2024.10.10
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マサチューセッツ工科大学 卒業式 2012 サルマン・カーン(全1記事)
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このような場に立たせていただき光栄に思います。35歳というと歳をとっているように見られるかもしれませんが、私にすればまだ少し年上のお兄さんのような感覚です。
私が経験した、アイデアや信念といったものについてお話したいと思います。完璧なものではありませんが、かいつまんで聞いていただければと思います。
皆さんは、今まさに自らの人生へと旅立とうとしています。あと数分もすれば皆さんは学位を手にします。それはパワフルで、世界的にも優れた大学からの認証でもあります。
知らない所へ行き、面接を受け、皆さんの履歴書は選考の注目をあびることとなるでしょう。責任を与えられ、疑うということも学ぶでしょう。
まず初めに考えていただきたいのは、そうして手に入れたものをいかに役立てるかということです。世界で可能性を高めるため、幸福を増やすため、また、他人を力づけるといったことです。そういったことは、最終的には自分にかえってくるのだと私は考えます。ライス大学卒業生によって鼓舞された者の視点から話そうと思いますが。
カーン・アカデミーについて、少しは知っている方がいると思いますが、あれは2009年に自分のいとこのために始めたものです。それで何千人もの人が使い始めました。彼らは明らかに私のいとこではないですね。
(会場笑)
当時、私はその事実にとても興奮していました。世界中から感謝の手紙が届き、妻と私には十分な収入がありました。手紙の冒頭には「ヘッジファンド・マネージャーの」とあったのですが、私は「ヘッジファンド・アナリスト」でした。収入は全然違いますが(笑)。
(会場笑)
それでもなかなかいいキャリアでした。うまくいってましたし、マネージャーになるチャンスもありました。実を言うと、当時私はあまり仕事に集中できていませんでした。
そして、文明的スケールの教育には、全ての人に教育を与えるチャンスがあったのです。それに対する投資には、無限の社会的リターンが見込めましたので、そのために資金繰りをする価値は多いにありました。
甘くも見えたそんなアイデアを信じて、私は仕事を辞めたのです。そうしてカーン・アカデミー1本で働き始めました。9ヶ月が経ち、多くのミーティングはあったものの、対して大きな変化というものは感じられませんでした。スムーズには見えても大きなことは何も起こっていなかったのです。
私は32歳で長男も生まれたばかりの頃でした。購入もまだだった家のための頭金の3〜4万ドルをつぎ込むといった状態でした。
窮地に追い込まれ、周りの「何やってるんだ」という声におののき、パラノイアのような状態になっていました。「家族をダメにしてしまっているんじゃないか」「うまくいくはずだったのに、全てを台無しにしてしまったのではないか」などと考えてしまっていたのです。
それでも何とか自分を保てたのは、世界中から届く手紙によって認知されていることを感じられたからでした。「カーン・アカデミーがあって本当に助かりました。代数学でA評価が取れました」「カーン・アカデミーのおかげで大学に復帰できました」といった声が届いたのでした。
そしてあるとき、そんな認知のかたちとしては最も大きな出来事がありました。カーン・アカデミーのWebには、5~10ドルの寄付をしてもらうためのリンクがあるのですが、そこに1万ドルの寄付が届いたのです。アンという女性で1975年のライス大学の卒業生でした。
すぐにメールを返信し、感謝の念を伝えました。カーン・アカデミー史上最大の寄付金額でした。これが学校なら、ネームボードにその名が刻まれていたことでしょう。
(会場笑)
「あなたの事業についてもっと知りたいので、ランチしませんか?」という内容のメールが届き、パロ・アルトのインド料理屋で話をすることになりました。
「将来についてどうお考えですか?」と彼女は聞き、私はこう答えました。
「一生ビデオを作り続けたいと思っています。外国語に翻訳できる教員もいます。相互的なソフトウェアのフィードバックも得られますし、生徒たちが互いにコミュニケーションをとり助け合うこともできます。誰でもどこでも学べる、世界レベルの教育です」
