから残念だな」って思うことはわかるよ。でも……。
瀬尾:要するに、例えばそれが違法であれば、当然問題だと思うんですよ。僕は別に『文春』の肩を持つわけじゃなくて、違法なものに関しては、きちんと広告がつかない仕組みにするべきだと思うんですよ。
藤代:なるほど。
瀬尾:それを放置してる状態がよくないと思ってるんですね。
藤代:なるほど。さっきの区分というのは、違法かどうかの前の話。
藤代:山田さんたちとWOMJを作りましたが、何が大事かというと、法律の前に自分たちが自主規制を作るんですね。その時にラベリングをしなきゃいけないと思っていて。
端的に言うと“ゲスメディア”という点においては、文春もガーシーも変わらないわけじゃないですか。だったら「ゲスのところにいてください」ってことなんです。
だって、『日経新聞』とガーシーが同じ単価って、そんなのおかしくないですか? 有機農法で作った野菜が、そのへんの人工知能で作っためちゃくちゃな人造野菜と同じ値段で売られていますってことが、広告の問題なわけじゃないですか。
瀬尾:そうなんです。きちんと仕組みを作るべきだと思うんですね。今は広告って、嘘の情報であろうが人権侵害されてる情報であろうが、評価が同じなんです。やっぱり、信頼のある違う評価軸をきちんと持つべきだと思うんですね。
藤代:そこで問題なのは、メディア側が「『文春』はガーシーと違う」って言っていることが実はネックになっているんですよ。「あなたたちはゲスいんだから、ゲスいところにいてくださいよ。広告単価は10分の1ですよ」というふうにしないと、社会としておかしい。
津田:それって、統制しようとする場合はどうするんですか? やっぱり消費者庁がやるしかないんじゃないですか?
藤代:できれば自分でやってください。自主規制、自主的な取り組みがすごく重要なので。
津田:でも資本の論理で言えば、自主的にやるわけがなかったのがこの何十年かですよね。
藤代:週刊誌の人たちの矜持を見たいですね。週刊誌の人たちが「自分たちは『日経新聞』やNHKと同じだ」と思っているなんて、私はもうさらさらそんなことは思わないですね。
(会場笑)
藤代:やっぱり、不良は不良としてがんばっていただかないと。
津田:でもそれって、週刊誌の問題というよりかは、どっちかというと「出稿する側の企業の意識の問題」という話になってくるんじゃないですか?
藤代:それはあって然るべきだと思います。なぜかというと、雑誌の時代はそこはしっかりとわかってるわけですね。『文春』とか『プレイボーイ』に広告を出すってことは、その企業さんは「『プレイボーイ』や『文春』に広告を出しているんだ」という自覚があるわけですよ。
でも瀬尾さんが言ったみたいに、今のインターネットは勝手に流れちゃうので。もともとラベルによって区分していたんですから、そういうかたちに戻せばいいんですよね。
津田:難しいんですよね。藤代さんの言うことに僕も8割ぐらい同意しつつ、そうは言っても「ジャニーズ報道で一番公共性を果たしてるのは『文春』じゃん」みたいなところもあるので。
かつてオールドメディアだったら媒体に出したわけですよね。でもガーシーはコンテンツ単位でやばいわけじゃないですか。例えば「ゲスいコンテンツには広告がつかなくなって、公共性が高いコンテンツにはいい広告がつくようにしよう」といって解決するのかというと、実は問題は解決しないっていうね。
藤代:じゃあ「文春パブリック」「文春ジャスティス」とか作ればいいじゃない?
津田:(笑)。
藤代:パッケージの時代を引きずりすぎていると思うんですね。だって、昔はパッケージだったからこそ、グラビアとかの横にスクープもあるっていうかたちで、読んでくれたわけじゃないですか。でも今はパッケージが崩壊してるので、コンテンツ単位でどんなジャンルにするかを考えないといけなくて。
藤代:みなさんが食品を買う時とまったく同じだと思うんですね。パッケージに「○○農園」とあったとして、ブランディングがあればわかると思いますが、店頭に並んだ時にその「○○農園」がどんなやり方をしているのか、私たちはわからないじゃないですか。
食品の表示で、どんな化合物が入ってるのか、どんなアレルギー物質が入ってるのかって、今はもう出るようになってますよね。
それが、なぜ私たちの脳みその情報であるニュースや情報に適用されないのかと考えると、ある意味出し手側に「そうされたら困る理由」があるんですよね。そこはやっぱり、意識を変えていただかないと困るなと思ってます。
津田:(食品は)我々の口に入るもので、自分たちの健康に影響があるから、有機農法とか「できるだけ怪しい農薬が入ってなさそうなものをやろう」っていうのは、みんなも頭で理解できるじゃないですか。でも、実は情報も同じですよね。
つまり今の藤代さんの話で言うと、広告をどうつけていくのか。公共性が高く、質の高い報道こそ、本当は広告単価が上がらなきゃいけないんだけど、現実は逆のことが起きていて。
本当は、公共性が高い質のいい報道を摂取したほうが、我々の知的な営み的にもたぶんいいことがある。知的な健康という意味ではいいに決まってるんだけれども、でも(食品と情報とでは)同じようにはなっていないという話ですよね。
瀬尾:そうなんですよね。
瀬尾:山田さんは、そこはどうご覧になってますか? 広告を出稿されるケースもあるんですかね。
山田メユミ氏(以下、山田):はい。サステナブルに運営していくには、収益を得なければならないので。私たちのクライアントは、ほぼ100パーセントが化粧品メーカーです。ここもずっと、いろんな議論をしてきていて。
本当に初期の頃は「化粧品メーカーの広告を出してしまうと、中立性を侵してしまうんじゃないか」「女性が集まるメディアとして捉えて、女性にアプローチしたい化粧品メーカー以外の人たちに出稿していただいたほうがいいんじゃないか」と考えていた時期もあるんですが、ぜんぜん喜ばれないんですよ。
女性だからいらしてるわけじゃなくて、バーティカルな自分の関心があるコンテンツがあるからいらしてるのに、関係のない女性向けの車の広告とかがあっても、ぜんぜんアクションされないんですね。
結果的に、化粧品メーカーさんの反応率が圧倒的に高くて。なのでクライアントの化粧品メーカーからも、有益なメディアとして見ていただいてるからこそ関係を築いてきていて、今があるんです。
ただ、我々のサービスの中でも、例えばある口コミが企業に対してネガティブなことを言っていて、「削除せよ」と強く言われた経験は多々あるんですが、そこを削除してしまうと我々が存在する意義がなくなってしまうので。
企業さんがなんと言おうと、「ここはあくまでも口コミの情報なので触れられませんよ」「ここまでは企業の情報を掲載する、ここから不可侵である」ということを、ずっと企業さんとやり取りしてきました。
それが、企業にとっての信頼につながったという視点もあって。言うほどきれいごとではないんですが、ずっと戦いながらやってきた歴史があります。
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