2024.10.10
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ジョージ・ワシントン大学 卒業式 2015 スティーブ・ジョブズ(全1記事)
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ティム・クック氏:アレックス、受賞者の皆さん、学部長、そして特に2015年卒業生! おめでとう! 卒業生の皆さん、家族や友人の方々、おめでとうございます。やりましたね。皆さんとこの場にいられて本当に特別な気持ちです。そして名誉大佐に選んでいただき、この上ない感謝を感じております。
スピーチの前に、言って欲しいと言われたことが1つあります。聞いたことがあると思いますが「携帯の音をオフにしてください」というやつです。iPhoneを持ってる人はサイレントモードにしてください。iPhoneを持っていない人は、真ん中の列に携帯を集めてください。Appleの世界レベルのリサイクルプログラムで処理させていただきます。
(会場笑)
ここは本当にすばらしい場所です。民主主義の中枢、ワシントンDCで学ぶというのは非常に魅力的なことだったと思います。マーティン・ルーサー・キングが民主主義とは何たるかを知らしめ、正義を現実化したのもこの場所です。
ロナルド・レーガン大統領が、自分自身を信じ、偉業を成すことは可能だと人々に説いたのもこの場所です。今日は、私が初めてここに来た時のことから話そうと思います。
1977年の夏。そうですもう歳ですが、当時16歳の私はロバーツデールに住んでいました。アラバマの南のほうの小さい町です。
高校を卒業する1年前に、National Rural Electric Associationがスポンサーの論文コンテストに入賞しました。内容は忘れましたが、何度も何度も手書きで書き直したのを覚えています。タイプライターは私の家族にとっては高すぎました。
国内各地から選出された何百人かの内、私はボルドウィン地区から選出された2人の内の1人でした。ワシントンDCに行く前に、アラバマのチームは州都モンゴメリーへ市長を訪問しました。
当時の市長はジョージ・ウォレスで、1963年にアラバマ大学の校舎の前に立ち、黒人を入学拒否した張本人でした。彼は「分断」を奨励していました。白人対黒人、南部対北部、労働者対エリート。彼に会うことは、私にとっては誇らしいことではありませんでした。
私にとってのヒーローはマーティン・ルーサー・キングやロバート・ケネディであり、ウォレス氏の擁護する主張に真っ向から反対する人物達でした。私の育った地では、キング牧師やロバート・ケネディはあまり擁護されていませんでした。
私が子どもの頃は、まだ南部は歴史と奮闘している最中でした。私の教科書には、市民戦争は州の権利のためと書かれており、奴隷制度について書かれていることはほとんどありませんでした。
なので何が正しいかを自分で解明する必要がありました。プロセスを重ねて研究しました。親や教会、そして自分の心で培ったモラルセンスを頼りに解明の旅に出たのです。
図書館に行き、図書館の人ですら忘れているような本も読みました。その全てがウォレス氏の間違いを証明していました。不正や分断にとっての安寧の場所など、この世にはなかったのです。公平であることこそ正しいのです。
ジョージ・ウォレスに出会った時、私は16歳で、予定通りに握手を交わしました。しかし彼との握手は自分の信念への背徳に思えましたし、間違っていると感じていました。魂の一部を売ったかのような気分でした。
モンゴメリーからワシントンへ行ったのですが、その時が私の人生初の飛行機でした。それどころか、南部から出たのもこの時が初めてでした。1977年の6月15日、私は、当時の新しい大統領、ジミー・カーターに挨拶してもらう900人の生徒達の内の1人でした。
ホワイトハウスの南側の芝生のすぐ反対側の部分でした。私は彼と握手ができた一部のラッキーな生徒でした。私の名札に書かれたボールドウィン群の文字を見て話しかけてくれたのです。その年アラバマで起こった嵐の後、人々がどうしているかを尋ねてきました。
カーター氏は優しく同情していました。彼は世界で最もパワフルな職務についているにも関わらず、彼の人間性は微塵も犠牲になっていませんでした。私は、彼が大統領であると同時に南部出身であることを誇らしげに感じました。
私は1週間の間に、歴史に名を残すことになる、奇しくも南部出身の2人と対面したのです。同じ政党で、隣接する地区の知事でしたが、彼らの世界の見方は非常に異なるものでした。
1つは正しく、もう一方が間違っているのは私には明らかでした。ウォレス氏は分断によって政治的地位を得ましたが、それに対してカーター氏のメッセージは、「皆で団結しよう」ということでした。それぞれが価値観に基づいた人生を送ったのですが、それらは、経験や環境だけではなく、内面から湧き出るものでもありました。
人生における私の旅は始まったばかりでした。大学の出願すらまだでした。自分を発見し、研究し、開発していくという作業は、真摯な熱意から始まります。それは、己の価値観を見つけ、それを元に生きるということです。それが自分の選択となるのです。
揺らぐことのない、自分自身の北極星となるものを見つける必要があります。容易いものもあれば困難なものもあります。そしていくつかは、「世の全てを問わずにはいられない」と思わせられるものです。
ワシントンを訪れた20年後、私はある人物に出会いました。かつてないほど最高に、私の憶測の万端を覆し、「世の全てを問わずにはいられない」と私に思わせた人間です。その人物の名は、スティーブ・ジョブズ。
スティーブはいい会社を作りました。追放され、破滅の中でそれを見い出したのです。当時の彼は気づいていませんでしたが、会社を救うことに命を懸け、かつてない高みへと導きました。そしてそれは、誰にも想像できないことでした、彼自身を除いては。
もうほとんどの人が忘れていますが、1997年と1998年は会社が舵を失った漂流の年でした。しかしスティーブは立て直せると思っていたのです。そうして私に協力できるかをたずねてきました。