「スケールの大きい野望ですね。ビデオも900本ありますし、ポテンシャルはすごいと思います。でも、それでどうやって生計を立てているんですか?」と言った彼女に対し、私は「それが立っていないんですよ」と答えました。
(会場笑)
彼女はうなずくようにして自転車にまたがり、私は車に乗り込みました。運転していた私はすでに興奮していましたが、特に期待はしていませんでした。このようなミーティングを何度も経験しましたが、形になることはそう多くありませんでした。
しかし、まさに車道に繰り出そうとしたときに彼女からメールが届き「利益は出したほうがいいですよ。10万ドル振り込んでおきましたので」と書かれていました。あれはいい日でした。
(会場笑)
突撃するかのように家のガレージに車を止めたのを今も覚えています。私や家族にとって、その日の出来事は非常に意味のあるものでした。
彼女の行為の真のすごさは、他人を認知し、力を与えたというところにあるのです。彼女は真に、私がやってきたことを信じてくれたのです。この話を聞いて「自分とは違って、彼女は大金をあげられるような立場だったからできたのだ」という人もいます。
ここではっきりさせておきたいのですが、彼女よりもはるかに「大金を与えることのできる立場」の人間に、私はこれまでに50人以上会ってきました。
にもかかわらず彼らは、他の誰かがそうするのを待っていました。「彼は自腹でこれをやっているのか。何が自分の得になるだろうか」というようなことを言っていました。
そのような失速により、可能性のあるアイデアが消えていき、そんな状況から1歩踏み出すための特別な人間が必要でした。
もう1つ言いたいのは、例えば彼女と同じような立場にいられたとしたら、それは自体がすでにすごいことだということです。そして今の私なら、かつて彼女がしてくれたように、他人に力を与えることができると考えています。
ここではっきり言いたいことがあります。それは、このような行動は今日のあなただってできるということです。他を認知し、力づけ、世界中の幸福と可能性を増やすのです。
例えば家族とレストランに行くときだって同じです。ウェイターのサービスが良かったとしても「あの人よかったね」と話したり、チップを多めにあげるというレベルに普段は留まってしまいます。職場で同僚がいい仕事をしたときも「あの人いい仕事してるよね」と言う程度です。
私が望むことというのは、実践していることなのですが、ただ傍観するだけではなく、ガッチリ認知するということです。
誰かが何かいいことをしたのなら、直接本人に伝えるのです。彼らの上司でも家族でもいい。そうすることによって、ポジティブが浸透し満ち溢れるのです。
言われた本人にとってのいい日になりますし、キャリアにも影響を及ぼします。そうしたことは実際に起こります。彼らの人生に影響を及ぼし、止まらないポジティブの連鎖となり、それを見た周囲もこぞって競うようになります。
それを狙わずとも、世界のポジティブな要素に注目するというのは多いに有効です。ポジティブの中心地にいる人間に、人は引きつけられます。
そして次に言いたいことは、これは現在進行形のものでもありますが、生涯学習者になろうということです。これはできる限り強調したい要素です。今から10年もすると、今はしょうもなく聞こえる問いも、後に深い意味を持ち、人生を変えるようなものとなります。自分への投資のチャンスでもあるのです。
カーン・アカデミーだからわかることでもあるのですが、生涯学習者は自分の考え方をどんどん更新していくことができるのです。
2008年初期の経済危機の頃に、私のバックグラウンドにちなんだビデオを制作しました。連邦準備制度、クレジット・デフォルト・スワップ、不動産担保証券といったことについてです。
当時もらった1通の手紙を今でも覚えています。投資銀行に勤める男性からでした。
「不動産担保証券のビデオ、ありがとうございます。これで仕事の内容が理解できました」
(会場笑)
むしろ怖い話ですよね(笑)。彼に事実上の影響を与えたというだけでなく、キャリアの助けになったということは重要なポイントです。世界中から手紙や感謝は届きますが、生涯学習の神髄というのは「使える」という次元の先に行けるということなのです。
2008年の手紙からもう1通。余命2ヶ月の末期がんの患者からでした。ショッキングなくらいにあたりまえにポジティブなトーンでこう書かれていました。
