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【成功する経営者に共通する言葉の力】歴史的なスピーチ・プレゼンから学ぶ言語化力・構成力(全3記事)

冒頭7秒で、「あ、気になるな」を引き出すスピーチ術 弁論全国大会を3度制したプロが教える、プレゼンのコツ

今、経営者に「人前で話す力」が求められています。しかし、そのための鍛え方がわからないという方も多いのではないでしょうか。そんな中、株式会社カエカ主催のイベント「歴史的なスピーチ・プレゼンから学ぶ言語化力・構成力」に、同社代表でスピーチライターの千葉佳織氏が登壇。本記事では、日本で「伝える力」を学びづらい理由や、聞く人を惹きつけるスピーチのポイントなどを語っています。

弁論全国大会を3度制し、新卒入社のDeNAでは社長スピーチを執筆

千葉佳織氏(以下、千葉):では、まず私の自己紹介からです。今回、千葉佳織が1時間担当いたします。私自身は株式会社カエカ代表、そしてスピーチライターという肩書きで仕事をしております。

スピーチライターという仕事のきっかけは、15歳から始めた日本語のスピーチ競技の弁論です。内容と話し方が点数化されるという個人スピーチ競技を、現在も続けております。

当時は得意なものがほぼない状態だったんですが、弁論にはすごく助けられました。弁論とは、7分間自分の意見を伝えて、それがいかに心に響くのかを競う競技です。これまで、全国大会で3回優勝しました。高校3年生の時に内閣総理大臣賞を受賞しています。

大学に入ってからは、BS番組のキャスターなどを務めましたが、卒業して入社したのはインターネット会社のディー・エヌ・エーです。ここに辿り着いて、「でもやっぱり伝え方、言葉に関わる仕事がしたい」と諦めきれなかった私は、副業として、スピーチライター・トレーナーという仕事を作りました。

その仕事を「ディー・エヌ・エーの中にも必要ではないか」と提案をして回ったんです。その結果、新卒2年目以降から人事部に所属しつつ、同社初のスピーチライター・トレーナーとして、部署横断的に仕事をしていました。例えば、代表取締役社長のスピーチを書いたり、人事部、営業職、エンジニアの方々の登壇イベントのトレーニングや、スピーチライティングを行っていたんです。

そして、2019年にこちらの株式会社カエカを設立しています。我々の会社は、「すべての人生にスポットライトを」をミッションにしています。「言葉の力で、一度きりの人生、主人公にする挑戦を」ということで、経営者の方のスピーチトレーニング、原稿ライティングを行っています。

顧客は主に上場企業の方やIPOを控えている経営者さんなどが多いです。政治家の方、衆議院、参議院、そして、県知事、市長などの選挙などで、スピーチのトレーニングやライティングなどを行っております。さらに、「GOOD SPEAK」スクールというスピーチの学校を運営しております。これまで、合計で2,000名以上の方々に講演を聞いていただきました。

そして、この活動を通して「伝える力は努力で得ることができる」と確信しております。今日は1時間、講演というかたちなので、実践は特にないのですが、伝える力は努力で得ることができる、というきっかけ作りをできたら、と思っております。

一度の失言が「デジタルタトゥー」に残る時代

千葉:では、成功する経営者に共通する「言葉の力」。今日はこの4本立てで行っていきます。まず1つ目は、「スピーチプレゼン力向上の前提」です。

その後に、「スティーブ・ジョブズ」「キング牧師」「バラク・オバマ」、この3名の歴史的なスピーチ・プレゼンから紐解きます。

では、まずスピーチプレゼン向上の基礎についてです。伝え方が死活的に重要な時代になってまいりました。リーダーがどのように発言できるかに、世間が注目しています。また、リーダーをアイコンにして、組織の強固さをアピールする。ミッション・ビジョンを語って、オンラインの中でも団結力を高めていく。言葉で組織を動かすことが当たり前になりました。