強力なテクノロジーを、使いやすく、人々に夢を認識させ、世界を変えるものへと変換するというのが、彼の中のAppleのビジョンでした。私は最初MBAを取得し、合理的に問題解決するためにトレーニングを受けました。
しかし今では、世界を変えるビジョンに溢れて生き生きした40代の彼らを前にし、その言葉に耳を傾けています。この状況は、当時の私には想像できないことでした。1998年の私のキャリアは、会社同様にふらついていました。
いち個人の人生としては、自分がどんな人間かをわかっていましたし、自分の北極星もしっかり見つめ、自分より誰かのためにいいことをしていましたが、職場では、仕事は仕事と割り切ってしまっていました。もちろん自分の価値観はありました。
世界を変えたいという思いはありましたが、それはオフィス外で自分で勝手にやることだと考えてしまっていたのです。
しかしスティーブはそうは考えていませんでした。彼は理想家でした。そんな彼だからこそ、私に十代の頃の気持ちを思い出させることができたのです。最初のミーティングで、必死で働いてすごい製品ができたなら、それは同時に世界を変えられるのだと私を説得しました。
私自身も驚きましたが、見事にハマってしまい、職を手にして人生が変わりました。17年経っても前しか見えていません。
Appleでは、仕事には進歩以上のものがなくてはならないと考えています。他人の人生をも向上させるということです。我々の製品は本当によくやっています。スティーブがイメージしたように、世界の人々に力を与えています。
音声で読まれる情報が必要な盲目の人達、距離や障害によって隔てられた場所に住んでいるために、情報が極めて重要となる人達、そして不正を暴く人達。今ではいつでもポケットにカメラがあるのです。
我々のコミットメントは製品そのものだけでなく、それらの製造プロセスや、公平性を要求し促進する役割、教育の促進にも及びます。価値観に基づいた行動を実現する会社は、真に世界を変えることができると我々は考えています。
それは個人にも可能なのです。そしてそれをするのは、あなたです。あなた自身でなくてはならない。卒業生の皆さん、あなた方の価値観が本当に大事なんです。それこそが揺らぐことのない己の北極星なのです。自分が正しい方向に向いた時、職業は新たな意味合いを持ちます。そうでないならただの仕事です。
それだけに人生を費やせない、人生は短いのです。政府、ビジネス、科学、芸術、ジャーナリズムに学会、こういったものを先導するには、最も輝くあなた方の世代の人間が必要なのです。
これら全ての道において、追求は尊敬に値します。モラル意識に満ちた仕事をする機会はあるのです。「良いこと」や「無難なこと」を選択などする必要はありません。それはそもそも間違った選択肢です。
今日求められるのはそんなこと以上のことです。家賃や食事を確保するのはもちろん、「正しく、良く、公正」であることを生む仕事を見つけなければいけません。
自分の北極星を見つけるのです。それが、生活、仕事、人生における仕事において自分自身を導きます。
この話を飲めないという人はもちろんいると思います。人々が疑い深いのは当然です。特にこのワシントンの地には(笑)。そうなる理由なんて今日はいくらでもあります。
一定の懐疑はいいことです。しかし、この地域ではよく起こることですが、それはアイデアに対するシニシズムにもなってしまうのです。誰が何を話しているかを考えることなく、動機や人物を疑い、あら探しをして嘘にしてまう……。私達の住む世界なんてそんなものなのかもしれません。でも卒業生のみなさん、この世界こそがあなた達の手で変えるものなのです。
先ほど言ったように、私は南部出身ですし、そこが私の故郷です。いつも愛しています。しかし私は、過去17年間でシリコンバレーに人生を築きました。そこは特別な場所であり、不可能が可能になる場所です。どんなに困難で複雑でも、そもそもそれ自体がなくてはならない要素であり、楽観主義の純粋な様がそこにあります。
90年代に、Appleは「Think Different」というキャンペーンを行いました。それはとてもシンプルで、広告は全て我々のヒーローの写真でした。ガンディー、ジャッキー・ロビンソン、マーサ・グラハム、アルベルト・アインシュタイン、アメリア・イアハート、マイルス・デイヴィスといった、図太く挑み、私達の生活を変えた人物です。
最も深く根付く価値観を元に最高の高みを熱望するという生き方で、彼らは今でも私達をインスパイアしてくれます。不可能などないと思わせてくれるのです。Appleのある友人はこう言います。
「問題解決のための最善の方法は、Appleのエンジニアだらけの部屋で『これは不可能』と言うこと」
(会場笑)
彼らはそんな事態は受け入れませんから。あなただってそうあるべきなのです。カリフォルのクパチーノからはるばる来たのはこれを言うためです。どんな仕事であれ、アイデアや進歩は可能なんです。
人をやっつけようとする外野からの皮肉や批判はいつだってあります。さらにそれと同じく害なのは、良き意思がありながら貢献しない人達です。あのバーミンガム刑務所からのキング牧師の手紙にもあるように、悪人による悪意の言葉だけでなく、善人による沈黙も、社会は残念に思わなければならないのです。
外野はあなた達の住む世界ではありません。世界は競技場にいるあなた達を求めています。解決すべき問題はまだあります。不正は終わらさねばならない。虐げられている人々や治されるべき病がまだあります。何をするにしても、あなた方のエネルギー、情熱、忍耐や進歩を世界は必要としています。
リスクを恐れないでほしい。批判や皮肉は無視してください。1人の人間が歴史を作ることは稀かもしれませんが、それが実現した時に起こることを考えてみてください。あなたにもできるし、あなたであるべきだし、あなたでなくてはならない。
2015年度の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。ここで世界最高の景色の写真を1枚撮りたいと思います。
(iPhoneを取り出して撮影する)
いいですね。ありがとうございました。
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