CLOSE

なぜリーダーは歴史を学ぶべきなのか? 求められる「現状認識」と「フラットなリーダーシップ」(全4記事)

10人チームでも10万人組織でも変わらない、リーダーの条件 東芝・島田社長が語る、リーダーが歴史本を読む意義

グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、東芝・島田太郎氏、日本アイ・ビー・エム・山口明夫氏、そしてコテンラジオの深井龍之介氏が登壇したセッションの模様をお届けします。1回目は、リーダーにとって一番難しい課題や、山口社長が涙した社員の言葉などが紹介されました。

テーマは「歴史から学ぶリーダーシップ」

君島朋子氏(以下、君島):今日はすばらしいリーダーのみなさんをお迎えしております。これから、みなさんと一緒に「歴史から学ぶリーダーの在り方」をたっぷり学んでまいります。

お話を聞いた後、「よーし、リーダーとして心新たにこの2日間学びまくるぞ!」と思えるような時間をお届けできたらうれしいです。

最後に会場のみなさんからの質問に対して、パネリストのみなさんからお答えいただくお時間も設けていますので、ぜひご質問を準備して聞いていただければと思います。

今日来ていただいているのは、東芝の島田さま、日本IBMの山口さま、そしてCOTENで「世界史データベース」を作っていらっしゃる深井さまと、非常にテクノベートな企業のトップでいらっしゃるみなさまです。

「歴史から学ぶリーダーシップ」というお題で、みなさんがリーダーとしてどんなふうに考えているのか。大変な時をどうやって乗り越えているのか。どんな心持ちでリーダーとして率いていらっしゃるのかを、たっぷりお聞きしたいと思います。

みなさんのリーダーとしての在り方の中から、「歴史的に、普遍的なリーダーに必要な要素」を考えていきたいと思います。さらに、現代テクノベートの企業を率いていくのにどんな要素が必要で、どうお考えなのかもうかがっていきます。

歴史から学ぶというテーマでもありますので、深井さんもお呼びしています。深井さんは歴史のデータベースを開発中で、『歴史をおもしろく学ぶコテンラジオ』というポッドキャストでは23万人ものリスナーを迎えていらっしゃいます。

まず、深井さんから歴史のリーダーから学ぶ意義を簡単にお話いただいてから、内容に入ってまいります。では深井さん、歴史から学ぶことの意義を教えてください。

リーダーにとって一番難しい課題

深井龍之介氏(以下、深井):リーダーがなぜ歴史を学ぶ必要があるのかですね。理由はいくつもありますが、あえて1つに絞りたいと思います。僕は3,000年間分ぐらいの歴史の本を、何百冊、たぶん何千冊も読んできましたが、成功するリーダーと失敗しているリーダーにはそれぞれの特徴があるんです。

灯台下暗しですけど、リーダーにとって「現状認識」が一番難しいようなんですよ。自分たちが今どういう状況に置かれているか。自分のステークホルダーがどんな感情を持っているか。自分たちが今、どっちに向かっているのか。こういう単純なことを認識するのが実はすごく難しいみたいで。

この現状認識がしっかりできているリーダーは、その後何をすればいいのかがわかるじゃないですか。だからリーダーが歴史を勉強する上で大事なのは、現状認識だとわかってきたんです。今、僕たちが生きている時代が、どんな時代なのかを理解しようとする。これはまさに現状認識ですよね。

未来のことはわからないので、過去を勉強するしかないんですね。自分たちがどんな時代に生きているかは相対的にしか理解できない。自分たちとは違う時代を勉強する、知ることによって、初めて今の時代の特徴がわかると僕は思っています。

古今東西、昔からリーダーにとって大事だったように、現代のリーダーにとっても、当然現状認識は大事です。現状認識のおおもとになるのが、時代認識です。我々が今どんな時代に生きていて、どのスピードで変遷し、どこに向かっているのか。これを認識するには、どうしても自分たちが生きている時代以外のことを知らないとわからないと思います。