「人生100年時代」と言われるようになって、個々に考える力や伝える力が必要になり、がんばって活躍しても、失言してしまったら「デジタルタトゥー」に残ってしまう。そんな時代です。だからこそ、実はアメリカは一足先にいます。「パブリックスピーキング」という、話す訓練を、AppleやMetaなど、いろんな企業が導入しているんです。これは、これからの時代、新たな挑戦をするための必須の学びになっていきます。

実際に経営者の方々50人にアンケートをとっても、85パーセントの方が「伝える力」に課題を持っていらっしゃったり、95パーセントの方は改善したいとおっしゃっているんです。

つまりは、活躍されて挑戦されている方でも難しいと感じることがある。伝え方は会社経営に影響を与えるということが、論文でも実証されています。

日本で「伝える力」を学びづらい理由

千葉:じゃあどうして、こんなに証明されているのに学びづらいのか。それには、実はこの2つの観点があるんです。まず、日本の環境、日本語の特徴です。日本語は肺活量と表情筋をあまり使わなくていい言語だと言われています。

最近は、海外の方の言葉を聞くことも少なくなってきていますが、例えば、道を歩いている方の、中国語や英語の言葉がはっきり聞こえてくるのは、日本語よりも、より肺活量を使わないといけないからです。日本語は肺活量をあまり使わなくていいので、もぞもぞと話して、だんだんと表情もかたくなって、といった悪循環になりやすいんです。

(「伝える力」の)教育体制が整っておらず、慣れていなかったり、空気を読んだり、組織一体となるという歴史的な文化の背景もあり、環境、学習する場所そのものが整っていなかったんです。

さらには、経営者・リーダーの方独自のポイントがあります。まず、誰も方法を教えてくれない。また、部下の方は恐れてフィードバックをしてくれないとか、フィードバックをしても抽象的なものになって、結局変えられない、という問題が出てくるんですね。だからこそ、今回のような学びの場を活かしていただきたいと思います。

聞く人を惹きつける、スピーチのポイント

千葉:いろいろとお話をしたのですが、それではここで1分程度、私がスピーチをしていきます。これは大勢の方の前で、今日のセミナーに向けての抱負を話す、そして惹きつける、といったことを目的としたスピーチです。この1分間ぐらいの間に、私がどれぐらいの工夫をしているのか。そこに焦点を当てながらお聞きいただけますでしょうか。では、スピーチをお聞きください。どうぞよろしくお願いいたします。

「多くの人の視線が集まるこの瞬間を、何度避けられたらと思っただろうか。その場しのぎで乗り越えてきた、もどかしい感情。今さら言語化するのは怖い。それでも、わかっているんです。話す力を持つ人が堂々と、生き生きとしているということを。自分もそうなりたいと、心のどこかで願っているということを。

10年前、私は偶然、伝える力を養うスピーチ競技に出会いました。その出会いが、私に話す力をくれた。もともと潜在的な能力を持っていたわけではありません。たまたま、『学ぶ機会』があっただけなんです。

そう、話す力は後天的に身に付けることができます。身に付けられれば、彩り豊かな世界が広がっていきます。今日のセミナーを通して、自分の話す力を磨くきっかけを得ていただけるよう、全力で進めてまいります。ご清聴、ありがとうございました」。

ちょうどZoomのリアクションというところで、拍手を押してくださった方がいらっしゃいました。励みになります、ありがとうございます。

今発表していきました1分ちょっとのスピーチでは、実はこんな工夫をしておりました。まず、通常は冒頭で「えー、ただいまご紹介に預かりました」のような話をしますが、聞き手視点の情景から始めることで、「何が始まったんだろう」「もしかすると、自分に当てはまるだろうか」と考えていただいたこと。

視線をまっすぐ、今回の場合はZoomなのでカメラを見ていたり。間は3秒から4秒程度空けていたり、数字の表現をすることで共通の指標を作り、よりわかりやすくしたり。声の高さを上げたり、「潜在的・後発的」という言葉の対比を使ったり、表情を変えたり、一文を短くしたりなど、たくさん工夫点があるんです。