「余命2ヶ月です。私の夢は微分積分学を学ぶことです。カーン・アカデミーでその夢が叶いました。あと2ヶ月、それを学び続けられることが楽しみです」
それを読んだとき、私の考え方は変わりました。そのときに、生涯学習者でいようと考えるようになりました。
最後に言いたいことは、あらゆる見方でものを見て、さらにはそれを鍛えるということです。ここにいる皆さんは、当然、いい人生を送るでしょう。
ベッドルーム付きの家、自動ドアつきの車、シーワールドにいつでも行けるような生活を手に入れることだろうと思います。上り坂も下り坂もあると思います。そしてそれはしょっちゅう起こります。人生の過渡期や新たな節目などでです。
長期戦に備える必要があります、特に大詰めでは。ドラマチックだった私の話を少ししましょう。1998年の卒業した手の頃です。
あるコンピューターマガジンに私が載ったことがありました。自分では非常に誇らしげに思えました。目の前にはキャリアが見え、雑誌にも注目され、私は自分に酔っていました。
それ自体は悪くはありません。成功を喜ぶのはいいことです。けれど私の視野は狭かった。これは危険なことです。今となっては、必要な危うさでしたが。
2ヶ月たって仕事を変え、給料も上がり、早い出世でした。そこで新たな上司と出会ったのですが、彼は全ての時間を私の批評に費やす人でした。
彼の時間が私のせいで無駄になったとか、彼曰く、私が無能だということを言っていました。いい大学でシャレた学位を手にし、雑誌にも取り上げられた2ヶ月後には、ホテルの部屋で泣いている23歳の私がいました。
妻と人生どうしたらいいかわからずに、全ての終わりだと思えてしまいました。しかし1週間もたてば気持ちはマシになり、履歴書をまわしてさらに2ヶ月後には新たな仕事を手にしました。
強調しておきたいことがあります。皆さんの人生には、私が経験した以上の上り下りがあると思います。特に、自分にとってのこれまでにない成功を感じているときには、目標も足元も両方見据える必要があります。想像もできないような成功を味わう人がこの中からも必ず現れるので。
そしてエゴが大きくなるのを感じたときは、こう考えてみて下さい。太陽はいずれ爆発し、銀河系は衝突します。私たちは小さな星の小さなほ乳類なのです。1つの銀河系だけでも、1000~2000億の星が存在するのです。成功を冷静に讃えましょう。
特に初めのステップでは、苦しいこともあると思います。そんなときも人生を遠近法で捉えてみて下さい。宇宙に比べるとちっぽけなことだと思えるはずです。10年15年、いや、10日15日たてば笑い話になるでしょう。
これらをまとめると、私も実践していることになるのですが、人生で困難な選択を迫られたときは、50年後を想像してみて下さい。
70歳くらいの自分が家でくつろぎ、ホログラムで一般教書演説を見てる様子です。そのときはもうビーバー大統領になってるかもしれませんね。
(会場笑)
そうして人生を思い返したとき、まず頭に浮かぶのは成功についてです。いいキャリアを持ち、家族も養い、すばらしい友達も得た。
50年後のあなた方は、友人やこのキャンパスを想うでしょう。子を想い、絆を想い、世界への自分の貢献について想いを馳せる。
「もうちょっとできたらな」ということについても考えると思います。後悔とも呼べるものですね。「子供ともっと過ごしていたら」「パートナーにもっと愛を伝えていたら」「もっとポジティブなことを生み出せていたら」「もっと人を力づけられたら」「もっと人を認めてあげられたら」「もっと笑えていたら」「両親をもっと愛していたら」。
そんなことを想うあなたの目の前に、突然ジーニーのような精霊が現れてあなたにこう言うのです。「あなたいい人そうだし、色々やってきたみたいだから、もう1回チャンスをあげましょう」。
あなたは答えます「はい!」と。彼が指を鳴らすと、あなたは2012年5月のライス大学にやってくる。そして彼はこう言います。「1回目の人生は良かったから、2回目は効率よく上手くやってみて。もっと笑ってポジティブに。間に合う内にもっと愛を伝えてみて」。
私は今、この場所で、ここに立つことを心の底から誇りに思います。これからの皆さんの人生の第2ラウンド、楽しみでたまりません。ありがとうございました。
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