いくつも理由がある中でもリーダーが歴史を勉強しないといけない一番の理由は、これじゃないかなと思っています。

君島:「リーダーには正確な現状認識が大事だよ」とのことですね。

「自分自身は現代にしか生きていられないわけですから、正確に現状を認識するためには、歴史的な視野を持って『今はここなんだ』とメタ認知できなければいけないよ」と、そんな認識を持たないといけないと教えていただきました。

日本IBM山口社長が涙した社員の言葉

君島:では、現状認識をきちんとお持ちになったリーダーとして、どのように現状を乗り切っておられるのか。リーダーとして大変な時をどう乗り切ってこられたのかを、お二人のリーダーにうかがってまいりたいと思います。

山口さまは日本IBMという非常に大きな会社のトップでいらっしゃいます。私から見ると本当に大変な事業をリーダーとして率いていらっしゃるなと思うわけなんですけれども、ご自分で大変な局面をどう乗り切っていらっしゃるのか。どんなふうにリーダーとして振る舞っていらっしゃるのか。ぜひ具体的なエピソードとともにうかがえればと思います。

山口明夫氏(以下、山口):私はみなさんによく「大変でしょ?」と聞かれるんですけど、基本的に大変なことは、すぐに忘れるんですよね。

過去を振り返ると、夜中に2回も3回も目が覚めるぐらい悔しいこともあって、つらいなと思うこともありましたけど、こうやってあらためて聞かれると、まあそれもいい思い出だなと。

例えば、直近だとおそらく2年ぐらい前ですが、日本IBM全体を分社化するという判断があり、その結果として日本も分社化することになりました。分社化される組織は、私が若い頃からずっと育ってきた組織でした。

経営の判断としては正しくても、分社化される側の社員からするとつらいわけです。「ずっとこの会社で働きたい。私はIBMが好きだから入ってきた」と言われたり、お客さまからも「それで大丈夫なの?」というお声もいただいたり。

当時、みんなとずっと話をしていて、荒れた会議もありました。自分がやっていることが本当に正しいのか。経営全体では正しい判断かもしれないけれど、そんなことをしていいのか。

そう悩んでいた時に、ある社員が私の部屋に来て、「さっきの会議で、山口さんは相当つらそうだった」と。「いろいろなことが起きるかもしれないけど、現場の社員はそんなにやわじゃないですよ。山口さん、僕たちはがんばりますよ」と言ってくれたんです。

半年ぐらい、本当にもう悩みに悩んだ時期だったので、彼がその部屋を出ていった後、涙が出たことを今でも思い出しますね。こういうメンバーが、助けてくれる人たちがいるんだと感じて心を決めましたね。傲慢な考え方かもしれませんけど、「絶対に両方の会社の社員にとっていいかたちでやろう」と。今もそれはがんばっています。

助けてくれたメンバーに「何か返したい」という思い

君島:ありがとうございます。今のお話をうかがって、私はちょっと意外で。「大変なことなんかないよ。へっちゃらさ」とおっしゃるかと思ったら、部下たちの悩みに共感して涙されたというお話で。「山口さまにもそんなことがあるんだ」と思って、ちょっとほろっとしました。

そういうつらい決断をされなきゃいけない。いっぱい泣いている子がいると思っても、経営者としてはこっちの道を選ばなくてはいけない時がおありだと思うんですよね。

ご自分がリーダーとして方向性を決めて、進めていかないといけない時に、どうお考えになって前に立っていらっしゃるんですか?

山口:基本は「絶対に全員がいいかたちにしよう」と。たぶんそんなことは無理だと思うんですけれど、それを追求し続けようと心に誓って取り組んでいくだけですかね。正論かもしれませんが、そうしないと心がもたないですよね。

あと、お客さまにすごくご迷惑をおかけしたプロジェクトがあって。その時、お客さまのところに行って「これは無理だ」と言うべきかなと思っていたんです。そこで部下のプロジェクトマネージャーに「どう思う?」と聞いたら、「でも約束したし、やるしかないですよね」と。「だけど嫌だと言っている社員もいるよね」と話したら、「じゃあこれから全員にメールを打ちましょう」と。金曜日の夕方に社員全員にメールを出したんですよ。