「内容」と「話し方」の両方を学ぶことの重要性

千葉:ここでおわかりいただきたいことが、こちらです。我々は話すこと、伝えることを、2つの側面からお伝えしています。それが、「内容」と「話し方」です。

今の日本の教育では、内容だけ学ぶ、あるいは話し方だけ学ぶのがメインコンテンツになるんですね。どんなに良い中身をしゃべっていても、話し方が「私はこんな感じでなんとかです……(低い声でぼそぼそと)」だと伝わらないんです。話し方がどんなにきれいだとしても、ずーっと同じことを言っていたら響かない。この両方を学習していくことが大切なのです。

内容は、「言語化力」や「構成力」です。例えば、印象に残るキーワードをどう作っていくのか。具体的な数字を投入することでわかりやすくする、疑問文や問いかけ、本音を開示することで相手との信頼関係を構築する、などがあげられます。

話し方は、「表現力」です。発声、腹式(呼吸)という言葉は、一度は聞いたことがあるかもしれません。他にも、間や沈黙を確保したり、話のスピードを変化させたり、「あー」「えー」「あのー」といったフィラーを削減する、といったことも関連していくんです。

この両方から捉えていくことが、伝える力を養うために必要な観点になってきます。今回は、その中でも歴史的な演説の、言語化力、構成力。この、内容の部分にフォーカスして伝えていきます。かなり細かい部分も含めて解説してまいりますので、ぜひそれも踏まえてお話を聞いていただけたらと思います。

ここから、それぞれ分析をお伝えしていくのですが、今回は英語のスピーチを日本語に訳して説明します。よく「英語のスピーチと日本語のスピーチ、訳してしまったらけっこう変わってしまうのではないですか?」というご質問をいただきます。

結論は、そこまで変わりません。というのも、我々の会社で英語のスピーチを分析していますが、良いスピーチは日本語に訳しても良いものがそのまま反映されます。もちろん英語特有の、この言葉とこの言葉が似ているからより際立つ、みたいなところはありますが、日本語に訳して解釈いただいても、十分にご自身の構成や言語化に活かしていただけるようになっています。

ですので、今回は日本語訳を軸に置きながら解説してまいります。また、本日のイベントのご感想など、ハッシュタグ「#スピーチの学校」、こちらでもツイートをお待ちしております。

「iPhone」発表時の、スティーブ・ジョブズの名スピーチ

千葉:それでは、いきましょう。まず1人目は、スティーブ・ジョブズです。スピーチ・プレゼンが最もうまい経営者、と聞いてすぐに浮かぶ方でもあると思います。Apple社の共同設立者ですね。

彼の有名なスピーチ・プレゼンは本当にたくさんあるのですが、今回は特に有名な「iPhone」の説明のプレゼンを解説してまいります。初めてご覧になる方もいらっしゃるかもしれないので、私が簡単に音読してまいります。

「2年半、この日を待ち続けていた。数年に一度、すべてを変えてしまう新製品があらわれる。それを一度でも成し遂げることができれば幸運ですが……。

Appleは幾度かの機会に恵まれました。1984年、Macを発表。PC業界全体を変えてしまった。2001年、初代iPod。音楽の聴き方だけでなく、音楽業界全体を変えた。本日、革命的な新製品を3つ発表します。

1つ目、ワイド画面タッチ操作の『iPod』。2つ目、『革命的携帯電話』。3つ目、『画期的なネット通信機器』。3つです」。たくさん拍手が起こってます。

「タッチ操作iPod、革命的携帯電話、画期的なネット通信機器。iPod、電話、ネット通信機器。iPod、電話……おわかりですね? 独立した3つの機器ではなく、1つなのです。名前は、iPhone。本日、Appleが電話を再発明します。これです……」と始まっていきます。

ここは本当に有名な流れなので、みなさんも一度はご覧になったことがあるかもしれません。これは本当に冒頭の部分ですね。実際はこの後、ジョブズがiPhoneを使いながら、電話をかけてみたり、何かを送ったり、画像を拡大したり、そういったデモも含めて、30〜40分程度のプレゼンテーションになっています。

「あ、気になるな」を引き出す、冒頭7秒の使い方

千葉:では、これに関して説明していきましょう。まず、1つ目のポイントは、「印象に残る冒頭」ですね。通常、企業の新作発表会、もしくは、チームメンバーの前で話す時も、「みなさん、お疲れさまです。本日はこの場にお集まりいただきまして、どうもありがとうございます。あらためまして、なんとかなんとかの千葉が本日担当させていたただきます」とお話しされますよね。

ですが、人間の最初の惹きつけは、だいたい7秒ぐらいで決まっているという説もあります。一番初めにどんな言葉を持ってくるかがカギになってくるんです。みなさまの、ふだんお話をされるスピーチ・プレゼンの時も同様です。

この場合、ジョブズは「この日を待ち続けていた」と、自分の中に秘めている本音に近しいものを話しています。そして、いきなり「2年半」と入ることで、そんなに長い間、今日のためにがんばってきたんだ、という期待を作っているんですね。これが仮に、「本日はお集まりいただきありがとうございます」という普通のものだと、期待感は変わってきたはずです。

では、この印象に残る冒頭はどうやって作ればいいのか。弊社では、さまざまなスピーチの分析結果から、いくつも冒頭の型を開発しております。例えば、「~について話します」。これはよくある事例ですね。特に「○○について」の○○は、聞いた瞬間実態がわからないものだと、さらにのめり込みます。

例えば、「今日は『カタカナ言葉』について話します」(と聞くと)、何について話すんだろう、カタカナ言葉のどのような解説をするんだろう、という感じがしますよね。「今日は『スピーチライター』について話します」。これも、みなさんがご存知ない職種なので、「あ、気になるな」となってくるんです。

冒頭の数秒は リスナーに「価値」を見出してもらう時間

千葉:続いて、「笑い」。「今日は見た目がハンサムな私が、イメージどおりのかっこいい話をします」のように、ご自分とのギャップから生み出すものがあります。「比喩」。「その光景はまるで動物園のようでした」というものですね。いきなりこう言われると、いったい何を描写しているんだろうとドキドキします。「経験描写」。「6月の朝、眠い目をこすりながら家の中を歩いていると……」。

「年代」。「2020年10月、私にとって人生の変わる瞬間でした」。「~が好き、嫌い」。特に「嫌い」は新鮮ではないでしょうか。「私は英語が嫌いです」、と冒頭から言われるとドキッとしますよね。よくあるのが、「問いかけ」や「疑問」です。「みなさんは○○について考えたことがありますか?」というものです。

他にもございます。「呼びかけ」。「○○をしたことがある人は、手をあげてください」。よく「TED」などで使われています。「会話文」。「以前、○○さんにこう言われました。『○○○○』」。「挨拶」。シンプルです。そして、「簡単な感想」。「簡潔にワンワード」。「カミングアウト・本音」。これはジョブズに近いですね。「実は私はもともと○○ではありませんでした」という感じです。「目的の明示」。

そして、「引用」。「『○○○○』」。「『その日は、雲が低く垂れ込めた、どんよりとした日だった』。ある小説の冒頭文。書いたのは人間ではありません」という感じですね。実際に「星新一賞」の選考過程に残った、AIが書いた小説で、スピーチなどに使われております。

このように、実は冒頭の種類は、通常の「ご紹介に預かりました」「みなさん、おはようございます」だけではないんですね。最初の数秒間で「おもしろいんだ」「これは聞くべきなんだ」という価値を自ら見出してもらう必要があるんです。

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