「これから、私たちはこのプロジェクトをやる。だけどみなさんの中で『できない』もしくは『やりたくない』と思う人は、月曜日に会社に来なくていいよ。決してそれはとがめないし、新しい仕事とプロジェクトをちゃんと見つけるから」とメールを送ったんです。

その彼と2人で「月曜日の朝来たら、俺ら2人だったらどうする?」と、土日もめちゃくちゃ緊張するわけですよ。そして月曜日の朝、8割くらいのメンバーが集まってくれましたね。そこから「じゃあこのメンバーでやろう」と。それからのほうが生産性が上がって前に向かい、最終的にはうまくいきました。

何が言いたいかと言うと、このプロジェクトもそうだったし、部下に助けてもらったということ。会社の分社化の時も、「山口さん、現場はそんなにやわじゃないですよ。私たちがやりますよ」「ちゃんと指示についていきますよ」と言ってくれた人たちの言葉に自分は助けられてきた。そして一緒に仕事をしてきている。

だから「彼らに何か返したい」という思いで、今も仕事をしています。これが私の経験です。

君島:山口さんとメンバーの間にお互いに通い合うものがあって、「それに感謝しているよ」と山口さんが言ってくださって、110人の方もついてきてくれた。そうやって大変な時を乗り越えてきておられるんですね。ありがとうございます。

10人チームでも10万人組織でも変わらない、リーダーの条件

君島:同じように島田さんにもお聞きしたいと思います。島田さんは毎年「あすか会議」にお越しくださるんですが、「東芝で大変そう。でもすっごくニコニコしておられるなぁ」と思って毎年拝見しているんですね。

そんな島田さんがどうやって大変な曲面を乗り切っているのかについて教えてください。

島田太郎氏(以下、島田):空気を読まないタイプで申し訳ないんですが、そもそもなぜ堀(義人)さんが「歴史に学ぶリーダーシップをやらないといけない」と言ったかがポイントだと思うんですよね。

要はリーダーシップはどうやったら学べるのかということだと思うんです。

リーダーシップで失敗している人たちは、現代においてもたくさんいると思います。名前を挙げると炎上するので、それは深井さんにお願いしますけど、ちょっと考えても思い浮かぶ人がいっぱいいるわけじゃないですか。

歴史上で見ても、もう山のようにいるわけです。なんでそんなことになってしまったのかということです。

例えば、経済学を集中して勉強すると、最後はCFOにはなれるかもしれませんが、最終的なリーダーとして世の中を変えるCEOになれるか。もしくは政治家になった時、逆にそれが邪魔になる時があるんですよね。

リーダーたるものは、決断を間違った時にとてつもない影響を背負わなければならない。そんな時にいかにせこくならないかが大事です。自分の経済的な理由や、自分が何かを言われるのが嫌だからといった理由で、逃げるか逃げないかが極めて重要なポイントです。

リーダーといってもスタートは部下が10人ぐらいで、それが100人ぐらいになって、1,000人ぐらいになって、1万人になって、10万人になるとやることがまったく違ってくる。やる手段も変わります。リーダーシップを発揮して、ものすごい勢いで組織全体を1つの方向に動かすのがリーダーだとすると、やり方はまったく違う。

しかしながら、唯一変わらないことは、絶対にせこくなってはならないこと。絶対に自分のためにやってはならないということです。みなさんも部下に「これをやってください」と言った時、そうしたほうが自分が得だからと思っていないかを必ず問うてほしい。

それを勉強するのは経済学ではない。歴史なんです。だから、歴史の本を読まねばならないと私は思います。

君島:「せこくなってはいけないよね」と、まさに歴史から学ぶことの意義を語ってくださいました。そういう損得を考えるのではなくて、あるべきリーダーの在り方を学ぶにはやっぱり歴史なんだと。今日のこのセッションへの力強いエールをくださったかなと思います。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • お金があっても消えない「将来の不安」にどう向き合う? ファイナンシャルプランナーが教える資産形成の心構え

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!